UCL16-17-A2-アーセナル.vs.バーゼル
UCL16-17A2-Arsenal.vs.Basel
まずはスタメンから
アーセナルはいつも通りの4-2-3-1。
ただし2センターに関しては、G.ジャカ、S.カソルラ、コクランの3人の中から試合毎に2人選択し、シーズン中にコンビは何度も変わる。
バーゼルは5-3-2。
試合をほとんど見ていないので定かではないが、基本はT.ジャカを除いた4バックを採用しているにもかかわらず、なぜかこの試合だけ3バックを採用した。アーセナル対策と言い切れないのは全く守備が機能していなかったから。
試合の概要
試合は2-0でアーセナルが勝利する。6分にA.サンチェスのクロスに反応したウォルコットが先制点を決め、25分にもA.サンチェスとウォルコットのワンツーからウォルコットが再び決めて2点差とする。幾度もチャンスを作り続けたが、アーセナルは得点することができなかった。本来もっとスコアに差がついてもおかしくなかったが、バーゼルのGK : バツリークが踏ん張った。
アーセナルのビルドアップ、ゲームメイク、バーゼルの守備(前半)
バーセルの守備の形は5-3-2。(Fig.2)
Fig.2 バーゼルの守備
バーゼルの守備の約束ごとは以下の通り
バーゼルの理想形は以上のとおりであるが、うまくいっていた時間は非常に限られていた。
その理由はいくつかある
まずウイングバックがイウォビとウォルコットを監視してしまっていること。これのせいで中盤を3人で守る必要が出てくる。Fig.2のように理想的な形であればいいが、中盤の3人はボールの位置に合わせてマークチェンジと運動量を常に伴っていなければいけない。
しかしバーゼルの5バックは急造システムだったからか、そもそもシステムとして破綻していたからかは定かではないが、バーゼルの中盤はかなり混乱していた。(Fig.3)
Fig.3 アーセナルの攻撃方法
アーセナルのビルドアップは非常に簡単で、G.ジャカを最終ライン付近まで落とすだった。
このときのバーゼルはツフィがG.ジャカを監視するだった。
本来アーセナルの6人をバーゼルの5人で守るために中盤のスライド(運動量)を生かしていたのに、中盤の3人のうち2人がマンマーク要因(フランソン→ベジェリン、ツフィ→G.ジャカ)になってしまうとアーセナルのポジションチェンジに対応できなくなってしまう。
この試合でいえばS.カソルラはフリーになることができていた。本来ウイングバックがサイドバックを監視する形式であればこういった守備も理解できるが、なぜかバーゼルのウイングバックは常にイウォビとウォルコットを監視して中盤の守備にはほとんど参加していなかった。
バーゼルは中盤からボールを回収してカウンターというのがこの試合の目指した形だったと思うが、中盤からボールをほとんど回収できていなかったため、カウンターの形はほとんどなかった。
したがって最終ラインからボールを運ぶ必要があるが、アーセナルのハイプレスによって簡単に壊れてしまった。(Fig.4)
Fig.4 アーセナルのハイプレス
アーセナルの守備の基本形は4-4-2だが、バーゼルの3バック相手にはボールサイドのイウォビもしくはウォルコットが前線にでる。これによって3バックに対してA.サンチェス+エジル+αで相手に自由にビルドアップさせない。
当然その動きに連動してサイドバックとセンターハーフも高い位置から守備を行う。これに対してバーゼルはロングボールを蹴る以外解決策を見いだせてなかった。
ロングボールに対してもコシールニーとムスタフィがハーフライン付近で競り合うことでほとんど負けていなかった。したがってアーセナルは前線でボールを回収し続けることに成功していた。(Fig.5,6)
Fig.6 コシールニー(左)、ムスタフィ(右)のエアバトルの位置と成否
Fig.5の黄色で囲った部分はアーセナルがハイプレスを生かして回収したボール位置である
Fig.6 はCBのエアバトルの位置だが、異常に高い位置で競り合いしていることがわかる。
いずれにしてもアーセナルのハイプレスはかなり機能していた。
アーセナルのチャンスメイク(前半)
前述のように、アーセナルがボールを持った時にはバーゼルの中盤の守備を躱すことに成功し、バーゼルがボールを持った時にはアーセナルがハイプレスでビルドアップを破壊し続けたおかげで前半はアーセナルがチャンスメイクできるシーンがとにかく多かった。
こういう状況になるとアーセナルの攻撃的な布陣はとにかく相手の脅威になる。まずバーゼルの大きな問題はA.サンチェスの動き出しに対してまったく対応できてなかった。(Fig.7)
Fig.7 バーゼルの最終ライン
少なくともT.ジャカがこんな高い位置にいてはいけない。もともと中盤の選手だからこそこれくらいの位置にいってしまうのかもしれないが、こんな状態ではA.サンチェスは抜け出し放題だし、とにかくバーゼルの最終ラインは脆かった。ほぼすべての局面でボロボロだったバーセルは当然、アーセナルにチャンスを作り続けられた。
アーセナルの前半のチャンス
3m50FK(29-7)Grade4
6m10P(29-17-7-17-18) Grade5
6m30P(19-7-14)Goal
25m00P(29-11-19-11-19-11-14-7-14)Goal
32m40P(6-24-14-24-14-19-7) Grade5
35m00P(19-17-11-14-24) Grade5
35m40T(20-11) Grade5
37m20P(18-7) Grade5
40m30P(11-19-14-24-19-17-7-18-7-11) Grade5
前半のうちに2点決めていることと内容の差からいってこの試合はほぼ前半でケリがついたといってもいい。欲を言えばあと1点とりたかった。
ちなみにバーゼルのチャンスは0。
バーゼルの守備(後半)
さすがに前半の内容はやばすぎたので、バーゼルも守備を修正する。(Fig.8)
Fig.8 バーゼルの後半の守備
バーゼルは前線からボールを奪取しようとはせずに、2トップのうちシュテフェンを中盤のラインに加える。すなわち5-4-1になった。これによってアーセナルのボール保持攻撃にたいしてそれなりに対応できるようになった。
一方で前線の1人を中盤のラインに下げるということは、バーゼルがボール奪取してから即座にロングボールでカウンターで攻撃することをほとんど不可能にしていた。本来バーゼルは5-4-1をベースにしつつ、場合によっては5-3-2に変化しながらアーセナルと対戦するべきだったかもしれないが、前半の間に修正することはできなかった。
アーセナルのボール保持攻撃はたしかに停滞してしまったが、バーゼルもまたアーセナルのハイプレスを攻略できていなかったので、後半もアーセナルはボール奪取からのカウンターを中心にしてチャンスを作り続けた。
アーセナルの後半のチャンス
50m10T(11-7-14) Grade4
51m40T(7-11) Grade4
56m20T(19-11-17) Grade5
66m50P(20-19-14-7) Grade5
87m50T(13-29-24-15) Grade5
88m50CK(11-20-7) Grade5
後半のチャンスが前半に比べて少なくなった理由は確実にバーゼルが守備システムを修正したからであるが、それ以外にも多分もう1つ理由がある。
アーセナルは69分を境にウォルコット⇔チェンバレン、イウォビ⇔エルネニー
この交代にともなってアーセナルは以下のような形となる。(Fig.9)
2センターから3センターに変わったかどうかは非常に微妙だったが、重要なことはエジルが左サイドに移ったこと。いままでもアーセナルはエジルを左サイドにおくことはあったが、エジルの良さを最大限に引き出すためにはエジルは中央のほうが確実にいい。
確かにエジルのクロスの質は高いので、サイドでプレーすることもできるが、最大の特徴は中盤と前線をつなげるリンクマンのようなプレーをかなり高いレベルでこなせること。
いうなればゲームメイクからチャンスメイクへの移行が本当にうまい。
しかし、サイドではそういったリンクマンとしてのプレー機会はかぎられてしまうし、エジルが中央に行き過ぎればエジルがいたであろうサイドからカウンターを受ける可能性が高くなる。
前半に2得点しているのであまり無理してもしょうがないという部分はアーセナルとしてあったと思うが、69分を境にぱったりと攻撃が停滞した理由はエジルのポジションチェンジが大きな理由だと思う。
いずれにしてもバーゼルはどの時間帯においても得点できるようなチャンスはほとんどなかった。
バーゼルのチャンス
61m50P(7-15-5-8M)Grade4
63m20CK(7-8)Grade5
87m30P(17-24-9)Grade5
余談
アーセナルはやりたいサッカーをきちんとしており、バーゼルレベルだとほとんど太刀打ちできていなかった。ただしバーゼルは試合の入り方をかなり間違えていたのであまり参考になる試合ではなかった。
UCL16-17-A1-パリ・サンジェルマン.vs.アーセナル
UCL16-17A1-PSG.vs.Arsenal
まずはスタメンから
パリサンジェルマンは4-1-4-1。新加入のクリホビアクが中盤の底を務めている。中盤の質と層の厚みは欧州屈指になってきた。ただしカバーニの代わりがいないのでカバーニが怪我したら大変なことになりそう。
アーセナルは4-2-3-1。今シーズンから導入したA.サンチェス1トップシステム。両脇にイウォビ、チェンバレン、ウォルコットのうち2人を選択するスタイル。ジルーがなぜスタメンでなくなってしまったかは記事中で述べることになると思う。
試合の概要
試合は1-1で引き分けで終える。開始1分でオーリエのクロスをカバーニが決めて先制する。しかし77分にはエジルのクロスからイウォビがシュートしたこぼれだまをA.サンチェスが押し込んで同点とする。その後はスコアは動かなかった。結果は引き分けだったが内容はパリサンジェルマンの圧勝だった。アーセナルの個の攻撃的なスタイルは嵌れば強いが嵌らなかったときの代償が大きすぎる。いろいろと問題があったアーセナルだが引き分けで終えたことであまり問題が表面化しなかった。個人的には4-0位のスコアになってもおかしくなかった。
アーセナルのビルドアップ、ゲームメイク
アーセナルはムスタフィ、コシールニー、コクラン、S.カソルラの4人でボールを前に進める。ムスタフィもコシールニーも時間さえあれば縦パスの精度は高いが、出し手が見つからないときに積極的にドライブすることはあまりない。
したがってパリサンジェルマンの前線からの守備は、受け手を潰すことが最初の目標。(Fig.2)
Fig.2 パリサンジェルマンのゲームメイク妨害
つまりモンレアルにはディマリア、S.カソルラにはヴェラッティ、コクランにはラビオ、ベジェリンにはマテュイディがマークすることでアーセナルのゲームメイクを妨害しようとする。
こういった時に大概のチームは次に示す3つの方法のいずれかでボールを前に進めることを目指す。
1に関しては1トップがA.サンチェスの時点でかなり難しいことは分かると思う。サイドに張ってる選手もチェンバレン、イウォビで、いわゆる小柄なスピードスターほど身長が低いわけではないが、ロングボールがくるとわかってれば対処できる範疇といえる。
だからこそアーセナルは2と3を駆使してボールを進めざるを得ない。2に関してはCBの縦パス能力とイウォビ、チェンバレンの動きだしの質によってきまる。(Fig.3)
Fig.3 アーセナルのゲームメイク
たびたびイウォビは下がってボールを受けることはあるが、オーリエもついてくる。ここからエジル、A.サンチェスとのコンビネーションでボールを進めてチャンスメイクしたいが、アーセナルは前半ほとんどチャンスメイクできなかった。
理由はパリサンジェルマンの3列目と2列目がコンパクトでイウォビにプレーする時間を与えなかったというのもあるし、カバーニがCBにプレッシャーをかけたからともいえる。
3についてはパリサンジェルマンも簡単に対策していた。(Fig.4)
Fig.4 パリサンジェルマンのゲームメイク妨害II
つまり対応するインサイドハーフが前に出るだけだが、これでS.カソルラまたはコクランを出し手にしないようにする。
やはり相手がアーセナルレベルになると、しっかりと対策をしていても全く前に進ませないというのは無理であり、何度かはサイドの深い位置まで進むことはあった。ただし崩してない状態でのクロスだけでは得点チャンスが埋まる気配が全くなかったアーセナル。
効率よくボールを前に進めることができないアーセナルは中盤でボールを奪取されてカウンター攻撃を多く浴びることになるが、カウンターについてはパリサンジェルマンのチャンスメイクの項にまとめた。
まずはアーセナルの守備の形をみていくとわかりやすい。アーセナルは相手陣地にボールがあるときは4-2-3-1(4-4-1-1)のような形になる。
すなわちA.サンチェスをトップとしてイウォビ、エジル、チェンバレンが前線に残る場合とA.サンチェスとエジルのみが前線に残る場合がある。
いずれにしてもA.サンチェスはプレスを真剣に行うがエジルは場合によるといった感じ。
イウォビ、チェンバレンも行う時は一生懸命行うが、正直A.サンチェスとは連動していないことも多く、空回りしていた。
A.サンチェスは何度も味方に「もっと高い位置からプレスかけろ」とジェスチャーしていたが、これはA.サンチェスの独断なのか、チーム戦術なのに味方の選手がやらないのかはちょっとよくわからない。多分独断。
こんなやり取りは16-17シーズン中ずっと続いてることからアーセナルはちょっとやばい状態だと思う。
話はパリサンジェルマンのビルドアップに戻る。(Fig.5)
Fig.5 パリサンジェルマンのビルドアップ
パリサンジェルマンは3トップなのでアーセナルの2列目はあまり無理にプレスはかけられない。さらにエジルはプレスを熱心に行わない。したがって簡単にハーフラインまでボールを運べることができた。
パリサンジェルマンのチャンスメイク
ハーフラインまで進めることができれば正直パリサンジェルマンにとっては十分だった。というのもチャンスメイクを担う選手の質がこの試合では特に高かった(Fig.6)
Fig.6 ヴェラッティ(左)、オーリエ(中央)、ディマリア(右)
- ヴェラッティがフリーの場合
- それ以外
1の場合、ハーフラインより少し前でヴェラッティがボールを持つことができれば、単純にアーセナルの最終ラインの裏への浮き玉。
2の場合、すなわちパリサンジェルマンの中盤を抑えにきたら、特にオーリエからのクロス爆撃が飛んでくる。W杯でも日本戦で2アシストしていたオーリエだが、クロスの質が本当に素晴らしかった。先制点もオーリエのクロスからだったが、正直オーリエのクロスから何点か入ってもおかしくなかった。
また前述したように中盤でボール奪取することが多かったパリサンジェルマンはそのままショートカウンターに持ち込めるシーンも多かった。
0m30P(6-19-9)Goal
8m30T(25-9-11-25)
33m10T(6-9)
40m50T(6-17-11-9)
59m10T(9-14-11)
66m50P(11-19-11-19)
68m30P(14-25-9)
70m40T(11-6-11)
79m40P(8-10-9)
94m00CK(11-5)
ここに挙げたチャンスはいずれも大チャンスだったが、最初の1回しかゴールにつながらなかった。特にフィニッシュで精度を欠く場面が多すぎで、カバーニは得点こそ挙げたものの、本来2点は決めなきゃいけない試合だった。
後半のアーセナル
アーセナルはかなりボコボコにされていたが、ついに63分にチェンバレンをジルーに変える。(Fig.7)
Fig.7 ジルー投入後の布陣
ジルーをトップにし、A.サンチェスを左サイドハーフに移動させる。多分この形がアーセナルにとって一番攻撃力が高い布陣だが、この布陣で強豪と戦うのは無理がある。なぜならジルーもエジルもA.サンチェスも自陣で押し込まれてる時に熱心に守備をしてくれない。
正直にいえば、エジルの優秀さが結構アーセナルの足枷になってる気がする。エジルはボールの受け方もうまいし、攻撃に確かに貢献してくれるが、いくらなんでも中盤の選手なのに守備しなさすぎだと思う。
ドイツのようにボールをほとんど保持できて、かつ相手を押し込むことができればエジル起用のデメリットはほとんどでない。ただしアーセナルは常にボールを持つチームではない。エジル起用のデメリットは相手が強豪になればなるほど濃くなる。
ただしこの試合もエジルのクロスから得点が生まれていることから、この議論はとても難しい。
そこらへんはもはや好みだと思う。ヴェンゲル監督は攻撃的なサッカーを志向する。よく言えば大胆、悪く言えば無謀ともいえるときもある。
一方でパリサンジェルマンのエメリ監督はよく言えば慎重、悪く言えば臆病ともいえる采配も多く、特に守備に多くの気を使う監督だと思う。
リーグ戦では勝利が求められるが、トーナメント戦では負けないことが重要視される。エメリ監督はセビージャでヨーロッパリーグを3連覇しているが、おそらくこういった監督としての性質があるからだと思う。実際絶好調だったオーリエでさえ、守備をさぼってからはムニエルと交代させられていた。
余談
パリサンジェルマンは強豪同士との試合こそ真価を発揮しそうなチームだった。ただしボールをもった時にもヴェラッティがいるので、ある程度攻撃できてしまうのが本当に厄介。
アーセナルはどうなるか予測がつかない。ただしこの試合に関しては酷い出来だった。
UCL16-17-D2-アトレティコマドリード.vs.バイエルン
UCL16-17-D2-AtleticoMadrid.vs.Bayern
まずはスタメンから
ヒメネス負傷のためサビッチがRCBに、カラスコ、F.トーレスがこの試合ではスタメン。コケ、ガビの中盤が非常にソリッドであるのが特徴
一方でバイエルンは4-3-3(4-3-2-1)
D.コスタが怪我のため、リベリーがLWGに、J.ボアテング、ラーム、X.アロンソがUCLの初スタメンとなっている。コマンやD.コスタがアンチェロッティ政権下で不遇なのはよりインサイドでプレーする選手をウイングの位置に欲しているからだろう。
試合の概要
試合は1-0でアトレティコマドリードが勝利する。34分にロングカウンターでカラスコが素晴らしいミドルシュートを決め、これが決勝点となった。試合を通してアトレティコマドリードの守備は鉄壁で、攻撃もカウンター、セットピース、ボール保持攻撃をバランスよく使い分けていた。バイエルンとしてはボールを保持しているもののなかなか前に進むことができず、結果は妥当だったといえる。
PSVやロストフのように自陣に引きこもってしまうのであれば特にビルドアップの方法を工夫する必要はない。しかしアトレティコマドリードのように前線からのプレスと撤退守備を併せ持つようなチーム相手にはボールを進めるうえで工夫が必要になってくる。
こういった時にバイエルンのビルドアップ、というかアンチェロッティのビルドアップはインテリオールをSBの位置に、SBをアウトレーンに、WGをインサイドレーンにポジションチェンジすることが多い。目的は単純で、SBの位置にT.アルカンタラ、A.ビダルといったビルドアップ、ゲームメイク能力に優れている選手を置くことで4-4-2の弱点になりうる部分を壊そうとした。(Fig.2)
一方でアトレティコマドリードはこのポジションチェンジに対してCHを前線にピストンさせることでバイエルンのビルドアップ妨害を図った。
具体的には、A.ビダルが下がった時にはガビが、T.アルカンタラが下がった時にはコケがマークすることで対処した。この守備は、ボールサイドと逆側のSHが大きくスライドする必要があるが、、全体的にかなりよく訓練されていた。
この守備の基本原則はどこの位置でも行われた。(Fig.3,4)
Fig.4 アトレティコマドリードの2列目のスライド
こういった守備に対してバイエルンはボールを前進させることに非常に苦労した。理論的に言えば、ボールサイドに中盤4人が固まっているわけだから、サイドチェンジを繰り返していけばボールは前進させることができる。しかしT.アルカンタラやA.ビダルに対するコケ、ガビのプレス、2列目全体のスライドはとても速く、正確なサイドチェンジを蹴る時間を与えていなかった。ちなみにX.アロンソへのマークも1列目は怠っておらず、この守備はとても堅固なものになっていた。Fig.4 アトレティコマドリードの2列目のスライド
こんなことからアトレティコマドリードのプレスはそこまで瞬間的なペースが高かったわけではないが、相手に何度もサイドチェンジを強いることで結果的に相手の攻撃を制限していた。数学的に言えば、
0.7*0.7*0.7<0.6*0.6というように、ある1つのゾーンを突破されたら即ピンチではなく、何度も何度もバイエルンに確率の低いパスを行わせること、フィールドプレーヤー全体がボールの位置に合わせてしっかり移動することで守備の強度が尋常ではなかった。
また、チームとしての守備戦術を各々がしっかり守っていることもそうだが、ガビ、コケ、F.ルイス、ファンフランの1vs1の守備能力もかなり高いレベルにあり、バイエルンのチャンスメイクのほとんどが崩していない状態でのブロック外からの浮き球やクロスだった。
こういった堅固な守備はアトレティコマドリードに有利なカウンターを何度も提供した。カラスコ、グリーズマン、F.トーレスは自陣でボール奪取してもすぐに前線に行けるだけの走力を持ち合わせており、カウンターから多くのチャンスメイクを行っていた。アトレティコマドリードのカウンターについては後述する。
30分以降のアトレティコマドリードの守備、バイエルンのゲームメイク
アトレティコマドリードの中盤のエリアでの守備は完璧だったといってもいい。しかしそれでもバイエルンレベルを相手にするとさすがに押し込まれてしまう場面がでてくる。この時重要だったのはグリーズマンとF.トーレスの位置。アトレティコマドリードはもちろん得点がほしいのでなるべくなら前線に2人のFWを残しておきカウンターに備えたい。しかしバイエルン相手にフィールドプレーヤー8人、9人で守れるか?という問いに対するシメオネ監督の答えはNOである。(Fig.5)
PSV戦でも同じだったが、アトレティコマドリードのグリーズマンの攻守に与える影響は絶大である。例えばFig.5のようにバイエルンが押し込むことに成功した場合、サイドへのボール対応はSBが行う。
理由はおそらく、
・SBの対人守備力が高いこと
・カラスコをカウンター要員に使用
の2点がある。
Fig.5のような場合カラスコが対応してもいいが、以上のような理由でF.ルイスが対応する。当然最終ラインの人数は減ることになるが、ボールサイドと逆側のCH、すなわちガビが最終ラインに入ることでゴディンとサビッチの負担を減らしている。この時バイタルエリアはフリーゾーンが増えてしまうのでグリーズマンが適宜埋めることになる。これによってバイエルンに押し込められたとしてもチャンスというチャンスをほとんど作らせないようにしていた。
つまりアトレティコマドリードは4-4-2を基本としながらも、ビルドアップ妨害時には4-3-3、撤退守備時には疑似4-5-1になることで相手の攻撃を封殺した。特にこれらのフォーメーションの変更時の判断はガビ、コケ、グリーズマンによるものだが、非常に守備が綺麗だった。
基本的にアトレティコマドリードは相手のボールを中盤で奪取できていたので、ビルドアップに困ることはなかった。ただし自陣深い位置でボールを奪取したときにはGKのオブラク、CBのゴディン、サビッチはそこまでビルドアップがうまい選手ではないので、押し込められた状態でハイプレスを浴びると困ってしまってロングボール→バイエルンボールということは何度かあった。(Fig.6)
ただしバイエルンも押し込めているわけではなかったので、PSVやロストフ相手のようにはハイプレスをはめ続けて試合を支配していたわけではなかった。そういったことの一つの指標としてバイエルンのボールポゼッションは67%でありながらもポジションは51%、つまりいうほど押し込めていないともいえるし、攻め込まれているともいえる。この数字の理由は両方が起因していると思う。
押し込まれてもロングボールでハーフラインを超えて進むことは当然あるし、なによりアトレティコマドリードはボールは所有していなかったものの、バイエルンに試合を支配されていたわけではなかった。
こんな理由から、アトレティコマドリードは度々ハーフラインを越えてボールを保持する機会があった。そしてこの試合のバイエルンの1番の問題点はハーフラインまでボールを運ばれてしまった時の対処法にあった。(Fig.7)
Fig.7バイエルンの撤退守備
バイエルンの守備の基本は4-5-1。
・レヴァンドフスキはデスコルガード
・2列目の運動量が少ない
・リベリー、T.ミュラーのリトリートスピードは時と場合による
といった感じで、具体的な決まり事を守っているようには見えなかった。
監督の指示かは分からないが、リベリーとT.ミュラーはプレスをかけないので、ファンフランやF.ルイスはFig.7の位置でも余裕をもってボール保持することができた。こんな状態で最終ラインを高く設定することはできないので、全体的にラインは下がってしまい、F.ルイス、コケ、ガビ、ファンフランはストレスなくゲームメイクに参加できてしまった。
アトレティコマドリードが押し込んだ時に輝いていたのは、コケとF.ルイスだった。(Fig.8)
Fig.8 コケ(左)、F.ルイス(右)
文章で表現するのは非常に難しい選手だが、コケは長短のパス、特にミドルレンジのサイドチェンジやワンタッチでのスルーパスは素晴らしかった。カウンターの起点、チャンスメイクで最も素晴らしかっ
たF.ルイスのドリブルはチームの勝利に大きく貢献していたと思う(Fig.9)
Fig.9 F.ルイスの1on1
ボールを保持されているチームのSBが7/10回の1on1を成功させている試合はおそらくあまりないだろう。とにかくこの試合のF.ルイスは縦への突破が非常に素晴らしかった。
04m30FK-P(14-2)Grade4
11m10T(9)Grade5
18m00P(2-10)Grade4
21m00P(14-6-3)Grade4
21m30CK-P(6-8-9)Grade5
22m20T(2-10-14-9-7)Grade5
33m20P(6-3-10-6-9)Grade5
34m30T(15-7-10M)Goal
36m50T(10-7-9)Grade4
45m30P(8-10-3)Grade4
46m10P(10-6)Grade4
47m30P(20-9)Grade4
60m20T(20-14-8M)Grade4
66m20P(6-9-6-10M)Grade4
66m50T(6-7)Grade4
69m20P(10-14-9)Grade4
73m40T(6-21-9-7)Grade5
81m30P(6-23-3-23-6-3)Grade4
81m40P(6-23-8-3)Penalty
83m00PK(7)Grade5
89m50FK-P(14-2)Grade5
90m20CK-P(6-3-21)Grade4
まずはこの試合唯一のゴールを奪ったカラスコのゴールシーンについて
完璧なカウンターだったと思う。サビッチがはじき返したセカンドボールをトーレスが競って、グリーズマンが拾い、カラスコがスペースに走りこんでミドルシュート。最終的な部分は個人技だが、この形は狙い通りだったと思う。ゴールシーンだけでなく、ショート、ロングカウンターともにカラスコ、F.トーレス、グリーズマンの連携は素晴らしかった。
カウンター、守備以外にもアトレティコマドリードのストロングポイントとしてセットピースがある。
・ガビ、コケという優秀なキッカーがいること
・ゴディンの圧倒的なエアバトル能力を生かせること
があるが、89分のFKではトリックプレーを使ってゴディンをフリーにしている。(Fig.10,11)
Fig.10 トリックプレーの直前
Fig.11 トリックプレーの直後
キミッヒのマークはゴディン?コケ?そもそもマークミスが起きていたわけだが、キミッヒはオフサイドラインにいたコケにブロックされてゴディンがフリーで抜け出している。残念ながらシュートは決まらなかったが、形としては1点ものだった。
PKシーン
81分にPKを獲得したのは好調だったF.ルイスがA.ビダルのタックルを誘発したからだ。しかしそこに至るまでの過程は、アトレティコマドリードがこの試合できちんとボール保持攻撃で相手を押し込んでいるからこそ成り立ったことだった。残念ながらPKを外してしまったグリーズマンだったが、それ以外の守備やカウンターの繋ぎなど相変わらずセカンドトップとしては世界最高峰だろう。
ちなみにA.ビダルはこの試合退場することはなかったが、危険なタックルが多かった。審判によっては退場することもあっただろう。
バイエルンのチャンスメイク
バイエルンのチャンス
12m30P(6-25)Grade5
13m20P(6-27-23-27-9-27-14)Grade4
37m50P(6-27-7-9-7)Grade5
49m20CK-P(7-25)Grade5
55m00P(27-7-27)Grade4
75m10T(7M)Grade4
76m30P(5-14-9)Grad4
80m10P(7-10-23-10M)Grade4
結果としてバイエルンのチャンスはかなり限られたものになってしまったが、Grade3以上のチャンスは22回ある。Grade3だったほとんどのパターンはアラバもしくはラームのブロック外からのクロスで、これがゴールにつながる可能性はほぼ皆無だった。
唯一12分のT.アルカンタラの浮き球にT.ミュラーが反応したシーンや37分のリベリーとレヴァンドフスキのコンビプレーなどは得点してもおかしくなかったが、かなり個の力に頼ったプレーであったことは否めない。これら2つのチャンスのうち1つでも決めている可能性はあったので、内容はアトレティコマドリードの完勝だったが、引き分けで終えるチャンスもあったとは思う。
そして、特筆すべきはバイエルンのカウンターの少なさだろう。この試合で有効だったのは1つのみだったが、それはコケが自陣で供給したパスをリベリにカットされたからであり、いわゆるミスである。バイエルンは組織的なプレスによってカウンターのチャンスを作ったことはなく、アトレティコマドリードに押し込まれた状態でボールを奪取したときにはアトレティコマドリードの撤退スピードと前線からのプレスのバランスが絶妙でカウンターを仕掛けることはできていなかった。
正直いってすべての局面でアトレティコマドリードはバイエルンを上回っていたといっていいと思う。PKを決めて2-0であれば内容と結果を良く表した試合の典型例であった。
余談
今現在(2017/5/22時点)でグアルディオラ総論を読んでいるので、その本の言葉を借りると、バイエルンは多様な楽器がそろっているが、指揮者(グアルディオラ)がいなくなったことで微妙な調和が乱れてしまったような気がする。アンチェロッティが悪いというよりグアルディオラの癖がまだ抜けきっていない感じがある。
UCL16-17-Opening
結構久しぶりの更新です。
UCL16-17に関してマッチレビューをしていきます。
- UCL16-17のレビューについて
- 現状と更新再開日
UCLの本戦のグループリーグは4チーム、8グループに分かれてホーム&アウェイで各チームが計6試合ずつ行います。つまりグループリーグだけでも96試合あり、EURO2016のグループリーグの総試合の約3倍ほどあります。
また決勝トーナメントも決勝以外は16チームがホーム&アウェイで戦っていくため、計29試合。
計125試合もあるので、いくつか省いていきたいと思います。
具体的には以下の通りです。
グループA : アーセナル、パリサンジェルマンを含む計10試合
グループB : ナポリの全試合+ベンフィカvsベシクタシュ(ホーム&アウェイ)の計8試合
グループC : バルセロナ、マンチェスターシティを含む計10試合
グループD : アトレティコマドリード、バイエルンを含む計10試合
グループF : ドルトムント、レアルマドリードを含む計10試合
グループG : レスターシティの計6試合
グループH : ユヴェントス、セビージャを含む計10試合
計74試合がレビュー対象です。
とはいっても96試合全部見るので、面白い試合があれば追加で増やすかもしれません。
決勝トーナメントはすべてレビュー対象です。
なので74(グループリーグ)+29(決勝トーナメント)で計103試合の更新が今の目標です。
現状と更新開始日
現在1ヶ月程度EURO2016のレビューを終えてから経ちましたが、グループBまでは視聴およびレビューみたいなものがすべて完成しました。
4月からはすこし環境が変化するので、更新再開はいまから1ヶ月後になると思います。おそらくそこから5ヶ月間でUCL16-17のレビューが完成すればいいなーというのが希望となっています。
EURO2016-impressions and Technical report-3
UEFA加盟55カ国のサッカー協会から代表チームの監督とテクニカルディレクターによる会議を基に刊行されたEURO 2016テクニカルレポート(英語)について。
テクニカルディレクターのトップはあのアレックス・ファーガソンだったらしい。
このEURO 2016テクニカルレポートはUEFA.comで無料で配布されているのでよかったら見てみると面白いかも。内容は各試合の簡単なレポートと本大会の傾向、各チームのフォーメーション、出場時間などをまとめている。
ここでは本大会の傾向、すなわちテクニカルレポートについて簡単にではあるが紹介する。
いくつかの試合と選手のインタビューを基にして、本大会は守備がとても重要であったことを示す。そして明暗を分けたのは、相手の守備戦術に対応した攻撃を行えるか、または相手の攻撃に対応した守備戦術を整えられるかは非常に重要であった。
「我々は大部分の時間ボールを支配し続けたが、アイスランドの守備ブロックを崩すことはできなかった」
フランス戦後のアイルランドのコールマン
「前半は何とか対応できていたが、後半になるとフランスの攻撃を全く防げなくなってしまった」
「この試合は非常に戦術的な試合だった。ポルトガルは試合を支配しようとしたが、クロアチアがそれを許さなかった。しかし、こちらもクロアチアに試合を支配させなかった。相手はとても優れたチームなので、緊迫した激戦になるとは思っていたよ。この試合への準備を整え、相手の強みには抵抗し、弱みを突こうとした。カウンター攻撃は許さなかったが、こちらの攻撃に関しては改善の余地があったのは確かだ。もっと速くパスを回すべきだったが、そこにクロアチアが立ちふさがった」
「我々のプレーはまったく良くなかったが、これは北アイルランドが非常に良かったからだ。向こうの奮闘で、こちらにとっては厳しい試合展開になった。いつも通りのプレーをさせてもらえなかった。美しい勝利とは言えないが、それが何だというのだろう? フランスに来て以来、さまざまな勝ち方をしてきたが、これは選手たちの強さを大いに物語るものだ。それにしても、素晴らしい仕事をしてきたオニール、北アイルランドの監督には感服するね。(敗退に)失望しているだろうが、負けたとはいえ見事な戦いぶりだった。おかげで激戦になったよ。こちらはいいプレーをさせてもらえなかっただけに、今日の試合ではチームスピリットが必要だった。多くのものが懸かった試合で、勝利には運も必要だったが、それがめぐってきたのはこちらだった。戦い続けなくてはならなかったとはいえ、道を見失ってもおかしくない展開だったね。」
イタリア戦後のレーブ監督
「イタリアのサッカーは予想しやすい。中央と両サイドに2人ずつアタッカーを配し、高い位置から仕掛けてくるので、4対4で対応するのはあまりにも危険と判断した。イタリアはサイドから中へボールを入れ、そこから深くえぐろうとする。それを非常にうまくやるが、我々はさせなかった。」
こういった本大会の背景があるため、テクニカルレポートでは
フォーメーションチェンジ
ロングボール
クロス
といった観点から本大会を分析した。
ここからはUEFA.comで和訳されていたので、本文についてはそちらを引用した。
1. カウンターアタック
UEFA EURO 2008では、流れのなかで生まれたゴールに占めるカウンター攻撃からの得点の割合は46%だった。その後、カウンターの脅威がコーチングの世界で認識されるようになり、戦略が見直されるようになった。上記の割合はUEFA EURO 2012で23%に半減し、フランス大会でも同程度の低水準となった。
また、本大会のカウンター攻撃からの得点の多くは試合終了が近づいた時間帯に生まれている。
終盤に生まれたカウンターからのゴール:
・ドイツはエジルを中心としたカウンターからバスティアン・シュバインシュタイガーが決めて2-0とし、ウクライナに対する勝利を決定的にした。
・イタリアは右サイドのクロスからグラツィアーノ・ペッレが決めるという形で、ベルギーとスペインのいずれも後半ロスタイムに突き放した。
・ハンガリーはオーストリア戦の87分にスルーパスから生まれたゾルターン・シュティエベルのゴールで2-0とし、勝利を確実にした。
・アイスランドは後半ロスタイムに右サイドでのカウンターからファーポスト付近へクロスを入れて得点。これでグループFを2位で終え、歴史的快挙への舞台を整えた。
・ポルトガルはクロアチア戦の延長27分にカウンターから決勝点を奪った。
・ベルギーはハンガリー戦の終盤にカウンターで2点を追加し、勝利を締めくくった。
カウンター攻撃からの得点の大半は、試合終盤にゴールを必要とする相手が前掛かりになった状況で生まれたものだった。
均衡を破ったものは非常に少ないが、そういった例も大会序盤にはいくつかあった。
トルコのチェコ戦での先制点、ポーランド対スイス戦で生まれたゴール、
そしてアイルランドのマーティン・オニール監督を悔しがらせたベルギーの1点だ。
オニール監督は試合後にこう語った。
「我々の攻撃からだった。うちがFKをペナルティーエリアに入れたが、そこから相手のカウンターが始まり、得点した。あのゴールは極めて大きかった。そのあと追う展開になり、逆に何度かやられてしまったわけだからね」
全般的に、リスクマネジメント戦略の主眼は相手のカウンターを防ぐことに置かれた。
グループCのドイツ戦のあと、ポーランドのナバルカ監督はこう語った。
「ドイツが主導権を握っていたことも何度かあったが、あれは意図的に与えたものだ。カウンターでつけ入るスペースをつくるためにね」
これに対し、ドイツのヨアヒム・レーブ監督は、
「我々はポーランドに強みを出させないようにし、カウンターで我々にダメージを与えることを許さなかった」
と話している。
フランス大会では、出場チームのほとんどがカウンターを重要な武器として持っていたが、
相手にダメージを与えられたのは基本的に相手が攻めざるを得ない状況になったときだけだった。
2. フォーメーションチェンジ
本大会の24チームの中で最も採用されたのは4-2-3-1だったものの
EURO2012に比べてフォーメーションの多様性が生まれた。
EURO2012に出場した16チームのうち、
4-2-3-1(7チーム)、4-3-3(5チーム)、4-4-2(4チーム)であった。
(イタリアはEURO2012の開幕戦で3-5-2を使用したがそれ以降では4バック採用のため3-5-2は除いている)
一方でEURO2016では、
4-2-3-1(10チーム)、4-3-3(4チーム)と14チームが占めていたが、トルコ、フランスはこの2つのシステムを使い分けていた。
アルバニアと北アイルランドは4-5-1を用いることが多かったが、
北アイルランドはポーランド戦やウェールズ戦で3-5-2を用いていた。
イタリアはいずれの試合でもブッフォン、キエッリーニ、ボヌッチ、バルザーリのユヴェントスコンビを生かした3-5-2を基本としていた。
ウェールズはロブソンカヌまたはヴォークスの後ろにベイルとA.ラムジーを配置した3-4-3を用いていた。
ドイツの基本は4-2-3-1だったが、イタリア戦では3-4-3を用いてキミッヒとヘクターをウイングバックのポジションに用いた。
ハンガリーポーランドは4-2-3-1を好んで用いていたが、M.オニール率いるアイルランドは4-1-4-1と4-4-2を使い分けていた。
一方でポルトガルは古典的なフォーメーションで語れる様なチームではなかった。
というのも試合中に複雑なポジションチェンジを何度も行った。例えばナニやC.ロナウドのサポートをするために、インサイドハーフがワイドに開いてウイングのような役割をおこなっていたりした。
このようにチームに合わせた守備の多様性が確認された大会だった。
3. ロングボール
かつてオールボーやオーフス、ビボーの監督を務めたペーター・ルドバク氏は語った。
「奇妙な例外があったね」
異なる数試合を分析したテクニカルオブザーバー、デイビッド・モイーズ氏は異を唱える。
「しかし私が見た試合では、多くのチームが後方から攻撃を組み立てようとしていた」
ミクス・パーテライネン氏も付け加えた。
「その一方で、後方からの組み立てがうまくいったチームは多くなかった、後方から組み立てられるかどうか、相手にコントロールされている試合が多かった」
ハイライト:イタリア vs スペイン
スペインとイタリアが対戦したラウンド16の一戦は、その実例として恰好のサンプルになる。
この試合の前半、アントニオ・コンテ監督率いるイタリアが高い位置から組織的なプレスをかけたため、スペインは後方からのビルドアップに苦労した。
スペインのGKダビド・デ・ヘアがグループステージの3試合で記録したロングパスは20本だったが、その数はイタリア戦だけで19本に達した。
自由なプレーを許さない、あるいは正確なパスを出させないために、ほとんどのチームが相手のボールホルダーへ積極的にプレッシャーをかけ、身体を寄せていたとテクニカルオブザーバーは指摘する。
「プレッシングの強度によって、相手にリスクの低いプレーを選択させている」
との意見で一致した。
すなわち、後方から前線へのロングパスが増えることを意味する。ただし両氏は、“ロングパス=精度の低いプレー”とみなされることを危惧していた。
「ドイツが相手エリア内へ達するスピードには目を見張るものがあった」と語ったのはサウスゲイト氏。「それに素早いパスワークや正確なクロス、コンビネーションやスルーパスなど、さまざまな方法を駆使している。彼らはポゼッションを志向するチームだが、私の意見ではどのチームよりも多く突破口を切り開いていた」
(本文、和訳中には記載されていなかったが、ドイツはクロース、ボアテングなど精度の高いロングパスも攻撃の一部に組み込んでいたということを言いたいのだと思う。)
テクニカルオブザーバーが受けた全体的な印象は、スペイン代表やバルセロナ、さらにジョゼップ・グアルディオラ監督が率いたバイエルン・ミュンヘンなど、ポゼッション主体のサッカーに注目が集まった数年間を経て、自陣深くでブロックをつくって守りつつ、より直線的に攻撃へ転じるスタイルへの回帰だった。
この傾向はデータで立証されている。
EURO2012でロングパス率が10%を下回ったのは16チーム中5チーム。つまり全体の31%だったが、フランス大会ではゼロになった。
EURO2012でロングパスを最も多用したのは、アイルランド(19%)とウクライナ(18%)だった。
一方、EURO2016でこの数値を上回ったのは4チームしかない。また、EURRO2012のロングパス率は平均12.8%で、EURO2016では24チームの平均で15.88%に増加した。
言い換えれば、ロングパスの頻度が24%増加したことで、徹底的な守備ブロックを敷いて組み立てに時間をかけず、後方から一気に展開する戦術へ逆行している傾向が浮き彫りになる。長いボールを活用する戦術において、GKに果たすべき役割があったのは明らかだった。
4. クロス
テクニカル・オブザーバーズの1人、U-21イングランド代表監督でもあるギャレス・サウスゲイト氏は話した。
「このようなコンパクトな、深い位置でブロックをつくる守り方と、素早い攻守の切り替えにより、ディフェンスの裏のスペースが見つけにくくなった」
「よって、攻撃的な選手と攻撃のメソッドをどうチョイスするかが、監督にとって非常に重要なポイントとなった」
トーマス・シャーフ氏は次のように指摘する。
「CBたちは、明らかに中央の突破ルートを封鎖することに力を注いでいた。そのため相手は、たとえ前がかりになっているときでさえ、あまり中央を攻略しようとしなかった。そのエリアではボールを失うリスクが非常に高かったからだ」
ミクス・パーテライネン氏も続ける。
「多くのチームが規律の取れた守備でスペースを狭めていた。このため、相手攻撃陣は守備ブロックに突っ込むのではなく、裏に回り込む道を探さなければならなかった。その結果、多くのクロスが供給されることになったのだと思う」
この分析はデータに裏付けられている。今回のフランス大会には24チームが出場したため、16チームで戦われたEURO2012より多くのクロス数が記録されているのは当然だ。そのことを鑑みて、公平に比較するには1試合平均のクロス数で見てみるといい。
EURO 2012では合計811本、1試合平均26.16本のクロスを記録。
これに対し、EURO2016では合計2079本、1試合平均40.76本となった。
つまりクロス数は56%も上昇しており、どのチームもサイドからの攻略に重点を置いていたことは明らかだ。
これは2015-16シーズンのUEFAチャンピオンズリーグのトレンドにもなっており、クロスからのゴールが24%増加。さらに切り返しを含めると、オープンプレーからのゴールのうち35%がサイドからのボールで決まっている。
EURO2016で得点機の多くがクロスから生まれたことはある種の必然だった。
プレーするサイドと反対の足で入れるインスイング(ゴールに近づく方向に曲がる)クロスは、ディフェンダーとキーパーの間のゴールデンエリアにボールを入れるための貴重な武器となった。アイルランドのウェス・フーラハンは右サイドからインスイングクロスを入れ、ロビー・ブレイディーが頭で合わせてイタリアから得点。
これが決勝点となり、アイルランドは決勝トーナメントに駒を進めることができた
。
アイスランドのビルキル・ビャルナソンも右アイドから左足でファーポスト付近へ送ったクロスでゴールを演出し、ポルトガルと戦ったチームに貴重な勝ち点1をもたらした。スペインのアンドレス・イニエスタはチェコとの初戦で、左サイドから右足でクロス。これをジェラール・ピケが頭で押し込み、終了が近づいていた試合はようやく均衡が破れた。
サウスゲイト氏は説明する。
「今までと違うのはクロスを入れるエリアとクロスの種類だ。インスイングクロスが非常に多かった。これは、ウインガーを利き足と反対のサイドで起用するチームが増えている傾向と一致する。また、切り返しがますます主流になり、タッチラインまで持ち込んでサイドぎりぎりからクロスを入れるウインガーはあまりいなかった」
選手別では、イタリアのサイドハーフだったアントニオ・カンドレーバが、負傷で戦列を離れるまでの2試合で右サイドから22本を入れた。ベルギーのケビン・デ・ブルイネも1試合につき10本超のクロスを送り、成功率、つまりチームメートに届いた割合は37%に達した。
クロアチアの右SBダリヨ・スルナもこれに近い数字を残し、4試合で43本を入れて成功率35%。イングランドとスペインのライバルを大きく上回った。
(カイル・ウォーカーとフアンフランはそれぞれ14%と12.5%)
ドイツのサイド攻撃は、クロス成功率の低さが顕著な特徴となった。最多42本のクロスを入れたトニ・クロースの成功率は21%。トーマス・ミュラーは12.5%にとどまり、両サイドバックの成功率がそれを挟む形となった。
(ヨシュア・キミッヒが23%、ヨナス・ヘクターが6%)
ペーター・ルドバク氏はこう指摘した。
「明らかにサイドバックとウインガーが最大のクロス供給元になっている」
「サイドの選手は、サイドバックが入っていけるスペースをつくるためのカットインを求められている。だが、クロスの数を増やしても、クロスの質はまた別の問題だ」
「だから我々監督としては、ドリブルで駆け上がった最後に良質なクロスを届ける能力を磨くことに注意を払う必要がある。その能力がチームの攻撃力にとって極めて重要な要素になっているわけだからね」
後半はまた明日。
内容はどのようにしてゴールは決められたのか?と各試合のMOMと本大会のベストイレブンについて。
明日でEURO2016についてすべて終わりにする予定です。
今後取り扱っていくコンペティションについてはそこで。
EURO2016-impressions and Technical report-2
前の記事に続いて気になった選手を簡単に紹介していきます。下に今大会の全ゴールシーンを載せておきました。
All 108 UEFA EURO 2016 goals: Watch every one
3. Round.of.8で敗退したチーム
アザール : ベルギー(Belgium)
2015-2016シーズンはクラブで散々だったが、EURO2016ではドリブルをはじめ全体的にかなりキレがあった。また失っていた得点感覚も戻っていたような感じで5試合で1G4A。ただし守備に関してはやっぱり駄目な部分も多く、諸刃な剣要素もある。
ナインゴラン : ベルギー(Belgium)
2センターの守備をさせるには非常に危ない部分が多いが、ミドルシュートで今大会2点挙げているように攻撃での貢献度は大きい。前線が守備をしなさすぎ問題が露骨すぎたので守備での問題点がクローズアップされてしまったが、監督が代わればもう少し改善される気がする。(ただし後任はマルティネスなのでどうなるかわからない)
グンナーソン : アイスランド(Iceland)
今大会のアイスランドの躍進に大きく貢献した一人。アイスランドが堅実に全員で守備を行えたのもグンナーソン必殺ロングスローがあったからこそ。大きな得点源として精神的主柱となりつつ、中盤をG.シグルドソンとともにかなりソリッドに守った。
シグトルソン : アイスランド(Iceland)
今大会のアイスランドの躍進に大きく貢献した一人。とにかく最前線でロングボールの競り合いに勝ち続け、ボールを進めることが苦手だったアイスランドの攻撃の質を上げた。また、ハーフラインからの守備、撤退守備ともに積極的に守備をし続けた。チャンス量を考えると5試合で2Gはかなりすごい。
ビャルナソン : アイスランド(Iceland)
今大会のアイスランドの躍進に大きく貢献した一人。あまりクローズアップしてこなかったが、サイドハーフは守備と攻撃をつなぐ重要な役割を担っていたため、かなり運動量が必要だったはずだが、ビャルナソンはサイドハーフだけでなく試合の終盤には2センターとしてプレーしたりとポリバレントさも見せつけていた。
ブッフォン : イタリア(Italy)
GKが味方にパスをつなげるかどうかはボール保持攻撃において結構重要であることを今大会で示した。また、ビッグセーブも大会が進むごとに多くなっており、ドイツ戦でPKまで進めたのはブッフォンによる貢献も大きい。
ボヌッチ : イタリア(Italy)
バルザーリとキエッリーニと組んでいるので単純な3バックの強さだけでもイタリアは群を抜いていた。それ以外にもボヌッチはロングフィードを大きな武器としており、実際にベルギー戦でジャッケリーニの抜け出しに合わせた完璧なパスを出している。
またノイアー相手にPKを決めたりと個人としての出来は素晴らしかった。
キエッリーニ : イタリア(Italy)
キエッリーニはボヌッチほどロングパス精度はないが、とにかくドライブがうまい。キエッリーニが3バックの脇を務める理由がこれだけでも十分にわかる。今大会はスペイン戦での貴重なゴールもあった。懸念材料は最終ラインを担える人材が全く育っていないことだろう。
ジャッケリーニ : イタリア(Italy)
今大会のおかげで評価が変わった選手。とにかく運動量がすさまじい。コンテのむちゃな要求にもかなり答えていた。ヴェラッティやマルキージオの不在でかなり攻撃面では苦労していたが、ジャッケリーニのドリブルと飛び出しはイタリアにとって本当に重要な攻撃となっていた。
パズダン : ポーランド(Poland)
今大会評価が上がったであろうCB。4バックであるにも関わらず迎撃したがるタイプ。実際今大会でもそのアグレッシブな読みはかなり正確性があった。ワルシャワでプレーしており、29歳ということもあってステップアップは難しいかもしれないがグッドディフェンダーであったことは間違いない。
クリホビアク: ポーランド(Poland)
セビージャでかなり活躍していた選手。エメリと一緒にPSGに移籍したが、あまり出場機会は得られてない模様。今大会ではポーランドの心臓として中盤の底でビルドアップでも貢献したが、一番の持ち味はフィジカルを生かしたボール奪取とカウンターで、これが完璧にポーランドのサッカーとマッチしていた。
カプストカ: ポーランド(Poland)
ポーランドの若手枠。初戦の北アイルランド戦で先発しており、テクニカルなドリブルから何度かチャンスを作っていた。2戦目からはよりカウンター向きな選手であるグロシツキにスタメンを奪われてしまったが、少しだけ将来が気になる選手。なおレスターでは一回も出場していない。
ミリク : ポーランド(Poland)
今大会のポーランドの中では最も得点チャンスが多かった。ジルーやレヴァンドフスキなどデコイになってくれるCFとプレーできればかなり自身の特徴を生かせそうな選手だと感じた。まだ若くフィジカルもあるので、今後の活躍がかなり期待される選手。ただし2016年の冬に左ひざ前十字靭帯を断裂しているので怪我が完治するかが結構重要。
4. Round.of.4まで残った4チーム
J.ボアテング : ドイツ(Germany)
ドイツの心臓その1。ウクライナ戦でのアクロバットなゴール阻止、対角に向けた現役最高のロングパス、スロバキア戦でのミドルシュートなどもはやCBの域を完全に超えている。ロングパスが多かったからなのか元からなのか不明だが、フランス戦での負傷離脱は致命的だった。
クロース : ドイツ(Germany)
ドイツの心臓その2。守備をさぼりがちという点を除けば完璧な中盤の選手。J.ボアテングと組むことでドイツのポジショナルプレーが完成した。
キミッヒ : ドイツ(Germany)
ドイツの若手枠。燻っていた右サイドの攻撃を活性化させた。クロスだけではなくビルドアップにも貢献できるテクニックを持っている。ただし身長もフィジカルもあまりなく、守備能力が高いわけではない。そのあたりが今後バイエルンでプレーするにあたってフォーカスされていきそう。
とにかくスペースがあればいいプレーをしてくれるので、ウェールズの守備で耐えられるチームに対しては強さを発揮した。唯一悔やまれるのはポルトガル戦の前に不用意なハンドで累積警告を受けてしまい準決勝にでれなかったこと。
少なくとも5回は自陣深い位置から自身のドリブルだけでシュートまで持ち込めていた選手はほかにいない。また3G1Aと結果も十分でありながらなぜか、UEFAが出したベストイレブンにはいっていなかった。フィジカルだけでなくポジションチェンジを利用したデコイ、リーダーシップなどウェールズにとって最重要な選手であり続けた。
ウムティティ : フランス(France)
フランスの若手枠。強気な縦パスとレフティであることが特徴的。2016-2017にはバルセロナに移籍している。もともとSB出身らしく、エアバトルに一定の不安があるため、その部分が改善されればW杯でもスタメンの可能性はあると思う。
ポグバ : フランス(France)
正直に言えば2センターだと守備の粗さが目立つと思っていたがそんなことはなかった。それどころか本来持ち味だったロングパスやフィジカルを生かしたボール奪取、カウンター時のドリブルなどむしろ2センターのほうがいい選手になりそうな気配まであった。
シソッコ : フランス(France)
出場時間は短いがインパクトだけはがっつり残していった。やっぱりプレミアでも圧倒していたゴリゴリのドリブル突破は単純に強い。意外とライン間で受ける動きもうまく、トッテナムでも活躍してほしい選手。
グリーズマン : フランス(France)
ジルーのようなデコイ系CFとプレーさせれば得点を量産してくれる。またこのタイプには珍しいというかシメオネが調教したというべきかわからないが、守備をさぼらない。さらにワンタッチプレーでつなぎながら自分のマークを外すのがうまい。決勝でヒーローになり損ねたのが悔やまれる。
ペペ : ポルトガル(Portugal)
ポーランド戦のレヴァンドフスキとのマッチアップが素晴らしかった。CBの中での守備部門ではペペが一番すごかった。問題を起こさなければ本当にただのベストディフェンダーだった。
R.ゲレイロ : ポルトガル(Portugal)
ポルトガルの若手枠その1。ゲレイロはボールの扱いが本当にうまく、ポルトガルのビルドアップ、ゲームメイクを大きく助けていた。またプレースキックの精度も高く、ドルトムントは本当にいい買い物をした。今後の成長がとても楽しみな選手。
決勝トーナメントから試合に出始めたが、ヴィエリーニャに比べて守備が格段に安定した。ポーランド戦の失点シーンで唯一やらかしたが、引きずられることなくその後のプレーはよかった。
若手ではないが、2018年までにはビッグクラブに移籍する可能性が高い選手。中盤の底としてプレーしていたが、守備はもちろんのことパスのレンジが広く正確だった。
R.サンチェス : ポルトガル(Portugal)
ポルトガルの若手枠。18歳とは到底思えないほど下半身がしっかりしており、フィジカルでも負けた場面はあまりなかった。2016-2017からはバイエルンに移籍しているがあまり出場できていない。全体的な能力が高いのでどういった選手になっていくかいまいち予想がつかない。
明日にテクニカルレポート第1段アップします。