EURO2016-Round.of.16-ENG.vs.ICL
EURO2016-Round.of.16-イングランドvsアイスランド
まずはスタメンから
イングランドはグループリーグで好調だったララーナ(ただしゴールはきめない)をスタリッジに変更する
どうやらララーナは練習中に怪我したらしい。基本は4-3-3だが、4-2-4といってもいいくらいアリはあがりっぱなしである。
中4日もしくは3日の試合が続いてるため疲労を考慮するとやや心配ではある。
試合展開
試合は1-2でアイスランドの勝利で終える。3分にスタリッジのロングボールを受けたスターリングがハルドーソンに倒されてPK。これをルーニーが決めて先制する。しかし5分にグンナーソンのロングスローをアルナソンがフリックしてR.シグルドソンが決めて同点とする。17分にはロングボールで前に進むことができたアイスランドは、シグトルソンが決めて逆転する。ネームバリューだけ見ればイングランドが勝ち上がると思った人も多いはずだが、内容は決してジャイアントキリングという感じではなかった。イングランドはアイスランドのコンパクトな4-4-2を崩すことはできず、チャンスも非常に限られていた。逆にアイスランドは序盤に2得点出来たという幸運も持ち合わせていたものの、ほほプラン通りといった内容であった。
1. イングランドのビルドアップ-ゲームメイク、アイスランドの守備
おそらくここのトピックだけで、なぜイングランドが勝てなかったかについてはわかってしまう。
今までの試合でもそうだが、アイスランドの1列目は前線から激しくハイプレスをかけるようなことはしない。ただしハーフラインよりより少し高い位置からゲームメイク妨害をおこなっていく。
この時イングランドには大きく分けて3パターンのゲームメイク方法がある。
1.1. ルーニー、ダイヤーが下がらない場合(Fig.2)
Fig.2 スモーリング側でボールを持った場合
おそらくこれが両者の一番オーソドックスな形。
ボールサイドのイングランドのSBにはアイスランドのSHがマークの強度を強めつつ、アイスランドの1列目はルーニー、ダイヤーの動きを監視することでCBのボールの出しどころを限定する。
これは逆サイドの場合も同じである。
ただし1列目はスライドしてゾーンを守ることを第一としており、プレスをかけてボール奪取しようという意気込みはあまり感じられなかった。
つまり、ハーフライン付近まではイングランドはほぼ問題なく進める。
あとはCBが縦パスをだすか、対角にロングボールを出すことができれば、ピッチ中央での攻撃はほぼ問題なく完了することになる。
ただしイングランドのCBスモーリングとケーヒルは決勝トーナメントに進んだ16チームのなかでも北アイルランド、アイルランド、ウェールズ、アイスランドに次いで下手である(Fig.3)。
Fig.3 ケーヒル(左)、スモーリング(右)
特にスモーリングは簡単にローズに預けてしまい全くと言っていいほど機能していなかった。一方のケーヒルもほとんどのプレーでは無難に横パスをしているだけで、極たまにドライブすることもあったが効果的ではなかった。
アイスランドの1列目がプレスに行かなかった理由は、
イングランドのCBがボールをうまく運べないことをしっていたからであり、はっきりいってイングランドのCBはこの時点でかなり舐められていたともいえる。
1.2. ルーニーが下がってきた場合(Fig.4)
CBがボールを運べないとなると今度はルーニーがSBの位置まで下がってきて、代わりにローズをもう少し高い位置に置く。
この位置でルーニーが受けた場合、可能であるなら1列目がルーニーをマークする。無理ならばグンナーソン、もしくはG.シグルドソンがマークする場合も数回あった。そしてシグトルソンがダイアーをマークすることで中央から崩されることを防ごうとしていた。
この場合もすがすがしいほどイングランドのCBはスルーされている。
この時点で問題なのはグンナーソンが放棄したエリアにイングランドの攻撃陣がボールを受けにこないことであり、ルーニーもほとんど出さなかったこと。
ただしルーニーはここから対角へのロングボールを出すことができるため、イングランドはこの方法で前に進むことがたびたびあった。
1.3. ダイアーが下がってきた場合(Fig.5)
Fig.5 ダイアーが下がった時のアイスランドの守備
ダイアーがCB間に下がってくる場合も何度かあった。
この時は1列目がダイアーからの縦パスだでないように比較的きつくマークする。
こうなったら隣のCBにだすかSBにだすことになるが、SBに対してはグドムンドソンが高い位置にいるため、選択肢はほぼCBに限られてしまう。
こんな感じで、他にもルーニーが右SBの位置でゲームメイクしたりするが、やっていることはほぼ同じである。
どんな手法を使っても気持ちいい形でゲームメイクできないイングランドは特に前半いらない 横パスをCB間で延々とまわし続ける。(Fig.6)
Fig.6 前半のイングランドのパスワーク
まとめると、イングランドはCB間でボール交換をひたすら行い、特に左SBの位置から対角へのロングパスをルーニーが行うというのが、前半のイングランドのもっとも可能性があるゲームメイクとなる。
2. イングランドのチャンスメイク
イングランドがボールをハーフラインより先に進めた機会が決して少ないわけではかったが、そのエリアはほぼサイドからとなる。
つまりサイドでプレーするローズ、スターリング、ウォーカー、スタリッジのプレーにイングランドの攻撃は多く依存する。
このなかで前半は特にスタリッジがチャンスを演出する機会がほかの選手に比べて多かった。というのもスタリッジは頻繁にカットインを繰り返しつつ中央に侵入するようなプレーが多く、アイスランドの守備も後手後手になる場面があったからだと思う。
スターリングに関しては、その絶対的な俊敏性で何度か突破することもあったが、ファイナルサードでのプレーの精度や質は相変わらず素晴らしいとは言えない感じだった。
イングランドのチャンス
3m50PK(10)Goal
14m10CK(20M)
27m30T(15-9)
開始3分でのPKはスタリッジのスルーパスにスターリングが反応したことで生まれたシーンだったが、右SBのサエバルソンがスターリングをフリーにしすぎたのも問題だった。前半の低質なゲームメイクから1つのおおきなチャンスを作った2人はよくやっていたと思う。いずれにしてもPKをルーニーが決めたことでイングランドが先制する。
3. アイスランドの攻撃
アイスランドの攻撃方法はいたって単純である。
1. 基本的に自陣中腹でボールを回収することが多いが、1列目が下がってディフェンスをすることが多く、即ロングボールというわけにはいかない場合もあるが、基本サイドで時間を稼いでロングボールという形がほとんど。
2. またゴールキックからのボール保持攻撃においても、ハルドーソンがロングボールを蹴ることもあるが、偶にCBにボールを預けてロングボールを蹴ってもらう場面も多々あった。
つまり、どんな場合でも1列目へのロングボールはほぼ必須事項であるため、問題は1列目が収めてくれるかが重要になる。
3.1. アイスランドの1列目のエアバトル能力
アイスランドの1列目の最大の長所はさぼらずにDFを行うことだと思うが、それ以外にもフィジカルを生かしたエアバトル能力の高さをグループリーグで見せてきた。
しかしこの試合では必ずしもボールを収めていたわけでもなかった。(Fig.7)
|
ボドバルソン |
シグトルソン |
vsポルトガル |
4/8 |
17/25 |
vsハンガリー |
2/4 |
10/15 |
vsオーストリア |
4/10 |
5/11 |
vsイングランド |
5/14 |
4/15 |
Fig.7 アイスランドの1列目のエアバトルの勝率
各試合のエアバトルの勝率だが、特にシグトルソンは今大会のエアバトルマスターといっても過言ではない。ボドバルソンもかなり強いほうだが、比べてしまうと少し霞んでしまう。
しかしこの試合ではいずれもエアバトルに勝ちきれないシーンが目立った。
原因は先ほどまで散々ゲームメイクがひどいといっていたイングランドのCB。
この2人は守備面、特にエアバトルにおいては無類の強さを発揮する。2人とも15-16シーズンではチーム全体が調子を落としていたとはいえ、チェルシー、マンチェスターユナイテッドでプレーしている理由がしっかりとある。
イングランドは他のリーグに比べてロングボールを重視する文化があり、ロングボールに競れるフィジカルはプレミアリーグで活躍するCBの必須事項といってもいい。そしてイングランドの選手は他の強豪国に比べて圧倒的に海外でプレーする選手が少ないため、自国の文化に倣ったプレーヤーが代表選手になる場合がほとんどといっていい。シグトルソン、ボドバルソンはエアバトルに特徴を持っている選手だが、プレミアリーグには同等のフィジカルお化けがたくさんいるため、イングランドのCBはかなり良く跳ね返していたと思う。
3.2. アイスランドの前半のチャンス
特に前半はアイスランドに34回の攻撃チャンスがあったが、
自陣深い位置からのロングボールでボールを失った回数は13回、
中盤でのパスミスが5回あったため、
ほとんどの攻撃はその意味をなしてないままイングランドの攻撃に移行している。
ただし前線でボールを収めた時、もしくはセットピース時にはチャンスを作ることができていた。理由はイングランドの攻撃方法も少なからず影響していると思う。
イングランドのボール保持攻撃における問題
まずイングランドの攻撃において、前述したとおり、ルーニーとダイアーが下がってゲームメイクする場面がほとんどであった。
効果的な攻撃をするためにはSBが深い位置までかならずオーバーラップする必要があり、ルーニーも前線にボールが渡ったらそれなりの位置まで前進する。
したがって、イングランドは攻撃から守備にトランジションするとき2バックもしくはダイアーが下がった状態の3バックのようになっていることが多い。(Fig.8)
Fig.8 イングランドのボール保持攻撃からのトランジション
もちろんこの図はアイスランドに最も都合がよかった時の図であり、この状態が頻発したわけではない。
しかし、原理的にはサイドバックが攻めに関わりすぎるため、アイスランドのサイドハーフは裏抜けが容易になり、ロングボール1本で簡単に前に運ぶことができるという状況がうまれやすかった。
さらに、アイスランドはスローインも大きな武器であるため、アタッキングサードエリア付近までボールを運ぶことができればほぼチャンスメイクしてるに等しい。
したがって確率の低いロングボールを放り続けたとしてもその成功率=チャンスメイクの数にほぼ等しくなるため、アイスランドは得点を重ねることができた。
前述のように、相手陣地でスローインを獲得したらアイスランドにはロングスローという絶対的な武器がある。失点直後の得点はまさにロングスローが基点となった。(Fig.9)
Fig.9 アイスランドがロングスローから得点できる理由
グンナーソンはロングスローを武器にしているが、ロングスローからこれほどまでにチャンスを作れている理由は一度GKから遠いところでフリックさせているからである。
アイスランドはエリア1もしくはエリア2にしかスローインを投げない。フリックしたパスをもっとも危険なエリアにかなりランダム性が高いボールが供給される。もっともそのためにはエリア1、エリア2に優秀なエアバトルマスターがいることが前提だが、この位置にボドバルソンとアルナソンを置いている理由はまさしくそれだろう。
このゴールはオーストリア戦の1点目と酷似しており、アイスランドはこの形を間違いなく練習で極めているし、あまり対策の方法がなく、どのチームも対応に苦労している。
対策の方法が少ない理由はオーストリア戦のレビューで述べている
アイスランドのチャンス
5m10TI(17-14-6)Goal
17m50P(10-15-9)Goal
33m00P(23M)
アイスランドの1点目は自分たちの形がしっかりと反映されているのでまあいいとして、2点目を前半早いうちに奪取できたことについては運が良かったといってもいいだろう。今大会のハートはベイルのFKも含めて止められそうなシュートをきちんとセーブすることができていない。
4. 後半戦に向けた変更
イングランドはハーフタイム中にダイアーをウイルシャーに変更する。
この交代については前半を見る感じだと非常に納得できた。
前半を振り返れば、アイスランドの4-4-2に対してロングパスでしかほとんど前に進めず、パスが通ったとしてもサイドは縦にドリブル突破して低質なクロスをあげるだけ。
中央のルーニーはかつての見る影もないようなプレーの数々(だからこそボランチという新境地を開拓しようとしているわけだが)、そしてダイアーは押し込んだ状態で効果的な攻撃参加ができるわけではない。
ウイルシャーのようにライン間にいる選手にパスを出しつつ自身も攻撃に絡める選手はイングランドでは少なく、ルーニーにもダイアーにもできない仕事である。したがって最低1点が必要なイングランドとしては攻撃面だけを考慮すれば至極まっとうな交代だったと個人的には思った。
ただしルーニーもひどかったので、ヘンダーソン、ウイルシャーの2センターが個人的にはみたかったが、ルーニーはハーフタイムでは交代しない。
5. イングランドのゲームメイク、アイスランドの守備(後半)
基本的にアイスランドもイングランドも守備および攻撃方法はかわらないが、アイスランドの1列目が明らかに疲労していたため、イングランドは少しゲームメイクに余裕が出てくる場面も増えていた。(Fig.10)
Fig.10 アイスランドの守備(後半)
前半あれだけタイトに1列目の脇を抑えていたアイスランドの4-4-2が時間がたつにつれて間延びしていく。
1つはアイスランドの1列目の運動量が極端に落ちていたことが原因だと思う。
2列目、3列目も試合開始直後のハイラインを維持しきれなくなっていることも大きな要因だろう
そして前半には存在しなかった白のスペースで前を向くことができるルーニーとウイルシャー。ここまでくればあとはルーニーとウイルシャーの能力次第になってくるが、この位置でも問題を抱えることになったイングランド。
5.1. イングランドの問題点
前半に比べればより前でルーニーがボールを持つ機会は確かに多くなった。しかしこのエリアでのルーニーのプレーは本当にひどかった。
今までEURO2016の試合を40試合以上みているが、選手個人でいえば一番ひどかったかもしれない。ボールを持てばロスト、または精度をかいたロングパスと散々だった。
前半もしうまくゲームメイクできていれば、イングランドはこの問題に前半のうちに気づけたかもしれないが、その前のフェイズでミスが続いていたため後半までそういった問題が露呈しなかったのはイングランドにとっては最悪だった。
5.2. 70分以降の攻防
後半20分を超えたあたりからアイスランドは全体の疲労もあり1列目のラインが下がってくる。いわゆるバスを停める状態になり、守備のための守備をすることになる。
そしてイングランドは攻勢を強めるためにスターリングをヴァーディーに変更する。(Fig.11)
Fig.11 イングランドの攻撃時のフォーメーション
ヴァーディーが1トップ?で、ケインとアリがシャドーストライカーのような位置になる。右はスタリッジとウォーカーが横幅をとり、代わりに左はローズのみで横幅を取ることが多かった。
信じられないようなフォーメーションだが、結局スペースのないエリアを崩すことはできていなかった。
それでもより相手のゴール近くでプレーしているのは確かなので、クロスの回数やFKのチャンスは当然増える傾向にあった。
しかしイングランドのFKはなぜかケインが蹴る。
プレースキックならルーニーでいいと思うが、今大会中のメインのキッカーはケインだった。ただし、ケインのフリーキックは本当に質が低く、フリーキックのチャンスもイングランドは無駄にしていた。
5.3. 各チームのチャンスシーン
イングランドのチャンス
59m50P(15-20)
78m00P(18-9)
92m50P(15-9)
これだけいろいろな部分に問題があればチャンス数も減ってしまうのは当然だったイングランドは後半に得点することはできなかった。アイスランドも肝心な場面ではR.シグルドソンがかなりいい守備を連発しており、CB陣もすごく集中していた。
一方でアイスランドはチャンス数は少ないものの、少なくとも54分のCKと83分のグンナーソンのロングカウンターはビッグチャンスであり、後半も得点の匂いが強かったのはむしろアイスランドだった。
アイスランドのチャンス
54m50CK(7-17-9-6)
71m50P(17-2)
83m00T(7-17)
余談
実は中4日のアイスランドと中6日のイングランド、さらにグループリーグ3試合目は選手を休ませていて圧倒的なコンディションの差があったにも関わらず負けてしまった。ジャイアントキリングというにはアイスランドにあまりにも失礼で、よく準備したチームが順当に勝った試合だった。
アイスランドは次は調子が上がってきているフランスを相手にする。
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緑がビルドアップ失敗、黄がビルドアップ成功
青がゲームメイク成功、ピンクがゲームメイク成功
オレンジがチャンスメイク成功、紫がチャンスメイク失敗
となっている。
コメントはどうやってボールを前に進めたor失敗したかを表す。
○はいいプレーをした選手につけている。