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EURO2016-E2-BEL.vs.IRL

EURO2016-グループE2-ベルギーvsアイルランド

 

まずはスタメンから

赤がベルギー、白がアイルランド(Fig.1)

 

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Fig.1 ベルギーvsアイルランド

 

ベルギーは3選手を入れ替える。

RSBのシマンをムニエルに、CMFのナインゴランをデンベレに、フェライニカラスコに変更する。2列目の3人はポジションを流動的に変更するが、この並びになることが多かった。

 

アイルランドは2トップから1トップに変更した。

ウォルタースの代わりにワードがLSBにはいる。前節LSBを担当していたブラディーは1列前にいく。またこの試合ではヘンドリックがインサイドハーフだけではなくサイドハーフでもプレーする。

 

試合の概要

試合は3-0でベルギーの勝利で終える。47分にデブライネのドリブル突破からルカクのゴール、60分にムニエルのクロスからヴィツェルのゴール、69分にアザールの突破からルカクのゴールで勝利する。3点という結果に比例するほどベルギーが作ったチャンスは多くはなかったが、アイルランドは全ての局面で最悪だった。

 

 

1. 両チームの状況

ベルギーは勝ち点0アイルランドは勝ち点1

ベルギーはこの試合で負ければ、

グループリーグ突破の可能性は潰える。

 

またアイルランドとベルギーのサッカーを見比べればわかるように、ベルギーがボールを持つ展開になることは簡単に予想することができる。

 

2. アイルランドのビルドアップ


アイルランドにはビルドアップできる選手がいない。

さらにプレスを躱せるような選手もいない。

となればロングボールを前線に蹴り続けるというのがアイルランドの基本的な形になる。

この時のターゲットはS.ロング。

特にランドロフはゴールキックやFKではかなりの確率でS.ロングに蹴りこんでいた。(Fig.2)

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Fig.2 ランドロフのパスについて

 

ロングパスは8回成功しているが、このうち5回はS.ロングに通った時のパス。

逆に言えば24回攻める機会がありながら、少なくとも10回以上はゴールキーパーからのロングキックで相手ボールに渡っているということ。

(ここで16回と明言しない理由はロングキックのパスミス→ベルギーのクリア→アイルランドスローインというパターンが何度かあるため)

 

ほかにも最終ラインの選手はロングボールを頻繁に蹴るため、ロングボールからボールを失う確率が非常に高くなっているアイルランド

 

またS.ロングもジルーやイブラヒモビッチレヴァンドフスキと比べれば当然エアバトルの能力は落ちるのでボールを収められない。

さらにセカンドボールもあまり拾えないため、90分間通してアイルランドの攻めは非常に単調になる。

 

スウェーデン戦はロングボールからセカンドボールを拾えていたのでオフェンスが成り立っていたが、この試合のアイルランドのビルドアップは本当にひどかった。

 

3. アイルランドの攻撃、ベルギーの守備

ベルギーの守備は4-4-2(Fig.3)

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Fig.3 ベルギーの守備システム

アイルランドはハーフラインまで持ち上がるとFig.3のように左右非対称の形になることが多い。

つまりヘンドリックがよりインサイドでプレーし、

バランスを取るようにコールマンがオーバーラップする。

左サイドのブラディーは純粋なサイドハーフのようなポジショングをとる。

 

このときオシェイ、クラークをルカク、デブライネが監視し、

ヘンドリック、マッカーシー、ウィーランをヴィツェルデンベレで監視する。

 

ベルギーの1列目の守備はそれほど激しくなく、2列目のアザールも守備に割く力は少ない。またデンベレヴィツェルもマーク相手のポジションによっては持ち場を簡単に放棄してしまうが、ベルギーの守備を突破するシーンはそれほど多くなかった。。

 

しかしアイルランドの問題点はそれ以上にチャンスメイクできる選手がいないということ。

 

アイルランドは試合を通して枠内シュートの数は0。チャンスの場面で枠外にシュートを蹴ってしまったわけではなく、そもそもチャンス自体が0。(Fig.4)

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Fig.4 ベルギーvsアイルランドのスタッツ

 

唯一崩しの形ができていたのはアザールの裏をコールマンが攻略するという形

しかし、アイルランドの右サイドのヘンドリックがインサイドでプレーすることが多いため、アザールを突破してもフェルトンゲンを躱さなくては効果的なクロスをあげることはできなかった。

 

ただ、ベルギーの守備も相変わらずお粗末で、意図的に守っているというより、最終ラインの個人技とアイルランドの前線の能力不足の結果守れてしまっているという感じ。

 

4. ベルギーのボール保持攻撃、アイルランドの撤退守備

前述のようにアイルランドのオフェンスレベルは本当に低かった。シュートや崩した状態でボールの所持権が入れ替わることはほとんどなく、大概はロングボールを奪取するか、相手のミスからのボール奪取という形だった。


精度の低いオフェンスからボールを奪取した場合、一定の確率でカウンターにつなげることができるし、カウンターにつなげられなくてもハーフラインまですぐにボールを運べることができる場面が多い。

ここではカウンター以外、すなわちベルギーのボール保持攻撃についてみていく。

(Fig.5)

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Fig.5 アイルランドの撤退守備

 

ベルギーがハーフラインまでボールを進めるとアイルランドは4-4-1-1になる。

 

アイルランドの守備の注目点は、

非常にコンパクトな4-4ラインを形成していること

さらにそのブロックの位置がかなり自陣よりであるということ

S.ロングがデスコルガードで全く守備に関与しないこと

 

フーラハンもヴィツェルデンベレを監視するものの、あまり熱心に守備はしない。

したがって赤のエリアはベルギーの安全地帯となり、イタリア戦よりもスムーズにゲームメイクができるベルギーだった。

 

スムーズにゲームメイクができた理由はもしかしたらデンベレが中盤にいるからかもしれないが、デンベレのおかげなのか相手の守り方の問題なのかは観戦した試合数が少ないためちょっとよくわからない。

 

いずれにしてもベルギーのゲームメイクを全く制限できないアイルランドは、上から殴り続けてくるベルギー相手に防戦一方という感じだった。

 

相手のゲームメイクを制限するという意味ではS.ロングが守備に参加してコンパクトな4-4-2のようになることが理想だったと思う。

しかしアイルランドはボールを奪取した時、基本的にすぐロングボールを蹴ってしまうのでターゲットとなるS.ロングのポジショニングは重要になる。

 

この2つは相反しているわけだが、アイルランドのマーティン・オニール監督はS.ロングを前線にとどまらせることを選択した。

結果から言えばこの選択はアイルランドを苦しい状況に追いやってしまったと思う。

 

5. ベルギーのカウンター

ベルギーの真骨頂はボール保持攻撃ではなくカウンター

ベルギーのカウンターの鋭さは折り紙つきで、特にデブライネが絡むカウンターはチャンス1歩手前のことが多かった。

先制点はまさにその形で、デブライネがマッカーシーを躱してルカクが決める。

 


Belgium 1-0 ireland Goal Romelu Lukaku #lukaku

 

マッカーシーの1on1におけるミスは非常に軽率で、人数が足りてないカウンターの守備でやるチャレンジではなかった。3点目もアザールのドリブルに無理に突っ込んだクラークが躱されたことが一番の原因。

 

 プレミアリーグの選手はよくこういうプレーをやる傾向にある気がする。

ベルギーがカウンターにつなげたシーン

4m00,7m30,8m30,29m20,32m40,

47m00,48m30,52m20,67m40,69m40,71m30,76m40,82m50

 

これだけカウンターの試行回数が多ければ、得点も入るでしょうといった感じ。

クラークはミスも多く、オシェイも年々CBとして必要な能力が衰えてきている。

またこの試合失点につながる重大なミスを2回もしたマッカーシーなどアイルランドの個々の守備能力は結構悲惨な状態となっている

 

ベルギーのチャンス

12m10(CK7-2)

20m10P(7-9-10)

23m50P(7-11)

28m00L(10-7M)

29m20T(7-16)

41m20(CK7-2)

47m00T(7-9)Goal

60mP(16-6)Goal

69m40T(10-9)Goal

82m50T(7M)

 

3点目が決まってからのベルギーは明らかに試合のペースを落としていた。完全敗北したアイルランドという感じだった。

 

余談

W杯2014の時点でのルカクは古典的なCFでありながらポストプレーがうまくないという感じであまり印象がよくなかったが、この試合ではたびたび偽9番のような動きをしてアイルランドの守備陣を惑わせていた。

ここらへんのプレーは2年間の間で特に成長してきている部分だと思う。

 

あと、ベルギーがなぜ評価だけ上がってしまうのかがわかる試合だった。

ベルギーはカウンターに大きな強みを持つ一方で、撤退守備や前線からの守備、ビルドアップ、ゲームメイクといったほかの局面のプレーレベルは欧州中堅国クラスだと思う。

(カウンターの破壊力は欧州でも3指に入るレベルだと思うが・・・)

 

サッカーは基本的に流動的に試合が進んでいくので、ほかの局面をおろそかにするとチームの強さは安定しない。

例えば撤退守備をおろそかにすればカウンターの回数はそもそも少なくなってしまうし、ゲームメイクができなければ相手のカウンター、ベルギーのボール保持という悪循環に陥ることもある。(後者はまさしくイタリア戦)

 

こういったことを加味すると、シュートやチャンスを十分に作れないようなチームがベルギーと対戦するとベルギーのカウンターを喰らって大火傷することになるはず。

 

一方でゲームメイク妨害に強みをもつチームと対戦すればベルギーは非常に苦戦を強いられるだろうということが予測できる。

今大会だとアルバニア、フランス、ウェールズポーランド、イタリア、アイスランドポルトガルがそれにあたる。

 

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