UCL16-17-D5-アトレティコマドリード.vs.PSV
UCL16-17-D5-AtleticoMadrid.vs.PSV
まずはスタメンから
突破が確定しているためか1節ぶりのヒメネス、UCLでは今シーズン初スタメンのチアゴがスタメンとなった。ブルサリコはUCL4節でのパフォーマンスが評価されたためか一時的にスタメンを勝ち取っている。
PSVは1節と同じ5-4-1。ただし主力であるはずのルークデヨング、ナルシンといった選手は起用せず、ジンチェンコ、ベルグビインといった新たな選手をスタメンに起用している。正直UEL出場権である3位を狙うためには6節の直接対決が最も大事と考えたためか、この試合ではターンオーバーさせている。
試合の概要
試合は2-0でアトレティコマドリードが勝利する。54分にカウンターでグリーズマン→ガメイロとつなぎガメイロが素晴らしいシュートで先制すると、65分にもチアゴ基点のカウンターでグリーズマンがしっかり決めて2-0とした。前半は自陣で撤退守備をしてくるPSVを崩すのにかなり苦労していたアトレティコマドリードだったが、後半はPSVにボールを持たせることでアトレティコマドリードが有利になるようにゲームを展開していた。そして2得点した後は無意味なティキタカでボールを回し続けてPSVの反撃の隙を与えなかった。前半はPSVペースで進むこともあったが、後半は完勝といってもいいだろう。
1節のおさらい
1節のPSVのホームでの戦いは、アトレティコマドリードのボール保持攻撃vsPSVのカウンターだった。PSVのカウンターはポスト役のルークデヨング、快速のナルシンを使った質の高いものであった。
一方のアトレティコマドリードもコケ、ガビの配給能力とSBの攻撃参加を活かし以前よりも改善されたボール保持攻撃を見せていた。結果は0-1でアトレティコマドリードの勝利で終えるが内容に大きな差はなかった。
PSVは1節と同じく5-4-1の撤退守備を選択した。(Fig.2)
異なる点は1節で暴れていたルークデヨングとナルシンがスタメンでないこと。怪我リストにも入ってなかったのでちょっと理由は分からない。ただ全体を見渡してもジンチェンコ、ベルグビイン、ラムセラールといった次世代の選手を多く起用していることから、戦術的な観点というよりもターンオーバーととらえたほういいのかもしれない。
Fig.2 PSVの撤退守備
PSVの撤退守備の特徴は以下のとおりである
・PSVの1列目は今までの試合と同様に守備時の運動量は全くないデスコルガード
・2列目、3列目はファーストポジションがかなり深い位置
・アトレティコマドリードのSBがボールを持った時はジンチェンコ、ベルグビインが一時的に前にでて5-3-2の形(Fig.3)
・アトレティコマドリードのSHがボールを持った時はアリアス、ビレムスが対応
1節のPSVとの一番の変化は押し込まれても構わないという受け身のスタイルから押し込まれないように2列目ががんばる!!というスタイルに変更したことだろう。これは後述するPSVの攻撃方法と関連があるかもと思っているので、頭の片隅にでも。
Fig.3 PSVのゲームメイク妨害
本来であればSBに位置する選手がチアゴやゴディンにサイドチェンジできるとこういったスライドを無効化できる。1節ではコケ、ガビがその担当をしていたが、この試合ではそういったプレーは少なくなっていた。コケは何をしていたかというと、4節ロストフ戦序盤と同じように疑似SHとしてチャンスメイクに絡もうとしていた。ただし4節と同じようにコケがボール供給係でなくなるとゲームメイクの質は落ちてしまっていた。
コケのベストポジションは?グリーズマンとの関係性
Fig.4 コケ(左)、グリーズマン(右)
試合スタート時にはカラスコとコケの位置が本来と逆になっていたが、おそらくブルサリコとのコンビネーションを考えた時に外に張っているタイプのカラスコのほうが合うからだと思う。しかし
15分にはこれら2人はポジションチェンジしていつもの配置に戻る。もちろんLSHのほうがカラスコは攻撃で存在感をだせていたが、根本的なゲームメイクの質の改善につながらないのは4節ロストフ戦を見ていれば理解することができる。
一方でコケを前に置きたがる理由も理解できる。
コケ、ガビをCHとした場合、SHはカラスコ、A.コレア、ガイタンといったいわゆるウイング寄りのプレーヤーが多くなってしまう。この時、前線のリンクマンはグリーズマンが担うことになるため、ボール保持攻撃においてグリーズマンがシュートまで持ち込めるシーンは限られてしまう。
しかし誰がどう見てもこのチームで一番得点力があるのはグリーズマンなのは間違いないのだから、グリーズマンを出し手ではなく受け手にしたい。それならばコケがより前でプレーし出し手になるしかないという流れだと思う。数は限られていたものの、試合中のコケとグリーズマンがコンビネーションした時はいい予兆があった。
それでもそもそもゲームメイクがうまくいかなければ絵に描いた餅となってしまい、まさにアトレティコマドリードの前半はそういった状態だった。
この試合のトータルボールポゼッションはアトレティコマドリードが52%、PSVが48%
PSVも十分にボールを持っている。理由はアトレティコマドリードとPSVの噛み合わせが非常に悪いからだと思う
・PSVのWBがボールを持った時はSHが前に残りの3枚がスライド(Fig.5,6)
・PSVのISHが下がった時にはCHも前にでる
・WBからのバックパスに合わせて1列目は強度の高いプレス
Fig.5 アトレティコマドリードの中盤守備(ビレムスがボールを持った時)
Fig.6 アトレティコマドリードの中盤守備(アリアスがボールを持った時)
まず大前提として1節もこの試合でもボールを奪取するようなアトレティコマドリードは行わなかった。そしてPSVも1節と同様に攻撃時はWBを前に押し上げた3-5-2へと変化する。
当然3バックに対してとれてぃこマドリードの1列目は2人なのでとらえきれない場面がほとんどとなる。またこのような状態のプロパーをマークする仕組みがなかった。チアゴがプロパーにつくべきかどうかはかなり意見が分かれるだろう。バルセロナやバイエルンはブスケッツ、X.アロンソを平気で高い位置まで上げるがシメオネ監督はあんまりそういうことをやらない。こんな感じでアトレティコマドリードはPSVのビルドアップを妨害する術を持っていなかったため、ボールポゼッションはほぼ50%となった。
前述のようにハーフラインより少し後ろまでは安全に進めたPSVだったがゲームメイクで詰まる。
PSVのビルドアップ要因は3バック+片側のWB+プロパー、それに対してビルドアップ妨害に参加するアトレティコマドリードの選手は1列目の2人+片側のSHの3人。そしてジンチェンコとラムセラールにはゾーンディフェンスで必ず選手がついている。つまりPSVの前線はG.ペレイロ、ベルグビイン+片側のWB vs アトレティコマドリードの最終ライン4人+チアゴとなるのでこのままではチャンスを作ることはできない。チャンスを作ることができたタイミングはPSVの3バックがドライブなどで一時的にゲームメイクに参加できたときのみ。ただしそういったプレーは少なかったためPSVのボール保持攻撃はうまくいっていなかった。
こういう時にルークデヨングのようなターゲットマンがいれば1節のようなチャンスを作ることも可能だが、このメンバーではロングボールを使ったチャンスメイクは難しい。となればアトレティコマドリードのボール保持攻撃で押し込まれることはデメリットでしかなくなる。2列目の守備の強度が上がった理由はこんなところからも来ているだろう。
05m30P(5-3)Grade4
06m40P(6-7-16-10-21)Grade5
07m50P(3-21-6-7)Grade5
11m00FK-P(14-2)Grade5
15m10P(3-10)Grade4
16m40P(3-10)Grade5
18m50P(5-7-5-6-21)Grade4
45m30P(14-7-10-21)Grade4
46m10T(5-6-21)Grade4
49m30CK-T(10-24)Grade5
51m30T(5-14-7)Grade4
54m10T(10-6-21-7-21)Goal
59m20P(5-10)Grade4
65m40T(5-7)Goal
72m00CK-P(6-21)Grade5
Grade3以上のチャンスは29個と今までで最も少ない。前半も後半もゴールが入るまでの展開はお互いのボール保持攻撃の応酬だったが、アトレティコマドリードは特に前半カウンターの基点になりそうな場面でのミスがいつも以上に多かった。しかし後半になると見事にそういった部分は改善され、54分に素晴らしいカウンターからガメイロがうまく決めた。
ブルサリコについて
前節ロストフ戦ではそのクロス精度の高さで危険なプレーヤーとなっていたが、この試合では消えていることが多かった。多分相方のSHがコケだったこともあって、うまく攻撃に絡めていなかった。こういう部分はファンフランと比べると大分劣っている部分なので今後どう成長していくかがアトレティコマドリードで長くやれるかのカギになりそうだ。
得点後のアトレティコマドリードは露骨に攻撃の手を緩める。とはいっても攻めないだけでボールを持つという状態、いわゆる「無意味なティキタカ」を行うことで試合を強制的に終了させた。
PSVのチャンスメイク
PSVのチャンス
17m00T(15-27-7)Grade5
18m20P(5-4-6)Grade4
23m50FK-P(25)
33m00P(5-25-4-7)Grade4
73m10P(5-25-4-6-7M)Grade4
PSVのチャンス自体は非常に少なかった大チャンスは17分にベルグビインがヒメネスを完璧に抜きさり、G.ペレイロとオブラクの1vs1になった場面だろう。ただしこの場面ですらグリーズマンはいち早く危険を察知してプレッシャをかけているのは流石だった。
ジンチェンコの将来性
Fig.7 ジンチェンコ
EURO2016のウクライナで発見したこの選手はやっぱりポジショナルプレーで輝きそうな片鱗がある。置くようなスルーパスはD.シルバのようで、今季からマンチェスターシティ→PSVへレンタルで移籍し武者修行中だが、マンチェスターシティではデブライネとD.シルバがいるので2017-2018にレンタルバックすることはおそらくないだろう。今後ぜひ伸びてほしい選手。
余談
サッカーの面白い部分の1つとしてスペースをどう解釈するかというのが挙げられる。バイエルンのように徹底的に相手を押し込むことでハーフスペースでサッカーをする選択。今回のアトレティコマドリードのように相手にボール保持攻撃させることであえてカウンターのスペースを作り出すという選択。