EURO2016-Round.of.16-CRO.vs.POR
EURO2016-Round.of.16-クロアチアvsポルトガル
まずはスタメンから
クロアチアは中三日での試合。
ただしビダ、ストリニッチ、モドリッチ、ブロゾビッチ、マンジュキッチはグループリーグ3節を休んでいるので、コンディションという面ではかなり整っている。
スタメンは1節、2節と同じで4-2-3-1。ビルドアップはモドリッチを中心に、守備は1列目の運動量を生かした4-4-2、カウンターおよびチャンスメイクでは好調のペリシッチが牽引しており、ベスト4にいってもおかしくない完成度。
ポルトガルは中二日での試合。
3節で休んでいたR.ゲレイロが復帰し、R.カルバーリョ、ヴィエリーニャ、モウチーニョをそれぞれフォンテ、ソアレス、A.シルバに変更した。
おそらく連戦日程によるコンディション不良が変更した理由だと思うが、いずれの選手も本大会で初めての出場となる。ただしフォーメーションは4-3-1-2で従来のポルトガルと同じである。
試合の概要
試合は0-1でポルトガルの勝利で終える。試合は90分で決着がつかず、115分のポルトガルのロングカウンターからR.クアレスマが押し込む。この試合はたしかに塩試合だったが、決してつまらない部分はなく、とても面白い1戦だった。基本的にクロアチアがボールを保持する展開になるが、クロアチアのビルドアップ、ゲームメイクを封じるポルトガルの策はR.サンチェスの投入タイミングを含めて嵌っていた。ただし、クロアチアも多様な攻撃方法を持っており、ポルトガルも完全には守れていなかったため、勝敗の差は少しの運だったとしかいえない。それくらい両者は均衡していた。
1. クロアチアのビルドアップ、ゲームメイク、ポルトガルの前線の守備
クロアチアは今までの3試合と同様につなぎながらチーム全体を前進させようとする。
ビルドアップに参加するのは、CBのビダ、チョルルカ、MFのバデリ、モドリッチとなる。両SBもたまに参加することもあるが、プレスの逃げ道として使われることが多く、積極的に絡みにはいかない。
これら4人の選手のうち、とにかく問題なのはモドリッチ(Fig.2)。
ビルドアップにおける重要な能力は?
と聞かれたら、
ミドルレンジのパスの精度と視野の広さが最も必要だと思う。
この点に関してはビダ以外の3人は優劣はあれどその能力は平均より高い。
しかしプレス存在下(時間と空間が限られた状態)で同じ質のプレーができる選手は?
と聞かれたら、世界中探してもかなり限られてくる。
しかしモドリッチはその筆頭だといえる。パス、ポジショニングもそうだが、ドリブルのタイミングや精度など本当にMFに必要な能力をすべて持っている。
したがって、ポルトガルはモドリッチにどう対応するのか?というのは非常に重要な問題となる。
クロアチアは前半の序盤はモドリッチが最終ラインに落ちることでビルドアップを安定させようとした(Fig.3)。
Fig.3 クロアチアのビルドアップ-ゲームメイクI
ポルトガルの守備システムは今までと同じ4-3-1-2
A.シルバはモウチーニョとほぼ同じ役割を果たす。
システムとしては、
モドリッチが最終ラインで受けようとしている時にはA.シルバがマンマークし、
ストリニッチ、スルナにはJ.マリオ、A.ゴメスがマンマークする。
ただし、仮にスルナ側から攻撃を開始しようとする場合にはA.ゴメスがスルナをマークし、J.マリオは中央にスライドし、中央の枚数を確保する。したがってこの守備はJ.マリオ、A.ゴメス、A.シルバのバランス感覚に大きく依存している。
そして、1列目のナニ、C.ロナウドはプレスはあまりかけず、とにかくクロアチアのCBがビルドアップ-ゲームメイクの中心になるように守りつつ、場合によってはCBにプレスしてロングボールの質を下げるのがポルトガルの目的となる
結論から言えばこの守備はクロアチアの攻撃をかなり制限させた。
モドリッチにボールが渡るときはA.シルバがマンマークすることで、チョルルカもしくはビダのロングボール、もしくはSB、SHをつかったサイドからのゲームメイクに絞らせる。
ポルトガルにとって地味に重要なポイントだったのが、右SBのソアレスの守備能力。
ロングボールにしても、縦パスに対してもソアレスはしっかりと対応していた。
また、Fig.3の形以外にも、バデリとモドリッチの位置を逆にしたり、バデリとモドリッチをポルトガルの1列目と2列目の間にいれてみたりといろいろなことを試すが、あまりうまくいかない。
というのも、モドリッチのポジションニングに対してほぼ完璧にA.シルバが動いていたからといっても過言ではない。(Fig.4, 5)
Fig.4 モドリッチの位置I
Fig.5 モドリッチの位置II
モドリッチの位置がハーフライン付近であればA.シルバがマンマークするが、
Fig.5のようにモドリッチが下がった時はマンマークしない。
具体的には、ハーフラインより10m以上相手陣地側でボールをもたれても特に問題はないと考えていたのだろう。
この位置からモドリッチができることはロングパスだけなので完璧なサイドチェンジ以外であればポルトガルの守備の勝利である。
こんな感じで局所的なエアバトルにおいても、組織的な守備という意味でもポルトガルの守備はうまくいっていた。
2. ポルトガルのビルドアップ、ゲームメイク、クロアチアの守備
ポルトガルは前述のような守備でクロアチアの攻撃を塩漬けにしていたが、相手の攻撃もロングボールで終わることが多いことからも、自陣からボールを進める機会が多くなる。
(記録したノート参照)
前半はクロアチアの前線はそれほどプレスをかけず、グループリーグで行っていたハーフコートの4-4-2を用いる。(参照)
この守備の特徴は1列目の脇のSBがCBにバックパスするときに1列目がプレスをかけることでゲームメイクを潰すことである。
しかしポルトガルの両SBのR.ゲレイロとソアレスはCBには極力バックパスせず、前線、もしくはライン間で受けることができる選手にパスするようにする。(Fig.6)
Fig.6 ポルトガルのSBのパスの成否と方向
この図はスローインも含まれてるが、スローインについてはあまり考慮してもしかたないため、それ以外のパスについてみていくと両SBの特徴がよく見えてくる。
ソアレスは前線への縦パスが多く、R.ゲレイロは横パスが多い。
ここに関しては試合をみていないと伝わりにくいのだが、R.ゲレイロはプレスの存在下でもワンタッチプレーで相手をいなすことができていた。
ソアレスはそこまで余裕がない感じで、前線にロングボールという場面が多かった。
もちろん攻撃面だけ見ればヴィエリーニャ、R.ゲレイロのほうが高いが、守備面は圧倒的にソアレスが優れている。
そこら辺のバランスは対戦相手次第ということになるわけで、今後ソアレスがスタメンを勝ち取っていった理由もそういったところにあるのだと思う。
さらに、J.マリオやA.ゴメス、A.シルバははポジションを固定せず、ビルドアップおよびゲームメイクを助けるような動きができるため、少なくともハーフライン付近でクロアチアの守備に引っかかることはほとんどなかった。
これはすなわち、相手の重要なチャンス源であるショートカウンターを封じていることにもつながるので、前半のクロアチアのチャンスが少なかったことにも影響している。
ただしビルドアップ、ゲームメイクを安全に行うためにA.ゴメス、J.マリオ、A.シルバは上下動を繰り返すことになり、またゲームメイクがうまくいっても前線に人が足りないという状況が頻発し、浅い位置からクロスをあげるという非常に得点の匂いがしない攻撃の形となる。
3. クロアチアのハイプレス(後半)
後半にはいってからは両チームは選手は変えないものの、スタイルを少し変えてくる。
クロアチアは4-4-2という形こそあまり崩さなかったが、後半に入ると高い位置からでも1列目がプレスをするようになる。
正直ペペ、R.ゲレイロを除いた、ソアレス、フォンテ、R.パトリシオはハイプレスを受けるとすぐにロングボールを蹴ってしまう。
もちろん安全という意味では正解なのかもしれないが、ポルトガルにとってはあまりいい傾向ではなかった。もちろんプレスは後半45分間行われるものではなく、後半の立ち上がり10分間に顕著に行われ、その後はタイミングを見計らって行われる。。
4. ポルトガルの選手交代-R.サンチェス、R.クアレスマの投入
Fig.7 R.サンチェス(左)、R.クアレスマ(右)
一方のポルトガルは49分にA.ゴメスをR.サンチェスに変更する。
この時間帯の変更は普通おこなわない。なぜなら変えるならハーフタイムでも問題はないはずだから。ではなぜこの時間帯かといえば、ポルトガルの監督が後半のクロアチアを確認したうえで対応したかったからだと思っている。
他の可能性もあるがこの時間帯の交代はそれ以外思いつかなかった。
R.サンチェス投入後のポルトガルは4-1-4-1と4-1-3-2を可変させるシステムになる。
(Fig.8)
Fig.8 後半のポルトガルの陣形(50min~)
ペップは「フォーメーションは電話番号みたいなものだ」といったように、
ポルトガルにおいてもフォーメーションではなく選手個人の役割をみていかないと訳が分からなくなってしまう。
前述のように4-3-1-2は、中盤の3人、とくにインサイドハーフののバランス感覚が非常に重要である。
しかしR.サンチェスにA.ゴメスの仕事ができるか?といわれれば少し疑問符が残る。
したがって、この試合ではR.サンチェス投入とともに陣形を変化させたのだと思う。
この陣形はより個人の役割がシンプルになる。
ストリニッチにはナニ、スルナにはJ.マリオ
バデリ、モドリッチにはR.サンチェス、A.シルバが監視することで、
相手のビルドアップ、ゲームメイクを妨害しようとする。
ただし役割がシンプルになる分、クロアチアのCBも明確にフリーになってしまう(Fig.9)
Fig.9 クロアチアのビルドアップ-ゲームメイク
ただでさえ守備時の運動量が少ないC.ロナウドが1トップになってしまうことで、ハーフラインの両脇をクロアチアのCBは使い放題になってしまう。
これ自体はこの守備のデメリットだと思うが、ポルトガルのサントス監督はクロアチアのCBにフリーで動かれてもあまり問題はないと考えていたのかもしれない。
R.サンチェスのよさはグループリーグ第3節の試合でも触れているが、やっぱりカウンター時の推進力や狭い部分でのチャンスメイクなどチャンスメイク時の動きが中盤の選手のなかでも抜群にいい。
もともとフィジカルも強く、俊敏性も高いことから、クラブではアンチェロッティ監督、ナショナルではサントス監督に指導されることで守備、攻撃両面で活躍できるような完璧な選手になるかもしれない。
この試合でもフィジカルを生かしたプレーや思い切りの良さは光っていた。
86分になるとJ.マリオをR.クアレスマに変更する。R.クアレスマは左右どちらもできるようだが、基本は右ウイング。したがってR.クアレスマが右、ナニが左となる。(Fig.10)
Fig.10 ポルトガルの陣形(86min~)
最終的にポルトガルはこの形になることが多いが、この大会ではR.クアレスマ、R.サンチェスを絡めたこのメンバーが一番攻撃力が高いためだと思う。
ポルトガルのプランは常に守備から入り失点を防ぎつつ、両チームが疲れてきたところで、R.サンチェスとR.クアレスマを投入し、守備に負荷がかかりすぎないように攻撃にシフトしていく。
5. 延長戦後半
正直後半、延長戦前半は前述したようなポルトガルの守備、クロアチアの守備でお互いが攻めれない時間帯となり、ほとんどチャンスは生まれない。
そのかわり延長戦後半に両チームにチャンスが生まれ、試合がついに動く。
ちなみに108分にダニーロと交代したA.シルバは13.4 kmの走行距離を記録している。走行距離だけで貢献度を図るのは非常によくないが、この試合の守備の貢献度は走行距離によく表れていると思う。
112分にコーナーキックからビダがチャンスを作ったのをきっかけにして、115分にペリシッチを中心として2回作られる。
その後、ストリニッチからボールを奪取したポルトガルがロングカウンターでR.サンチェス→ナニ→C.ロナウド→R.クアレスマとボールが渡り、ゴールが決まる。
クロアチアのチャンス
29m30T(19-4)
51m10P(3-14)
51m30CK(11-7-14)
60m50FK(11-21)
112m00CK(14-21)
115m20T(14-4-16)
115m40P(11-4)
121m20CK(10-11-21)
ポルトガルのチャンス
24m40FK(5-3)
63m00T(7-17)
116m10T(17-7-20)Goal
チャンス数だけみればクロアチアは8回創出しているが、枠に飛んだシュートはなかった。そういった意味では紙一重のところで決定力が足りなかったクロアチアだが、明らかに勝つチャンスはあった。
特にビダはセットピースから3回もシュートチャンスがあり、ストリニッチも何度かフリーでクロスを上げる機会があったが、精度が低いものも多く、すこし残念だった。
ポルトガルが勝利したのは運による部分が大きいと思うが、ここまで競れたのはしっかりと準備した監督の力量とチームワークによるもので、非常にいいチームに仕上がってきている。
余談
いつものことといえばそうなるが、今大会もモドリッチは本当に際立っていた。ゲームメイクできる選手が複数いないとポルトガルの守備を崩すのは難しそうということがわかった試合だった。
ポルトガルの次の試合はポーランドとなる。たしか次の試合は中五日か中六日なので、休養を十分にとれる。さらに累積退場者がいないため、入念な準備が可能となり1つの山場を越した感じとなった。