EURO2016-D3-CRO.vs.SPA
EURO2016-グループD3-クロアチアvsスペイン
まずはスタメンから
青がクロアチア、白がスペイン(Fig.1)
Fig.1 クロアチアvsスペイン
クロアチアはスタメンを大幅に変更してきた。
ビダ⇔イェドバイ、ストリニッチ⇔ブルサリコ、モドリッチ⇔ロブ、
ブロゾビッチ⇔ピアツァ、マンジュキッチ⇔カリニッチ
6人変更はなかなか思い切った決断だと思う。コバチッチがここでも使われない理由については不明。2016-2017時点でイェドバイはレヴァークーゼン、ブルサリコはアトレティコマドリード、ロブはナポリ、ピァツァはユベントス、カリニッチはフィオレンティーナと所属クラブが豪華で、期待の若手が多いクロアチア。
(ただし2016-2017シーズンでレギュラーを勝ち取っている選手はいない)
スペインは以外にもスタメンを全くいじらなかった。
結局3戦すべて同じスタメン。
決勝まであと4戦あることを考えれば少しくらい選手の入れ替えがあると思っていた。
試合の概要
試合は2-1でクロアチアの勝利で終える。6分にクロアチアのハイプレスをかいくぐってモラタがあっさり先制。その後クロアチアのハイプレス&ショートカウンターに苦しむスペインだったが前半終了間際にペリシッチのクロスをカリニッチがヒールで決めて同点にする。後半は両チームともおとなしくなりスペインがハーフコートで試合を展開することが多くなる。クロアチアは自陣深い位置でボール奪取&ロングカウンターという形を88分にペリシッチが成功させる。グループリーグの試合においてこの試合は唯一逆転に成功した試合。
1. グループDの状況
スペインは勝ち点6得失点差+4、
クロアチアは勝ち点4得失点差+1
チェコは勝ち点1得失点差-1
トルコは勝ち点0得失点差-4
すなわちクロアチアとスペインの突破は確定しており、クロアチアが1位になるためには勝利が必須。
1位と2位の差は決勝トーナメントの相手を決めるうえで重要な要素になるが、今大会は対戦相手の決定方法が非常に複雑であり、相手を予測することがとても難しい。
(方式についてはグループリーグのマッチレポートがすべて終わった時点で書くと思う)
したがってクロアチアのように3戦目は選手の休息とサブの選手の見極めに使うチームは多い。2戦目終了時点で勝ち点4以上とっているチームでメンバーを大幅に入れ替えなかったのは、グループA~Dまででスイスとスペインだけ。
フランス、イングランド、ドイツ、ポーランド、クロアチアは変更している。
だからなんだというわけではないが、珍しい現象だったのでメモ程度に。
2. スペインのビルドアップ、クロアチアの前線からの守備
チェコもトルコもスペインのビルドアップに対してあまり関与していなかった。
スペイン相手の場合ビルドアップを妨害して得られる恩恵よりも、
チャンスを作られてしまうデメリットのほうが大きいと考えたのもまあうなずける。
ただし今回のクロアチアはチェコやトルコとは異なっていた。つまり前線からの守備をガンガン行う。(Fig.2)
Fig.2 クロアチアの前線からの守備
Fig.2に示したようなプレスはGKからのゴールキックでよく見られる形だった。
クロアチアは相手陣地にボールがある場合、4-4-2の形でハイプレスをかけていく。
もちろん最初からこういった形なわけではなく、CB(S.ラモスとピケ)からSB(J.アルバとファンフラン)にプレス回避のパスが来たときペリシッチやピアツァがプレスをかけていく。さらに下がって受けようとするイニエスタやブスケッツにもかなり高い位置までマークしているロブという感じ。
結果から先に言うと、このハイプレスはスペインをものすごく苦しめることになった。
理由はいくつかあるが、最終ラインとGKのうちビルドアップという局面において正しいポジショニングやパスができる選手がまばらだということ。
S.ラモス、ファンフラン、デヘアはプレスがかかっていない場面ではめったにミスをするようなタイプではないが、時間や空間がない中で正しい判断を求められると危うい場面がいくつかあった。
また、たとえビルドアップがうまくいったとしてもゲームメイクの場面で詰まってしまう場合がある。
そういう時はバックパスでビルドアップから仕切り直そうとすることもあるが、その時にはラキティッチとカリニッチが直ちにプレスをかけていく。(Fig.3)
Fig.3 スペインの仕切り直しを狙ったクロアチアの1列目のプレス
J.アルバからS.ラモスにバックパスをしたときのワンシーン。
バックパスした時、ラキティッチが猛プレスをかける。
S.ラモスのパス選択肢はブスケッツ、ピケ、デヘアとなるが、ブスケッツ、ピケにはラキティッチとカリニッチがプレスをかけていく。
こうなるとデヘアしかパスルートはないし、ピケもデヘアの方を指さしている。
しかしこのシーンでもそうだが、S.ラモスはブスケッツにパスをしようとしてラキティッチにボールを奪われてしまう。
こういった形でたびたびボールを奪取するクロアチアのハイプレスはとても効果的だった。
3. ハイプレスのデメリット
こういった書き方をするとクロアチアのハイプレスは完璧だったようにも思えるが、ハイプレスは諸刃の剣でもある。
高い位置でボールを奪取しようとすると必然的に守備側は間延びしてしまうことが多い。クロアチアの失点シーンはまさにそのパターンからの失点だった。(Fig.4)
Fig.4 クロアチアの失点シーン
イニエスタが下がって受けにくるとハイプレスを躱すためのパスルートができてしまう。こうやってプレスを回避することができれば、スペインは広いスペースで4vs4もしくは5vs5ができる。
スペインはたびたびプレスに引っかかることもあったが、こうやって躱すこともできたのでクロアチアのハイプレスはまさに諸刃の剣だった。
幸い最初にチャンスをものにしたのはスペイン。プレスの躱し方もさすがだったが6分にモラタが先制点を決める。
クロアチアのハイプレスの成否
2m50good(チャンス)
6m00bad(失点)
11m40good(チャンス)
12m50good
13m10good(チャンス)
26m40good
28m50bad(15yellow)
33m10bad(チャンス△)
34m20good
4. クロアチアの撤退守備
クロアチアの守備の話はもうちょっと続く。
当然クロアチアはハイプレスを常に行える状況になるわけでもないので、撤退守備を施行するときもある。(Fig.5)
Fig.5 クロアチアの撤退守備4-4-1-1
クロアチアの撤退守備は4-4-1-1の形。
実質カリニッチはプレス要員という感じで、撤退守備の時はデスコルガードのような役割だった。したがって、実質9人+GKで守備をすることになる。
ラキティッチはブスケッツなど真ん中で潤滑油になりそうなプレーをマークしゲームメイクを制限する役割。
ロブ、バデリは最も重要で、それぞれイニエスタとセスクに時間と空間を与えないように守備をする。ロブはイニエスタにかなり食らいついていたと思う。
(もちろんイニエスタに剥がされる場面もあったが)
またサイドハーフのピアツァ、ペリシッチもサイドバック(J.アルバとファンフラン)のオーバーラップに対してしっかり対応できていた。
クロアチアのサイドハーフがスペインのサイドバックを監視するとロングカウンターの成功率も著しく下がってしまうが、スペインにチャンスを作らせなかったという意味ではかなりいい守備だった。
スペインのチャンス
6m00 Press avoidance(10-21)
8m20 Possession(21-22)
20m40(10-22×)
22m20 High Press(6-21)
43m00 Possession(10-7×)
47m10 Possession(10-21-16)
53m00 Possession(21-18-7)
66m40 (CK21-15)
69m40 PK(missjudge)
5. クロアチアのビルドアップ、スペインの守備
クロアチアは低い位置でボール奪取すると、よほどのことがない限り、イェドバイ、チョルルカはボールをつなごうとする。
このときのスペインとクロアチアの位置関係は以下のようになることがたびたびあった(Fig.6)
Fig.6 クロアチアのビルドアップの狙い
クロアチアが前に進むことを渋っていると、スペインの2列目すなわちシルバ、セスク、イニエスタ、ノリートは結構プレスをかけてくる。
この時スペインの2列目と最終ラインのギャップは広がってしまい、前線にクロアチアが有利なスペースができてしまっていた。
クロアチアの最終ライン、特にチョルルカは精度の高いロングボールを前線に供給してビルドアップとゲームメイクをすっ飛ばそうという狙いがあるように見えた。
実際にこの形から44分にペリシッチのクロスからカリニッチが決めて同点にする。
ただしスペインの2列目がプレスにこないときはこの戦法が使えないので、ボールを前に進めることできていなかったクロアチアだった。(Fig.7)
Fig.7 スペインの守備2
ここら辺の問題点は本来モドリッチがいれば解決するはずだが、この試合で不在だったこともあって手詰まりとなる。
6. 後半戦
ハーフタイムでの選手交代はなかったが、59分にノリートをブルーノに変更する
この時のフォーメーションは以下の通り(Fig.8)
Fig.8 スペインのボール保持攻撃(後半)
スペインは左サイドのノリートをかえて中盤のブルーノを投入することでボールの出し手を増やした。
この時間帯からセスクとシルバはポジションが自由になり、なんとかクロアチアの撤退守備を崩そうとする。
結果から言うとこのボール保持攻撃はあまり有効ではなかったが、エリア内でイェドバイがシルバを倒したという判定でPK。(多分誤審)
キッカーはなぜかS.ラモスが担当し外す。
逆にvクロアチアは低い位置でボールを奪取したあとロングカウンターでペリシッチが決めて2-1で逆転する。
おそらくペリシッチはグループリーグに出場した選手の中で最も調子がいい選手といえた。フランスのパイェが注目されていたが、ペリシッチの攻撃および守備の貢献度は半端なかった。
余談
チャンスの質で勝負したクロアチアとチャンスの量で勝負したスペイン。
クロアチアは選手を温存したうえでスペインに勝ってしまった。ただし内容を見ればどっちに転んでもおかしくなかった試合ではあった。コバチッチではなくてロブがスタメンに名を連ねた理由も何となく理解できた。
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