EURO2016-D1-TUR.vsCRO
EURO2016-グループD1 トルコvsクロアチア
グループDはスペイン、クロアチア、チェコ、トルコ。レアルマドリードとバルセロナの中盤がたくさんいるので、結構楽しみなグループ。
まずはスタメンから
赤がトルコ、青がクロアチア(Fig.1)
Fig.1 トルコvsクロアチア
トルコはバルセロナ所属のA.トゥランとレヴァークーゼン所属のチャルハノールが注目されているが、それ以外のメンバーもフェネルバフチェやガラタサライ、ベシクタジュといったトルコの名門でスタメンを勝ち取っている選手たちである。
クロアチアは特に中盤から前線にかけてが豪華。
特にセンターラインにモドリッチ、ラキティッチ、マンジュキッチがそろっているのはかなり強い。ペリシッチ、ブロゾビッチのサイドハーフがしっかり仕事をすれば自然と結果は出るだろうということが容易に予測できるチームである。
試合の概要
試合は0-1でクロアチアの勝利で終える。39分にモドリッチがドライブぎみのボレーシュートで先制点を奪取する。モドリッチは得点だけでなくビルドアップ、ゲームメイクも担当し味方の能力を最大限に引き出していた。モドリッチを封じる策がなければクロアチアはおそらく負けないだろうと感じさせる試合だった。
1. クロアチアの守備
クロアチアのビルドアップ妨害は4-2-3-1の形で行われる。(Fig.2)
Fig.2 クロアチアの前線からの守備
基本的にはマンジュキッチがプレスの起点となり、片側のサイドに1列目と2列目で追い込んでいくオーソドックスな形。
ただしトゥファン、エジャクップ、イナンがビルドアップに参加しようとした時にはマンマーク気味でモドリッチ、バデリ、ラキティッチも追加でプレスをかけてくる。
基本的にうまくサイドに追い詰めることもできビルドアップの妨害は成功しているといってよかったと思う。
ただしトルコもイナンを中心としてハイプレスを躱すシーンもあった。
2. トルコのビルドアップ
トルコのビルドアップがうまく行く時はイナンにプレスがかかっていないとき。
トルコはビルドアップにおいて左右非対称の形をとることが非常に多い。(Fig.3)
Fig.3 トルコのビルドアップ
トルコはビルドアップの時に右サイドバックのギョニュルを高い位置に置くことが多く、チャルハノールはインサイドハーフのようなポジショニングを取ることが多い。
ペリシッチがギョニュルのオーバーラップに引っ張られることで、右サイドバックに移動したイナンがフリーでボールを持つことには成功していた。
したがってトルコはある程度の割合でハーフラインまではボールを運ぶことに成功していたが、ここから前に進むことができない。
3. トルコのゲームメイク、クロアチアの撤退守備
クロアチアはプレスで追い込めない状況になると、4-4-2の形に変化する。
そしてトルコもハーフラインまでボールを進めると選手配置は変わってしまう。(Fig.4)
Fig.4 トルコのボール保持攻撃
基本的にはチャルハノールが真ん中でプレーし、トゥファンが2トップの一角のようなポジションをとる。
ただしビルドアップに枚数をかけているというのもあってトルコは中央で数的優位な状況を作ることはできない。
またクロアチアの中盤の4人はかなり積極的にDFを行うことも厄介な部分で、特にサイドハーフはかなり献身的にリトリートとプレスを繰り返す。そしてモドリッチはボールを奪取するタイミングが本当にうまい。
サッカーはフィジカルだけじゃないということをつくづく感じさせる選手の一人。
A.トゥラン、チャルハノールがフリーでボールを持つことがトルコの理想だったはずだが、クロアチアはそういったことを許さない。
前半のトルコのチャンスはギョニュルからのクロスからトゥファンがフリーでヘディングを撃ったシーンのみだったが、GKの正面。
大チャンスだったが決められない。決めきれなかったのは悔やまれるが、そもそもチャンスメイクできていなかったので仕方ないと思う。
トルコのチャンス
28m10(7-16)
4. クロアチアの攻撃
クロアチアの守備はトルコを完全に封じていたが、前半のクロアチアはそこまでカウンターに固執しない。基本的にはボールを保持してビルドアップを積極的に行う。
ビルドアップの中心はいわずもがな、モドリッチである。
前半のクロアチアは奇しくもトルコと同じようにビルドアップを行う。右サイドバックのスルナはボールを保持するとすぐにオーバーラップし、ブロゾビッチはインサイドレーンに移動する。モドリッチは比較的自由に動くが右サイドバックのポジションからビルドアップを行う。
対するトルコの守備は4-1-4-1。
ただしプレスラインはそれほど高めに設定しておらず、ハーフラインくらいまで攻められると1列目と2列目の計5人で激しくプレスを行っていく。
トルコの狙いはハーフライン当たりでのボール奪取→ショートカウンターという流れが理想だったが、それはうまくいかない。
モドリッチはサイドバックのポジションからでもすべての選手に指示を出しながらビルドアップを進めていき、自身のボール運びのプレービジョンもかなり正確だった。(Fig.5)
Fig.5 トルコのハーフラインのプレスvsクロアチアのビルドアップ
トルコの守備の問題点はプレスが連動していなかったため、2列目と3列目に大きなギャップが生まれてしまっていることだった。
またトルコは中盤の底にいるイナンも頻繁にプレスに参加してしまい、生まれたギャップには多くのクロアチア選手が縦パスを待ち構えていた。
モドリッチはこういったスペースを決して見逃さない。結果的にイナンとモドリッチのゲームメイク能力の差がハーフライン付近のエリアをうまく突破できるかどうかの差になってしまった。
ちなみにモドリッチの相方のバデリもビルドアップにかかわる回数は少なかったものの、適切な対処ができていた。
ちなみにビルドアップの能力もいろいろある。
例えばイナンは長いボールでサイドチェンジを行うことが多く、プレー精度は高い。
モドリッチもこの試合何回か右サイドからストリニッチへサイドチェンジを行うことがあったが、それだけじゃないのがモドリッチのすごいところ。狭い場所への縦パスも躊躇なく通してくるし、ワンツーを繰り返して自分で持ち上がることもある。
バリエーションが豊富で選択が的確というのがモドリッチがこの試合で突出していた点だろう。
トルコのもう一つの問題はやはりモドリッチ対策が全くできていなかったことだろう。試合を見ていればわかるが、ビダはビルドアップを行うことができないし、ストリニッチも同様に少しあわててしまう。
チョルルカは全然あわてないが、得意プレーは精度が高いロングボールを前線に供給することなので、モドリッチ対策がしっかりできていればもう少しイーブンな試合展開になったような気もする。
こんな感じでうまくトルコのプレス網を突破した時のクロアチアのチャンスメイクはシンプルにアウトサイドから速いクロスを上げてくることが多かった。
特にペリシッチ、スルナは対面にディフェンダーがいてもうまく速いクロスをエリア内に供給していた。早いクロスに飛び込んでくるラキティッチ、ペリシッチ、ブロゾビッチは前半だけでも4~5個の大きなチャンスを作っていた。
クロアチアのチャンス
21m10(4-14)
22m40(14-3-14)
27m00(19)
41m00(10)
ビルドアップ、守備に貢献していたモドリッチだったが、エリアよりちょい外からクリアボールをドライブ気味のボレーシュートでたたきこみ先制する。このゴールがなくてもMOMは確定だったが、このゴールでよりモドリッチが印象付けられた。
5. 後半戦
後半トルコは4-4-2に変更する。(Fig.6)
トスンとチャルハノールのコンビにし、サイハーフにA.トゥラン、エジャクップに変わって後半から入ったボルカン.シェンと結構大きく変更
4-4-2に変更した理由はおそらくサイドバックからのモドリッチのビルドアップを妨害するためだろう。
6. 後半のトルコの守備、モドリッチの対応
前半のトルコとはガラッと変わり、前の3~4人+イナンでハイプレスを行っていく。
やっぱりイナンは持ち場を離れてものすごくプレッシャーをかけてくるがあんまり意味があるようには思えなかった。むしろリスクを考えたらマイナスといってもいい。
ガラッと変わったトルコの守備システムだが、きっちりとモドリッチは対応していた。(Fig.7)
Fig.7 後半のモドリッチの対応
前半はある程度引いてくる守備システムに対して、トスンがカバーできないエリアからモドリッチはビルドアップを行っていた。
一方の後半のハイプレスに対してはCBの間に入り込んで前半より後ろでゲームメイクを行っていた。
当然ハイプレスの裏にロングパスを通せればチャンスになることが多く、前半同様にクロスからゴールを狙っていくクロアチア。
クロアチアのチャンス(後半)
51m30(FK11)
53m50(4-11)
66m20(4-14)
71m50(17-4)
81m50(7-4)
前半、後半どちらにおいても、またどの局面においてもクロアチアが勝っていたように思える試合だった。すべての出発はモドリッチだったが、クロアチアはモドリッチが封じられた時にどうなるのか?というのは興味深い点だろう。
7. トルコのラフプレー
EURO2016ではあまり試合が荒れることはない、というのもイエローのレギュレーションが結構厳しいからである。
まず大前提としてこの試合におけるトルコはとても荒い。
前半モドリッチは何度かイエローレベルのタックルを喰らっていたが全くでなかった。
前半で出されたイエローは再三注意されていたトスンのエアバトルにおけるひじ打ち行為のみ。よくマンチェスターユナイテッド所属(2016-2017時点)のフェライニがもらうやつ。
また後半から出てきたボルカン。シェンは明らかにおかしかった。気が触れたかようなタックルが何度かあった。しかしイエローあまり出そうとしない審判だった。
結果としてトルコのラフプレーがエスカレートしたのは言うまでもない。
余談
モドリッチのおかげで12人で戦っているような感じがあったクロアチア。ただやっぱりピッチを駆け巡っていたので75分あたりにはもうばてていた。生命線のモドリッチがいかに調子よく試合に出場できるかがカギとなりそうなクロアチア。
トルコはゲームメイカーがいないのが辛いところ。そしてイナンのロングプレスは果たして意味があるのかどうかを今後見ていきたい。