EURO2016-E1-IRL.vs.SWE
EURO2016-グループE1-アイルランドvsスウェーデン
まずはスタメンから
アイルランドに有名どころの選手はあまりいない。
強いて言えば元マンチェスターユナイテッドに在籍していたオシェイ、エバートン所属のコールマンくらいだろう。選手のほとんどはイングランドプレミアリーグもしくはチャンピオンシップ(イングランドの2部リーグ)に所属している選手で構成されている。個人的には馴染み深い選手が多い。
スウェーデンはイブラヒモビッチが圧倒的に有名だが、ほかの選手はあまり有名ではない。
冬移籍で不遇の時間をアーセナルで過ごしたシェルストレームはある意味有名かもしれないが、注目選手というとちょっと語弊がある。ちなみに2016-2017シーズンのブンデスリーガで話題になっているライプツィヒに所属しているフォルスベリもいる。ただしライプツィヒを見たこともフォルスベリのクラブでのプレーも見たことないので、あくまで在籍しているという情報だけ。
試合の概要
試合は1-1で引き分けで終える。アイルランドは決してレベルの高いオフェンスをしていたわけではないが、ヘンドリックのミドルシュートやブラディーの攻撃参加はアクセントになっていた。47分にコールマンのクロスからフーラハンがボレーシュートを決めて先制する。スウェーデンのビルドアップおよびゲームメイクのレベルは低かったが、単純な放り込みに苦戦していたアイルランドは70分にクラークがクロスをはじき損ねてオウンゴールしてしまう。アイルランドのほうが内容はよかったが、引き分けでも妥当な部分もあった。
(前半30分間)
スウェーデンは自陣でボールを回収すると、ボールを保持したがる傾向にあった。
この時シェルストレームがビルドアップに関与していくが、アイルランドは前線から激しいプレスを浴びせていった(Fig.2)
Fig.2 グランクビスト側からのビルドアップに対するアイルランドのハイプレス
基本的にS.ロングとウォルタースはスウェーデンのCBにハイプレスを仕掛ける。
シェルストレームが下がって受けようとするときにもフーラハンがついていく。
この3人のハイプレスによってSBの選択肢をせばめていき、インサイドハーフのマッカーシもしくはヘンドリックがSBに追加でプレスをかけていく。
アイルランドのハイプレスはスウェーデンのビルドアップを破壊するに十分な強度をもっており、精度の低いロングボールを蹴らせることに成功する。(Fig.3,4)
Fig.3 ヘンドリック側に追い込んだ例
Fig.4 マッカーシー側に追い込んだ例
しかしアイルランド側にもいくつかの問題点があった。
アイルランドはボールを保持して攻撃できない。
すなわちロングボール攻撃が主体となるため、トランジションの回数も多くなる。
つまりアイルランドの前線はハイプレスを行う回数が増えてしまうということ。
もうひとつはLSBのオルソンの存在。
オルソンは選択肢が少ない状況でも強引にドリブル突破を図っていくことが多かった。イングランドのウォーカーのようなプレースタイルといえばわかるかもしれない。
必ずしもサイドバックの強引な縦への突破はいいビルドアップ、ゲームメイクとはいえないが、ほかの選手にハイプレスを躱すプレーができていなかったので、いいアクセントになっていた。
特に前者は結構根深い問題で、前半30分を超えたあたりからはハイプレスはあまり見られなくなってしまう。アイルランドの運動量がさがったから撤退守備に切り替えたのか、オルソンを警戒して切り替えたのかはよくわからない。
2. アイルランドの撤退守備
アイルランドはハーフラインまで押し込まれると守備システムが変化し、
受け身の4-4-2(4-4-1-1)になる。(Fig.5)
Fig.5 アイルランドの撤退守備
基本的にはオーバーラップしてきたオルソンをウォルタースがマークするが、トランジションの関係で戻れないときにはフーラハンもしくはマッカーシーがマークする。
こうなると試されるのはスウェーデンのゲームメイク能力だが、シェルストレームやレビキな効果的なパスを出すことはほとんどなかった。
グランクビストはたまにフーラハンとS.ロングの間をドライブしたりしていたが、有効なパスはほとんどなかった。
有効なドライブをしつつ有効なパスを出し続けていたイタリアのキエッリーニはすごいと改めて感じる場面でもあった。
3. アイルランドのビルドアップ&ゲームメイク
ここからはアイルランドの攻撃について
スウェーデンの守備は4-4-2だが、前線2人の運動量はそれほど多くない。ある程度余裕をもってボールを持てるアイルランドだが、効果的なビルドアップやゲームメイクができる選手がいるわけではないので、ボールを保持して攻撃することにこだわらない。
つまり前線にロングボールをどんどん供給していくというスタイルになる。
この時ロングボールのターゲットになるのはS.ロングであることがほとんどだった。
(Fig.6, 7)
Fig.6 シェーン・ロング
Fig.7 ウォルタースのエアバトル(左)、S.ロングのエアバトル(右)
Fig.7を見れば一目瞭然だが、圧倒的にS.ロングに向けたロングボールが多かった。
オレンジがエアバトルの敗北を意味するが、これはどちらが先に触ったかを示すだけのもので、セカンドボールをどちらがモノにしているかは分からないところが注意点。
S.ロングも競り合いにめっぽう強いという印象はなかったが、とにかくアイルランドはセカンドボールをよくものにしていた。チーム全体がよく走ってセカンドボールをものにするために動いていたということだろう。
ロングボールのいいところは、セカンドボールが収まってしまえばビルドアップとゲームメイクをすっ飛ばせるところにある。
ただし前線に人を送りすぎるとカウンターを浴びる場合もあるので、相手の能力と出方次第な部分ももちろんある。
4. アイルランドのチャンスメイク
アイルランドには伏兵が2人いた。ヘンドリックとブラディーだ。(Fig.8)
Fig.8 ヘンドリック(左)、ブラディー(右)
ほとんどノーマークの2人だった。
というのも、ブラディーはハルシティやノリッチで何回かプレーしていることはみたことあるが、基本的にはチャンピオンシップを主戦場とする選手たちだったからである。
前述のように、ロングボールを中心にして前に進むことが多かったアイルランドの攻撃のクオリティは高いとはいえなかった。
しかし前線にボールが収まった時には、エリア外からのミドルシュートやクロスからチャンスを作っていた。
ミドルシュートは4本あったが3本はヘンドリック、1本はブラディーによるもので、いずれのシュートもかなり精度が高かった。
気になってヘンドリックの今までの得点シーンを少し調べてみた
JEFF HENDRICK ● DERBY COUNTY (2011-16)
あくまで得点シーンのまとめなので詳しいことはわからないが、ミドルシュートの精度は高い選手だという印象を試合からも動画からもうけた。
2016-2017シーズンからはバーンリーに移籍し、イングランドプレミアリーグデビューしているが、このクラブでもちゃんとスタメンを勝ち取っている。もしかしたらもう少し伸びる選手かもしれない。
アイルランドのチャンス
8m50 13M
16m40(CK19-3-4)
28m40(13-19M)
31m50(19-13-9-13M)
40m10(19-9)
45m50Jag(13M)
47m00(4-20)Goal
72m10Jag(13)
こんな感じで前半に多くのチャンスを作ったアイルランドは後半開始直後にコールマンのクロスをフーラハンがハーフボレーで押し込む。
散々チャンスを作ってきたヘンドリックやブラディーがゴールに関わっていない部分がおもしろい。
5. 後半戦
実は前半終了間際にスウェーデンのRSBのルスティグが怪我で交代している。股関節の付け根を抑えていたのでグロインペインの可能性が高そうな感じだった。
この時のフォーメーションは以下の通り(Fig.9)
Fig.9 アイルランドvsスウェーデン(後半のフォーメーション)
ヨハンソンがRCBに、リンデロフがRSBに入る。
後半開始直後に得点したアイルランドだったが、この得点によってスウェーデンは動かざるを得なかった。
というのもグループEの残り2チームはイタリアとベルギー。すなわちグループリーグ突破するためにはこの試合で勝ち点3を取ることはほぼ必須条件だからである。
スウェーデンは前半同様オルソンが積極的に攻撃参加し、浅い位置からでもバンバンクロスを上げてくるようになる。(Fig.10)
Fig.10 スウェーデンのクロス(左:前半、右:後半)
単調なクロスだったが、意外と効果的だった。
理由はイブラヒモビッチのフィジカル能力、オルソンのクロス精度ももちろんあるが、アイルランドのCBにはクロスを跳ね返すのに十分な能力があるようには思えなかった。
多分スウェーデンが試合開始直後から単調にクロスを上げる攻撃だけをし続けていればもう少しチャンスを作れていたかもしれない。
スウェーデンのチャンス
49m00Jag(CK9-14-6×)
50m20(FK9-18-10)
59m00(5-10)
70m50(10-IRL3own)Goal
81m30(5-10)
最終的に70分にイブラヒモビッチが上げたクロスを、クラークが押し込んでオウンゴールしてしまう。
その後はスコアも動かず、引き分けで終了。
前半の内容は非常によかったアイルランドだが、後半になってガス欠してしまった。
余談
アイルランド、スウェーデンが3位抜けを狙うためには、この試合で勝利することが重要だったが引き分けで終わってしまった。