UCL16/17-F1- レギアワルシャワ.vs.ドルトムント
UCL16/17-F1- LegiaWarszawa.vs.Dortmund
まずはスタメンから
白がレギアワルシャワ、黄がドルトムント(Fig.1)
レギアワルシャワは4-1-4-1
ポーランドの名門であるためポーランド籍の選手が多いが、ポーランド代表として活躍している選手はヨドウォビエツ、パズダンのみ。
ドルトムントは4-1-4-1
ヴァイグルを中盤の底、R.ゲレイロをISH、O.デンベレとプリシッチをSHと若返りを図っている。若返りを図る中でチームのバランスを崩してしまい没落してしまうチームも多い中、ドルトムントはうまく若手の発掘とチームのバランスを整えていると思う。
試合の概要
試合は0-6でドルトムントが勝利する。7分にO.デンベレからのクロスをゲッツェがヘディングで先制すると、15分にはR.ゲレイロからのFKにパパスタドプロスがヘディング、17分にはまたもR.ゲレイロからのFKのこぼれ球をバルトがが押し込み3点目を決めた。51分にはO.デンベレのエリア内での仕掛けからのこぼれ球をR.ゲレイロがうまく流し込み、75分にはE.モルのカットインからのプリシッチのクロスをカストロが決め、最後は87分にカストロからのスルーパスをオーバメヤンが決めて0-6とした。試合は終始ドルトムントが支配しており結果もうまく反映されていたと思う。レギアワルシャワは今まで見てきたチームの中でも最低クラスの守備レベルだった。
正直に言ってこの試合が一方的になるきっかけを作ったのは、レギアワルシャワの中途半端な守備だったとみて間違いないだろう。レギアワルシャワの前線守備は4-1-4-1⇔4-4-1-1の可変守備であり、ドルトムントのビルドアップは4-1-4-1で行われた。(Fig.2)
Fig.2 ドルトムントのビルドアップ
レギアワルシャワの守備の約束事は以下のとおりである。
・プリヨビッチがボールサイドのCBにプレス
・ボールサイドから遠い方のISHがヴァイグルを監視
・その際オジジャが空いたスペースをカバー
・ランギル、カザイシュベリはSBを監視
いわゆるオーソドックスな前線守備でもあるが、対ドルトムントを意識した守備とは到底言えなかった。
ドルトムントの特徴としてCBのバルトラとパパスタドプロスはビルドアップ時にかなりボールを運ぶことができ、ヴァイグルも同様の役目を担うことができる。このためドルトムントのビルドアップを壊すためには少なくとも2.5~3人は必要であり、2vs3の前線守備であれば必ずハーフラインまでドルトムントはボールを運んでくる。
例えばFig.2のような状態の時バルトラは躊躇することなくドライブし、ヨドウォビエツがヴァイグルをマークから離したらその後の展開はヴァイグルに任せるといった感じで完全に前線守備に対応していた。
ドルトムントのゲームメイク
ビルドアップを難なく終えると次はゲームメイクの段階でドルトムントのISHの2人の存在感が増してくる。特にR.ゲレイロはこの試合がドルトムントでの初スタメンとは思えないほど素晴らしかった。
Fig.3 ドルトムントのビルドアップ-ゲームメイク
Fig.3のような状態の時R.ゲレイロはスペースがないことも多かったが、得意のターンとドリブルで前に進めるだけのテクニックを備えていた。多分レギアワルシャワはドルトムントのビルドアップ妨害に変なリソースを使うよりも自陣のスペース管理をしっかり行った方が良かったと思うが、この試合のヴァイグル、R.ゲレイロ、ゲッツェの関係はレギアワルシャワの中盤の守備を完全に壊した。
ドルトムントのチャンスメイク
04m10T(22-25-22-17offside)Grade4
05m40P(26-5-33-13-10-22)Grade5
06m00P(26-33-29-7-10)Goal
10m40T(5-22-17)Grade5
10m50P(7-29-7-17)Grade4
14m50FK-P(13-25)Goal
16m40FK-P(13M)Grade5
16m40P(13M-17)Grade5
16m40P(17-29)Grade5
16m40P(29-5)Goal
19m20P(5-10-13-10-7-29-33-7)Grade4
19m40P(7-10)Grade5
22m10P(5-13-7M)Grade4
25m00T(10-22)Grade4
25m30T(22-10-13-33-7)Grade4
25m50T(29-7-10-13)Grade4
27m00CK-P(10-7-17-26)Grade4
28m10P(33-5-17-5-13-17M)Grade4
29m20T(17-22)Grade4
30m20FK-T(13-25)Grade5
33m20P(26-13-26-22-26-33-10-10)Grade5
38m00P(25-17)Grade5
38m50P(5-29-13-7-13-10-7M)Grade4
41m00P(26-17)Grade4
43m10P(26-33-29-13-7)Grade4
44m30P(5-33-7-22)Grade4
45m20T(33-17-22)Grade4
47m10P(1-26-13-22-10-7)Grade4
47m40CK-P(7-10-13-22-10-7)Grade4
50m40P(26-17-22-17-7)Grade5
50m50P(7-13)Goal
56m00P(33-26-22-26-10)Grade5
58m00P(25-33-13-7-10)Grade5
59m40T(10-17-25-7)Grade4
63m00P(7-25)Grade4
64m20T(13-17-22)Grade5
68m10P(29-33-25-22-17)Grade4
75m20T(9-22-27)Goal
85m50P(26-27-17)Goal
攻撃に関しては終始最高のパフォーマンスだったといっていいだろう。6ゴール奪うだけのチャンスは作っていたし、レギアワルシャワのディフェンダーがエリア内でシュートをブロックできていなければもっと点差がついてもおかしくなかった。前半のチャンスは、上述のように中途半端な前線守備からR.ゲレイロ、ゲッツェに自由にプレーさせてしまったのが大きな要因だが、点差が付き始めてからレギアワルシャワはさらに人数をかけてビルドアップを壊そうとするシーンも目立ってきた。
当然人数をかけられればドルトムントもビルドアップしづらくなりロングボールに逃げる場面も増えていった。ただしハイプレスに人数をかけるということは最終ラインはカバーするエリアが増えて負担が大きくなる。こうなった時にレギアワルシャワのCBはオーバメヤンのスピードに全く対応することができておらず前線守備の強度を上げてもあまり意味がないことを露呈してしまっていた。
ドルトムントはレギアワルシャワを押し込んだ時、プリシッチとO.デンベレをサイラインまで開かせることが多く、中盤のパス回しをシュメルツァー、ヴァイグル、ピスチェクの3人で行うことが多かった。これによってボール奪取された時もSBが即ケアできるような体勢を作っていた。ここらへんはグアルディオラのサッカー観の影響を受けていると感じた部分だったし、実際このシステムはこの試合ではよく嵌っていた。
結局この試合はドルトムントがビルドアップからゲームメイクまでほぼ完璧に進めていたため、O.デンベレ、プリシッチ、オーバメヤンがチャンスメイクシーンでどれだけ個の能力を発揮できるかだけが見どころとなってしまった。
レギアワルシャワの攻撃
レギアワルシャワに攻撃時間はほとんどなかった。ゴールキックはほとんど跳ね返されていたし、稀にCFのプリヨビッチがハイボールに競り勝ちゴチャゴチャとプレーするにとどまった。51分に4点目の失点をした時点でこの試合はすでにゲームセットしており、ほとんど自分たちの見せ場を見せることなく終わった。
レギアワルシャワのチャンスメイク
12m30P(5-99-7-19-8offside)Grade4
30m40P(6-9-6-3-7-75-9)Grade4
34m20P(1-3-99-7)Grade4
69mooP(3-7-8-75-6)Grade4
87m10P(8-77-11)Grade5
余談
レギアワルシャワがこの試合では全くいいところがなかったのでこの試合はドルトムントに焦点を絞るしかないくらい内容がなかった。特にレギアワルシャワのCBのチェルヴィンスキとドンブロフスキは出場32チームの中でもかなりひどい部類に入ると思う。
UCL16/17-F1-レアルマドリード.vs.スポルティングCP
UCL16-17-F1-RealMadrid.vs.SportingCP
まずはスタメンから
白がレアルマドリード、緑がスポルティングCP(Fig.1)
レアルマドリードは4-3-3
レアルマドリードの構成をみればEURO2016で活躍していた各国の顔のような選手がずらりと並んでいる。特にC.ロナウド、ベイル、ベンゼマの前線やクロース、モドリッチの展開力を備えた中盤は脅威以外の何物でもない。
スポルティングCPは4-3-3
ポルトガル代表でも活躍しているA.シルバ、ウイリアム、R.パトリシオといった選手がいる。ドルトムント、レアルマドリードと同じグループということもあってこの2チームとの戦い方は注目が集まる。
試合の概要
試合は2-1でレアルマドリードが勝利する。48分にB.セザールが素晴らしいコースに決めてスポルティングCPが先制するが、89分にC.ロナウドの直接FK、94分にJ.ロドリゲスのクロスをモラタが決めてレアルマドリードが逆転する。試合自体はよく組織されたスポルティングCPの守備にレアルマドリードが苦戦する展開がほとんどだった。一方でレアルマドリードの圧倒的な展開力と個の強さは戦術を破壊するには十分であり、時間がたつにつれてチャンスの質と量が増加していった。
レアルマドリードのビルドアップ、スポルティングCPの前線守備
スポルティングCPの守備の基本は4-1-4-1だが、レアルマドリードのビルドアップ時には4-4-2へと可変的に変化する。(Fig.2)
Fig.2 スポルティングCPの前線守備
Fig.3 スポルティングCPの前線守備
スポルティングCPの守備の決まりごとは以下のとおりである。
・ヴァランがボールを保持した時はB.セザールが前に出て4-4-2へと変化
・S.ラモスがボールを保持した時はA.シルバが前に出て4-4-2へと変化
・両SHはカルバハル、マルセロを監視しつつ、2列目はコンパクトを保つ
バーゼルやボルシアMG、アトレティコマドリードと同様の守備形態である。この守備の要はA.シルバとB.セザールのISHコンビがモドリッチとクロースを監視しつつCBまで監視対象を広げられるかにある。結果から先に言うと前半終わりまではその守備が完璧に機能していた。運動量はもちろんマーク相手を見失わないこの守備の強度は素晴らしいものだった。もっともカゼミロがフリーになりがちだったため、じわじわと前に進むことを可能にしていた。
レアルマドリードのゲームメイク、スポルティングCPの中盤守備
レアルマドリードの要は間違いなくクロースとモドリッチで、スポルティングCPはこの2人にマンマークをすることでレアルマドリードの攻撃を妨害しようという狙いだった。ただしマンマークといってもモドリッチやクロースに完全にボールを供給させないのは不可能である。またクロース、モドリッチ、カルバハル、マルセロは少しでもボールを持つとそのテクニックとロングボール精度で前線に素晴らしいボールを供給することもあった。戦術的には完全にスポルティングCPの守備は素晴らしかったわけだが、レアルマドリードの個人能力の高さはその戦術を上回ると瞬間がたびたびあった。もちろん設計されたスポルティングCPの守備からのカウンターもこの試合の1つの見所となった。
レアルマドリードの前線守備、スポルティングCPのビルドアップ
レアルマドリードの守備の約束事はスポルティングCPと同じだったが、各個人のディティールを見ていくと少しだけ違う。(Fig.4)
Fig.4 レアルマドリードの前線守備
レアルマドリードの前線守備の約束事は以下のとおりである。
・モドリッチまたはクロースが前線に繰り出し、可変4-3-3⇔4-4-2を行う
・1列目のいずれかはウイリアムをマークし、もう1人がプレスを行う
こういった守備に対してスポルティングCPは前線へロングフィードが基本となる。(Fig.5)
Fig.5 スポルティングCPのパス方向
スポルティングCPのロングパスの方向はスポルティングCPの右サイドすなわち、レアルマドリードの左サイド(マルセロ側)を攻略の基点とする。これはレアルマドリードの守備スタッツにも表れている。(Fig.6)
Fig.6 レアルマドリードの守備スタッツ(左:タックル、右:インターセプト)
これだけ左に偏っていることにはいくつかの理由がある。
・レアルマドリードの撤退守備の歪さ
・スポルティングCPの個の強い部分
まずはレアルマドリードの撤退守備について
レアルマドリードは前述したように4-4-2に近い形で前線から守備を行う。しかしスポルティングCPはロングボールを蹴ってしまうこと、C.ロナウドは2列目で守備を行わないことが原因であまり前線からボール奪取することはできなかった。つまりスポルティングCPがハーフラインまでボールを進めることもたびたびあり、この時レアルマドリードの撤退守備に問題があった。
本来4-1-4-1で撤退するにしても4-4-2で撤退するにしても両SHは相手のSBをマークしなければならない。しかしC.ロナウドは守備をしないというのがレアルマドリードの弱みとなる。レアルマドリードの撤退守備は4-4-2だが、C.ロナウドを1列目に据える形となる。この時左サイドを守るのはクロース、マルセロとなるが当然守備がいいコンビではないのは明らかだ。(Fig.7)
Fig.7 レアルマドリードの撤退守備
実際レアルマドリードの撤退守備はあまり強固ではなく、スポルティングCPのG.マルティンスが最も個の能力が優れているということもあってレアルマドリードは終始苦戦する。(Fig.8)
Fig.8 G.マルティンスの1on1
レアルマドリードのチャンス
02m30P(5-2-7-11-19-2)Grade4
05m20P(7-19-2)Grade4
09m50P(2-5-8-19-7-11)Grade4
12m20P(4-8-11)Grade5
13m00CK-P(8)Grade4
21m10P)19-14-8-7-8-2)Grade4
23m40T(11-9-8)Grade4
26m40P(8-7M)Grade4
28m10T(8-9)Grade4
38m40P(19-5-2-11)Grade4
48m00P(12-14-5-2)Grade4
52m30P(14-8-12-8-2)Grade4
54m30P(14-8-7NoPenalty)Grade5
63m50P(19-9-7)Grade4
67m10P(21-17)Grade4
58m10CK-P(8-2)
70m20P(19-17-14-19)Grade5
71m00P(4-8-14-5-17)Grade4
71m20P(4-8-12)Grade4
71m50CK-P(8-5-14)Grade5
76m00P(12-8-2-8-17-2)Grade5
79m20P(5-4-7-12-10-21)Grade5
82m00T(14-2-7)Grade5
82m50T(19-17-7-10-2)Grade4
86m00P(2-14-10-17)Grade4
88m10FK-P(7)Goal
93m40P(12-7-19-10-21)Goal
スポルティングCPのチャンス
01m00P(77-23-11M)Grade4
08m00T(77)Grade5
32m20P(21-13-14)Grade4
33m00T(14-23-77)Grade5
40m10T(23M)Grade4
46m30P(23-77-23-11-23-77-11-77-10-11)Goal
53m10T(77-28)Great4
60m30P(23-77-11)Grade4
62m40P(14-77)Grade5
レアルマドリードは前半Grade4以上のチャンスを10個作り、このうちGrade5のチャンスは1つのみ。対して後半はGrade4以上のチャンスを17個作り、Grade5のチャンスは8個となっている。特にGrade5のチャンスのうち7個は65分以降に作られている。時間ごとのレアルマドリードのチャンスの形の大枠は以下のとおりである。
前半はC.ロナウド、ベンゼマが不調だったためか攻撃の糸口はほとんどベイルの突破がきっかけとなった。ゲームメイクでうまくいっていったわけではなかったレアルマドリードだが、圧倒的な個の力で最低限のチャンスを作っていた。
転機は67分にベイル、ベンゼマをL.バスケス、モラタに変更したところからだろう。もちろん時間の経過とともにスポルティングCPのISHの守備は曖昧なものになっていきクロース、モドリッチ、マルセロ、カルバハルが自由にボールを持つ時間が増えていったわけだが、フレッシュな選手が複数人はいることでレアルマドリードの攻撃精度は明らかに上がった。
一方でスポルティングCPのチャンスはG.マルティンス絡みのものにほぼ限られていたが、G.マルティンスのスピードは素晴らしく今後の活躍が気になる選手である。
余談
チャンスメイクの数だけ見るとレアルマドリードが常に圧倒していたように見えるが、少なくとも前半はスポルティングCPの戦術が完璧に嵌っていた。それでも時間がたつにつれてレアルマドリードの個が戦術を潰していく様は割と残酷なものだった。スポルティングCPは少し注視すべきチームかもしれない。
UCL16/17-E5-CSKAモスクワ.vs.レヴァークーゼン
UCL16-17-E5-CSKAmoscow.vs.Leverkusen
まずはスタメンから
赤がCSKAモスクワ、白がレヴァークーゼン(Fig.1)
CSKAモスクワはお馴染みの4-2-3-1
ザゴエフの復帰はCSKAにとってとても重要なことだろう。ただし2連勝しなければならないため現状とてもきつい状態。そんな状態にもかかわらずストランドベリやL.トラオレではなく18歳のチャロフがスタメンに起用されていることは割と興味深いところ。
レヴァークーゼンは4-4-2
この試合ではボール保持攻撃の精度を考慮してか、カンプルはCHとなっている。一方でSBの層が比較的薄いレヴァークーゼンはこの試合クロアチアの若手のイェドバイをRSBで起用している。
試合の概要
試合は1-1で引き分けで終える。15分にレヴァークーゼンはトリッキーなFKでフォラントが抜け出し、そのまま沈めて先制する。しかし7n分にはエリア内でM.フェルナンデスをヘンリヒスが倒してしまい、これをナチョが決めて同点とする。試合の前半はレヴァークーゼン寄りだったが、得点後特に後半は相手にボールを持たせすぎてしまいうまくコントロールできていなかった。内容を鑑みても引き分けは妥当という感じだった。
CSKAモスクワの守備、レヴァークーゼンのビルドアップ
レヴァークーゼンはこの試合カンプルをCHに置いており、前述のとおりボール保持攻撃の精度向上が目的であると考えられる。実際にこの試合のレヴァークーゼンのビルドアップは、グループリーグ序盤で行っていたカンプルのLSB化がよく確認された(Fig.2)
Fig.2 レヴァークーゼンのビルドアップ
レヴァークーゼンのビルドアップの約束事は以下の通り
・カンプルがLSBに落ちるのと連動して、ヘンリヒスがオーバーラップ
・チャルハノール、J.ブラントはISHのようなエリアでボールを受けようとする
再三言っているように4-4-2ディフェンスではSBにあまりプレッシャーをかけることができないため、ビルドアップの中心をSBに据えるというやり方は欧州で微妙に流行ってきている。
こういったレヴァークーゼンのビルドアップに対して、CSKAモスクワの対応も1節時に対戦した時より確実によくなっていた。CSKAモスクワの守備は4-4-2、ゴロビンとチャロフが1列目を担当する(Fig.3)
Fig.3 CSKAモスクワのビルドアップ制限
基本はオーソドックスな4-4-2だが、2列目は高い位置を維持せず、1列目がレヴァークーゼンのビルドアップの方向を制限するのみにとどまる。例えば前述したカンプルがLSBに落ちた時、1列目が積極的にプレスすることで前線への配給を防ぐことは1列目にとってこの試合かなり重要なタスクととされていたようだった。(1節時はあまりみられなかった)もちろん、1列目の1人がLSB化したカンプルをマークするということはターやトプラクがビルドアップしやすくなるため、CSKAモスクワは時間をかけられながらもハーフラインまでじわじわ押し込められることが多かった。
CSKAモスクワの中盤守備、レヴァークーゼンのゲームメイク
前述のように前線から積極的な守備をしたわけではなかったCSKAモスクワは、ハーフライン付近で守備をすることが多かった。ハーフラインまで押し込められたときは4-4-1で、チャロフがデスコルガードとなる一般的なものだった。(Fig.4)
Fig.4 CSKAモスクワの撤退守備
3節のCSKAモスクワvsモナコでも述べたように、ゴロビンはレヴァークーゼンの供給係を潰すのにかなりエネルギーを費やしていたため、レヴァークーゼンはあまりうまくゲームメイクできていなかった。
一方で、レヴァークーゼンの守備に関してはいつも通りハイプレスを志向していく。(Fig.5)
Fig.5 レヴァークーゼンのハイプレス
前半序盤、特に先制点を決めるまではハイプレスをしっかり行い、ボール奪取→カウンターという形を作ろうとしていた。しかしフォラントが先制点をあげ、前半の終盤付近になるとレヴァークーゼンはあまりハイプレスを行わないようになる。(Fig.6)
Fig.6 得点後のレヴァークーゼンのアクション
もちろんFig.6のような状況がすべてというわけではなく偶にハイプレスをすることもあったが、守備のペースを緩めることで試合のリズムを変化させようとしていた。
これは1節でも経験していたように、フルパワーでハイプレスを続けることが却って失点リスクにつながることもあると考えたためだろう。実際レヴァークーゼンのボールポゼッションを見ると、前半は52%、終盤は40%でありCSKAモスクワが後半特にボールを保持していたことがうかがえる。しかし実際にはレヴァークーゼンがハイプレスをやめたことで徐々にCSKAモスクワが試合のペースをつかむことになる。
CSKAモスクワが試合のペースをつかんでいった理由
理由は以下の4個あると考えられる。
・レヴァークーゼンがハイプレスをやめたことでCSKAモスクワは余裕のあるロングフィードを繰り返すことができるようになる。
・ロングフィードを悉くマイボールもしくはセカンドボールで奪取していたCSKAモスクワ。
・レヴァークーゼンはゴールキックでほとんどロングボールを蹴っており、悉く奪取されていた。(Fig.7)
Fig.7 レノのゴールキック
・前述のようにレヴァークーゼンはCSKAモスクワの撤退守備を攻略することができなくなっていた。
こんな理由からか徐々にCSKAモスクワのペースになっていくわけだが、守備から攻撃にかけてCSKAモスクワのほうが試合を通して優れていたということだろう。
CSKAモスクワのチャンス
03m40T(63-17)Grade5
05m10P(42-10-42-63)Grade4
10m00T(17)Grade5
10m40CK-T(8-63)Grade4
28m50P(42-10-3-66-2-8-2-10)Grade5
34m30P(2-8-2)Grade4
50m40T(17-8-63-66-63)Grade4
50m50P(17)Grade4
64m40P(7-63)Grade4
68m10CK-P(10-24-8-17)Grade5
73m20P(6-17-2-63-3)Grade5
73m40P(2-66-10-8-2Penalty)Grade4
75m00PK(66)Goal
77m00P(66-3-63-10)Grade5
77m50T(2-3-63)Grade4
79m40P(66-8-2-66-10)Grade5
84m00P(66-2-8-66M)Grade4
86m10P(24-9-63-66-2-63)Grade5
前半はレヴァークーゼンがボールを持つ展開が多かったため、チャロフを中心としたロングカウンターが大きな武器となった。正直L.トラオレやストランドベリよりも若く、スピードもテクニックもあるチャロフは今後CSKAモスクワを支えていくことになるかもしれない。この試合では今後の活躍が楽しみになるような活躍だった。
レヴァークーゼンのチャンス
00m00P(19-16-19)Grade4
05m50P(24-44-31)Grade4
06m40P(39-10-44-19-10)Grade4
15m00FK-P(10-44-31)Goal
17m40P(1-7)Grade5
27m00P(39-19-39)Grade4
37m20CK-P(10-7offside)Grade5
45m20P(44-19-20-10)Grade4
46m30FK-P(31-10)Grade4
62m40FK-P(10M)Grade4
79m20P(29-31)Grade5
レヴァークーゼンは未だ守備のバランスを見つけることができていないということが露呈した試合となってしまった。ハイプレスを90分間続けることはとても難しく、かといって撤退守備の強度もあまりなく、CSKAモスクワのボール保持攻撃にも対応できていなかった。
撤退守備の強度が足りなかった理由は、SHが守備時にあまり下がらないことが大きいと思う。やっぱりJ.ブラントもチャルハノールも撤退守備でさぼることが多く、CSKAモスクワのボール保持攻撃を防ぐことができなくなった。特にクロアチアの新星イェドバイのこの試合の出来は最悪で、クロスは通らない、ドリブルは相手に引っ掛ける、エアバトルは勝てないという内容だった。こういった個人のミスとレヴァークーゼン全体が抱える問題が合わさって後半の見所はほぼなかったといっていい。
余談
結果的に言えばレヴァークーゼンは引き分けで勝ち点7、トッテナムは敗北して勝ち点4となった。レヴァークーゼンはトッテナムに勝ち越しているため、5節終了時点で4チームの順位は決定した。さらに6節ではモナコが手を抜きすぎていたためレビューする価値がないのでスキップ。
UCL16-17-E5-モナコ.vs.トッテナム
UCL16-17-E5-Monaco.vs.Tottenham
まずはスタメンから
モナコは4-4-2
4節とスタメンは変わらず、現状これが考えうる最強のメンバーであることは明白で、特にB.メンディ、シディベの強力SBコンビがこのチームの要だ。
トッテナムは4-3-2-1
アルデルヴァイレルトは怪我のため欠場として、フェルトンゲン、K.ウォーカー、エリクセンをスタメンに選ばなかった理由は不明。代役としてはトリッピアー、ヴィマー、ウインクスが選ばれている。いずれにしてもこの試合負ければグループリーグ敗退が決定となるためこの試合はトッテナムにとって大一番。
試合の概要
試合は2-1でモナコの勝利で終える。48分にB.メンディのクロスからシディベのクロスでモナコが先制するが、52分にグリックがエリア内でデレアリを倒しトッテナムがPKを獲得する。これをH.ケインが沈めて同点に追いつくも、直後シディベのクロスからルマーが技ありシュートを沈めてモナコが逃げ切る。とにかくトッテナムはボールを保持することに成功してたが前に進めなかった。逆にモナコは中盤からボール奪取を何度も繰り返すことでビルドアップに頼らずにチャンスメイクすることに成功していた。モナコのSBコンビの攻撃性能がとにかく異常なレベルに高い。
トッテナムはボールをつなぐチームであり、それはCBがダイアー、ヴィマーコンビになったところで変わらない。トッテナムのビルドアップはここ何試合かのCLで行っているようにワニヤマをCB間に落とした3枚で行う。(Fig.2)
Fig.2 モナコの前線守備
・守備の基本は4-4-2モナコの守備時の約束事モナコは運動量を使ってハイプレスを行うようなことはあまりないが、1列目は守備を全くサボらないのでトッテナムにとっては非常にビルドアップしづらい。
・ファルカオ、ジェルマンはボールサイドのCB+ワニヤマをマークすることでセンターラインからボールを運ばれることを阻止
・ファビーニョ、バカヨコはウインクス、デンベレの位置に合わせて高い位置から監視
・ボールサイドでないSH(Fig.2ではB.シウバ)は中央付近のスペースを埋める
・ボールサイドのSH(Fig.2ではルマー)はSBのオーバーラップに合わせたポジショニング
これらをすべて守ることで、両CBのボールの出しどころをロングボールに限定させることに成功し、トッテナムはボールを前に運ぶことに非常に苦労した。こういった場合CBが機を見てドライブしつつ
、ミドルパスorロングパスで前に進めるかどうかが重要になるが、ダイアーもヴィマーも成功率が非常に低かった(ダイアーのほうがロングパス精度がある分いくらかマシだったが)。
ただし、ちょっと視点を変えてチーム全体の位置を見てみるとモナコも大分リスキーな守備をしていることがわかる。(Fig.3)
Fig.3 トッテナムの狙い、モナコのハイライン守備のリスク
前述のとおり確かにトッテナムのCBはモナコのハイライン守備に苦労していたが、ファビーニョとバカヨコがM.デンベレ、ウインクスに釣られることで2列目、3列目間にギャップができてしまうことが時々あった。こういったスペースにトッテナムがボールを供給できたときはスペースが多く存在する4vs3となり後は個人能力で打開していくというのがトッテナムの明らかな狙いだった。
今まではM.デンベレ、ウインクスの位置にデレアリ、エリクセンを、さらにそのポジショニングは2,3列目の間であることが多かった。しかし攻撃の精度の増加メリットと被カウンターの危険デメリットがあまり釣り合っていなかった。
一方で今回のISHにバランスタイプのM.デンベレ、ウインクスを置いた理由は、被カウンターのデメリットを抑えつつ、モナコの2,3列目のギャップを狙おうとしたということだろう。
つまり、両CBからデレアリ、ソンフンミンに如何に質の高いパスを出すかがトッテナムのチャンスメイクの質と量を決める要因になるといっても過言ではなかった。確かに何度かモナコの守備の穴を突くことに成功していたが、ポチェッティーノ監督が期待していたほどではなかったのは試合を見ていれば明らかだった。
Fig.4 モナコのボールリカバリー
(左:前半、右:後半)
後述するが、モナコは2-1とリードしてからはハイライン守備を控えめにし、トッテナムが押し込む時間帯が増えたためボールリカバリー数は後半のほうが減った。しかし前半45分および後半最初の15分間のモナコのハイライン守備は素晴らしかった。ハイライン守備がうまくいくということは、モナコはビルドアップをせずトッテナムの陣地に攻め入れるということであり、カウンターでのチャンスも増えていくことを意味している。これはビルドアップが苦手なモナコにとってB.メンディ、シディベ、ファビーニョ、バカヨコのフィジカルを生かすうえでとても重要な戦術選択だと感じた。
実際トッテナムはボールポゼッションが67.5%に達していたがボールポジションは43.2%。後半押し込んでいたことを考えると前半は、かなりビルドアップに苦しみカウンターを受けていたことが容易に想像できる。
モナコのボール保持攻撃
モナコは前述のように、そして今までの4試合化rまおわかるようにビルドアップを得意としていない。この試合でもボールを保持した時は基本ロングボールでファルカオorジェルマンをターゲットにするというものだった。(Fig.5,6)
Fig.5 スバシッチのゴールキック
一目瞭然だが、ほとんどは前線へのロングボールだということがわかる。
Fig.6 モナコのエアバトルのエリア
ただしモナコも闇雲にロングボールを前線に配給しているわけではなく、モナコの右サイドに向けたロングボールが圧倒的に多かった。これはトッテナムのLSBおよびLCBのD.ローズとヴィマーの守備力がトッテナムの弱点であるためだろう。実際に若手のヴィマーは何度かB.シウバ、ジェルマンに裏を取られてしまいモナコにチャンスを作られていた。
モナコのチャンス
03m10P(1-23-27-9-14-27-23)Grade4
09m20T(19-2-27-23-18-10-2Penalty)Grade4
10m40PK(9)Grade5
12m20T(23-9-23)Grade4
13m50P(19-18-10-18-27-23-18)Grade5
15m40T(19-10-18)Grade4
25m10P(19-2-18)Grade4
26m10T(14-2-9)Grade4
27m20P(2-27-23-10-19-2-19)Grade4
34m00T(10-18)Grade5
38m50T(10-18)Grade4
40m20CK-P(27-25)Grade4
41m20P(25-14-23)Grade4
47m10P(19-10-23-19)Goal
48m20T(14-27-23)Grade4
52m30P(14-27-19-27)Goal
61m50T(10-2-19-10M)Grade4
62m40T(27-23-18)Grade4
67m20FK-P(27-25)Grade5
67m50CK-P(27-9)Grade5
68m20P(10-23-10-27)Grade4
69m40T(25-18-14-27-14-23)Grade4
73m20P(19-10-9)Grade5
75m30T(19-18-19-27)Grade4
やはりモナコのチャンスメイクに関わってくる重要人物はB.メンディだろう。B.メンディは90分間通して長距離のスプリント、迫力のあるドリブルでの1on1、高精度の高速クロスを持ち合わせたフィジカルモンスターだ。B.メンディを見ているとブレイクし始めてLSBでプレーしていたベイルを思い出す人も多いと思う。
Fig.7 B.メンディのスタッツ
(左:1on1、右:クロス)
トッテナム相手にサイドでの1on1にすべて勝利し、CKを含めないで11本のクロス(うち4本成功)をあげられる選手は現役で5人いないだろう。実際CKを含めたクロスの回数は25本であり、実に半分を占めているのはかなり異常である。
実際にモナコの先制点はウインクスを抜き去ったB.メンディのクロスをシディベがヘッドで押し込むものでありモナコの攻撃スタイルをよく表していたといっていい。その後の得点時も、シディベからのクロスをルマーが決めるという形なのも決して偶然ではないと思う。
この試合でのファルカオ、ジェルマンの出来
Fig.8 左:ファルカオ、右:ジェルマン
ファルカオはこの試合ファビーニョが獲得したPKを外したり、カウンターで自分が特攻できる場面でも全盛期のような力強さはなくなっていた。ただし苦しいロングボールでもマイボールにできるだけの力があり、ハイライン守備でもさぼっていなかった。
ジェルマンはこの試合何度もチャンスが訪れたが、それを不甲斐ない形でロスとしてしまうことが多く歯がゆかった。ただしジェルマンも守備やエアバトルでうまくモナコを有利にしていた部分も確かにある。
モナコは確かに得点力があるチームだが、それはファビーニョのポジティブトランジション時のロングパスやB.シウバのドリブルそしてシディベ、B.メンディのオーバーラップによる部分が大きく、決して得点力の高いFWを備えているからではない。だからこそ安定感のある攻撃スタイルを維持できているという部分もあるが、CFに得点力を備えた選手がでてくるとモナコはもっと手が付けられなくなっていくだろう。
トッテナムのチャンス
05m10FK-P(3-7)Grade4
05m30P(3-20-7)Grade5
05m40P(7)Grade4
06m10P(12-29-16-3)Grade4
21m50P(1-10-7-10-7-19-27-20-19-7-20-9offside)Grade4
28m50P(29-19-16-3)Grade4
33m50P(12-3-20-7)Grade4
37m30P(12-3-10)Grade5
50m10P(29-16-20Penalty)Grade4
51m20PK(10)Goal
56m30P(20-12-16)Grade4
58m00FK-P(16-12-7offside)Grade5
61m10P(15-16-10-19-3)Grade4
66m00P(15-9-16-15)Grade4
70m00T(20-9-23)Grade4
70m50FK-P(23-15)Grade5
85m20P(17-20-10)Grade4
85m50CK-P(23-20)Grade5
トッテナムの前半のチャンスは基本的にデレアリが縦パスを受け取り、前線にパスを供給するという形が多かった。デレアリへの良質なビルドアップは少なかったにもかかわらず、デレアリはうまくチャンスメイクにつなげていたため、かなりトッテナムを個人で助けていたと思う。
またトリッピアーも後半押し込んだ展開などで高精度なクロスを何本か上げておりとてもよかった。
一方でソンフンミンがスバシッチとの1on1で外した場面、H.ケインとD.ローズがエリア内でシュートを空振りした場面など、フィニッシュでの精彩を欠いていたシーンが散見された。H.ケインは復帰して間もないこともあってか全体的に消えがちでプレーの質もあまり高くなく、この試合のトッテナムの攻撃のスタイルにフィットしていなかった。
後半はトッテナムが押し込む展開となったが、そのタイミングに合わせてM.デンベレをエリクセンに変えてさらに攻勢を強めた意図は理解できる。実際にエリクセンが投入されてからセットピース、ラストパスの質は向上していた。しかし得点することはできず、トッテナムはここでCL敗退が決定した。
余談
1節に比べて段違いによくなったモナコが内容込みでトッテナムに勝利した。トッテナムは重要な選手が怪我やコンディション不足で出場できなかった部分が多く悔いが残る形となってしまった。
UCL16-17-E4-トッテナム.vs.レヴァークーゼン
UCL16-17-E4-Tottenham.vs.Leverkusen
まずはスタメンから
白がトッテナム、黒がレヴァークーゼン(Fig.1)
トッテナムは4-2-3-1
アルデルヴァイレルト、H.ケインは負傷欠場のためダイアー、ソンフンミンが同ポジションにアサインされている。モナコが4節終了時点で勝ち点8のためトッテナムはこの試合負けると勝ち点4、レヴァークーゼンは勝ち点6のためグループリーグ突破は非常に厳しくなる。(2位狙いだとしても勝ち点同じの場合直接対決の結果で優劣が判断されるため)
レヴァークーゼンは4-4-2
3節トッテナム戦の後半で有効だったカンプルをSHでプレーさせることを継続、さらにベンデウ、J.ブラントといったカウンター特化型の若手を多く選択していることからこの試合はハイプレスからカウンターを狙っていることが予想される。
試合の概要
試合は0-1でレヴァークーゼンが勝利する。64 分にアランギスのシュートのこぼれ球をカンプルが押し込み、これが決勝点となる。レヴァークーゼンはハイプレスで前半序盤からトッテナムを苦しめることに成功するも、ハイプレスの強度が低下した時間帯やセカンドボールを取られてしまうことが多く、内容としては拮抗していたと思う。ただ3節と合わせた180分で考えればレヴァークーゼンの1勝1分は妥当な結果であったと思う。3,4節共にアルデルヴァイレルトが不在だったのは試合展開を考えるとトッテナムにとってとても大きかったと思う。
トッテナムの初期ポジションは4-2-3-1だが、ビルドアップ時にはワニヤマが下がった3-4-3の形になることがほとんどだった。(Fig.2,3)
Fig.2 レヴァークーゼンのハイプレス
Fig.3 レヴァークーゼンのハイプレス(フェルトンゲン側スタートの場合)
普通4-4-2で疑似3バックのビルドアップを妨害する場合、最終ラインの3人を誰でどういった対処をするか決めるのが難しく、ビルドアップを妨害することは難しい傾向にある。しかしレヴァークーゼンのハイプレスは明確な約束事をもとにキッチリ行われた。
レヴァークーゼンの最終ラインが高い位置をキープできている場合
・ダイアー、フェルトンゲンに対してはJ.エルナンデス、メフメディが高い位置からプレス
・アランギスがワニヤマに前を向かせないような位置で監視
・K.ウォーカー、B.デイビスに対してはJ.ブラント、カンプルが高い位置から監視
という5人でハイプレスを行いつつ、最終ラインを高めにキープすることで縦パスによる疑似カウンターのリスクを低減している。
レヴァークーゼンの最終ラインが高い位置をキープできていない場合
・フェルトンゲン、ダイアー、ワニヤマに対してJ.エルナンデス、メフメディが監視
・K.ウォーカー、B.デイビスに対してJ.ブラント、カンプルが監視
という4人で高い位置から監視しつつ、全体のラインが間延びしすぎないように調整していた。
当然最終ラインを高くキープできている時の方が質の高いハイプレスを提供できるため、レヴァークーゼンにとって想定通りの時間帯。一方で時間経過と共に最終ラインの高さを維持できなくなったり前線のプレス強度が弱まるとレヴァークーゼンにとってはあまりよくない時間帯となる。
レヴァークーゼンの最終ラインが高い位置をキープできている時は以下の4つのケースの場合が多い
・前後半開始10分程度のレヴァークーゼンがフレッシュな時間帯
チーム全体がフレッシュな時間帯のレヴァークーゼンは完全にトッテナムのビルドアップを妨害することに成功し、ハイプレス→カウンターという良い流れを作ることができていた。
カウンターが成功すると基本相手を押し込んだ状態でボールの主導権が変わるので、高い位置からプレスを開始することができる。この試合特にハイプレスにおいて特筆するべきは両SBのヘンリヒスとヘベンデウである。(Fig.4,5)
Fig.4 ヘンリヒスのボールリカバリー、タックル
Fig.5 ベンデウのボールリカバリー、タックル
いずれのデータをみても普通のSBであり得ないような回数のボールリカバリー数とタックル数であり、さらにそのエリアがハーフライン付近まで及んでいることがわかる。
たしかにこれらのデータからトッテナムはビルドアップに非常に苦労していたことがわかるが、レヴァークーゼンの前線からのプレスの強度は異常に高いので、一旦ロングボールや縦パスなどでプレスを回避することができた時にはすぐにチャンスメイクにつながるようなスペースが中盤に広がっていたことも事実であるが、レヴァークーゼンの前線プレスはこの試合よく組織され嵌っていた。
M.デンベレの負傷交代4-2-3-1から4-1-4-1への変更
この試合CFはソンフンミンが務めていたが、CFとしてはどうしてもスケールが足りなく消えている時間も多かった。一方でM/デンベレの負傷交代によってヤンセンが代わりにCFを務め、ソンフンミンがLSH、エリクセン、デレアリがISHの4-1-4-1へとなった。(Fig.6)
エリクセン、デレアリを中央でプレーさせること、ヤンセンがCFとなることでトッテナムの攻撃の危険度は増加したが、同時にエリクセン、デレアリ同時期用による守備の脆弱性も増加した。
トッテナムのゲームメイク-チャンスメイク、レヴァークーゼンの撤退守備
4-2-3-1の時も4-1-4-1の時もビルドアップの形の基本は「ワニヤマが最終ラインまで下がる」なのでレヴァークーゼンのハイプレスは基本嵌り続けた。ただし前述のようにハイプレスは何気ないロングボールやCBの有効なサイドチェンジ、スルーパスによって中盤に大きなスペースを相手に与えてしまうことがある。そういった意味ではダイアーのサイドチェンジ、スルーパスは割と精度が高くトッテナムの攻撃の質を支えていた。(アルデルヴァイレルドほどの頻度ではなかったが)
4-2-3-1と4-1-4-1の違いはビルドアップではなくゲームメイク-チャンスメイクに大きく影響していた。攻撃時消え気味だったM.デンベレの代わりに中央にデレアリ、エリクセンと並ぶことでカウンター、ボール保持攻撃の破壊力は明らかに上がった。
基本的にレヴァークーゼンはトッテナム陣地でボールを持つことに関しては大歓迎という感じだったが、自陣深くからリスク承知でビルドアップを行うことはほとんどなかった。ロングカウンターに移行できない場合はサイドライン付近へロングボールを配給し、繋げれば儲けもの、繋げなければハイプレスからカウンターを目指していた。(Fig.7)
Fig.7 レヴァークーゼンのビルドアップパス
実際レヴァークーゼンはボールポゼッションが41.4%%、ボールポジションは54.2%で、トッテナムがボールを保持しているものの相手陣地でのプレーはレヴァークーゼンの方が長いという結果になっている。
ただし、ハイプレス→カウンター志向型のチームにとって問題となるのは常にチームのペース管理。高い強度でのハイプレスやカウンター時のスプリントなど基本的に自分たちのペースの時は休まる時間がない。そのためボール保持攻撃ができない場合、ハイプレスが止まってくるとかならず相手ペースの一方的な時間ができてしまう。実際前半30分を超えた時間帯はレヴァークーゼンにとって恒例の苦しい時間帯となった。これに関してはカンプルをCHでプレーさせ、ビルドアップ時にSB化するというのが解決策となるが、3節同様カンプルSH起用は後述するチャンスメイクの質向上には欠かせないため難しい問題といえる。
前述のようにレヴァークーゼンがハイプレスで前線でボール奪取→カウンターと繋げていた時は特にJ。ブラントの機動力、カンプルのテクニックが素晴らしく、チャンスメイクの質は高かった。一方で押し込まれている時間帯もエリクセン、デレアリがレヴァークーゼンの2,3列目のライン間に位置していることが多くボール奪取した際にはロングカウンターでゴールに迫る場面もあった。(回数は少ないが)
J.エルナンデス、メフメディ、キースリンクのメリットデメリット
Fig.8 左からJ.エルナンデス、メフメディ、キースリンク
J.エルナンデスは前線からのプレスをさぼらず、カウンター時にはよくスプリントしている。実績としてもゴールゲッターとして嗅覚が優れているが、今シーズンは決定的な場面でゴールできないシーンが目立ち、ゴールゲッターとしてはやや不満な状態。またサイドに開いた時のプレー(クロス、1on1など)は苦手で典型的なボックス内輝きを放つ選手である。
メフメディは守備はほかの2人以上にしっかり行ない、SHからCFまで幅広くそつなくプレーできるため3人のなかではプレーエリアが最も広いが、得点力は2人に比べて劣る
キースリンクは他の2人はないエアバトルの強さがあり、ボール保持攻撃時のロングボールの受け皿として重要な働きができる。ただし足は遅く、スタミナも故障明けのためか不足しておりレヴァークーゼンのエネルギッシュなサッカーについていけきれてない部分も多い
こんな感じで3人ともなんらかの問題を抱えているあたりがレヴァークーゼンが1.5流にとどまっている原因だと思う。実際行っているサッカーはとてもユニークでエネルギッシュだが、とにかく作っているチャンスの質に対してゴールが少なすぎる。逆にこの部分が解決されればレヴァークーゼンはもっとよくなると思う。
トッテナムのチャンス
07m10P(2-20-17-19-33)Grade4
21m20T(19-20-17)Grade4
32m00P(5-23M)Grade4
43m40P(23-9-17-23-12-23)Grade4
45m30P(7-33-9)Grade4
47m40P(12-20-7-20)Grade5
47m50P(23M)Grade5
57m50T(12-7-33-20-9)Grade4
59m10P(2-23-2)Grade5
63m10P(20-17)Grade4
66m10CK-P(7-33-12)Grade4
69m50P(1-17-2)Grade4
82m00FK-P(15M)Grade5
82m00P(15M-9)Grade5
83m10P(12-29-33M)Grade4
レヴァークーゼンのチャンス
03m20P(18-7-14-7-39-15-44)Grade4
03m30P(18-39-14)Grade4
05m20T(24-7-19-14offside)Grade4
13m30T(39-20-7)Grade4
15m00T(15-44-7)Grade5
15m30T(39-14)Grade4
28m20T(18-19)Grade4
38m00P(20-14-19)Grade4
42m10T(39-44-7-19-7)Grade5
44m20T(15-7-19-14-20)Grade4
60m20T(14-7)Grade5
60m30T(7-7)Grade5
64m00P(20M-44)Goal
76m40T(15-18-14-44-7)Grade4
79m20CK-P(10-24)Grade4
94m20P(14-7)Grade4
前半はレヴァークーゼンのハイプレス→カウンターがよく嵌っていたが、後半になるにつれ足が止まり、トッテナムのボール保持攻撃の脅威が増した。特に47分のペナルティエーエリア内で倒されたデレアリのシーンや82分のダイアーの直接FK、こぼれ球に反応したヤンセンなど重大なチャンスがいくつかあり引き分けになってもおかしくなかった。
余談
これでトッテナムは1勝1分2敗の勝ち点4、レヴァークーゼンは1勝3分で勝ち点6となりレヴァークーゼンは2位突破に向けて超重要な勝利をつかんだ。H.ケイン、アルデルヴァイレルドの欠場はトッテナムに大きな影響を与えてしまったと思う。
UCL16-17-E4-モナコ.vs.CSKAモスクワ
UCL16-17-E4-Monaco.vs.CSKA
まずはスタメンから
白がモナコ、黒がCSKAモスクワ(Fig.1)
Fig.1 モナコvsCSKAモスクワ
モナコは4-4-2
B.メンディがLSBに定着し、ルマー、B.シウバがSHコンビを組み、ファルカオがCFに復帰したことで今季の基本的な形ができ始めた。CL3節終了時点ではリーグ戦6勝1分2敗とそこまでいい成績ではないが、ここから特に攻撃陣が爆発していくことが予想される布陣である。
CSKAモスクワは4-4-1-1
3節モナコ相手にゴールを決めたL.トラオレはお休み。正直ゴールを決めた以外のプレーはあまり芳しくなかったため、ストランドベリが代役を任されることも納得できる。一方でそれ以外のメンバーは3節でも十分なプレーを見せていたので大きな変更はない。怪我のV.ベレズスキに代わってA.ベレズスキがRCBに入っていることくらいだろう。
試合の概要
試合は3-0でモナコの勝利で終える。11分にFKのこぼれ球からジェルマンが抜け出しモナコが先制する。さらに27分にはB.メンディのドリブル突破からの鋭いクロスをファルカオが決め2点目、41分にはショートカウンターでジェルマン→ファルカオとつなぎファルカオが決めて3点目。試合のほとんどをモナコが支配していたが、前半よりも後半のほうがモナコのチャンスの質はむしろ高かった。モナコの個人の質の高さは欧州でも抜けたレベルになってきている。
この試合においてCSKAモスクワのチャンスメイクはほとんどないわけだが、CSKAモスクワがボールを保持した時のモナコの対応を見ていく。
まずゴールキックの場合はCFのストランドベリをターゲットにしたロングボールがほとんどで、その効果はL.トラオレがスタメンだった時よりも効果は薄いものだった(Fig.2)
Fig.2 ストランドベリのエアバトル
ポジティブトランジション時も押し込まれてしまっていることが多く、カウンターに結びつけることはほとんどできていなかった。そのためポジティブトランジション時のほとんどは低い位置からのボール保持攻撃となる。この時のCSKAモスクワのビルドアップは最終ライン4枚によって行われるが、モナコは3節よりも高い位置からCSKAモスクワの守備を潰しにかかった。モナコの守備は、とにかくCSKAモスクワのビルドアップに関与するであろう6人に対してほぼマンツーマンに近いような形で行うことだった。(Fig.3)
Fig.3 モナコの前線守備
当然モナコの最終ラインは4人または5人(ファビーニョまたはバカヨコが下がっているような形)で4人相手しなくてはいけないため、思わぬロングボールからCSKAモスクワが数回ボールを前に運ぶことはあった。しかしモナコの前からのプレッシャーに屈するような形でのロングボールを出すことが多かったCSKAモスクワの攻撃の質は低かった。(Fig.4)
Fig.4のように自陣浅い位置でのリカバリー回数が多い要因は、間違いなくロングボールを蹴らせたことによる寄与が大きい。
CSKAモスクワのチャンスメイク
14m50T(7M)Grade4
18m40P(3-2-7-42-2)Grade4
24m00P(66-7-2-7-17-23)Grade5
24m20P(66-3-11)Grade5
42m10P(3-66-3-23)Grade4
59m00P(3-7-2)Grade4
そもそものチャンス量が少なかったのは確かだが、やはりモナコは高い位置から守備を開始している分、CSKAモスクワにも突然チャンスが降ってくることはあり、24分の2つのチャンスはまさしくそういったものだった。ただし決めていたとしてもモナコは2点目、3点目を取るだけの力は間違いなくあったのでいずれにしても負けていたとは思うが。
モナコのビルドアップはCB2人とCH2人で行われる。誤解を恐れずに言えば2-4-2-2というのがこのチームの本来の姿である。(Fig.5)
Fig.5 モナコのビルドアップ
モナコのビルドアップの特徴は以下の通りである
・ジェメルソン、グリックは左右に大きく開く傾向にある
・ドライブできる場合には特にジェメルソンはドライブする。その際バカヨコが最終ラインのフォローをかかさない
・基本的にCBからルマー、B.シウバ、ジェルマン、ファルカオにめがけてロングボールという形
一方でCSKAモスクワの守備の特徴は以下のとおりである
・3節と同じ4-4-1-1が基本
・ストランドベリはボールを持ったCBにプレス
・ゴロビンはボール保持者に近いほうのCHを監視
・ディフェンスラインはそこまで高く設定されていない
結果から先に言うとモナコは3節以上にうまくボールを前に運べていた。
Fig.6 ファルカオ(左)、ジェルマン(右)
理由の大半はおそらくファルカオの復帰と復調による部分が大きいと思う。まず、大前提としてファルカオへのロングボールがかなりの頻度で収まっていた。これはモウチーニョやB.シウバなどCFをファーストポジションにしていない選手では絶対にできないレベルで復調の証とみていいだろう。また、ファルカオはロングボールを浮いて受けることもあったが、ディフェンスラインの裏を狙うような動きを何度もしており、A.ベレズスキとイグナシュビッチはファルカオの動きにかなり手を焼いていた。
ファルカオが裏抜けをねらってディフェンスラインにプレッシャーを与えることができた時は、ジェルマンがロングボールを受けにいったりとお互いの存在が相乗効果となっていた。
じゃあナチョやバーンブルームがファルカオのスペースを制限しようとすると今度は一番ボールを持たせたくないB.シウバとルマーがフリーになってしまう。結局こんなジレンマからモナコはロングボールでもスムーズに前に運ぶことができていた。
3節のおさらい
3節時のCSKAモスクワはハーフラインまでボールを運ばれた時4-4-1の9人で対応し、L.トラオレがデスコルガードとなっていた。前半はそれでも守れていたが、後半B.メンディの投入、シディベが本来のRSBへポジションチェンジ、B.シウバのSH起用によって完全に一方的な状態となっていた。
4節の対応
当然、3節であれだけ一方的に殴られていたCSKAモスクワは4-4-1ではなく4-4-2でしっかりとディフェンスをしようとする。(Fig.7,8)
Fig.7 CSKAモスクワの4-4-2
Fig.8 モナコの2択
ただしCSKAモスクワの4-4-2はモナコのサイド攻撃の破壊力の前ではほとんど意味がなかった。
モナコのゲームメイクの特徴は以下のとおりである
・B.シウバとルマーがインサイドにポジショニング
・ジェルマンとファルカオは最終ラインと常に駆け引き状態
・B.メンディとシディベのSBコンビは高い位置を維持
ナチョとバーンブルームは当然B.シウバとルマーを監視することになるが、Fig.8の場合イオノフの位置取りは結構難しい。シディベに近すぎればB.シウバが受けるスペースを増やしてしまうし、中央に寄り過ぎればシディベはフリーになる。
基本的にCSKAモスクワは中央を固めることを優先したが、シディベとB.メンディがこの位置でボールを受けた場合、ほとんどの確率でクロスまで持って行ってしまっていた。
B.メンディとシディベの躍動
Fig.9 B.メンディ(左)、シディベ(右)
B.メンディは左利き、シディベは右利きなので対面するディフェンダーがいてもおかまいなくクロスを上げてくる。そしてクロスの質が異常に高く、オーバーラップ時のスプリント距離、回数などとにかく身体能力が高い。(Fig.10,11)
Fig.10 B.メンディ、シディベのクロス回数
Fig.11 モナコのクロス回数
とにかくこの2人のクロス攻撃はシンプルでありながらモナコにとってもっとも優れた武器となっていた。実際にB.メンディのクロスからファルカオがゴールしているが、当然の結果ともいえた。
失点後のCSKAモスクワのリアクション
11分にジェルマンが先制点をあげると、CSKAモスクワも前線から積極的に守備を行うようになる。ただしモナコの前線守備でも述べたように、高い位置からの守備はうまく嵌らないとチーム全体が間延びしてしまいかえって守備が不安定になる。最初の失点をしてからのCSKAモスクワは前線守備によってB.メンディ、シディベ、B.シウバ、ルマーにスペースを提供してしまい、そこから守備は本当にボロボロになってしまった。
モナコのチャンスメイク
01m40P(19-10-9-2-19-10-27)Grade5
06m50P(10-19-9)Grade4
10m50T(23-10-23)Grade4
11m00P(23-27)Grade4
11m50P(25-18)Goal
13m20P(19-2-9)Grade4
23m00P(10-19-18-19)Grade4
27m40T(10-23-9)Goal
32m20T(10)Grade4
32m50CK-T(27-25)Grade4
34m30P(19-10-2-10-18)Grade4
40m50T(2-9-18-9)Goal
51m30P(27-9-27-23-9)Grade5
52m40P(1-27-2-19-18)Grade5
54m20T(23-27-23-9)Grade5
55m20T(19-10-19-9)Grade4
56m30P(2-9-18M)Grade4
57m00P(19-2-27-23-9)Grade5
63m50T(9-27-23)Grade4
67m30P(14-18-19-10-19-10)Grade4
69m40P23-14-2-14-2-14M)Grade4
80m00P10-19-18)Grade5
84m30P(2-29-14)Grade5
85m20T(19-29-19-10)Grade4
87m40P(19-29-19-10-29-11)Grade5
90m00P(19-27-11)Grade4
92m00P(11-10M)Grade4
チャンス量の違いは明らかで、Grade3以上のチャンスが37個、Grade4以上のチャンスが27個、Grade5のチャンスが11個と今期のモナコのUCLの試合の中では圧倒的に一番良かった。ファルカオはボックス内でのクロスへの対応が素晴らしく、ロングボールの受け方も同様によかったためこの調子が続けば世界最高レベルのCFに復帰したといっても差し支えないだろう。
後半は20分を過ぎたあたりから両者の試合に対するモチベーションが低下していったが、モナコのSBはチャンスと見るや試合終了まで爆発的なスプリントを何度も披露していた。
余談
3節の後半から感じたとおりの試合が4節に確認できたという感じだった。システムが素晴らしいというよりかは個の能力がとても高いため、このチーム相手にシステムで止めるチームは出てくるのかが今後興味深い。
UCL16/17-E3-CSKAモスクワ.vs.モナコ
UCL16-17-E3-CSKA.vs.Monaco
まずはスタメンから
赤がCSKAモスクワ、白がモナコ(Fig.1)
CSKAモスクワは4-4-1-1
ザゴエフが怪我で欠場のためナチョが代役として出場している以外に特筆するべき点はない。
モナコは4-4-2
こちらもスタメンは2節と変わらない。苦しい試合が続いているがなぜか勝ち点を手にしている不思議なチーム。
試合の概要
試合は1-1で引き分けで終える。33分にZ.トシッチのシュートをはじいたスバシッチだったがL.トラオレに押し込まれてCSKAモスクワが先制する。86分にはカリージョのシュートをはじいたアキンフェエフだったが、B.シウバがしっかりと押し込んでモナコが同点に追いつく。前半のモナコのボール保持攻撃はレベルが低くCSKAモスクワのロングカウンターの餌食になる場面が多かったが、後半のモナコはカリージョ、B.メンディーといった選手が入ることでボール保持攻撃の精度と破壊力があがり結果的に同点に追いつくことに成功した。
モナコのビルドアップ
ここまでの2試合からもわかるようにモナコの最終ライン勢はビルドアップを得意としていない。ファビーニョやバカヨコがサポートすることでビルドアップすることが多いが、ビルドアップに人数をかけすぎてしまうことで、前線が独力でチャンスメイクしなければならないという状況が増えてしまう。CSKAモスクワは4-4-1-1を守備の基本とした(Fig.2)
Fig.2 CSKAモスクワの4-4-1-1
CSKAモスクワの守備の約束事は以下のとおりである
・L.トラオレはグリック、ジェメルソンを遠ざけるようにプレス
・ファビーニョもしくはバカヨコがビルドアップに参加しようとした時はゴロビンがプレス
・シディベ、ラッギがビルドアップに参加しようとした時はZ.トシッチ、イオノフが監視
CSKAモスクワはゴロビン、L.トラオレの2人でファビーニョ、バカヨコ、グリック、ジェメルソンを監視することでビルドアップの妨害を図り、これまでと同様やはりそれはうまくいっていた。もちろん4人を2人で守っているのでハーフラインまで進まれてしまうことはあるが、十分ビルドアップを制限できていたと思う。(Fig.3)
Fig.3 CSKACSKAモスクワのボールリカバリーエリア
モナコのゲームメイク-チャンスメイク、CSKAモスクワの中盤守備
CSKAモスクワはハーフラインまでボールを運ばれるとL.トラオレがデスコルガードとなり、4-4-1の9人で守備を行う。基本的にゴロビンがバカヨコ、ファビーニョを牽制しつつ、オーバーラップ頻度が高いモナコのSBにしっかりZ.トシッチとイオノフが守備をするという設計となっていた。モナコは押し込むとFig.1の形から少し変化し、モウチーニョはより中央でプレーし、B.シウバはサイドに開くことが多い。(Fig.4)
FIg.4 B.シウバとモウチーニョの得意プレーエリア
~モナコのチャンスメイクがうまくいかない理由~
B.シウバはとてもボールキープ力があり、クロス精度もかなり高くインサイドでプレーをした時には周りとのコンビネーションを生かせるためかなり前線での使い勝手がいい選手である。
一方でモウチーニョはビルドアップやロングボール能力は確かに優れているものの、前線で体を張ったりすることは得意ではなく、ライン間でボールを受け周りとのコンビネーションを必須とする選手である。現状モナコのビルドアップは人数をかけすぎる傾向があるので、もっと個の能力で前に進める選手のほうがモナコのSHとしては適切であるといえる。(ルマーやムバッペ、B.シウバのような)
B.シウバのクロス精度は確かに正確だが、エリア内に飛び込んでくる選手は基本ジェルマンのみとなりモウチーニョはエリア内でのプレーを得意としていない。いくらクロス精度が高くてもエリア内にいる選手が少なければ当然チャンスメイクしづらくなってしまう。
モウチーニョ、B.シウバのポジションチェンジによる弊害
デスコルガードとしてL.トラオレを前線に置いていることからもわかるように、CSKAモスクワはロングカウンターしかかつ道はないと考えていたと思う。実際ゴールキックも十中八九L.トラオレへのロングボールだったし、カウンター時のイオノフ、Z.トシッチの前線へのスプリントは尋常じゃなかった。
ここでモナコのボール保持攻撃方法がCSKAモスクワにとってつけ入る隙となった。基本モウチーニョはインサイドでプレーするため、横幅はシディベのオーバーラップによって補うことになるが、一旦CSKAモスクワがボールを奪取するとシディベの裏のス広大なスペースは、CSKAモスクワにとって大きなチャンスエリアとなる。これ以外にも以下に上げる理由からCSKAモスクワは前半カウンターからチャンスを量産する。
Fig.5 左からゴロビン、Z.トシッチ、イオノフ、L.トラオレ
CSKAモスクワがロングカウンターを量産した理由
・モウチーニョ、シディベのポジショニング問題
・イオノフ、Z.トシッチのスプリント能力
・ゴロビンのカウンター時のプレー精度と判断能力
なお、L.トラオレはそのフィジカルでカウンターを成功させることに貢献していたものの、足元のスキルが全くないためチャンスメイクの質を著しく落としてしまっていた。他にいいCFがいればCSKAモスクワは前半のうちに2点入れてもおかしくなかったと思う。
ゴロビンは21才でありながらすでにCSKAモスクワの中心選手となっており、特にカウンター時のプレーは素晴らしかった。おそらく2018W杯でもロシアの中心メンバーになること間違いなしなので名前だけでも覚えておいて損はない選手である。
CSKAモスクワのチャンスメイク(前半)
10m10T(7-3-11-17-11-9)Grade5
13m30T(17-11-17-11-17-7)Grade4
17m40T(2-17-7-9-17-9)Grade4
22m40P(9-17)Grade4
24m50P(3-2-3-66-7)Grade5
27m40P(3-17-66-17-11-4-42-11-7)Grade4
30m50P(3-2-7-2-9)Grade4
33m20P(4-66-2-7)Grade5
33m30P(7-9)Goal
35m10P(35-42)Grade4
42m10P(7-2-66-7)Grade4
モナコのチャンスメイク(前半)
14m10P(2-27-24-27)Grade4
15m50P(2-10-18M)Grade4
16m20P(25-18-10-27M)Grade4
19m40T(2-18-10)Grade4
21m50P(19-10)Grade4
28m50P(8-24-10-2-10offside)Grade4
39m00FK-P(27-18)Grade5
40m40P(2-27)Grade5
41m00CK-P(27-24)Grade5
42m40T(18-27)Grade5
基本的にモナコのチャンスは前述のようにルマーやB.シウバのクロス精度に頼ったものが多く、単発的なものが多かった。また、ルマー、B.シウバ、モウチーニョとプレースキッカーをそろえているというのも大きな強みであり、セットピースからいくつかのチャンスを作っている。
後半にむけた変更点
前半の終盤にモウチーニョが負傷のためカリージョと交代し、CSKAモスクワはハーフタイムにイオノフをミラノフに変更した。イオノフを変更した理由については不明。このため後半は以下のようなフォーメーションとなる。(Fig.6)
モナコのフォーメーションは4-4-2といってもよいが、SBのオーバーラップ、SHがインサイド気味でプレーしていたことを考えるとFig.5のような2-4-2-2といっても差し支えないだろう。
Fig.6 後半の両チームの形
Fig.7 B.メンディ、シディベ、B.シウバ、カリージョ
後半45分間モナコが押していた理由
・ファビーニョ、バカヨコへのプレス強度低下
・L.トラオレの守備放棄
・B.シウバ、ルマーのサイドハーフコンビ
・B.メンディーの登場
前半CSKAモスクワがうまく守れていた理由はゴロビンがファビーニョとバカヨコを自由にさせなかったためであるが、後半になると運動量が落ちてあまりこの2人を監視することがチーム全体として難しくなってくる。73分までゴロビンはトップ下の位置で守備、攻撃の中心となり、その後はナチョがトップ下となるが完全に撤退することを選んでしまっていた。
また、撤退するのであれば、L.トラオレはデスコルガードではなく4-4-2で10人で守るべきだったと思うが、CSKAモスクワがそういったアクションにでたのは83分になってからだった。
前半モウチーニョが攻撃にうまく参加できていなかったが、後半はB.シウバ、ルマーがSHになること、カリージョがCFとしてプレーすることで単純なクロス攻撃でも大きな脅威となった。そういった意味でモウチーニョの怪我による交代はモナコにとって怪我の功名となった。
そして68分にB.メンディがラッギと交代することで、最終的にLSBにB.メンディ、RSBにシディベという構成になったモナコ。(FIg.8)
Fig.8 最終的な両チームの形
超攻撃型の布陣だが、B.メンディのクロス精度も高く、シディベもRSBとしてプレーしている時の方がクロス精度が上がっていた。(Fig.9)
Fig.9 モナコのクロス数とエリア
CSKAモスクワのチャンスメイク(後半)
51m50P(2-7-2-17-66-7-8-17)Grade5
77m40P(66-17-66-9)Grade4
84m10T(72-17-66M)Grade4
モナコのチャンスメイク(後半)
59m10P(14-27-19)Grade4
63m50T(2-19-10)Grade4
64m10P(10-27-18)Grade4
64m40P(14-5-14)Grade4
67m00P(14-2M)Grade4
67m10P(27-18)Grade5
71m30T(14-23)Grade5
73m10T(2-11-19)Grade4
76m40P(19-27-10-27-18)Grade5
76m50P(18-10)Grade5
77m00P(19-2-25offside)Grade4
78m20P(27-2-14-27-23)Grade4
80m30P(2-14-23)Grade4
81m20P(10-23-14-23)Grade4
84m00P(27-19-18)Grade4
86m00P(27-10-11-29-11)Grade5
86m10P(11-10)Goal
89m20P(27-19-10-19-10-19-18)Grade5
90m30T(10-19-11)Grade4
余談
とにかくジェルマンが決定機を外しすぎたわけだが、後半はしっかりとモナコの攻撃の形を作っていた。だんだんと今季のベスト布陣に変化してきているモナコだが、この試合は一つのターニングポイントとみてほぼ間違いないだろう。