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UCL16-17-D1-PSV.vs.アトレティコマドリード

UCL16-17-D1-PSV.vs.AtleticoMadrid


赤がPSV、黒がアトレティコマドリード(Fig.1)

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Fig.1 PSVvsアトレティコマドリード

 

PSVは5-4-1

UCL15-16ではマンチェスターユナイテッドと同組になりつつも2位フィニッシュし、Round.of.16ではアトレティコマドリードと210分でトータルスコア0-0と奮闘している。あまり見たことがないチームなので今シーズンからしっかり見ていこうと思う。

 

アトレティコマドリードは4-4-2⇔4-5-1

アトレティコマドリードの最大の強みは守備といわれているが、セットピース、ボール保持攻撃といろいろな側面を見せてきている。それを可能にしているのは最終ラインを除く6人がかなりポリバレントにプレーできるという部分が大きい。

 

試合の概要

試合は0-1でアトレティコマドリードが勝利する。42分のガビのコーナーキックのこぼれ球をサウール.Nがうまく合わせた。試合としては、PSVのロングカウンター(ロングボール)の質vs改善されたアトレティコマドリードのボール保持攻撃の量となったが、そこまで大きな差はなかったと思う。差があったとすればPSVのPK失敗と誤審、そしてアトレティコマドリードの状況対応力だろう。

 

PSVの撤退守備、アトレティコマドリードのビルドアップ-ゲームメイク

今までのアトレティコマドリードの最大の強みは守備→カウンターorセットピースとすれば、弱みはボール保持攻撃の個々の選手の質という部分にあった。そのため、近年その硬すぎる守備に対抗するために、アトレティコマドリードにボールを持たせるチームが増加しており、PSVもその例に漏れなかった。


PSVの守備は5-4-1で自陣に引きこもり、アトレティコマドリードのビルドアップを全く妨害しなかった.(Fig.2)

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Fig.2 PSVの撤退守備

アトレティコマドリードはハーフラインまでは簡単に進むことができた。ただし問題はPSVの撤退守備を崩せるのかということ。

この時のPSVの約束事は以下の通りであった。

・ボールサイドにコンパクトに全体がまとまる(Fig.3)

・H.モレノ、シュバープはガメイロ、グリーズマンのライン間のポジショニングに対し迎撃姿勢をとる

・SB(ファンフラン、F.ルイス)のオーバーラップに対してはヘンドリクスとナルシンがついていく

この3つを守ることでアトレティコマドリードの攻撃方法を制限しようとした。

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Fig.3 コンパクトなPSVの撤退守備

一方でアトレティコマドリードはボールサイドからショートパス交換とポジションチェンジを頻繁に行うことでチャンスを作ろうとした。具体的な役割としてはガビがピボーテ、コケ、サウール.Nはインテリオール、ガイタンはサイドハーフという少し左右非対称ではあったものの、特にファンフラン側からゲームメイクを行った。

 

しかし、結論から先に言うとアトレティコマドリードPSVの撤退守備に対してうまく対応していた。

例えばFig.3のようにあまりにも偏っているようであれば、ガビ、コケがSBのオーバーラップに合わせてサイドチェンジすることでサイドアタックの精度をあげていたことも理由の1つだ。


それ以外にもグリーズマンとガメイロに対するH.モレノとシュバープの守備範囲を逆手に取った攻撃もよく見られた。(Fig.4)

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Fig.4 アトレティコマドリードのゲームメイク-チャンスメイクI


Fig.5 アトレティコマドリードのゲームメイク-チャンスメイクII
具体的には、H.モレノやシュバープは迎撃するために2列目まで飛び出してくることが多い。ここまでのパスワークを外→外→外・・・とパスをつなぎながらポジションチェンジを繰り返しておいて、最終ラインのバランスが崩れた時(Fig.4)に中へのパスでスイッチしてくるのがアトレティコマドリードの特徴だった。(Fig.5) 

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アトレティコマドリードの素晴らしい部分は攻撃においても守備においてもポリバレントにあふれる選手が多いということ。攻撃面で言えば、コケはCHとしてパスを多方向に供給することもできるし、ISH、SHとしてSBやCFとコンビネーションをとってFig.4のような細かい崩しにも参加できる。SBはインナーラップとオーバーラップを場合によって使い分けることができる。

 

残念ながらUCL15-16自体あまり見ることができていなかったので定かではないが、アトレティコマドリードはボール保持攻撃においてかなり改善しているように感じた。

 

PSVの攻撃、アトレティコマドリードの変幻守備

PSVは撤退守備だったので、基本は自陣から攻撃をスタートする。一方でアトレティコマドリードは経過時間に合わせて自分たちの守備の方法を変化させ、運動量を保とうとした。

 

0~25分までのアトレティコマドリードの守備

ガメイロがN.イジモミランを監視し、脇のCBにボールが渡った時には、コケ、グリーズマン(サウール)が高い位置からプレスする。(Fig.6)

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Fig.6 アトレティコマドリードの4-5-1守備I

このとき、中央のグアルダード、ヘンドリクスを明確に捕まえる選手が定まっていなかったためか、グアルダード→ヘンドリクス→ビレムスのクロスという形がよく確認された。そのため、下がるくあるだーどに対してはサウール.Nが監視することでPSVのボール循環を制限した。(Fig.7)

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Fig.7 アトレティコマドリードの4-5-1守備II

中盤のサウール.N、コケが前線へのプレスとグアルダードの監視という仕事があったのでこの時間帯はこの2人が一番大変だったと思う。ちなみにPSVはショートパスで何が何でもつなぐというチームではなく、「ロングボールでルークデヨングになんとかポストの仕事をしてもらう」だったので、アトレティコマドリードにとって、プレスの労力に見合う成果は得られなかったかもしれない。

 

25~35分くらいまでのアトレティコマドリードの守備

今度はハーフラインまで撤退して4-1-4-1で守備を行うようになる。(Fig.8)

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Fig.8 アトレティコマドリードの4-5-1の撤退守備

25分くらいからプレス開始ラインを少し下げて4-1-4-1となる。この時間帯(序盤にアトレティコマドリードを押し込んだ時も含め)のPSVはロングボールを放り込んできたため、ゴディン、ヒメネスを筆頭として最終ラインに最も負担がかかった。

 

35~65分までのアトレティコマドリードの守備

35分超えてからはガメイロとグリーズマンが1列目の4-4-2となる。このとき前半の序盤と異なったことは、1列目のガメイロとグリーズマンが精力的に動くことでビルドアップを妨害したこと。これによってサイドからの攻撃への対策に絞った。

 


変幻自在のアトレティコマドリードのフォーメーション

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Fig.9 左からガビ、サウール.N、コケ、グリーズマン

60分にガイタンをチアゴに変更してからは、コケがRSH、チアゴがCHに入り、4-4-2を形成し、64分にガメイロをカラスコに変更してからは、グリーズマンをトップ、SHをコケ、カラスコに固定した4-5-1に、76分にサウール.NをF.トーレスに変更してからは、F.トーレスをトップ、SHをグリーズマンカラスコ、ISHをコケ、ガビにした4-5-1で守備を行った。

 

このように特にサウール.N、コケ、グリーズマンは守備、攻撃においても様々なポジションに対応することができた。これによって、守備の負担をいろいろな選手に分散することで守備の強度を保つことに成功している。もちろんこれは全ての選手の能力が高くなければいけないので簡単なことではないと思う。こういった変幻自在の守備を行ってきたチームとしてEURO2016のポルトガルがあげられるが、あのチームもA.ゴメス、J.マリオ、モウチーニョ、A.シルバといったポリバレント性にあふれる選手がそろっていたのはたぶん偶然ではない。

 

PSVのチャンスメイク、アトレティコマドリードのチャンスメイク

PSVのチャンス

04m20P(18-3-9)Grade5

19m50T(18-11)Grade5

45m20P(11-9-8-11)Grade5

46m40PK(18)Grade5

 

54m50P(5-20-9)Grade4

58m20P(3-9-8)Grade4

73m00P(5-20-9)Grade4

74m40T(3-11)

75m20CK-P(18-9)

81m40P(15-27M)Grade4

84m40P(7-15-9)Grade4

88m50P(15M)Grade4

90m00P(3-15-7)Grade5

92m10P(18-23M)Grade4

先ほどまでのアトレティコマドリードの守備の説明をみるとPSVは全く攻撃がうまくなっていないという印象があったかもしれないが、ロングボールを使った攻撃はなかなか迫力があった。


具体的に言えばターゲットをルークデヨングに当て、時間を稼いでいる間にナルシンのスピードで勝負するという至極シンプルで、プレミアリーグの下位チームのようなスタイルだった。ただしルークデヨングのエアバトルはこの試合の中で完全に抜けていた。(Fig.10)

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Fig.10 ルークデヨングのエアバトルの成否とエリア

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Fig.11 ゴディン(左)、ヒメネス(右)のエアバトルの成否とエリア

ゴディンやヒメネスがこれだけ負け越すことはかなり珍しい。ロングボールの質も高かったかもしれないが、ルークデヨングはあらゆるエリア、時間帯で勝ち続けた。

 

これにともなってナルシンの裏抜けがとても生きてくるわけだが、これを良くも悪くも邪魔したのはイングランドの審判陣だった。(Fig.12,13,14,15)

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Fig.12 4分のH.モレノ→ルークデヨングのチャンス
ちなみにこのチャンスはルークデヨングのオフサイド判定となりノーゴールだったが、明らかにルークデヨングはオンサイドである。

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Fig.13 19分のナルシンの裏抜けvsゴディン

ナルシンの裏抜けに対してゴディンが後ろから対応していた場面だったが非常に怪しい。明らかというほどのものではなかったがPSVにとってはつらい判定が続いた。

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Fig.14 45分のナルシンの突破vsヒメネスのスライディング

このシーンは帳尻合わせ的な側面が大きい。ヒメネスのスライディングに全く触れていないナルシンがこけてPK判定。さすがに審判の能力を疑わざるを得ない。

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Fig.15 ゴディンvsルークデヨングのエアバトル

75分のCKの場面だったが明らかにハンド、ただし審判(というか副審含めて)無視。

正直言ってここまでの試合の中で最もひどい審判団だったといえる。主審はM.アトキンソン、まあプレミアリーグのブレブレの試合はこれくらい判定がめちゃくちゃなので不運だったとしか言いようがない。ただしちゃんとした審判だったらPSVは勝利している可能性もあったほど、前線のフィジカルは素晴らしかった。

 

アトレティコマドリードのチャンス

02m00P(8-3-6)Grade4

12m00P(14-6-7-3-21-6M)Grade4

12m40CK-P(6-8)Grade4

18m00FK-P(14-7-2)Grade4

20m10T(7-21)Grade4

21m10P(23-7)Grade4

22m30P(6-20-8)Grade4

37m20P(14-20-23)Grade4

40m20T(8-6-7-21)Grade4

41m50CK-T(14-8)Grade5

42m00CK-T(8)Goal

 

50m10P(14-6-20)Grade4

51m40P(14-23-21-8-21)Grade5

53m50P(7-3-6-3)Grade4

56m20P(6-7-21-7)Grade4

60m30T(3-6-7-21)Grade4

68m10P(3-10)Grade4

70m10P(6-5-7)Grade5

80m10P(6-10-3-6-10-6-7)Grade4

 

アトレティコマドリードとしてはドン引きしたPSV相手にうまくチャンスメイクできていたと思う。チャンスメイクの回数が増えることで、強みだったセットピースの回数も増え、いいサイクルとなっていた。

 

一方で後半はPSVも追う立場なので前線からの守備も増え、ビルドアップで躓くこともあった。しかしその分前線のスペースが増え、チャンスメイクの質が相対的に上がっていた。どちらにも対応できるようになったという意味でアトレティコマドリードはとてもいいチームになってきている。

 

余談

審判に壊された試合ではあったが、両者の強みがよくわかる試合でいい試合だった。