UCL16-17-C1-マンチェスターシティ.vs.ボルシアMG
UCL16-17-C1-ManchesterCity.vs. BorussiaMG
まずはスタメンから
マンチェスターシティは4-3-3。
フェルナンド、デルフ、コンパニが怪我で欠場。監督がグアルディオラに変わってからサッカーの方向性がガラリと変わったが、最終ラインのボールスキルは今までグアルディオラが率いてきたバイエルンやバルセロナと比べると低いため、少々苦労している。
ボルシアMGは3-4-1-2
基本的にはカウンター志向のチームなので、中盤で如何にしてボールを回収してカウンターにつなげられるかが重要となる。そういう意味ではスピードに強みをもつT.アザールがこの試合のスタメンでなかった理由はよくわからなかった。
試合の概要
試合は4-0でマンチェスターシティが勝利する。7分にコラロフのクロスからアグエロが、27分にはギュンドアンが獲得したPKをアグエロが、76分にはスターリングからのスルーパスをアグエロが、90分にはサネからのクロスをイヘアナチョが決めてマンチェスターシティが快勝した。ボルシアMGは3バックと4バックを試合中に使い分けたが、マンチェスターシティはそれぞれに完璧に対処したうえでチャンスメイクし続け、内容結果共に完璧だった。
ボルシアMGの守備の理想はおそらく、オールマンマークをおこなうことで相手のビルドアップを妨害しカウンターへ移行していくことだったと思う。
・フェルナンジーニョにはシュティンドル
・ギュンドアン、デブライネにはC.クラマー、M.ダフド
これが基本的なマンマークの相手だったと思うが、マンチェスターシティはこういった状態に対して「ファルソラテラル」を使ってうまく対処した。
ファルソラテラルとは、本来SBの選手がビルドアップ時にボランチのポジションでプレーすることで相手のマンマークのバランス崩壊とカウンター時のリスク低減を行うポジションチェンジ方法
マンチェスターシティのビルドアップ時のポジションは以下のようになった(Fig.2)
Fig.2 マンチェスターシティのビルドアップI
オタメンディが開いてストーンズが中央に居座ることで疑似的に3バックを形成
この時ボルシアMGの前線2人は相手のCBの位置に合わせてマークしているので、必然的にコラロフをF.ジョンソンがマークすることになる。
この時もっとも重要なことはサバレタがボランチのような位置にポジショニングするということ。こういう場合O.ベントまたはM.ダフドがサバレタをマークすることになってしまい、全体が砂時計のような形になるため、中央の脇に多くのスペースが生まれてしまうことがわかると思う。
このスペースをデブライネ、J.ナバスが活用できれば、マンチェスターシティはハーフスペースを5vs5で展開することができるためボール保持攻撃でありながら疑似的なカウンターのようにプレーすることができる。
後は簡単な2択でその後のプレーを予測することができる。例えば、
M.ダフドがサイドのスペースを埋めようとした場合
中央のスペースをアグエロが使うために下がってくる
J.ナバスが下がって受けようとした時にシュトローブルがついてきた場合
アグエロが裏抜けを狙う
といったようなプレー展開が予想され、実際にこういったプレーは多く確認できた。
「ファルソラテラルの難しい要素」
じゃあどのチームもフファルソラテラルを採用すればいいじゃないのか?という疑問は当然生まれてくるが、採用しているチームはバイエルンやレアルマドリードなど欧州のトップクラスに現状は限られている。理由は簡単でファルソラテラルを採用するためにはサイドバックとセンターバックさらにゴールキーパーに高い戦術理解度とボールスキルが求められるからだ。
Fig.3 左からコラロフ、オタメンディ、サバレタ、ブラーボ
まずセンターバック、例えばオタメンディには中距離のパスを通すスキルとそれに伴う広い視野が求められる。これはビルドアップだけでなくゲームメイクまで求められるということであり、J.ボアテングがEURO2016でその能力をいかんなく発揮していたのは記憶に新しい。そして当然高い位置でプレーするということは、従来以上の守備範囲とスピードが求められる。
次にサイドバック、サバレタのように中央にポジションチェンジする選手は当然中央でのゲームメイク能力、ポジション感覚などもともとサイドバックの適性能力とは全く異なる分野の適性も求められる。コラロフのように最終ラインの一角にいる場合はCBとしての適性と上記に挙げた能力を求められる。
最後にゴールキーパーだが、自陣の選手がすべてマンマークされているときには、ハーフライン付近のエリアに正確に蹴り分けられる選手が必要となる。今季のブラーボは不調だが、ファルソラテラルを採用するのであれば確実に必要な能力といえる。なぜならJ.ハートがキーパーならオールマンマークしつつJ.ハートにロングボールを蹴らせればほぼ相手の攻撃を終了させられるため、この方式のメリットを生かせなくなってしまう。
グアルディオラが開発したこの戦術は革新的だが、特に最終ラインの選手に求められる能力が多すぎるため戦術をフルに発揮できないことも多い。この試合ではそこまで運動量を伴う守備を行ってこなかったのでうまく機能していたが、実際オタメンディ、サバレタがJ.ボアテング、ラームのようなプレーに改善されるとも思えないので、マンチェスターシティでも今シーズンは苦労している試合が多い。
前半30分までにかなりチャンスを作られ続け、結果的に2失点してしまったボルシアMGは38分に最初の交代カードを使う。C.クラマーをコルプに変更した。これに伴って守備システムは3-4-1-2から4-4-2へと変化した(Fig.4)
Fig.4 ボルシアMGの想定した形
要は最終ラインの枚数を1枚増やし、3列にすることでハーフライン付近のスペースを埋めることが目的だったのだと思う。これなら前線でボールを奪取する可能性は低くなるが、中盤でボール奪取できると考えたのだと思う。
しかしボルシアMGの構成が変わったと同時に、マンチェスターシティのビルドアップ様式も変化した。(Fig.5)
Fig.5 マンチェスターシティのビルドアップII
おそらく3バックから4バックに変化した時の対応まで試合前から入念に準備されていたのだと思う。この変化に伴って、サバレタはファルソラテラルをやめてサイドバック本来のポジションでプレーするようになり、今度はフェルナンジーニョがゲームメイクの中心となっていく。
後半になるとボルシアMGは、T.アザール投入までの45~58分までの13分間は再び3-4-1-2で守備を行い、T.アザール投入後の58~90分間は4-4-2で守備を行った。
まだまだマンチェスターシティはテクニックやグアルディオラが用意した戦術を最高レベルでできるほど成熟はしていないが、相手の布陣に合わせて最適なビルドアップを行っていたと思う。(Fig.6,7)
Fig.6 0~37分、45~58分のビルドアップI
Fig.7 38~45分、58~90分のビルドアップII
特に前半38分間のファルソラテラルを用いたビルドアップ-ゲームメイクでは前線に大きなスペースを供給することができるため、チャンスの質が非常に高かった。
ボルシアMGの攻撃
以上に示したようにマンチェスターシティは相手の形に最適なゲームメイクを行い続けていたため、ポジティブな形でボールを失うことが多かった。したがって、ボルシアMGが得意としているカウンターの形になることはほとんどなかった。
そしてボルシアMGはボール保持攻撃を得意としてはおらず、マンチェスターシティが前線からプレスを行うとロングボールを蹴ってしまう場合が大半だった。
しかし、ロングボールを回収することはできず、コラロフを中心としたマンチェスターシティの最終ラインに跳ね返されてしまっていた。(Fig.8)
Fig.8 マンチェスターシティのエアバトルの勝率
したがってボルシアMGはカウンターもできない、ロングボールも収められないという状況になってしまい、90分間で作ったチャンスは皆無だったといっていい。
ボルシアMGのチャンスメイク
ボルシアMGのチャンス
21m10CK(11-6-3)Grade4
24m40P(5-11-17-11)Grade4
41m30CK(11-13)Grade4
79m40P(10-19)Grade4
Grade3以上のチャンスは9つだったことを考えても、ボルシアMGの攻撃はボロボロだった。前線に小柄でスピードをストロングポイントとする選手が多く、守備が機能しないとチーム自体が回らなくなってしまうという感じだった。
マンチェスターシティのチャンスメイク
マンチェスターシティのチャンス
7m50P(11-7-11-10)Goal
10m00P(21-30-15)Grade4
11m00P(15-25-17-10-8)Grade5
12m00P(25-17-10)Grade4
13m30CK(17-15-25)Grade5
17m30P(1-5-15-8-7)Grade4
19m00P(17-8-7)Grade4
26m10T(30-17-8)Grade4
27m00PK(10)Goal
28m10T(15-25-10-8M)Grade4
30m40P(8-11-10-8-11-7)Grade4
44m20P(25-7-10M)Grade4
45m40P(25-17-15)Grade4
49m00P(15M-7-10)Grade5
52m10P(8-10-17-15)Grade4
57m40P(11-7-17-7) Grade4
58m00P(11-8-30M) Grade4
63m30P(24-10-8-7-17) Grade4
67m40P(25-10-17) Grade4
72m00P(17-7) Grade5
75m30P(25-17-15-10) Grade5
76m40T(11-7-10)Goal
90m00P(5-19-17-19-72)Goal
92m20FK(17M)Grade4
Grade3以上のチャンスは32こ、そのうちGrade4以上が24こということで、4得点したのもうなずける内容だった。
Fig.9 左からスターリング、アグエロ、コラロフ、デブライネ
スターリングは独力でサイドでチャンスメイクできる部分はすばらしいが、得点チャンスやインサイドでのプレーは改善の余地ありという感じ。もう少しで世界最高峰のアタッカーになれると思うが、殻を破れるかどうかは2017-2018シーズンに答えが出ると思う。リーグで15点できるようになったら本当に世界トップレベル。
アグエロは動き出しのスピードは今でも世界屈指で、コラロフ、デブライネのような優秀なクロッサーがいるチームでは本当に輝く。この試合でもCBとの駆け引きにほぼ勝利していた。
余談
ボルシアMGは試合中にシステムを変更しすぎたせいでチームがかなり混乱していたように感じた。マンチェスターシティはまだまだ発展途上ながらも監督が目指したいサッカーにむけていい感じに進んでいると思う。サネ、スターリングの若手ウイング勢がどれだけ伸びていくかが今後重要になりそう。