UCL16-17-B5-ベシクタシュ.vs.ベンフィカ
UCL16-17-B5-Besiktas.vs.Benfica
まずはスタメンから
ベシクタシュの最初の陣形はいつもと異なる4-1-4-1
アドリアーノはLSBからLSHとして、A.ベックは定位置のRSBからLSBにポジションを変更していた。もっとも大きな変化はいつもの2センター方式ではなく3センターにしていた部分だろう。
ベンフィカはいつも通りの4-4-2。
全体的にスピードに秀でたアタッカーが多い中でも、最年少のG.グエデスは消える時間が多いものの局所的にセンスを感じさせるプレーが多い。この試合のLSBはエリゼウが、RCBはルイゾンが務めている。
試合の概要
試合は3-3の引き分けで終了する。8分にG.グエデスの突破から、24分にはセメドのエリア外からの素晴らしいミドルシュート、30分にはピッツィのFKをミトログルが合わせて最終的にフェイサが押し込んでベンフィカが3点連取する。しかし57分にはA.ベックのクロスをトスンがハーフボレーで、82分にはリンデロフのエリア内でのハンドによるPKをR.クアレスマが、88分にはR.クアレスマからのクロスをアブバカルが押し込んで同点にした。前半はベンフィカの守備もコンパクトだったが、60分あたりからベンフィカはロングボールの対処にかなり苦労していた。内容的にも結果的にも前半と後半で立場が逆転した面白い試合だった。
4-4-2のベンフィカの守備は以下のような特徴がある。
・ネガティブトランジション時に積極的にプレスしてボールを奪い返そうとする。
・ボールを落ち着いてもたれた時はプレスはあまり行わず、コンパクトな4-4-2を目指す。
1つめについては強度、人数、かける時間の差異はあるが、どのチームも行う。ベンフィカの特徴は前線にスピードを生かせる選手が多いので、ネガティブトランジションからのカウンターも重要な攻撃方法の1つとなっている。
何らかの理由で相手が落ち着いてボールを保持してしまった場合にはコンパクトな4-4-2を形成して、相手のビルドアップ-ゲームメイクを制限しようとする。(Fig.2)
Fig.2 ベンフィカの4-4-2
特徴は、最終ラインが非常に高く設定されていること。そしてミトログル、G.グエデスはコンパクトな4-4-2時には熱心にプレスを行わず、むしろゾーンを守るような守備を行うため結果としてかなりコンパクトな陣形になっている。したがって、コンパクトな4-4-2の中にボールが入ると自由にさせないようにすかさずチェックを誰かが行うが、4-4-2の外側でプレーする選手に対してはあまり妨害することができない。
前述のようにベンフィカはカウンターに強みをもっているチームという印象を受けているので、4-4-2のコンパクトな守備→ハーフライン付近でボール奪取→ポジティブトランジション→カウンターアタックを行いやすくしているのではないかと思う。
対するベシクタシュのビルドアップ方法は以下のようになった。(Fig.3)
Fig.3 ベシクタシュのビルドアップ-ゲームメイクI
基本はハッチンソンがCB間に入り込むことでビルドアップ時に余裕を持たせている。その分エジャクップ、アルスランにフェイサ、ピッツィがマンマーク気味に対処できること、アドリアーノ、R.クアレスマ、アブバカルに対しては最終ラインとCHが適宜コンパクトにマークし続けることがベンフィカは可能になってしまい、ベシクタシュは効率よくボールを前進させることはできていなかった。
ベシクタシュのボール保持攻撃はコンパクトな4-4-2を正面から切り崩すことはできていなかった。ただしベンフィカはコンパクトを保つためにプレスをあまりしないので、ディフェンスエリア外、特に1列目の脇はフリーになりやすい傾向にあった。そのためベシクタシュは次第にロングボールを多用するようになる。(Fig.4)
Fig.4 ベシクタシュのビルドアップ-ゲームメイクII
ハイラインに対して有効なのは裏抜けを狙ったロングボール。
この時にはビルドアップ時にはエジャクップをRSBの位置で、ロングボールをアブバカルに通すというのが基本だった。ただしエジャクップやハッチンソンなどのロングボールの精度はそこまで高くなかったこと、裏抜けで脅威だったのがアブバカルのみだったのでリンデロフ、ルイゾンはうまく対応していた。
ベシクタシュのゲームメイク
ベシクタシュのビルドアップ-ゲームメイクは以上のような理由であまりうまくいっていなかったが、一旦押し込んだ時にはベシクタシュの得点の匂いもあった。(Fig.5)
Fig.5 ベンフィカの撤退守備
ベンフィカはカウンターを主軸としたチームのためかセルピ、サルビオのSHをあまり最終ラインに下げなかった。さらに撤退時にはミトログルがデスコルガードのように振る舞うため、ベンフィカの最終ラインは押し込まれた時に苦労していた。
特にベシクタシュはR.クアレスマを中心にチャンスメイクをしようとしており、ギョニュルもたびたび攻撃参加してくるのでLSBのエリゼウは対処に苦労していた。
ベシクタシュのチャンスメイク(前半)
3m30P(15-7-15-9)Grade5
17m40P(3-18-7)Grade4
22m30P(30-7-18-3)Grade4
36m30CK(7-9)Grade4
Grade3以上のチャンスは7つだったが、それなりにゴールする可能性はあったと思う。ハーフライン付近でボール奪取した時にもっとカウンターでチャンスメイクできていれば、あるいはエルキンの不在、インレルのスタメン落ちがなければ得点の可能性は上がったと思う。
ベンフィカは8分にサルビオとG.グエデスの突破からG.グエデスが決めて先制する。先制点が入るまではベシクタシュはあまり積極的に前線からプレスをかけることはなかったが、失点後は積極的にプレスを行った。(Fig.6)
Fig.6 ベシクタシュの守備システム
ベシクタシュの守備の形は4-1-4-1⇔4-4-2の可変で行う。
基本はバーゼルと一緒で、アブバカルがCBのボール循環を制限、アルスラン、エジャクップが1列前進することでビルドアップをさせないというのがベシクタシュの狙い。
リンデロフ、ルイゾン、フェイサ、ピッツィの4人をエジャクップ、アルスラン、アブバカルの3人で監視しているので、リンデロフのドライブ、マークミスなどでボールを前進させることもあったが、ベンフィカも基本的にうまく前進させることはできていなかった。
ベンフィカもプレス対応に苦しんでいたため、ミトログルがターゲットマンとしてロングボールを受けるプレーも多かったが、うまくいっていなかった。
ベンフィカのチャンスメイク(前半)
それでも得点できた理由は、G.グエデスの一瞬のスピードや、ベシクタシュのLCB: D.トシッチのミスなど局所的な部分でのミスが前半は特に少なかった。
ベンフィカのチャンス(前半)
1m50T(11-20-19M)Grade4
8m50P(19-11-18-20)Goal
24m00T(18-50M)Goal
30m10FK(21-11)Grade5
30m20FK(21-11-5)Goal
43m40P(22-21-19-18)Grade4
Grad3以上のチャンス数は9コということでベンフィカもそれほど多くはなかったが、より決定的なチャンスを作っていたのはベンフィカだった。これくらいの内容だと前半を0-0-で折り返すことも珍しくないが3点決めることができたのは非常にラッキーだったともいえる。
後半戦
前半のうちに3失点してしまったベシクタシュはA.ベックをRSB、アドリアーノをLSB、ギョニュルをLSHにポジションチェンジした。そして後半開始とともにインレルをアルスラン、ギョニュルをトスンに変更した(Fig.7)
Fig.7 後半開始時の形
この2枚替え、インレル、トスンの投入は後半ベシクタシュが盛り返していくうえで欠かせなかった要素だろう。そしてベンフィカも3点リードしているという事実、後半開始直後の10分はうまくチャンスメイクに成功していたこともあって少しずつ守備が雑になっていった。
45~55分
前述のようにこの時間帯はベンフィカの時間帯だった。おそらくベシクタシュは後半のこのメンバーが最も攻撃的といえるが、守備にいくつかの不安を抱えている布陣でもある。
トスンは本来CFなのでSHほど献身的な守備は行わないので、セメドのオーバーラップはベシクタシュにとって不安要素となりえた。また、この試合セメドが調子よかったというのもあるが、後半の立ち上がりアドリアーノはサルビオのドリブル、ミトログルの裏抜けなど結構対応ミスが目立った。
55~90分
形勢を変えたのはトスンのゴラッソだった。
後半開始10分間はチャンスメイクできなかったベシクタシュだが、57分にA.ベックのクロスをトスンがハーフボレーで決めて1点返す。
この1点を取ってからのベンフィカは自分たちがボールを持つよりも相手にボールを持たせてカウンターをしようという意識になり、ボールを保持した時の攻撃をほとんど放棄した(Fig.8)
Fig.8 エデルソンのパスの成否および内訳
一方でベシクタシュはインレル投入、エジャクップのロングボール精度が後半徐々に上がってきたこともあってコンパクトな4-4-2の外側からロングボールを供給するスタイルに完全に移行する。
もともと前半も内容は3点差をつけたほどの差はなかったのだから、本来ベンフィカは1点返された時点で守備に全力を出すべきだったと思う。しかしチームの約束か個人のサボリなのかはわからないが、特にサルビオは守備にほとんど貢献しなくなっていく。
前半から一貫していたのはベンフィカの2列目、3列目はコンパクトに保とうとしてサルビオ、セメドがかなりボールサイドに寄っていたこと。
前半と異なることはインレル、エジャクップのダイアゴナルなロングボールが成功し始めていること、SHにトスン、R.クアレスマと攻撃力が増加していること。
これによってベシクタシュの攻撃は
インレルorエジャクップのダイアゴナルパス→トスンorR.クアレスマvsセメドの1on1→チャンスメイクという非常にわかりやすい循環になった。そしてダイアゴナルパスの精度が良かったこともあってセメドは後半対応に迫られた。セメドはよく守っていたが、同じサイドのサルビオがまったくフォローしてくれなかった (Fig.9)
Fig.9 サルビオのポジションミス
こういった様々な要因が絡み合って60分からはベシクタシュはチャンスを量産していく。
形勢が変わったからといって3点差をひっくり返すのは至難といえるが、それだけのチャンスをベシクタシュは後半に作ったと思う。
ベンフィカのチャンス(後半)
46m00P(50-18-22-5M)Grade4
47m40T(11-20-11-18M)Grade4
49m10CK(21-11)Grade4
52m30P(20-18-11)Grade5
60m00P(50-21-11-22-19-20)Grade4
79m00P(21-18-21-27)Grade4
Grade3以上のチャンスは9コなので前半と同じ。ただし最初の10分にそのチャンスが固まっていたこと、ミトログル、G.グエデスに1回ずつ決定機が巡ってきたが決めきれなかったのが大きかった。またそのほとんどがセメドサイドがきっかけになっているのは多分偶然じゃない。
ベシクタシュのチャンス(後半)
57m20P(7-32-23)Goal
64m50CK(7-33-30)Grade5
64m50CK(33-30)Grade5
68m20T(15-9-7)Grade4
70m50P(80-9-7M)Grade4
78m00P(7-15-23)Grade4
80m40P(80-23-3)Grade4
82m00PK(7)Goal
87m40P(21-3-15-9)Grade5
87m50P(15-80)Grade4
88m10P(7-9)Goal
Grade3以上のチャンスは18コとなっている。3点返したとしてもおかしくないようなチャンス量だったが、それでも3点決められたのは運も味方したと思う。
余談
5節は4チームとも引き分けで終わったためディナモキエフ以外は6節に勝利すればグループリーグ突破となる。セメドは来季までに成長すればもしかしたら強豪チームにいくかもしれない。