UCL16-17-A6-バーゼル.vs.アーセナル
まずはスタメンから
バーゼルはいつもの4-1-4-1で挑んだ。
ただし右サイドハーフのスタメンだったビャルナソンはエルヌユッシが、ドゥンビアの代わりにヤンコがスタメンとなっている。ビャルナソンに関してはこの時期にアストンヴィラへの移籍が決まっていたためそれに伴うものだと思う。
アーセナルもいつもの4-2-3-1。
ただし右サイドバックをG.パウリスタ、右センターバックをホールディングに、L.ペレスを右サイドハーフに投入している。コクラン出場停止、S.カソルラ怪我、ベジェリン怪我、ムスタフィ復帰明けと結構面倒な状況になってきていることとA.サンチェス、エジルの疲労が心配な時期。
試合の概要
試合は1-4でアーセナルが勝利する。8分、16分にギブスからL.ペレスという流れで2点先取する。後半にも46分にA.サンチェスからL.ペレスが決めて3点目、ロングカウンターでエジルからイウォビが決めて4点差とする。78分にドゥンビアとヤンコのコンビネーションからドゥンビアが1点返すが最終スコアは1-4でアーセナルの勝利。アーセナルは序盤で2得点してしまったことや過密日程だったこともあってこの試合の強度はそこまで高くならなかった。4失点してしまったがバーゼルの守備を攻略できたかというと微妙だったがアーセナルはチャンス時にしっかりと得点を重ねられたことが大きかった。
第2節は5-3-2でアーセナルに挑んで大火傷したが、この試合ではバーゼルはいつもどおりの4-1-4-1⇔4-4-2の可変システムで挑んだ。つまりデルガドとディエが交互にプレスするというパリサンジェルマンに対する姿勢と同様の手法をとった。しかし異なる相手、システムに同じフォーメーションで挑む場合対処の方法が異なる事項も増えていく (Fig.2,3)
パリサンジェルマンはCB間に1人ヴェラッティやT.モッタを置いていたので、
1列目は2vs3で不利な状況、ただし2列目は2vs2となっており出し手にプレッシャーをかけ辛かった分受け手をマークすることは容易だった。
Fig.3 この試合のバーゼルの守備
たとえばディエが前に行った時には
ヤンコがホールディング、ディエがコシールニー
シュテフェンがG.パウリスタ、エルヌユッシがギブス
を監視するという形になる。
しかし今回は1列目は2vs2、2列目は2vs3となっており、受け手にフリーの選手がでてしまう。つまりアーセナルのビルドアップおよびゲームメイクの目標は最終ラインの選手およびセンターハーフがエジル、イウォビ、L.ペレスを見つけられるかが鍵となってくる。
逆に言えばバーゼルはマンマークで選手を監視しつつ受け手を潰すのか出し手を潰すのかをはっきりさせチーム全体が連携して正確なマークチェンジを行えるかが鍵となる。
(出し手を潰すのであれば前線は連動してプレスをかけなければいけないし、受け手を潰すのであればエジルのポジションに合わせて最終ラインが一時的にマークしたりしなければならない)
この可変守備に関してはバーゼルも結構熟練度が高く、アーセナルの最終ラインを苦しめていたのは確かだった。しかしこの守備はセンターハーフのディエとデルガドの運動量が必要なこと、全体がマークチェンジしながらゾーンとマンマークを繰り返していくので連動しなくなるとフリーの選手が中央でできてしまうため簡単にボールを進めることができてしまう。もちろん連動していたとしてもこのレベルになるとボールを運ばれてしまうことはある。
アーセナルがハーフラインのバーゼルの守備を攻略するとバーゼルは全体がリトリートして4-5-1へと変化する。(Fig.4)
Fig.4 バーゼルの撤退守備
こちらに関してもパリサンジェルマンの時と同じような対応を行う。すなわち4-5-1で守りながらも、サイドハーフはアーセナルのサイドバックのポジショニングに合わせて守るため、実質6-3-1のようになることも多い。
アーセナルは4-1-4-1⇔4-4-2可変守備には手を焼いていたが、4-5-1(6-3-1)の守備に対しては自分たちの強みをうまく生かしていたと思う。
バーゼルは15分までに2失点しているが、1失点目は自分たちの怠慢とミスから生まれてしまった失点だが、2失点目は完全にアーセナルが崩し切ったとみていいシーンだった。
2失点目
2失点目は非常にバーゼルの弱みを突いた質の高い攻撃だったかもしれない。まず4-1-4-1⇔4-4-2可変守備の攻略はイウォビがいいタイミングでボールを受けたこととバーゼルの全体の怠慢さから始まった。(Fig.5)
Fig.5 アーセナルのゲームメイクI
バーゼルのミスは最終ラインを低いこと
それに伴ってディエとT.ジャカは微妙なポジショニングをしてしまったこと。
本来ディエがコシールニーにプレスしなければならないが、この場合ではコシールニーに味方とスペースを探す時間を与えてしまった。(Fig.6)
Fig.6 イウォビのボールを受ける動き
イウォビが空いたスペースに浮くことでジャカがフリーでボールを持つことができ、前進することができた。ここでフリーでボールを持たれた場合バーゼルは撤退する。
こういうライン間でボールをもらう動きはサイドハーフにとって重要な要素の一つだと思うが、イウォビはこの動きがなかなかうまい。
False9とReal9の違い
Fig.7 カバーニ、G.ジルー、A.サンチェス
それぞれ得意なプレーは違うが、1トップの時のカバーニとジルーとA.サンチェスのプレースタイルを考えるとカバーニとジルーはReal9、すなわちよりゴールに近い場所でプレーすることが多く、プレーエリアもそこまで広くはない。
一方でA.サンチェスはFalse9、すなわちプレーエリアも広く、ドリブルやパスなど攻撃に関与する機会は多い。
バーゼルが撤退した時のアーセナルはA.サンチェスのワントップが大きな強みとなる。
前述のようにバーゼルのサイドハーフはアーセナルのサイドバックをマンマークしているため、バーゼルの中盤は実質3人。しかしアーセナルはG.ジャカ、ラムジー、エジル、A.サンチェスがこのエリアを攻略しようとする。
(カバーニやジルーはA.サンチェスほどこういったボール保持攻撃のチャンスメイクに参加しないで最終ラインとの駆け引きを行うことが多い)
こうなった時のA.サンチェスとエジルの攻撃力はやっぱり素晴らしく、簡単にチャンスメイクしてしまう。
いずれの得点もギブスからL.ペレスという流れだったが、その過程をみてみると2点目は完全に相手の弱い部分を崩した素晴らしいゴールだった。
ここまで書くとさもアーセナルが相手の守備陣を破壊しつくしかのようにも思えてしまうが決してチャンスが多かったわけではない。特にボール奪取してからのカウンターではイージーなパスミスも多くみられ、4-1-4-1⇔4-4-2の可変守備も得点シーンを除いて崩せたシーンはわずかだった。これが前半早々に2得点してしまったがための気の緩みなのか、疲労によるプレー精度の低下なのかなどはよくわからない。
第2節ではアーセナルのハイプレスはかなり嵌っていた。この試合も開始直後こそハイプレスをおこなっていたが、前半早々に2得点をあげるとハイプレスする時間も短くなっていった。12月のプレミアの過密日程は尋常じゃないので抜けるときに抜いておくというのは必要だと思う。
しかしアーセナルの1列目はプレスをしないときにはほとんど守備をしないため、ハーフライン付近でアーセナルはバーゼルを押さえつけることができない。ルドゴレツほどボールを回せないチームであればなんとかなるが、バーゼルクラスになると中盤で持ちこたえられず押し込まれてしまう場面もでてくる。(Fig.8)
Fig.8 アーセナルの撤退守備
もちろんエジルやA.サンチェスも撤退してくれるときはあるが基本的にかなり気まぐれで、図のように8人で守っていることも多かった。対してバーゼルはFig.7に含まれている選手以外にも左サイドバックのA.トラオレは頻繁にオーバーラップしてくるため、アーセナルの撤退守備はどうしてもサイドにフリーなゾーンができやすくなってしまう。
もちろんバーゼルのオフェンス陣は撤退したアーセナルの守備を切り崩せるようなクロスもパスもドリブルもない。スタメンのなかではシュテフェンのドリブルとデルガドのクロスが活路だったが基本的にオフェンス能力はルドゴレツよりも低い。
ただし撤退してしまうということはそれだけチャンスメイクする数も増えてしまうのでどうしてもアーセナルの守備は危なっかしい場面が多くなってしまう。前半2点リードして折り返し、ボールも保持しているものの、ボールポジションはバーゼルのほうが勝っていたのはこんな部分があったからだと思う。アーセナルの守備はEURO2016のベルギーやグループリーグ時のスイスに近い。アーセナルはボール保持率は55%だったもののボールポジションは42%、すなわちボールを持っていないときには押し込まれ、ボールを持っている時には前に進めなかったことを示している。
バーゼルのチャンス(前半)
10m20T(11-24-10)Grade4
17m40T(5-10-3) Grade4
39m20P(17-21-10-11M) Grade4
42m30P(5-11-24-6-5-10) Grade4
アーセナルのチャンス(前半)
7m20P(3-11-7-3-9)Goal
15m00P(29-8-11-7-11-3-9)Goal
24m00T(9-17-7)Grade5
後半戦
ただし、この試合のアーセナルはチャンスこそ少ないもののそのチャンスをしっかりとゴールにつなげてくる。46分にギブスの素晴らしいカットからA.サンチェス、L.ペレスとつなぎL.ペレスがうまく沈めて0-3とした。この時点でバーゼルは前線から積極的にボールを取りにいくために4-4-2の同数のハイプレスを行うようになる。(Fig.9)
Fig.9
バーゼルのハイプレス
バーゼルのハイプレスはかなり攻撃的でハイリスクだった。
というのもヤンコとディエがCBの2人を、
シュテフェン、エルヌユッシがSBの2人を、
T.ジャカ、デルガドがCHの2人を、
M.ラング、A.トラオレがSHの2人を監視するというスタイルだった。
つまり相手のビルドアップの人数にあわせてかならず高い位置にマンマークをつけていた。ただしアーセナルはハーフラインでゲームメイク妨害をされるくらいならハイプレスを躱して大きなチャンスを作ることの方がむしろうまい。
ボール保持攻撃では足枷となることが多いラムジーの自由なポジションチェンジはマンマークする相手からしたら非常にやりづらい。
実際この試合でもラムジー→A.サンチェス→エジル→イウォビという形で4点目を53分に決めたが、アーセナルの強みがしっかりと生かされたゴールだったと思う。
このあと途中出場のドゥンビアがヤンコとのコンビネーションから1点返すが、反撃の狼煙にはならなかった。
バーゼルのチャンス(後半)
50m10CK(3-10-21)Grade4
61m10FK(11-17-3-39)Grade4
82m10P(11-3-39-11-88-21)Grade4
アーセナルのチャンス(後半)
46m20T(3-7-9)Goal
52m40P(17-6-8-7-11-17)Goal
66m10FK(7)Grade4
72m30P(29-11-12)Grade4
75m30T(3-14)
余談
序盤は特にスコアほど内容に差はあるようには見えなかったが、L.ペレスの得点はアーセナルをかなり助けた。3点差ついてからのバーゼルの同数プレスはメリットよりもデメリットの方が大きく、試合がオープンになればなるほどやっぱりアーセナルは強くなる。