サッカーを視る

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UCL16-17-A5-アーセナル.vs.パリ・サンジェルマン

 

まずはスタメンから

赤がアーセナル、青パリサンジェルマン(Fig.1)

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Fig.1 アーセナルvsパリサンジェルマン

アーセナルはいつも通りの4-2-3-1

ただし前節ルドゴレツ戦と同様にジルーをトップに置いている。ベジェリンは足首を負傷したためジェンキンソンが引き続き務めている。2センターはコクランとラムジー

 

パリサンジェルマンもいつも通りの4-3-3

ただしディマリアの怪我に伴って左サイドハーフマテュイディが投入されている。オーリエは暴行事件の影響でビザが発行できずアーセナル戦に帯同できないため右サイドバックはムニエルが務めることになった。

 

試合の概要

試合は2-2で引き分けだった。17分にマテュイディの抜け出しからのクロスをカバーニが合わせて先制、しかし45分にはクリホビアクの安易なロストからA.サンチェスをクリホビアクが倒してしまいPK、これをジルーが決めて同点にする。58分にはジェンキンソンのクロスをマルキーニョスがクリアしようとしたところヴェラッティに当たってしまいアーセナルが逆転。しかし75分にベンアルファコーナーキックからルーカスが合わせて同点。試合の大部分はパリサンジェルマンがうまくプレーしていたが、自陣でのミスと流れを持って行かれたわずかの時間で2失点してしまった。しかし1節と同じくパリサンジェルマンは強豪チームに対して適切に戦えることを再び証明できた気がする。

 


【ハイライト】アーセナル×パリサンジェルマン「UEFAチャンピオンズリーグ16/17 GS 第5節」

 

 

パリサンジェルマンの前線守備、アーセナルのビルドアップ

この試合ではパリサンジェルマンが前線から激しいプレスを前半の間はほぼ常に行っていた。(Fig.2)

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Fig.2 パリサンジェルマンのハイプレス

 

パリサンジェルマンのプレスの基本は

1.カバーニコシールニーとムスタフィのラインを分断しつつプレス

2.マテュイディ、ルーカスがジェンキンソン、ギブスへのパスコースを防ぎながらプレス

3.T.モッタ、ヴェラッティがコクラン、ラムジー、クリホビアクがエジルマンマーク

4.下がってきたA.サンチェス、イウォビはマクスウェル、ムニエルが監視

といった形になっている。

 

アーセナルは結構このプレスに苦労していた。とにかくカバーニマテュイディ、ルーカスのプレススピードが速く、ほとんどゆったりボールを持つ時間がなかったからである。

 

ただしどんなプレスにも弱みはあって、今回の場合はアーセナルの最終ラインが4人に対して3人でプレスをしかけている。これはパリサンジェルマンの最終ラインがよりセーフティにプレーするための保険だが、アーセナルはこの部分からプレスをはがしていかないといけない。4vs3のプレスの時には最終ラインのビルドアップ能力はもちろん必要だが、それ以上に4人が適切な距離を保つことが重要だと思っている。


たとえばムスタフィのこの場面(Fig.3)

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Fig.3 ムスタフィのジェンキンソンへの指示

 

このようにジェンキンソンはムスタフィの近くでビルドアップを開始しようとすることが多かったが、ムスタフィはジェンキンソンのそういったポジショニングに対して注意をしていた。Fig.2をみるとわかるがやっぱり4vs3のプレス回避において特にCBとSBが適切な距離を保ち続ければマテュイディに的を絞らせずにすむ。

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Fig.4 ジェンキンソンのポジショニング修正

その後適切な位置に移動したジェンキンソンは十分に余裕をもってフリーでボールを受けられるようになっていた。

 

もちろんだからといってジェンキンソンはフリーでボールを受けることができてもビルドアップできるタイプではないので、ここからアーセナルが効果的に攻めることはなかった。

 


もうひとつはCBがドライブするという手段

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Fig.5 コシールニーのドライブ

 

ギブスが高い位置をとってルーカスを引き付ける。

コクランがヴェラッティを引き連れて中央のエリアからいなくなる。

これを使えばセンターバックが解放されているときであれば容易にドライブすることができる。これは試合中にも何回か見られた動きで、アーセナルもうまくボールを進めることがあった。残念ながらチャンスにつなげることはできなかったが、ここらへんのドライブの判断はムスタフィもコシールニーも結構うまい。

 

パリサンジェルマンのゲームメイク、アーセナルの守備

アーセナルは前半、今までの自分たちの色だったハイプレスハイラインを行わずに撤退守備を選んだ。もちろん6-0で勝利したルドレツカ戦のようにアーセナルが中盤でボールを奪取することができればこの狙いは成功したといえる。しかしアーセナルの撤退守備に堅固な部分はほとんどなかった。

 

アーセナルの問題はとにかく1列目が守備しないことにある。

 

4-4-2の弱みは?

 

と聞かれれば

 

1列目の脇

2列目と3列目のライン間

 

が確実に急所である。

 

後者に関しては相手との兼ね合いもあるので対策はまちまちだと思うが、前者に関しては確実に1列目の運動量でカバーできる部分が大きい。それは先のEURO2016クロアチアラキティッチマンジュキッチコンビやアイスランドのボドバルソン、シグトルソンコンビが示していた。

 


アーセナルは撤退した時に4-4-2
で守備をおこなう。

そしてパリサンジェルマンのビルドアップの基本はクリホビアクかヴェラッティを最終ラインに組み込んで疑似3バックを形成する(Fig.6)

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Fig.6 アーセナルの撤退守備

 

1列目に関しての基本はエジル、ジルーで2列目の左がイウォビ、右がA.サンチェスだったが、A.サンチェスの攻撃でオフェンスが終了した場合にはエジル、A.サンチェスの1列目でジルーが2列目の右となることもあった。

 

Fig.6のときにはエジルはイウォビにもっと高い位置をとれとジェスチャーしているが、マークを確認してみると

ギブスはルーカス、イウォビはムニエル、ラムジーヴェラッティを監視しているため本来エジルマルキーニョスのドライブを防がなければならない。でもこういう時にエジルはほとんど守備しない。

 


この例に関してはアーセナルがひどい時かつパリサンジェルマンがよかった時の話なので1試合通してみればもうちょっと安定しているのだが、たびたびこういう例があるということ自体がアーセナルの撤退守備を非常に脆くしてしまっている。現代のサッカーではある一定レベルを超えたら多分8人では守れない。

 

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Fig.7 T.シウバ(左)マルキーニョス(右)

個人的にはマルキーニョスとT.シウバはもっとドライブして積極的にゲームメイクに絡めばパリサンジェルマンのボール保持攻撃はもっと高いレベルに行くと思うがマルキーニョスもT.シウバもあまり攻撃には絡まないことの方が多い。チームの方針なのか選手の能力的なものなのかは継続してみていないのでよくわからない。

 

次はアーセナルの失点シーン

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(Fig.8)

 

Fig.8 アーセナルの失点シーン

根本の問題は1列目がしっかり守備をしないからこれだけ押し込まれているにも関わらずフリーでT.モッタがボールを持ててしまっている。

局面の問題でいえばラムジーはもっとT.モッタにマークするべきだったし、ムスタフィはしっかりマテュイディの裏抜けを守らなければならなかった。

 

結果的にT.モッタのスルーパスに抜け出したマテュイディがクロスをエリア内に入れてカバーニが押し込むという形でパリサンジェルマンが17分に先制した。

 

たぶん局面だけみればラムジーとムスタフィが確実にミスしているが、そもそもなぜこういう状況になっているかといえば個人的には1列目問題が大きいと思う。

 

パリサンジェルマンのポジティブな点

パリサンジェルマンは前半チャンスを多く作ったわけではないが、アーセナルの4-4-2の脇から崩すという共通理解のもと、あいてにロングカウンターをさせることを許さずクロスを供給し続けた。パリサンジェルマンはボール保持攻撃を得意としたチームではないが、引いてきたアーセナル相手に1点できたことはポジティブな結果だったと思う。

 

パリサンジェルマンのネガティブな点

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Fig.9 左からT.モッタ、ラビオ、クリホビアク、ヴェラッティ

一方で移籍してから4~5ヶ月たった今でもクリホビアクは1ピボーテとして安定しておらず、結局このポジションの本職はT.モッタしかいない。ラビオはポテンシャル的に可能で実際リーグアンでは何回か試しているようだが、チャンピオンズリーグで披露したことはない。ヴェラッティに底をまかせるのは守備的に難しい部分もある。

この試合の前半の失点はクリホビアクが低い位置でジルーにボールを奪われ、エリア内に侵入してきたA.サンチェスをクリホビアクがファールしてしまった。この試合以降クリホビアクがパリサンジェルマンの戦力として数えられなくなってしまった。

 

後半の変更点

アーセナルは前半も時々ハイプレスをしていたが、ほとんどは撤退していた。しかし得点シーンはハイプレスから生まれたようにアーセナルの本来の強みはハイラインハイプレスである。後半の初めはよりプレスを志向したサッカーを行った。

 

パリサンジェルマンのT.シウバとマルキーニョスは時間に余裕があるときはボールをちゃんと運べるがプレスをかけられるとちょっと怪しくなってくる。さらにパリサンジェルマンのプレスも前半よりは激しさを失い始めていたのが50分あたりの話。

 

この時から緩やかにアーセナルはボールを前線でボールを持つことができ始め、まさしく50分~60分はアーセナルの時間帯だった。58分にはヴェラッティオウンゴールという形でアーセナルが逆転に成功するが、この時間帯におこなっていたアーセナルの姿勢は非常に正しいものだったと思う。ただしアーセナルはハイプレスからのPKとプレー強度をあげた10分程度だけで2点をとっているため非常に幸運だったといわざるを得ないが、とにかく逆転した。

 

パリサンジェルマンの反撃

なぜか得点した段階でアーセナルはハイプレスをやめてしまった。この時期から緩やかにアーセナルの調子がおちているみたいだが、特にA.サンチェス、エジル疲労がたまって効果的な前線からのプレスを続けることができなくなっているからだと思う。

 

ここからはパリサンジェルマンも強度をあげていく。66分にはクリホビアクをベンアルファに変更し、T,モッタを1ピボーテヴェラッティベンアルファを中央でプレーさせるより攻撃的なスタイルに変更した。(Fig.10)

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ベンアルファを投入したこともそうだが、コーナーキックでのカウンターを境にA.サンチェスとイウォビの位置が入れ替わってしまったこともパリサンジェルマンにとっては追い風となった。
Fig.10 それぞれの陣形(66min~)

これはパリサンジェルマンサイドバックの攻撃参加の回数と質を考えれば簡単だが、ムニエルのほうが圧倒的に攻撃参加している。だからこそマクスウェルの衰えが隠し切れなくなっている今季からはクルザバが左サイドバックに定着しかかっているともいえる。(ただし守備に関してはマクスウェルの方が安定している気がするので、そこらへんは相手とのバランスの問題)

 

サイドハーフの位置でA.サンチェスを守備で使いたくない理由は簡単で、後半になればなるほど疲れて戻らなくなってしまうこと。(Fig.11)

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Fig.11 ムニエルの攻撃参加、A.サンチェスのサボリ

 

これだけサイドを開けてしまえばムニエルは簡単にクロスをあげることができてしまう。この時間帯はとにかくムニエルがフリーでクロスを出し続け、カバーニが裏抜けしていたため、非常に単純だがゴールの気配が強まっていった。

あとは残り20分のなかで何回チャンスを作れてゴールまでたどり着くかという状態になった。そんな中でパリサンジェルマンベンアルファのCKからルーカスがフリーで打ったシュートをイウォビが逸らしてしまいオスピナは反応できずに同点になった。

 

局面では確かにイウォビのポジショニングが悪い!というのは確かに理解できる。

でもそうなった理由は?といわれたらA.サンチェスが2列目の守備をさぼって押し込まれ始め、パリサンジェルマンの攻撃の試行回数がふえてしまったからというのが理由だと思っている。そういう意味でアーセナルの最終ラインで長年活躍し続けているコシールニーは本当にすごいと思う。

 

この試合における1-1と2-2ではまるで意味が違う。

というのもチャンピオンズリーグの1位、2位はまずは当然勝ち点勝負、次に直接対決の結果、その次に得失点差という順番で順位が決定する。パリサンジェルマンのホームでは第1節1-1の引き分けで、第5節では2-2の引き分けで終わればアウェーゴールの多いほうが順位が高くなる。したがってこの時点でパリサンジェルマンが勝ち越したという状況。

 

もちろん最終節の結果次第ではひっくり返る可能性もあるが、この1戦は1位決定における大きなウエイトを占めた試合だったということ。

 

アーセナルはここから追加点をとろうと厚みのあるボール保持攻撃を行おうとするが、逆にパリサンジェルマンは前がかりになったアーセナルの裏をついてロングカウンターを仕掛けることが多くなった。スペースがある場合にはルーカス、カバーニがとにかく輝く。残念ながらこの試合でも2-2になった75分以降の15分間に2度カウンターから決定機を作ったがどちらもゴールになることはなかった。

 

カバーニは何度も決定機を外す。C.ロナウドほど決定力があればグループリーグの時点で10点は決めている。ただし決定機を外しつつも今シーズンゴール数が欧州トップクラスである理由はそれだけ決定機をつくることがうまいともいえる。特にこの試合の裏への抜け出しのスピードはムスタフィとコシールニーを完全に困らせていた。

あまり足の速さで注目される選手ではないが、一瞬の加速力が尋常じゃないほど速く、そういった動き出しの質の高さと速さがカバーニの非常に魅力的な部分。

 

https://www.youtube.com/watch?v=H4opci5hkHQ

 

アーセナルのチャンス

45m00PK(12)Goal

56m30P(6-17-7-8-25-12)Grade4

58m50P(7-25-PSG6)Goal

73m30T(8-12-7-8)Grade4

 

パリサンジェルマンのチャンス

14m40CK(7-20-2)Garde5

17m40P(2-8-14-9)Goal

53m00FK(7)Grade4

62m30T(4-7-9(No Penalty))

75m50CK(21-7-Arsenal17)Goal

78m10T(7-9)Grade5

81m20T(7-9)Grade5

88m20T(22-6-22)Grade4

 

余談

試合を振り返ってみれば45~60分以外の時間帯はパリサンジェルマンが圧勝していた。イブラヒモビッチがいた時と違って運動量を重視し始めているが強豪との試合ではよりそのメリットが目立っている。

 

アーセナルは個人的にかなり難しい状況だと思う。パリサンジェルマンと2戦2分けで終えたわけだがいずれの試合も自分たちの色を出せた時間は短く、苦手な局面では弱さを見せてしまっており結構危機的状況かもしれない。