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EURO2016-Round.of.8-WAL.vs.BEL

EURO2016 Round of 8 ウェールズvsベルギー

まずはスタメンから

赤がウェールズ、白がベルギー(Fig.1)

 

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Fig.1 ウェールズvsベルギー

 

ウェールズはいつもの3-5-2。

ただし2トップ、特にベイルの相方は定まっておらず、この試合はロブソンカヌが先発している。

 

ベルギーもいつもの4-2-3-1だが、最終ラインは2枚変更している。

ヴェルマーレンの累積警告とフェルトンゲンの負傷によって、それぞれデナイエルとJ.ルカクがスタメンとなっている。ここにきてコンパニの大会前の離脱が効いてきている。

 

試合の概要

試合は3-1でウェールズの勝利で終える。先制はナインゴランの豪快なミドルシュートでベルギーが先制するが、29分にはCKからA.ウイリアムスが、56分にはクライフターンを華麗に決めたロブソンカヌが、84分にはグンターのクロスからヴォークスが得点しウェールズが逆転勝利する。ベルギーにも勝つチャンスはあったが、いくつかの戦術的ミスと個人能力の欠如によってウェールズにつけ入る隙を与えてしまった。逆にウェールズは自分たちの持ちうる能力を最大限まで引き出したおかげで勝利することができた。

 

 

1. ベルギーのビルドアップ、ゲームメイク、ウェールズの前線守備

ベルギーのゲームメイクはアルデルヴァイレルド、デナイエル、ヴィツェル、ナインゴランによって行われるが、場合によってはSBのJ.ルカク、ムニエルも参加する。

ウェールズはロブソンカヌを1列目とした3-4-2-1(3-4-3)でビルドアップの制限を行う。

(Fig.2)

 

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Fig.2 ウェールズの前線からのビルドアップ制限

 

役割としては、

ロブソンカヌがCBのうちボールサイドを監視し、

ラムジー、ベイルヴィツェル、ナインゴランへのボール循環を制限する。

レドリー、アレンもゾーンで守りつつ、ナインゴランとヴィツェルに前を向かれないようなポジショニングを整える。

SBに渡ってしまった時はウイングバックテイラー、グンターがスプリントで守ることで出し手である最終ラインと受け手であるセンターハーフに負荷をかけ、ビルドアップの妨害を謀った。

 

ただし、ラムジー、ベイル、レドリー、アレンは持ち場をあまり放棄することなくタスクをこなすことができるが、ウイングバックのプレスを基本としているサイドバックへの守備は時々放置してしまいがちになる。

 

そういった時に空いたスペースを利用して、アザールカラスコはサイドの位置でボールを受けることができていた。

 

つまりウェールズは完全に相手のビルドアップ、ゲームメイクを無効化したわけではないが、そのパスワークをサイドに絞らせることには成功していた。

 

2. ベルギーのチャンスメイク

ベルギーがうまく前にボールを進めることができると、そのボールの位置に合わせてウェールズの守備の形も変化する。(Fig.3)

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Fig.3 ウェールズの撤退守備

 

ウェールズの撤退守備ついてはよくわからない部分も多かった。よくわからない部分はラムジー、ベイルの役目。

この2人の今大会における最大の役割は、試合で決定的なプレーでチームの得点を伸ばすことである。

一方で、押し込まれてしまった時にはこれら2人の選手が守備放棄してしまうと5-2ブロックで守ることになる。もちろんそれでは守れないので、5-3-1-1のように中盤にラムジーまたはベイルを守備参加させるというのがウェールズの前半の守備だった

 

しかし、何回見ても、この2人のどちらかが下がるかの規則性がなかったことから、多分選手任せだったのではないかと思う。

 

そして一旦押し込まれるとウェールズの3バックはグループリーグから抱えている弱みがでてしまう。

 

3バックの強みは、ウイングバックの自由度を最大限に利用して、相手のゲームメイクに対して柔軟に対応できることだと思う。

逆に3バックの根本的な弱みは、ウイングバックを最終ラインに固定化させることができれば中盤のスペースを相手に与えてしまいがちであることが弱みだともいえる。

 

つまり個人的には、3バックから5バックへの変化はよっぽどのことがない限り3バックにはよくない変化だと思っている。これは間違ってるかもしれないので反例の試合などあったらぜひ教えてください。

 

いずれにしても構造上の問題(3バックから5バックへの変化)と、選手の特性(ラムジーとベイルの守備参加)が相まって、押し込むことができればベルギーには得点の気配がした。

 

12分のナインゴランの得点はまさにそういった中盤の優位性を利用したミドルシュートからのゴールだった。ベルギーの試合において、中盤の守備の問題点について話すことが多いが、攻撃だけならナインゴランはすごくいいプレーヤーだと思う。

 

いずれにしても、この得点によって試合全体の傾向は少し変わっていくことになる。

 

3. ウェールズのビルドアップ、ゲームメイク、ベルギーの守備

もともとチームの特性を考えれば、両チームともにカウンターを強みにしている。

そしてウェールズがボール保持攻撃にあまり自信がないことはグループリーグを見ていれば明らかだった。

(北アイルランド戦は北アイルランドの守備が嵌りすぎていたのであえて除く)

 

本来、こういう特性をもつチーム同士の対戦において、ベルギーの先制点はほぼ相手チームにとって死刑宣告になる場合が多い。

 

それはウェールズの監督の試合後のインタビューでもよくわかる

「ベルギーのようなチームと戦う場合、最も避けたいのは序盤にリードを奪われることだ。人数をかけて攻撃に出てしまうと、必ず痛い目に遭う。だが、彼らにゴールを決められて最も恐れていたことが起きた後、我々はすぐに前半の主導権を握った。相手はうちの選手のポジションチェンジに対応できていなかったね。」

 

なぜなら、ウェールズが人数をかけた攻撃を仕掛ける回数が多くなる→ベルギーが中盤でボール奪取→ロングorショートカウンターという得意な形を披露しやすい状況になる。ベルギーが4得点して勝利したハンガリー戦がいい例だろう。


当然カウンターチームの定石通り、ベルギーはハイプレスを行わずに、ハーフラインまで撤退して守備を行う。(Fig.4)

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Fig.4 ウェールズのゲームメイク

 

3バックを相手にするうえで問題点となりやすいのが、最終ラインをどのようにマークするのか?ということ。

よくとられる方法としては、2トップでボールの循環方向を制限したり、場合によっては前線を3人にしてハイプレスがある。いずれにしても前線にはそこそこの運動量と判断力が求められる。

 

1列目の守備タスク

しかしR.ルカク、デブライネの守備の運動量の低さと役割の曖昧さはこのチームの弱点だった。この2人は誰をマークするのか明確に定まっていなかった。当然こういったことが頻発すれば、Fig.4のようにチェスターをフリーにしてしまう。

この時のチェス他の状況において北アイルランド戦と異なる点は、この時点でウイングバックへのパスコースが残っていること。アザールとしてはどちらをマークすればいいかわからない状況が頻発し、このエリアではボールを取ることはできない。

 

2列目の混乱

 

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Fig.5 ベルギーの2列目の混乱

 

ウェールズは3-4-3であるため、ヴィツェル、ナインゴランがアレン、レドリーをマークするが、

北アイルランド戦でもそうだったようにラムジー、ベイルは頻繁に中盤まで下がってくる。代わりにアレンが前線にいったり、ラムジーやベイルがビルドアップに参加することもある。

こうなった時に誰が誰をマークすればいいのかというのをベルギーは全く整理できていないように見えた。つまりこれこそがコールマン監督のいうポジションチェンジであり、北アイルランドの守備と比べてベルギーが非常によくなかった部分だろう。

 

3列目の経験不足

主にデナイエルとJ.ルカクの個人能力に言及することになってしまうが、デナイエルはロブソンカヌの動きだしに対してほぼ後手後手な対応だったし、J.ルカクウイングバックへの監視が甘く、ウェールズはあまり無理をせずにボールを前に運ぶことができてしまっていた。

コンパニは大会前から離脱、ヤンフェルトンゲンは怪我、ヴェルマーレンは累積警告とCBを務めることができる重要な選手がアルデルヴァイレルドしかいないというのがベルギーにとって大きすぎる問題だった。

 

ただし以上挙げた3つの項のうち少なくとも最初に書いた2つについては守備システム的な問題なので、監督がどうにか整理するべきだったと思う。それがあれば3列目の経験不足についてはもう少しカバーできていたと思う。

 

もちろんウェールズは根本的にボールスキルがスペイン、ドイツ、ポルトガルのようなチームと比べて高いわけではないので、ベルギーにカウンターのチャンスを献上してしまう場面もあったが、チェスター、B.デイビス、グンターのイエローを犠牲にしてファールでつぶしたり、特に開始直後のカウンターでは決死のブロックで失点を防いだ。

もう少しカウンターの試行回数を稼げればもしかしたら前半のうちにベルギーは勝利を確定させることができたかもしれないが、ウェールズのボール保持攻撃予想以上に奮闘し、ベルギーの撤退守備は予想以上に脆かった。

 

4. ウェールズのチャンスメイク

同点シーン

幸い、ウェールズは前半に同点にすることができた。

同点シーンはA.ウイリアムスのCKからだったが、そもそもベルギーのCKの守備は試合を通じておかしかった。

 

というのもベルギーはマンマーク守備を行っているが、失点シーンにおいてJ.ルカクとデナイエルは誰もみていなかった。

ちなみに42分にもデナイエルはA.ウイリアムスのマークを外し決定的なシーンを作られていた。

失点時の話に戻ると、デブライネのCKを守る位置もおかしい。(Fig.6)

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Fig.6 ウェールズの同点シーン

これについてはBBCでも指摘していたが、デブライネは本来黒で囲った位置にいるべきだが、なぜかスライドしていた。

 

5. 後半戦に向けた修正

両チームともに目に見えた修正点がいくつかあった。

ベルギーは

ウェールズのビルドアップに対して前線のマーク相手をどう設定するかということ

セットピース時の守り方について整理すること

ウェールズ

撤退して5バックになった時にベイル、ラムジーをどのように扱うのかということ

 

 

ベルギーはこの問題に対してカラスコフェライニに交代し、解決を図る。

簡単に言えば中盤の数を増やしてウェールズのポジションチェンジに対応した

 

一方でウェールズもハーフタイムを通して撤退時の守備にも一定の修正をおこなっていた。

 

 

 

ベルギーの守備の対応

まずはベルギーの守備時の対応から見ていく。(Fig.7)

 

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Fig.7 後半のベルギーの守備

後半のベルギーはハイプレスというわけではないが、相手に自由にビルドアップさせないように前線から活発に守備を行う。そしてマークの整理もうまくできていた。

R.ルカクA.ウイリアム

アザール、デブライネはチェスター、B.デイビス

ナインゴラン、ヴィツェルフェライニレドリー、アレン、ラムジー、ベイル

J.ルカク、ムニエルはグンター、テイラーを監視する。

勿論Fig.7のようにラムジーがサイドに開いていたらヴィツェルのマークはより前方の選手になるが、

とにかく重要なのは前線のマークをしっかりと整理できていたこと。

 

これによって後半立ち上がりはウェールズはボールを前に進めることができなくなり、ベルギーは相手のボール保持攻撃に対してかなり優位に立ち回れるようになっていた。

 

そして苦し紛れのロングボールに対してもフェライニが中央に居座ってくれているというのは、ベルギーがハイプレスを行う上で重要なことだったと思う。

 

 

 

ウェールズの撤退守備

 

一方でウェールズはボールを前に進めることができなくなっていたので、自陣で撤退守備を行う機会が増える。

この時のウェールズは5-4-1になり、ラムジーとベイルを両方とも守備に参加させる。ただしベイルはカウンターも狙えるように少し前気味で相手の攻撃に対応していた。

 

いずれにしてもボール保持攻撃がうまくいかなくなりかけていたウェールズは,、中盤でアザール、デブライネ、ヴィツェル、ナインゴラン、フェライニと対峙することになるが、当然個々のオフェンス能力は高く人数を増やしても中盤で後手後手になるシーンが多かった。

ベルギーは後半開始5分で得点チャンスを3回演出し、それぞれ、サイド深くからムニエルのクロスをR.ルカクがどんぴしゃに合わせたヘッド、中盤で完全にフリーになったデブライネのミドルシュート、左サイドからカットインしたアザールシュートであり、どれか決まってもおかしくなかったが、どれも決まらなかった。

 

ベルギーのチャンス

ベルギー

6m10T(9-11)

6m10T(16)

6m20T(10)

12m10P(10-4M)Goal

47m20P(16-9)

48m50(8-7M)

49m40(7-10)

73m20P(2-8)

76m20P(16-8-6)

 

 

6. ウェールズのチャンスメイク

前述のように後半の立ち上がりはベルギーにとって最高だった。しかしベルギーのハイプレスにも問題がなかったわけではない。それはやっぱり3列目の個人能力によるものが大きいが、ウェールズのロングボールに対してベルギーの最終ラインはラインを高く設定することができなかった。

 

さらに、ここでウェールズはナイスプレーが3連続で続く。

すなわち、デナイエルの裏に完璧なタイミングで抜け出したラムジー

その動きに合わせて完璧なロングパスをだしたベイル

ラムジーからのクロスからクライフターンで2人抜き去りゴールを決めたロブソンカヌ

 


Galles vs Belgio 3-1 All Goals & Highlights (EURO 2016) Quarter-final |HD 720p

1つ1つのプレーもナイスプレーだったがそれがここまで続くことはあまりない。これによってウェールズがリードすることでベルギーのプランは儚くも崩れていく。

 

7. ロブソンカヌ得点後の両チームの挙動

ウェールズは今まで得点が必要だったため、8人もしくは9人のフィールドプレーヤーで守備を行っていたが、得点後はついにロブソンカヌも撤退守備に加わる。

 

これによってベルギーは有利に進めていたペナルティアーク外の攻撃でも崩すことができなくなってきていた。特にアザールは失点直後から無理なドリブル突破や守備放棄が増えてしまっていた。

 

じゃあウェールズはこの守備で初めからやればいいじゃん!と思うかもしれないが、ロブソンカヌ、ベイルを下げた状態でロングカウンターを成功させるのとても難しい。可能性としてはベイルがドリブルでサイドを独力突破するという方法があるが、さすがにそううまくはいかなかった。

 

つまり後半のボールの流れは、ベルギーのボール保持攻撃→ウェールズのGKまたは最終ラインからのロングボール→ベルギーのボール保持攻撃・・・と続く。

 

カウンターの試行回数は当然この流れでは少なくなるため、後半は必然的にベルギーの最大の長所もウェールズの最大の長所も失われてしまっていた。

 


最終的にJ.ルカクメルテンスに変えて3バックにし、フェライニを前に挙げてパワープレーを行ったベルギー(Fig.8)

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Fig.8 ベルギーのパワープレー

最大のチャンスはフェライニのエアバトル能力を生かしたエリア内でのヘディングシュートだったが、これもわずかに枠外。

 

フェライニを先発で使い、後半立ち上がりのようなプレーを続けていればよかったのではないかとも思うが、フェライニは本当にすぐにイエローをもらうし、多分審判団の印象も悪いため安心して起用できないというのはあったと思う。

 

そしてベルギーがパワープレーに出た直後に交代出場で入ってきたヴォークスが、グンターのクロスを完璧にとらえたヘディングで、3点目を85分に決める。このゴールは決定的であり、ベルギーの敗退が決まった瞬間だった。

 

ウェールズのチャンス

ウェールズ

9m00T(11)

25m20T(10-3)

30m00CK(10-6)Goal

33m00T(9-11)

42m10CK(10-6)

44m50P(10-9)

54m30P(10-9)

60m10CK(10-6)

84m50P(2-18)Goal

 

余談

ウェールズは苦手な局面においても何とか打開策を見出したという意味で面白い試合だった。ベルギーは監督が選手の特性に合えば、もっと上に行けるクオリティがあるのに少しもったいない感じがした。

 

ウェールズにとってかなり痛いのは次のポルトガル戦においてラムジー、B.デイビスを累積警告で欠くことが確定していること。

 

また、この試合もファールすべきところでプレーを止めないことが多かった。主審はダミル・スコミナ(SVN)

 

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緑がビルドアップ失敗黄がビルドアップ成功

青がゲームメイク成功ピンクがゲームメイク成功

オレンジがチャンスメイク成功紫がチャンスメイク失敗

となっている。

コメントはどうやってボールを前に進めたor失敗したかを表す。

○はいいプレーをした選手につけている。

 

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