サッカーを視る

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EURO2016-Round.of.16-GER.vs.SVK

EURO2016-Round.of.16-ドイツvsスロバキア

まずはスタメンから。

白がドイツ、青がスロバキア(Fig.1)

 

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Fig.1 ドイツvsスロバキア

 

ドイツは3節北アイルランド戦のメンバーと同じ4-2-3-1。グループリーグの間にトップをM.ゲッツェからM.ゴメス、ヘヴェデスからキミッヒに変更する。変更点はいずれも攻撃にブレーキをかけてしまった選手だが、北アイルランド戦で好プレーを見せたキミッヒ、M.ゴメスがそのままスタメンを勝ち取る。

 

スロバキアグループリーグは突破したもののスタメンはあまり固定されていない。シュクリニアル、ギョンベルは初スタメンで、ジュリシュも初戦のウェールズ戦ぶりのスタメンである。4-1-4-1というシステムは変化しないが、ハムシクの出来次第というチームである。

 

試合の概要

試合は3-0でドイツの勝利で終える。7分にCKのこぼれ球をJ.ボアテングミドルシュートで決めてドイツが先制する。その5分後にはエリア内でM.ゴメスが倒されてPKを獲得するがエジルのシュートはコザーチクがストップする。しかし42分にエジルの完璧なゲームメイクからドラクスラーのクロスをM.ゴメスが押し込んで2点差とする。後半にはいってから62分にドラクスラーがハーフボレーで決める。常にドイツがハーフコートに押し込んで試合を展開することになるが、引きこもったスロバキアに対してもかなり多くのチャンスをつくっており、3点差は妥当だった。

 

 

1. ドイツのビルドアップ-ゲームメイク、スロバキアの撤退守備

ドイツのビルドアップに対してスロバキアは前線からプレスをかけるときとかけないときがある。

 

基本的にはスロバキアがドイツ陣地でボールを失ったにもかかわらず、ボールをドイツが完全に支配しきれていないとき(スロバキアのロングボールをクリアした時など)にはハイプレスを行う。

 

これについては後述するが、ここではプレスをかけないときのスロバキアの守備とドイツのボール保持攻撃についてみていく。

 

スロバキアはプレスをかけないときには10人がハーフラインまで撤退するため、ドイツは前半ビルドアップで問題を抱えることは一切なかった。

しかし、ドイツがハーフラインまでボールを運んでくるとスロバキアも積極的に守備を行うようになる(Fig.2)

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Fig.2 ドイツのゲームメイク(ボアテング側)

ドイツのゲームメイク時の特徴は、キミッヒ、ヘクターのSBコンビがとにかく高い位置にポジショニングしていることだろう。また、ボアテングがボールを持っている時にはドラクスラーがインサイドにポジションをとることで、アウトサイドのヘクターのプレーエリアを広げている。

 

ボアテングのゲームメイクは同サイドをつかった縦パスか、逆サイドへのサイドチェンジとなるが、ボアテングのサイドチェンジの精度は尋常じゃなく高く、美しい。

基本的にサッカーは4人ではピッチの横幅を完全には守れないので、完璧なサイドチェンジができる選手というのはそれだけで貴重である。

 

一方でクロースがボールを持ったときにも、同じような動きがお互いのチームで確認できる。(Fig.3)

 

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Fig.3 ドイツのゲームメイク(クロース側)

 

ドイツのビルドアップを妨害するのが難しい理由はクロースもボアテングも逆サイドへの素晴らしいサイドチェンジを持っていることが一番の理由だと思う。

仮にクロース、ボアテングをダブルマンツーマンで守ったとしても、フンメルスもしくはケディラがフリーでゲームメイクに参加できてしまうというのも大きい。

 

スロバキアはクロースとボアテングにホロゾフスキ、ハムシクが交互にプレスをおこなっていたが、ケディラフンメルスを経由した横パスをクロース、ボアテング間でおこなうことで必ずフリーなタイミングができてしまっていた

そういった時にサイドチェンジを中心としたゲームメイクを行うことで効率よくボールを前に進ませることに成功していた。

 

2. ドイツのチャンスメイク

今までの試合でもそうだったが、ドイツのチャンスメイクはサイドの深い位置にポジショニングしている選手ににかかっているといっても過言ではない。

 

基本的にドイツは左側からチャンスメイクをすることが多いが、ドラクスラーがウイング寄りの選手であり、ミュラーがフォワード寄りの選手であることを考えれば納得がいく。

 

サイドバックのキミッヒ、ヘクター、サイドハーフのドラクスラーの深い位置でのプレーをみていくとドラクスラー抜き出ていた。(Fig.4)

 

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Fig.4 ドラクスラーの1on1の成否とそのエリア

とにかくドラクスラーはこの試合1on1が光っていた。逆にヘクターはサイドの深い位置で何回かクロスを上げるシーンがあったが、決定的なパスはすくなかった

 

開始7分でクロースのコーナーキックからこぼれた球をボアテングミドルシュートが突き刺し先制する。このゴール自体はボアテングのスーパープレーだったが、前半のチャンス量を考えれば先制点が入るのは時間の問題だった。

 

さらに12分にはエリア内でクロスをまっていたM.ゴメスをシュクルテルが倒してしまいPKしかしキッカーのエジルのシュートはセーブされてしまった。

 

ほぼ4, 5分に1回のペースでチャンスを作り続け、42分には左サイドからドリブル突破したドラクスラーのクロスをM.ゴメスが合わせることで2点目を手に入れたドイツ。

この試合の前半の攻撃は完璧で理想的なものだった。

 

ドイツのチャンス

6m40FK(18-6)

7m10CK(18-17M)Goal

12m50PK(8)miss

15m00T(18-23)

22m50P(5-3)

23m40P(11-23-8)

25m10P(3-8-6M)

25m30P(18-13M)

27m00P(8-13)

31m00P(8-13M)

38m30P(8-11)

42m10P(11-23)Goal

 

 

3. スロバキアのビルドアップ、ドイツの前線の守備

なぜドイツのチャンスが多くなってしまった理由の1つにはスロバキアのビルドアップが関与している。

というのも、押し込まれた状態でスロバキアはボールを回収することが多かったにもかかわらず、ウクライナポーランド北アイルランドがおこなったようなロングボールで陣地回復を行わなかったためである。

 

一方でドイツはボールを奪取されたも高い位置から人数をかけてプレスをかけにいく。

 

結局、スロバキアの自陣でのビルドアップ能力vsドイツの前線からのプレスというのがスロバキアの攻撃を見るうえで焦点となる。(Fig.5, 6)

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Fig.5 ドイツのハイプレス

 

これはあくまで1シーンにおける両選手のポジショニングだが、

 

基本は1列目がM.ゴメス、ミュラーの4-4-2。1列目はCBをドラクスラー、エジルはSBをマークすることで相手のビルドアップを制限しようとする。

スロバキアがボールをつないでくる場合はシュクリニアル、ホロゾフスキ、ハムシクのいずれかが下がって受けにくるため、

そういった時にはクロース、ケディラがハイプレスに参加する。この時大概のスロバキアのビルドアップは白で囲ったエリアでドイツにボール奪取されることが多かった。

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Fig.6 ドイツがボール奪取したエリアと回数

1番に注目すべきポイントは前線でよくボールを奪取できていることだが、ボール奪取の回数自体も非常におおいことも情報としては重要であると思う。

 

Stats Zoneが定義しているボールリカバリーの定義はオープンプレーでのボール奪取にかぎるため、当然シュートやパスミスなどでゴールキックスローインになった場合はボールリカバリーとしてはカウントされない。

 

つまりボールリカバリーの回数が多いということはテンポがものすごく速い試合か、片側のチームがよほどボールを保持した攻撃ができないかのいずれかとなる。当然この試合は後者であり、スロバキアはビルドアップの段階で多くのボールを失っていた。

 

詳しくは最後に添付したノートを見ればわかるが、前半はお互いのチームに攻撃チャンスが35回あったが、スロバキアはそのうち半分、すなわち18回はビルドアップの段階かゴールキックで失っている。

また、中盤までボールを運べても左サイドのヴァイスが悉く雑なプレーをしてボールを失っていたため、スロバキアのチャンスは1つのみとなる。

スロバキアの前半のチャンス

40m20P(2-19)

 

ただしこのチャンスはほぼ1点ものであり、ノイアーのビッグセーブにまたも助けられたドイツだった。

  

もちろん前半にチャンスが1つしかないのであれば、ドイツの守備は大方うまくいっているのだが、ディティールを見ると特にクロースの守備が悪目立ちしていた。(Fig.7)

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Fig.7 クロースのタックル(1on1 DF)

 

クロースの攻撃面での貢献度は計り知れないが、クロースの守備が足を引っ張る試合もかならずあるだろうと予測できるような雑な対人守備だった。

 

4. 後半戦

スロバキアはハーフタイム中にヴァイスをグロッグに変更する。

理由は単純で、クロースとボアテングをとらえきれていなかったから、ヴァイスの前半のプレーがあまりにも酷かったからという2つになる。

 

そしてハムシクとクツカでクロースとボアテングをマークしつつ、ゲームメイクを妨害しようとするが、それ以外にもドイツのビルドアップ時に頻繁にハイプレスをかけるようになる。また、前半2点のリードをとっているためか、後半のドイツの試合への入り方はおとなしかった。それら2つのことが合わさってしまったのか、後半のドイツのプレーはよくなかった。

 

スロバキアのハイプレスを躱し切ることができず、自陣からのロングボールが多くなり、ビルドアップの質が下がっていく。

したがって後半の立ち上がりはドイツのビルドアップ→スロバキアのハイプレス→スロバキアのゲームメイクorチャンスメイクといった流れになることも多く、スロバキアの時間帯ともいえた。

 

弱冠劣勢となってしまった後半の立ち上がりだったが、62分にクロースのコーナーキックからドラクスラーがハーフボレーを放ち、3点差とする。2点差であればスロバキアもまだ追いつける可能性があったが、正直この1点はスロバキアをへし折るには十分だった。

 

この時間帯からスロバキアの守備の強度もさがっていき、前半と同じようなドイツに戻っていく。70分を過ぎるとボアテング、ドラクスラーをヘヴェデスポドルスキに変更する。3点差ということもあって、ドイツは完全に力を抜いていたため、後半はほとんど見所がない

 

ドイツのチャンス

62m10CK(18-11)Goal

90m20T(13-18)

 

スロバキアのチャンス

48m50T(19-17M)

67m00FK(4)

 

余談

もし参加国24チームで総当たり戦をやったら、ドイツかフランスが優勝すると思うが、特にドイツは1stチョイス以外の中盤の選手が微妙であることや、クロースの守備など不安定な要素も持ち合わせている。次の対戦相手はスペイン、イタリアの勝者である。

 

緑がビルドアップ失敗黄がビルドアップ成功

青がゲームメイク成功ピンクがゲームメイク成功

オレンジがチャンスメイク成功紫がチャンスメイク失敗

となっている。

コメントはどうやってボールを前に進めたor失敗したかを表す。

選手についている○はいいプレーをした選手につけている

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