EURO2016-F3-HUN.vs.POR
EURO2016-グループF3-ハンガリvsポルトガル
まずはスタメンから
ハンガリーはこの試合で3選手をチェンジする。
グループリーグで活躍していたカーダール、ナジュ、クラインハイスラーをそれぞれ、コルフト、ピンテール、エレクに変更。ハンガリーは前2試合の結果で勝ち点4をすでに得ているので、この試合は無理をする必要がない。例えばイエローカードをすでに1枚累積させているカーダール、ナジュ、クラインハイスラーはこの試合に出すメリットがあまりないということ。
前情報からR.ゲレイロは太ももを怪我しているようなので、この変更は戦術的なものではないだろう。構成はいつもどおりの4-3-1-2。
試合の概要
試合は3-3で引き分けで終える。18分にコーナーキックからのこぼれ球をゲラが豪快なミドルシュートで先制する。43分にはC.ロナウドからのパスをナニが決めて同点とする。その後は47分、55分にジュジャクが決めて、50分、62分にC.ロナウドが決める。ポルトガルがボールを持つ展開が多く、ハンガリーのビルドアップもポルトガルに完全に妨害されチャンス数は少なかったにも関わらず、ゴラッソで1点、ディフレクションから2点とっている。内容自体はポルトガルの優勢だったがオーストリア戦に続き、勝ちきれない試合が続く。
両チームの状況から簡単に見ていくと、ポルトガルは引き分け以上でグループリーグ突破確定、ハンガリーはこの試合の結果に関わらずグループリーグ突破を決めている。
ハンガリーのビルドアップは、CB間に入るナジュが中心に行っていたが、この試合ではこの役割をゲラが務めることになる。
ゲラも前2試合では要所でパススキルを見せていたこともあったので特に驚きはなかった。したがってハンガリーは選手は違えど前2試合と同じようなビルドアップをこの試合でも行っていく。
一方でポルトガルの前線からの守備もまた既視感があった。
というのもオーストリア戦を思い出すとわかりやすいが、下がってくるバウムガルトリンガーに対してモウチーニョが監視するという守備システムを敷いている。当然この試合ではモウチーニョが下がって受けようとするゲラを監視するスタイルをとっていく。(Fig.2)
Fig.2 ポルトガルの前線からの守備
どのチームも守備時には自分たちの最終ラインの人数=相手のフォワードの数+1にする。例えばこの試合では、サライ、ロブレンチチ、ジュジャクに対して最終ライン4人で対応といった感じ。つまりポルトガルのどこかに数的不利なスペースが存在する。
当然それはプレスの開始位置であることが多い。
Fig.2でいえばユハースはこの時点ではフリーな状態。ここからユハースにボールが展開されるとC.ロナウドがプレスに行く。
この時のユハースにエレクやピンテールにつなぐ能力があればビルドアップという側面ではハンガリーの勝ちだが、こういった前線からのプレスに対してハンガリーの両CBはほとんどボールを回せない。
今度は視点を変えてハンガリーのGK : キラーイにボールが渡った時の状況を見ていく(Fig.3)
Fig.3 キラーイがボールを持った時のポルトガルの前線の守備
前の試合でも少し紹介していると思うが、キラーイはかなりボールをつなぐGK。
今大会でいえばノイアー、ブッフォンの次にボールをつなぎたがる。
しかしポルトガルの前線3人はこれら3選手へのパスをかなり牽制してくる。
キラーイはこの時点で3つの選択肢がある
1つは下がって受けにくるサイドバックへショートパス、
2つめはピンテールもしくはエレクへのミドルパス、
3つめは前線に向けたロングパス
1つめに関しては下がってくるSBにJ.マリオもしくはA.ゴメスがついていくので、ほとんどハンガリー側にメリットがあるようなビルドアップはできていなかった。
2つめに関してはキラーイがこのエリアにミドルパスをする能力とがなかったため、ほとんど行われない、行ったときはほぼウイリアムに跳ね返されていた。
3つめに関しても同様で、ハンガリーには前線でエアバトルに適した選手がサライしかいないため、ぺぺやR.カルバーリョのエアバトル能力に苦しむ。
こんな感じでビルドアップをほとんどまともに行うことができないハンガリーは従来展開していたサッカーが全くできなくなる。
もちろんカーダールやナジュがいればある程度は打開できたかもしれないが、4-3-1-2の前線からの守備を根本から切りくずことはできなかったと思う。
前述したような形でロングボールを蹴らせることが多かったポルトガルのボール回収位置は比較的自陣寄りとなる。
この状態から可能であればロングカウンターを行うことも当然あったが、できないときには今までと同じようにボールをつないで前に進もうとする。
ポルトガルのビルドアップの形は今までと変わらず、ウイリアムが最終ラインをサポートしつつ、3人でボールを前に進めようとする。
この時の形は基本的にはハンガリーと似ている。違いはぺぺ、ウイリアムのビルドアップ能力で、特にペペはフリーな状態であればロングパスもかなりの高水準である。また、ハンガリーの前線の守備システムもポルトガルのそれとは異なっていた。(Fig.4)
Fig.4 ハンガリーの前線からの守備
これだけだとちょっとよくわからないが、守備時はピンテールとサライの4-4-2になるか、トップがサライの4-4-1-1になることが多かった。
当初はこのシステムの変化が何に起因するものかよくわからなかったが、注意深く観察していると、ウイリアムとボールの位置に合わせてシステムを変化させていることが分かった。
ウイリアムとボールの位置が近いとき、すなわちウイリアムにビルドアップされそうな場面では監視強度を強くし、
ウイリアムとボールの位置が遠いときにはピンテールは中央のゾーンを警戒しつつ、
カウンターに備える。
わかってしまえば結構簡単なことだったが、このことに気付いたのは実は3回目の観戦だったりする。
話をもとに戻すが、ウイリアムをピンテールで抑えたとしても中央からのビルドアップは妨害できるが、ペペやR.カルバーリョはビルドアップ-ゲームメイク時にフリーになる場面が多かった。
特にペペはC.ロナウドとナニの動きに合わせて裏抜けを狙ったロングボールや前線への楔パスなどビルドアップ-ゲームメイクに貢献していた
楔パスに関してはA.ゴメス、モウチーニョ、J.マリオも優秀な受け手なのでそういった意味でもハンガリーの前線からの守備はあまり機能していなかった。
前半のハンガリーは得点につながらなかったチャンスは1つもなかった。
それでも前半に1得点できた理由はスーパープレーだったとしか言いようがない。
CKのこぼれ球から放ったゲラのミドルシュートから決めたゴールは、グループリーグの中でも3指に入るものだった。1つめは初戦のパイェのミドルシュート、2つめはトルコ戦のモドリッチのミドルシュート、そして3つめがこれ。
対するポルトガルは今までの試合でもビルドアップは非常にうまくおこなっていたが、得点だけ伸び悩んでいる。
C.ロナウドの不振というのもとても大きな要因ではあるが、やはりJ.マリオ、A.ゴメス、モウチーニョの突破力やゴールにつながるようなパススキルは他の強豪国と比べても少し劣るのが大きいと思う。
(3人ともビルドアップやゲームメイク時のパスはうまい)
ボールを保持した時の攻撃はフリースペースも狭く、毎回チャンスを作れるわけではないが、ロングカウンター時の個人のミスはやっぱり多い。
前半時の得点を除いたチャンスはペペのロングパスからナニが抜け出したシーン(1m50)とC.ロナウドの直接FK(28m10)からのみだった。
もちろん今までの試合同様クロス爆撃は常に行っていたので、ハンガリーに比べれば得点のチャンスはあったと思う。
いずれのチャンスも単発気味だったが、43分にC.ロナウドのスルーパスからナニがゴールして同点とする。(Fig.5)
Fig.5 ナニのゴールシーン
この試合のゴールシーンの動画は後々でてくるが、少なくとも1失点目はキラーイのミスだった。
もちろんナニのシュートまでの動きはとてもスムーズだったが、
もっとニアにポジションするべきだった。
チャンス数が少なかったにも関わらず両チームが1点ずつあげて後半戦に移行する。
4. 後半戦に向けた両チームの変更
両チームとも1人ずつ選手を入れ替える。ハンガリーはゲラをベシェに、ポルトガルはモウチーニョをR.サンチェスにする。(Fig.6)
Fig.6 後半戦の基本布陣
ハンガリーは4-4-2に変更するが、前半で選手交代した理由はおそらく、
ゲラはこの試合でイエローカードをもらってしまったことが大きな要因だと思う。それに伴ってビルドアップできる選手がいなくなってしまうため2センターにしたと考えられる。
ポルトガルは交代した選手と同じ役割で試合に臨む。
モウチーニョも決して悪い出来ではなかったが、このポジションの守備の役割は非常に多く、運動量を保つ必要があること、後半はより攻撃的なR.サンチェスをいれることでチャンスの質と数を増やしていこうと考えたのだと思う。
5. 後半のゴールシーン
後半開始直後から試合は大きく動く。
ペペのパスミスからショートカウンターを仕掛けたサライをR.カルバーリョが倒して26mの位置から得たFKがきっかけとなる。
このFKのキッカーはジュジャクだったが、A.ゴメスの肩に当たってディフレクションしたボールはそのままゴールに吸い込まれる。
ただしポルトガルも不運な失点を取り返すように、ジュジャク、ロブレンチチ、コルフトのプレスを躱して、J.マリオのクロスからC.ロナウドが決めて同点に巻き返す。
ただしその後ハンガリーは2得点点目とほぼ同じ位置で得たFKをきっかけにジュジャクがまたもミドルシュートのディフレクションからゴールを決める。
その8分後、交代出場のR.クアレスマのクロスに合わせたC.ロナウドがゴールを決めて3-3とする。
いままでの2試合でチャンスをゴールという形に還元できていなかったC.ロナウドだったが、この試合は少ないチャンスながら2得点を上げてチームの不運を救った。
いずれにしても、ハンガリーはゴラッソが1点とディフレクションから2点とかなり奇妙な形で3点決めている。もちろんゴールの形が変なだけでなく、チャンスの数も圧倒的に少なかった。
ハンガリーのチャンス
18m30CK(10M)Goal
46m20FK(7)Goal
48m10T(9-14)
54m00(7M)Goal
63m20T(14-9)
一方ポルトガルもやっぱり3得点するようなチャンスの数ではない。
ポルトガルのチャンス
1m50L(3-17)
28m10FK(7M)
39m10P(7-3-10)offside
41m40P(7-17)Goal
44m40P(15-8-15M)
49m00P(10-7)Goal
51m00P(16-10-17)
61m30P(20-7)Goal
75m40P(11-7)
特に後半チャンスが集中している理由は2つの要因があると思う。
1つはR.サンチェスの存在
R.サンチェスはカウンター時にも正しいタイミングで正確にパスする能力に関してはモウチーニョよりも優れている。もちろん守備時の運動量やビルドアップのサポートなどはモウチーニョのほうが優れていると思うが、攻撃時の貢献度はR.サンチェスのほうが大きかった。
2つめはコルフトの守備能力
コルフトは試合を通じて明らかなポジショニングミスが何回かあった。現にポルトガルのチャンスはコルフト側からよく作られており、この左サイドバックの守備能力の低さはポルトガルにチャンスを与え続けてしまった。
得点ラッシュ後は両者ともに自分たちが負けないようにスローペースで試合が進んでいく。トータルスコア3-3で引き分けとなり、ハンガリー、アイスランド、ポルトガルがグループリーグを突破した。
余談
今回の大会のポルトガルのグループリーグのマッチレビューを見てみると、どちらのチームもあまりチャンスを作れず、退屈な試合だったという要旨が非常に多い。
ポルトガルの攻撃が退屈なのは確かにポルトガルの攻撃陣の問題の可能性も高いが、相手の攻撃が退屈になる理由は明らかにポルトガルの守備がうまくいっているからであって、そこを指摘する人が少ないのはちょっとだけ悲しい。
これでグループリーグの34試合のマッチレビューは終了。
次はグループリーグの総括が1記事、その後は日程通りに進めていく予定。