EURO2016-F2-ICL.vs.HUN
まずはスタメンから
ソリッドな4-4-2とセットピースを中心にしたサッカーを展開しており、おそらくこの試合でもそういった姿勢は変わらないだろう。
一方でハンガリーはかなりいじってきた。
オーストリア戦でCBを務めていたラングがフィオラの代わりにRSBに入り、ユハースがRCBに。前線も変化があり前節途中出場から得点を決めたシュティエベルをLMFに、プリシュキンをCFにおいた布陣とした。
試合の概要
試合は1-1で引き分けで終える。アイスランドは38分にセットピースからPKを得てG.シグルドソンがPKを決める。しかし86分にはニコリッチのクロスをサエバルソンがオウンゴールしてしまい同点となる。試合の大半はハンガリーがボールを持つが、とにかくアイスランドの4-4-2はソリッドで、ハンガリーは効果的にボールを前に進めることができていなかった。内容的にはアイスランド優勢の試合だったが、ハンガリーは終盤のパワープレーで勝ち点1を勝ち取った。
ハンガリーのビルドアップはオーストリア戦とほぼ同じ。ナジュがCBの間に入ることで3バックを形成し、ナジュを中心にビルドアップを行う。
アイスランドの4-4-2もポルトガル戦と同様で、ハイプレスを基本的には行わずにゲームメイクを妨害するような守備を行う。(Fig.2)
Fig.2 アイスランドの守備
アイスランドの守備の特徴は10人が守備に参加すること。
最終ラインは高めの30~35mに設定しており、2トップもハーフライン付近とかなりコンパクトにまとまっている。
そして、
ラング-ビャルナソン、カーダール-グドムンドソン、
ジュジャク-スクラソン、シュティエベル-サエバルソン
とサイドの選手はマンツーマンのように守っている。
ただしアイスランドはコンパクトに守るだけではなく、ある状況になるとサイドハーフおよび2トップがプレスをかけてハンガリーのゲームメイクを妨害する(Fig.3,4)
Fig.3 アイスランドがプレス開始する直前の状態
Fig.4 アイスランドがプレス開始した直後の状態
特徴的なのはハンガリーのラング(SB)にボールが渡ると、ボドバルソンはユハース(CB)に、ビャルナソンがラング(SB)にプレスをかけ、周りの選手もハンガリーの選手の位置に合わせてマークする。
こうなるとSBはロングボールを蹴らざるを得なくなってしまう。
こうやってロングボールを蹴らせてボールを回収することも可能だし、SBが無理につないで来ようとしたらボール奪取してカウンターのチャンスを作るというのがアイスランドの守備のシステム。
サイドバックにビルドアップ、ゲームメイクの能力がないとアイスランドの守備は厄介なものになってしまう。
ただしハンガリーにはLSBにカーダールがいるため、前線からのプレスを躱すシーンも見られた。(Fig.5)
Fig.5 ハンガリーのゲームメイク(カーダールが基点)
プレス開始段階になるとシュティエベルは下がってボールを受けようとし、サエバルソンがマンマーク気味についていく。
出来たサイドのスペースをクラインハイスラーが受けるというプレーが多かった。
(もちろんシュティエベルとクラインハイスラーの役割が逆になっていることもある)
ただしこのプレーが成功してもサイドからチャンスメイクをすることになるため、あとは選手の個人能力便りになってしまう場面が多くなる。
2. ハンガリーのチャンスメイク
結果から先に言うと、前半のハンガリーのゲームメイクはアイスランドにほぼ完封されており、ほとんどチャンスを作ることができなかった。
そもそも前にボールを進める回数は少なかったが、前述のような方法でボールを前に進めるとアウトサイドからエリア内にクロスを上げるか、カットインするかの2択となる。
前半のチャンスはジュジャクのカットインからのミドルシュートとエリア外からのクラインハイスラーのミドルシュートのみ。
ハンガリーは前線に局面を打開できる選手がいないので、チャンスメイクで行き詰ってしまうことが多い。
3. アイスランドのロングボール攻撃
アイスランドは前線のハイプレスでボールを奪取することも稀にあったが、基本はゴールキックや自陣深い位置からボールを運ぶことになる。
ポルトガル戦と同様にアイスランドはロングボールを主軸にビルドアップ兼ゲームメイクを行っていく。この時のターゲットはやはりシグトルソン。(Fig.6)
Fig.6 シグトルソンのエアバトルの勝敗
シグトルソンはポルトガル戦でもほとんどのエアバトルに勝っていたように、ハンガリー戦でも勝ち続ける。
この位置で争うのはゲラやグズミッチだったが、悉く負けていた。
とはいってもロングボールだけでチャンスを量産していくのは非常に難しい。
そのためアイスランドは守備からのカウンター、セットピースを使って自分たちのオープンプレーにおけるオフェンス能力の低さをカバーしている。
4. アイスランドのチャンスメイク
アイスランドのロングスロー(LT)についてはポルトガル戦で述べたので割愛するが、この試合でもゴールにつながりそうな場面があった。
前半のチャンスはPKを除けば3つだったが、いずれのチャンスもエリア内でフリーに撃てていることから得点してもおかしくなかった。
オーストリア戦もそうだが、ハンガリーのGKキラーイはかなりチームを助けている。
アイスランドのチャンス
8m50LT(17-14-15)
30m30P(10-7)
37m00T(10-15-9)
38m50PK(10)Goal
59m00L(14-9-8-10-9)
94m40FK(22)
ただし38分にアイスランドのCKからキラーイがハイボール処理をミスし、R.シグルドソンが倒されてPKとなる。
PKの判定は厳しかったと思うが、そもそもキラーイがハイボール処理をミスしなければ起きなかったプレーなので仕方ない部分もある。
このPKをG.シグルドソンが決めて先制する。アイスランドは完璧なゲームメイク妨害を行いつつ、得点できたので前半はほぼ100点の出来だった。
5. 後半戦
両チームとも60分までは大きな変更はなかったが、60分を境にハンガリーはジュジャクを左サイドに移し、シュティエベルとプリシュキンをそれぞれニコリッチとベーデに変更する。
両チームのフォーメーションは以下のようになる。(Fig.7)
Fig.7 後半戦のフォーメーション(64~83min)
ハルフレドソンが左サイドハーフとなり、ビャルナソンがセンターハーフになる。
アイスランドの4-4-2は特にサイドハーフの運動量が必要であり、ここでサイドバックにプレスをかけることができないと相手にゲームメイクの時間を与えてしまう。
アイスランドは60分を超えると守備時の2トップの運動量が落ち始めてくるため、ビルドアップを妨害することが難しくなってくる。前半よりもボールを前に進めることが多かったハンガリーだが、チャンスは相変わらず作れない。
ハンガリーがオーストリア戦で多くのチャンスを作れていたのは、相手のボールを奪取してからカウンターという形が多かったから。しかしアイスランドはロングボールを蹴ることが多く、センターハーフも持ち場を放棄したりしないので、ハンガリーのカウンターに発展するケースは非常に稀になってしまった。
後半もアイスランドの守備に非常に苦戦する時間が続く。
83分になるとハンガリーはCBのユハースをFWのサライに変更してパワープレーを開始する。(Fig.8)
Fig.8 ハンガリーのパワープレー(83~94min)
ハンガリーは3バックにして前線を増やしてくる。ただし両SBだったカーダール、ラングはCBもできる選手で、代表でもたびたび3バックを組んでるので即興のパワープレーというわけではなさそう。
結果的にこのパワープレーが成功し、86分に相手のオウンゴールを誘発するプレーにつながった。
やっぱりアイスランドの最終ラインのディフェンス能力は低く、前線と中盤のディフェンス能力に助けられている。ここらへんの感じは2015-2016のレスターと2016-2017のレスターの違いにかなり似ている。
ハンガリーのチャンス
16m10P(7M)
33m40P(15M)
71m40P(15-13M)
86m50P(15-8-17-ICE2)Own Goal
この試合は内容だけならアイスランドが勝つべき試合だったと思う。
この試合のボールポゼッション率とボールポジションをみれば如何にハンガリーがボールを持たされていたかがわかる。(Fig.9)
ボールポゼッションは71.4%でハンガリーが大部分を支配しているが、ポジションはハーフラインにも到達していない。
もちろんこれはアイスランドがロングボールを多用するせいでポジションが実際よりもアイスランドにポジティブな結果になってしまっている。
ただしそれを差し引いてもハンガリーはハーフライン付近までしかボールを効果的にすすめることができなかった事実は変わらない。
それでもハンガリーは気合で勝ち点1を手に入れた。終盤のパワープレーから得たゴールは勝負強さを感じた。
余談
アイスランドの守備はおそらくどのチーム相手にも効果はあると思うが、選手が固定されていることや、70分を超えてくると運動量が下がってしまう問題を解決する手段は今のところない。もちろん人口30万人の国がここまで健闘していること自体がビッグサプライズなのだが・・・
2試合見た感じだとハンガリーのナジュはかなり伸び白がある感じがする。要チェック選手。