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EURO2016-F1-POR.vs.ICL

EURO2016-グループF1-ポルトガルvsアイスランド

 

まずはスタメンから

赤がポルトガル、白がアイスランド(Fig.1)

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Fig.1 ポルトガルvsアイスランド

 

ポルトガルはC.ロナウドとナニを2トップに据えた布陣を基本としている。この2選手とペペのみがワールドクラスで活躍する選手のようにも思えるが、モウチーニョ、A.ゴメス、ウイリアム、ゲレイロ、レナトサンチェスといった優秀な若手がそろってきており、正直未知数な部分も多いチーム。

 

一方のアイスランドにはワールドクラスはいない。

アイスランドはここ2,3年で盛り返してきている4-4-2を基本としている。唯一名が知られているのはG.シグルドソンのみといってもいいが、とてもユニークで面白いチーム。

 

試合の概要

試合は1-1で引き分けで終える。30分にA.ゴメスのクロスをナニが決める。しかし49分にグドムンドソンのクロスをビャルナソンが決めて同点にする。ポルトガルがボールを保持するが、アイスランドの4-4-2は想像以上にソリッドだった。それでも狭いライン間をたびたび攻略するポルトガルは何度かチャンスをつくっていく。内容は圧倒的にポルトガルだったが、失点時のミスやチャンス時のミスを考えれば、引き分けも妥当な感じだった。

 

 

 

1. アイスランドの撤退守備、ポルトガルのビルドアップ

アイスランドは4-4-2で守備を行う。

最大の特徴はクロアチアと同じように10人+GKの全員が守備に参加するということ。


ただし前線から激しいプレスを行うとわけではなく、自陣でコンパクトに守っていく。

(Fig.2,3)

 

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Fig.2ゲレイロ側でゲームメイクしようとしている時

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Fig.3 ヴィエリーニャ側でゲームメイクしようとしている時

 

注目すべきは2トップが守備をまったくさぼらないこと

 

本来4-4-2の撤退守備は2トップの脇を起点にされることが多い。

今回でいえばボドバルソンとシグトルソンの脇がポルトガルにとって攻略ポイントとなりえるが、アイスランドは運動量と組織的な守備でそれをカバーしていく。

 

ひとつは単純に2トップの守備時の運動量がとても大きいこと

サイドに振られても2トップがファーストディフェンダーとなり続ける。ただし大きなサイドチェンジ時には2トップのカバーが間に合わないことが多々ある。

 

そんなときには2列目のビャルナソンとグドムンドソンが危険なエリアをカバーする

赤のエリアでサイドバックが受けようとすればサイドハーフがそのスペースを潰して2トップのスライドの時間を稼ぐ。

 

アイスランドはスタンダードな4-4-2だが、2トップがしっかり守備を行うことで相手のゲームメイクをしっかりと妨害できるチームに仕上がっている。

 

一方のポルトガルはロングボールを主体にするチームではなく、ビルドアップ、ゲームメイクでボールを前に進めていくチーム。

 

ただしアイスランドは前述のとおり前線から激しいプレスをかけるチームではないのでビルドアップは問題ない。

ポルトガルのゲームメイクはモウチーニョを中心に行っていく。(Fig.4)

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Fig.4 ポルトガルのゲームメイク

 

本来ゲームメイクはドイツ、イタリア、スペインのようにR.カルバーリョダニーロ、ペペの3人で行っていくことが理想だが、ペペ以外は縦パスやロングパスをうまく使いこなすことができない。

そのためゲームメイクはモウチーニョを下げてゲームメイクを行うことが多い。

 

アイスランドのコンパクトなディフェンスに苦戦するポルトガルだったが、A.ゴメス、マリオ、C.ロナウド、ナニが3列目と2列目のライン間でボールをよく受けようとする。

例えばFig.4のようにA.ゴメスがライン間でボールを受け、R.ゲレイロがサエバルソンの裏を突くというような形が多くみられる。

 

ただしこういった攻撃は出し手のパスのタイミング、精度、受け手の受けるエリア、トラップの受け方、サイドバックが裏を突くタイミングなどかなり複雑なコンビネーションが要求される。

 

モウチーニョは縦パスのタイミングもうまく、A.ゴメス、マリオはライン間で受ける動きもうまいが、アイスランドの撤退守備を崩し切ることはほとんどなかった。

 

したがってポルトガルのボール保持攻撃のほとんどは崩し切っていない状態でのクロスになる。(Fig.5,6)

 

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Fig.5 ポルトガルvsアイスランドのスタッツ

注目するべきはポルトガルのボールポゼッション率、、ボールポジション、クロス回数

 

ボールポゼッションは72%とかなり高い値を維持しているが、

ボールポジションはそれほど高くない。

 

これはポルトガルのゲームメイクが最適ではないともいえるし、アイスランドの守備が機能しているともいえる。

 

また、クロス回数をみれば41とかなり多い。

例えばクロスを多用するドイツですらウクライナ戦で21本、北アイルランド戦で33本。ただし成功回数は10本とかなり成功率が低いことからも、効果的なチャンスメイクではなかったことがうかがえる。

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Fig.6 アイスランドの守備のスタッツ

 

特にヴィエリーニャサイドからのクロスはほとんどブロックしているし、ハーフラインエリア付近ではインターセプトの回数が増加している。

 

これらはすべてポルトガルのゲームメイクから有効なチャンスメイクができていないことを示している。

 

2. ポルトガルのチャンスメイク

ポルトガルのチャンス数はボールポゼッションの割りには少ないが、それでもいくつかのビッグチャンスを作る。

 

大半はナニ、もしくはC.ロナウドへのロングボールかクロスからチャンスが生まれる。

アイスランドの守備は確かに硬いが、CBのR.シグルドソンとアルナソンは個人能力が高いわけではない。クロス、ロングボール時にはたびたびC.ロナウドを見失っていたし、失点時にはアルナソンのミスが大きく関わっている。

 

C.ロナウドはチャンス時に空振りしたり相手のビッグセーブにあったりして得点することができないが、マークを外す動きがとてもうまかった。

 

30分にはA.ゴメスがライン間でボールを受け、ヴィエリーニャとのコンビネーションでサイドからフリーでA.ゴメスがクロスを上げる。ナニがうまく合わせてポルトガルが先制する。

 

ポルトガルは狙った形で得点することができたが、前半のチャンスの質を考えればもう1点とってもおかしくなかった。

 

ポルトガルのチャンス

17m10P(10-11M)

20m10P(7-17)

22m20T(8-7)

24m50L(3-7)

30m40P(15-11-15-17)Goal

46m20P(7M)

62m20P(8-11-17)

70m30FK(5-17)

81m20CK(20-3)

84m30P(17-7)

 

2. アイスランドの攻撃

アイスランドの攻撃は非常に単純。基本的には前線のボドバルソン、シグトルソンへのロングボール。

 

というのもアイスランドの最終ライン、中盤はビルドアップ、ゲームメイク能力に長けた選手がいないというのも1つの理由だが、前線のシグトルソンのエアバトル能力がとても高いというのも大きな理由の一つある。(Fig.7)

 

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Fig.7 シグトルソンのエアバトルの勝敗

 

シグトルソンのエアバトルは2つのエリアに集中している。

エリア1ではGKや最終ラインからのロングボールを受けた際のエアバトルの勝敗、

エリア2ではセットピースからのエアバトルの勝敗

 

驚異的なのはエアバトルの回数が25回と尋常じゃなく多いことだが、

それ以上にエリア1での勝率は15/19と勝率もとても高いことも驚くべき点。

 

シグトルソンとマッチアップすることが多かったダニーロは、エアバトルでほとんど負けていた。ダニーロはエアバトルでも勝てない、ビルドアップ、ゲームメイクでも貢献できないといった感じでかなりお荷物になってしまっていた。

 

当然ロングボールでボールを前に進めていくのは難しいが、シグトルソンの存在はアイスランドのロングボール攻撃をよく助けていた。

 

 

3. アイスランドのチャンスメイク、セットピース

 

ロングボールにはもう一つの副産物がある。それはスローインの総数がボールを保持して攻撃するよりも相対的に多くなってしまうということ。

 

アイスランドのセットピースにおける重要な選手は以下の2人

 

 

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Fig.8 グンナーソン(左)、G.シグルドソン(右)

 

グンナーソンはロングスローを得意としており、相手陣地3/4でスローインを得ることができた時にはエリア内にロングスローをいれてくる。

 

また、G.シグルドソンプレースキックの名手であり、FKやCKの精度はプレミアリーグでも一目置かれている。

 

特にグンナーソンのスローインアイスランドの生命線ともいえた。(Fig.9)

 

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Fig.9 グンナーソンのロングスロー

ロングスローの名手といえばストークシティに在籍していたデラップが有名だが、Fig.9のようにデラップのロングスローは直接危険なエリアに放り込むことが多かった。

 

ただしアイスランドのロングスローはデラップ式のものとは少し違う。(Fig.10)

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Fig.10 グンナーソンのロングスロー

アイスランドは危険なエリアにロングスローを直接放り込むわけではなく、一度フリックさせることが多い

 

注目するべき点は危険なエリアにボドバルソンやシグトルソンを配置するわけではなく、少し離れたエリアにこの2選手を配置していること

 

例えばルート1のようにシグトルソンがフリックする場合や、

ルート2のようにボドバルソンがフリックする場合など

 

シグトルソンやボドバルソンとエアバトルで対抗できる選手はどんなチームにもあまりいない。しかしCBやフィジカルが強い選手を危険なエリアから離して2人をマンマークさせるのもあまり現実的ではない。

 

さらにロングスローをフリックすることで危険なエリアにどういったボールがくるか最後まで予測することは難しくなってしまう。

 

したがってこのロングスロー攻撃は非常に理に適っているといえる。

 

この試合ではロングスローからゴールを決めることはないが、チャンスにつながりそうな場面はいくつかあった。

 

一方でアイスランドの得点シーンはオープンプレーから生まれる。

 

ロングボールを収めたシグトルソン→グドムンドソンのクロス→ビャルナソンのゴール

形としては単純だったが、ポルトガルは失点シーンで連係ミスしている。(Fig.11,12)

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Fig.11 ポルトガルの失点シーンI

失点シーンはヴィエリーニャ、ペペvsビャルナソン、シグトルソンとなっている。

冷静に見ればペペがシグトルソンをマークし、ヴィエリーニャがビャルナソンをマークするのがポルトガルにとっての正解。

 

ただしクロス直前ではヴィエリーニャとペペのマークが重なってしまっている。

 

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Fig.13 ポルトガルの失点シーンII

ペペはシグトルソンをマークするが、ヴィエリーニャがビャルナソンのマークをしていない。ロングボールからのクロスという単純なシーンだったがこれが失点につながってしまう。

 

アイスランドのチャンス

02m30T(10)

06m40L(1-9-15-9offside)

49m50L(9-7-8)

64m20L(8-15)

73m40L(17-9-15)

85m30L(7-11-10-11)

 

余談

アイスランドのチャンスはあまり多くなかったが、ロングボールでチャンスを作るという戦術にぴったり選手がそろっている。アイスランドは堅固な守備+ロングボールだけではなくセットピースに大きな強みを持っている。

 

アイスランドはロングボールを基本としていたので、ポルトガルの守備については他の試合でじっくり見ていく。

 

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