EURO2016-D2-CZE.vs.CRO
まずはスタメンから
チェコは引き分け狙いで初戦に臨んだが、最終的にはピケに押し込まれて敗北。
したがってこの試合で勝ち点1以上は獲得しないと自力での突破の可能性は消える。
スタメンは右サイドハーフのセラシエをスカラークに、CFのネツィドをラファタに変更したのみ。
セラシエは元々SBの選手だということを考えれば、この試合はオフェンシブに臨もうとしてることがわかる。
クロアチアはメンバーを変更していないので、モドリッチを中心としたビルドアップとゲームメイクが注目される。
試合の概要
試合は2-2-で引き分けで終える。クロアチアはホイッスルから後半80分まで守備からのカウンターで多くの決定機を作る。そのうち39分にペリシッチが58分にラキティッチがゴールを決めて2点先制する。その後モドリッチの離脱や爆竹問題などクロアチアにとって嫌な出来事が続き途中出場のシュコダ、ネツィドがそれぞれ決めて同点にする。試合内容は圧倒的にクロアチア優勢だったし結果もついてきていたのになぜか同点になってしまった変な試合だった。
トルコ戦はクロアチアを相手にするチームにとって、ビルドアップにおけるモドリッチ対策が必須であることを印象付けた。
モドリッチはサイドバックの位置でもCBの間でもボックスを維持した状態でもビルドアップすることができる。
場合分けをしていくと
モドリッチがボックスでビルドアップを行おうとするとき
(Fig.2)
Fig.2 チェコのビルドアップ妨害
DF時はロシツキーが1列上がり4-4-2のような状態でディフェンスを行う。
ボックスの位置でモドリッチがボールを受けようとする場合は、1列目のラファタとロシツキーがバデリとモドリッチを監視することでビルドアップ妨害を目指す。
(Fig.3)
Fig.3 チェコのビルドアップ妨害
モドリッチはサイドバックの位置にいるためスルナは高めの位置にポジションを取ることができる。スルナのポジショニングに対してはクレイチが下がって監視することが多かった。
したがって図の位置のロシツキーはバデリとチョルルカの片方しか見れない。
結果から言うと、完全にクロアチアがボールを保持してからのビルドアップはモドリッチにやられ放題という感じではなかった。しかし問題点はいくつかあった。
ひとつは
モドリッチのポジションにとらわれすぎてチョルルカやバデリのマークが緩くなってしまったこと。
この2人はプレスがかかってなければ縦パスもロングボールも精度が高い。
まあモドリッチにやられ放題になるよりは明らかにマシだが、これでよしとするかどうかはチーム次第だと思う。前半のクロアチアのボール保持からのチャンスはチョルルカの縦パスは結構有効だった。
もう一つの問題点は
チェコの攻撃後のトランジション時には偶発的にモドリッチがフリーになることも多かったこと。
ディフェンスの始まり方は攻撃の終わり方に依存する。
もしシュートやそれに準ずるプレーで終えることができなければ、想定しているディフェンスの形に持っていくことは難しい。
チェコはスペイン戦に続きボール保持、カウンターいずれの攻撃の精度も著しく低かった。
チェコは前述のようにモドリッチに好き勝手やらせないというスローガンのもとに前線からの守備を試みていた。
一部は確率のないロングボールを蹴らせることに成功していたが、前線からボールを奪取できるほどではなかった。
すなわちチェコの攻撃は比較的自陣側からボールを前進させなくてはいけなかった。
スペイン戦でも露呈していたがチェコはビルドアップが下手だ。チームとしてロングボールを使うことも多く、その精度も低い。
対するクロアチアの守備は前線2人の運動量がとにかく豊富でうまい。とにかくサイドに追い詰めてロングボールを蹴らせるというオーソドックスなハイプレスの形はかなり徹底されている。
(Fig.4)
Fig.4 クロアチアの前線からの守備
スペイン戦と同様にボールを前に進められないチェコはロングボールを使わざるを得なかったが、ほとんどクロアチアのディフェンダー陣に回収されてしまった。
4-4-2の守備システムが最近見直されてきている1つの理由が、1列目の守備にある。
2015-2016でプレミアリーグを制したレスターシティや近年急速に力をつけているシメオネ式アトレティコマドリード。
両チームともトップには守備貢献度が高い選手を起用し、プレスで相手のビルドアップを制限していくのがうまい。
ラキティッチとマンジュキッチの1列目の守備レベルはかなり高く、クロアチアの守備を支えていた。
3. クロアチアのカウンター攻撃
ビルドアップからも時々チャンスを作ることがあったクロアチアだが、断然トランジションからのカウンターのほうがチャンスの数も質も高かった。
カウンターにおけるキーマンは以下の3人(Fig.5)
Fig.5 マンジュキッチ(左)、ラキティッチ(中)、ペリシッチ(右)
マンジュキッチは速攻におけるポストプレーヤーとしてボールを収めることも、サイドに流れてプレーを続けることもできていた。また前線からの守備はチェコのビルドアップの妨害と純粋なカウンターの回数を増やすことに大きく貢献していた
ラキティッチはこの試合のMOMといってもいい。スペースでボールを受けてからのワンタッチ目のプレーが絶妙で、ドリブルで躱すことも味方へボールを供給することもできていた。マンジュキッチとの1列目の守備はかなりいいコンビだった。
ペリシッチはクロアチアのカウンターのフィニッシャーとなる場面が多かった。マンジュキッチやラキティッチがサイドで流れてタメを作りつつ遅れてエリア内に侵入してくるペリシッチというパターンはこの試合だけではなくクロアチアの一つのパターン。さらにサイドでも縦への突破力は高く多くのチャンスに絡んでいた。
他にもモドリッチやバデリの縦パスが起点になることも多かったが、この試合のカウンターの貢献度でいえばこの3人を選ばざるを得ない。
クロアチアは多くのチャンスを作り出し、カウンターからペリシッチとラキティッチが決めて2点差とする。
チェフが悪いGKとは言わないが、少なくとも2失点目はチェフのミスだろう。1失点目も全盛期なら弾いていたかもしれない。
クロアチアのチャンス
7m10( P7-17-14-19)
20m40(T17-4)
36m00(T17-7)
36m40(T19-4)
41m00(FK7-21)
58m30(T14-7)
62m00(T7-17)
65m50(P7-17)
79m50(T4-14)
84m10(T4-14)
4. 小さなアクシデント
ちょっとしたことで、試合のバランスが大きく変わってしまうことがある。
この試合では2つのことが2点差になってから起きた。
ひとつはモドリッチの交代
2点差になった直後内転筋を痛めて負傷交代したモドリッチ。
モドリッチのポジショニングによってチェコの前線のバランスは大きく崩されていた。そのためチョルルカ、バデリの縦パスが光った、という流れだったが、モドリッチがいなくなることでチェコのプレスのバランスは明らかに改善された。
世界中を見渡してもモドリッチの代役を務めることは難しく、コバチッチには荷が重い感じだったのは否めない。
ふたつめはクロアチアサポーターによる爆竹投下問題
1点返されたクロアチアは残り数分を耐えしのげば勝利という状況だったが、クロアチアのサポーターが爆竹をフィールドに投げて試合は一旦中断。
この時点でのスコアは1点リードでクロアチアの勝利目前だったが、この騒動のせいでロスタイムが10分間のびる。
ロスタイムが伸びたこともそうだがクロアチアにとっては集中力が切れてもおかしくないような出来事だった。
結果的に92分にチェコのロングフリーキックからのボールをビダがハンドし、PKとなる。PKはネツィドが沈めて結局同点となる。
余談
EURO2016グループリーグの中で最も試合内容と結果が離れてしまった試合になった。なにはともあれチェコは次の試合でトルコに勝てばグループリーグの突破は確定する。
クロアチアの守備は硬くカウンターも鋭い。さらにビルドアップもモドリッチが担当できるという意味ではかなり安定した強さを持っている。ハリルホジッチが優勝候補にクロアチアを挙げていたが、それも納得できる強さである。