サッカーを視る

主にCLやビッグマッチについて。リーグ戦はEPLが中心

EURO2016-B2-ENG.vs.WAL

EURO2016-グループB2-イングランドvsウェールズ

 

まずはスタメンから

白がイングランド、黒がウェールズ(Fig.1)

f:id:come_on_UTD:20161120150016p:plain

Fig.1 イングランドvsウェールズ

 

イングランド前節と同じメンバー。前節ロシアの終盤のパワープレーで失点し、勝ち点1を得ている。ビルドアップに難を抱えているイングランドだったが、この問題をどのように解決するのかが注目ポイント

 

ウェールズJ.ウイリアムスをカヌに、エドワードをレドリーに変更。スロバキア戦に比べて押し込まれることが想定できるため、より守備的なレドリー、エアバトルに優れているロブソンカヌを投入したのは納得できた。また予選ではすべての試合で先発出場していたヘネシーが軽傷から復帰したため、GKも変更している。

 

試合の概要

試合は2-1でイングランドの逆転勝利で終える。36分にベイルの直接フリーキックから先制したが、後半のイングランドは2トップに変更しサイドを起点にチャンスを作り、ヴァーディーとスターリッジが決めて逆転する。ウェールズはまたも2トップの対策ができなかったことを考えれば引き分けもしくは敗北は妥当な結果だった。

 

 


1. ビルドアップの問題点: ケーヒルとスモーリングの存在

f:id:come_on_UTD:20161120150459p:plain

Fig.2 ケーヒル(左)、スモーリング(右)

 

イングランドのスタメンはロシア戦と同じ。

ということはロシア戦で述べたようなビルドアップをこの試合でも行うことになるだろうと容易に想像できる。

 

イングランドのビルドアップはケーヒル、スモーリングルーニー、ダイアーの4人が中心になる。

 

ケーヒルとスモーリングチェルシーマンチェスターユナイテッドの主力CBだが、ほかのメガクラブのCBのビルドアップ能力と比べると著しく低い。

 

ガラパゴス化が進んでいるプレミアリーグではまず屈強なフィジカルとエアバトルが優先されるためタイプが台頭してしまうのはしかたないことなのだが・・・

 

2. ウェールズの守備

 

ウェールズは相手のポジションとボールの位置に合わせてポジションを変化していく。

ハーフラインより相手側でボールが存在するときは3-4-3になり,自陣に撤退するときは5-3-2となる。

 

2.1. 3-4-3

ウェールズスロバキア戦のようにハイプレスを仕掛けたわけではなく、

特定の選手を徹底的にマークすることでビルドアップの妨害を目指した。

 

ターゲットは最終ラインによく落ちるダイアーとライン間でボールを受けようとするルーニー。(Fig.3)

f:id:come_on_UTD:20161120150755p:plain

 

Fig.3 ウェールズの3-4-3

しかし決まった選手がマンマークするという形ではなく、ウェールズの各選手が担当しているゾーンでマンマークを行う。

したがって3-4-3の配置に見えないような守り方をしているときも多々あった。

 

2.2. 5-3-2(5-4-1)

ウェールズが自陣に撤退するときは5-3-25-4-1といった11人全員でディフェンスを行う。(Fig.4)

 

f:id:come_on_UTD:20161120151104p:plain

 

Fig.4 ウェールズの撤退守備

基本的にはベイルとロブソンカヌがルーニーとダイアーを監視することでビルドアップの妨害とコンパクトなディフェンスを心掛けていた。

 

またウェールズの守備で厄介なのはグンターとテイラーの両ウイングバックの存在なのは間違いない。ウイングバックが相手のポジショニングに合わせて最終ラインと中盤の列を移動してくるのはイングランドにとってかなり嫌なプレーとなった。

 

結果的に前半はこの守備でイングランドのボール保持攻撃を完封する。

 

ルーニーとダイアーがマークされている以上、スモーリングやケーヒルは広大なスペースがあるわけだが、やっぱりビルドアップに貢献できていなかった。

 

3. ウェールズの攻撃、イングランドの守備

ウェールズはビルドアップ妨害には成功していたが、効果的な前線からのボール奪取をデザインしていたわけではない。

 

したがってロングボールや確率の低い1on1から自陣の深い位置でボールを回収していたウェールズはボールを保持した状態からの攻撃がメインとなってしまった。

 

ウェールズもまたボールを保持した状態での攻撃は得意ではない。基本的にGKや最終ラインからのロングボールがメインとなるが、エアバトルにおけるケーヒルとスモーリングの強さはやっぱりすごかった。

 

つまりウェールズのボール保持攻撃もほとんど意味をなしていなかった。

 

4. 前半のチャンス

どちらのチームもうまくボール保持からチャンスにつなげることはできなかったが、イングランドウェールズのロングボール攻撃後のトランジションでいくつかのカウンターを成功させ相手の陣地までスムーズに攻め上がることもあり、カウンターやセットピースから3回のチャンスを作っていた。

 

しかし36分のベイルの直接フリーキックウェールズが先制する。スロバキア戦でもベイルは直接フリーキックを決めており、膠着状態において貴重な得点だった。

 

前半の命運を分けたのはガレスベイルの存在だったといっても過言ではない。

 

イングランドのチャンス

6m20(8-7)25m10(FK10-5)31m40(7-9PK?)35m10(CK10-6)

ウェールズのチャンス

9m30(9-11)41m50(FK11)

 

 

5. ウェールズの弱所、イングランドの後半

ウェールズ3-4-35-3-2を崩すためには厄介なウイングバックをどうにかしなければならない。

 

本来の3バックではピッチのワイドな部分をカバーすることはできない。そのため相手がワイドの深い位置にポジショニングしてきた場合にはウイングバックは最終ラインを助ける必要がある。

 

もしウイングバックのポジショニングを固定化させることができればイングランドはよりオフェンスで優位に立てるはず・・・

 

動いてきたのはイングランドだった。

 

存在感を示せなかったケイン、スターリング(ビルドアップがうまくいかなかったので、ある程度は仕方がなかったが・・・)をヴァーディー、スターリッジに変更。

後半はすべてにおいて前半とはまったく違うイングランドを見せてきた。(Fig.5)

 

f:id:come_on_UTD:20161120151722p:plain

 

Fig.5 イングランドの後半のポジショニング

 

ウイングバックを固定化させるためにサイドバックをかなりオーバーラップさせ

厄介だったチェスター、ディビスの迎撃に対しても、2トップにすることで迎撃をかなり限定させた。

 

したがってルーニースターリッジは図のポジションでフリーになることができる。仮にレドリーやラムジーがプレスをかけてきたとしても中盤のスペースを活かせるという意味であまり問題ではない。さらにスターリッジとララーナが頻繁にポジションチェンジを行っていたことも相手を混乱させるきっかけになっていたかもしれない。

 

スタリッジは前半になかった動きをよくしていた。スターリングは縦の動きを頻繁に繰り返すことで突破をはかっていたが、スタリッジはワイドにスタートポジションを取りながらもカットインのような感じで中央を攻めることが多かった。

 

スタリッジもヴァーディーも2トップ向きの選手だがスタリッジはどちらかというとシャドーストライカーのように自由にポジションをとるタイプで、ヴァーディーは裏抜けを狙うタイプのCFであると考えると補完性はしっかりしていたことも2トップが機能していた要因だろう。

 

後半になると試合を優位に進めることができるようになったイングランドは、幸運にも55分にセットピースからのスクランブルをヴァーディーが押し込んで同点とする。

 

イングランドとしてはこのままでは勝ち点2のためイングランドはこのまま逆転にむけて攻勢を強める。

 

6. ラッシュフォードの投入

攻勢を強めるという意味でララーナに替えてラッシュフォードを投入。

ラッシュフォードのファーストタッチやターンなど個人的なコンディションはかなりいい状態にあることは確かだったが、ララーナに比べて周りをサポートする動きが圧倒的に少なかった。(Fig.6)

f:id:come_on_UTD:20161120152123p:plain

 

Fig.6 ラッシュフォードのポジショニング

 

本来ラッシュフォードはこの場面では2トップの1角のような位置にいなければならない。ラッシュフォードがサイドにいるためチェスターは前に出ていくことができてしまっている。

 

時間がたつにつれてポジショニングの修正はできていたが貴重な時間を無駄にしていたことは確かだった。

 

結局91分にスタリッジが中央からワンツーで崩してイングランドが逆転したためこういった些細なことは忘れられてしまうわけだが。

 

7. ウェールズのセットピースの守備

ウェールズはセットピースから多くのチャンスを作られていた理由はエアバトルの強さ以外にもやっぱり原因はあると思う。

 

そもそもセットピースでの守備はマンマークとゾーンの2つに大別される。ウェールズマンマークでセットピースの守備を行う。

 

英国色が強い国はマンマークで守ることが多く、ドイツやスペインなどはゾーンで守っている。G.ネビルはマンマークは一人の選手を追えばいいからマンマークは正解といっているし、グアルディオラはあるエリアでヘディングを撃たれなければ失点することは防げるのでゾーンで守るべきといっている。どちらの方法で守備をするのが絶対的に正解といえないためこの論争は多分永遠に続く。

 

自分はどちらかというとゾーン支持派というのもあるが、やはりマンマークは相手に主導権を握られることが多く、スクリーンの動きに対してほぼ受け身になってしまう傾向が強いと思う。

 

余談

ウェールズスロバキア戦同様に2トップ2サイドバックのオフェンスを攻略することができなかった。この時点で勝ち点3であるウェールズは引き分け以上で突破が可能となるが、微妙に追い込まれている状況だったりする。

 

イングランドはこの試合では勝利することができたためグループリーグの突破は確定したわけだが、ビルドアップがままならないのですぐに敗退する可能性が高い。