EURO2016-B1-WAL.vs.SVK
まずはスタメンから
ウェールズは過去20年の中でも最もバランスよくタレントがいる黄金世代。レアルマドリード所属のベイル、アーセナル所属のラムジー、ストークシティ所属のアレン、スォウンジーシティ所属経歴があるテイラー、デイビス、A.ウイリアムス。
プレミアリーグ所属の選手を中心として最終ラインから前線までタレントがきれいに分散している。
一方でスロバキアについてはよく知らない選手が多いが、シュクルテル、ハムシクは長年ビッググラブで戦ってきているビッグネームだ。他のメンバーについては5試合以上見ている選手はいないはずだが、CLにちょくちょく出てる記憶がある。4大リーグに在籍している選手は少なめだが、近年は国際大会に出場していることも多いチーム。
試合の概要
試合は2-1でウェールズの勝利で終える。9分にベイルが直接フリーキックを決めて先制する。前半はウェールズの守備に苦戦するが後半2トップにしてオフェンス面を強化したスロバキアは60分にドゥダが決めて同点とする。しかし2トップにしたことでディフェンスに問題を抱えたスロバキアは82分にロブソンカヌに決められ2-1となる。
両者の強みと弱みを見ることができた面白い試合だった。
1. スロバキアの攻撃
この試合のスロバキアはボールを保持しようとする。スロバキアが予選にどのような戦い方をしているか定かではないが、10試合のスタメンを見てみると本戦で使われているメンバーとほぼ同じであるため、同様のボール保持からの攻撃を中心としていることが推察される。
しかしスロバキアのビルドアップはなにかぎこちない。
基本的にはシュクルテル、ジュリツァ、フロショフスキーでビルドアップを行おうとするが、ウェールズの前線のプレスをかいくぐることができない。
そういった時にはハムシクが下がってボールを受けにくることでスロバキアはビルドアップ問題を解決しようとする。
本来スロバキアの強みはハムシクにチャンスメイクを担当させることであるが、ハムシクがビルドアップに参加してしまうことでストロングポイントが大きく削がれてしまいボールを保持した状態での攻撃はなかなかうまくいかなった。
2. ウェールズの守備
前述のとおり、ウェールズは前線からの守備と撤退守備を使い分ける。さらにここ1~2年で盛り返してきている3バック方式を採用しているチームである。
2.1. 前線からの守備
ウェールズがハイプレスを仕掛けるときには5-3-2のような形になる。(Fig.2)
Fig.2 ウェールズの前線からの守備(5-3-2)
図はあくまで大げさに表しているが、ラムジー、ベイルがCBにプレスをかけること、CBから展開されるレシーバーに対して激しく寄せることで相手のビルドアップを妨害していた。
ただしフロショフスキー、ハムシクが下がって受ける場合には中盤の3人はあまり深追いはしなかった。3バックならではのデイビス、チェスターがかなり高くまで迎撃できるというのはウェールズの前線からの守備における強みだった。
ウェールズはかなりの確率で前半スロバキアのビルドアップの妨害に成功していたが、前述のようにハムシクが下がることでハイプレスを逃れる場面もあった。
2.2. ウェールズの撤退守備
ウェールズは撤退するときはしっかりと撤退し、3-4-3のようにポジションを整え、トップはベイルが担当する。(Fig.3)
Fig.3 ウェールズの撤退守備(3-4-3)
画像からではわかりにくいが、本来ハムシクがクツカのポジションでプレーできることが望ましい。しかしハムシクがビルドアップに参加していることが多い以上あまり効率的な攻撃はできない。
こうなった時のスロバキアは前線にロングボールを放ることも多かったが、ウェールズの3バックはプレミアリーグでエアバトルに慣れた選手たちでありほぼ跳ね返されてしまっていた。
ただしハムシクがチャンスメイクができる位置でプレーした時には大きなチャンスをつくれていた。前半のスロバキアの大きなチャンスは3つあったがいずれもハムシクが大きく関わっていた。
3. スロバキアの守備
スロバキアの守備は4-1-4-1で1列目がハーフラインまで下がる。バスを停めるとまでは言わないが、スペースを埋めるような守備を心掛けていた印象。(Fig.4)
Fig.4 スロバキアの守備
ウェールズのCBはビルドアップがうまくない。
ちなみにグループBでビルドアップがうまい選手はいない。もうちょっと先の話だが、実際グループBから決勝トーナメントに進むチームはかなり苦労することになる。
ウェールズがボールを保持した時、
ベイルにめがけてロングボールを供給し、テイラー、J.ウィリアムス、ラムジー、グンターでセカンドボールを回収する方法
と
3バックと中盤でビルドアップを行いボールを前進させる方法がある。
スロバキアは後者を妨害するためにクツカ、ハムシクでプレスをかける。もしここでボールを奪取できれば高い位置でハムシクがチャンスメイクできるというメリットもあるため、この方法は理にかなっていた。
しかしウェールズはラムジー、ベイルが頻繁に下がってくることもあり、スロバキアのプレスは計画されたボール奪取にまでは至っていなかった。
しかしウェールズのボール保持攻撃がチャンスまでつながったか?といわれればそんなこともなく、ウェールズのチャンス数はわずか1つだった。理由は安全にボールを運ぶためにビルドアップに人数をかけすぎていたことが要因だが、早々に1点を得ているウェールズにとっては、リスクのある攻撃をしないという意図も含まれていただろう。
ウェールズのチャンス
31m30(5-20PK?)45m40(4-11)
スロバキアのチャンス
2m30(17),41m00(7-17)44m20(17-3)
4. 後半戦
ウェールズ相手に勝ち点1以上は取りたいので、後半のスロバキアはプレスの開始ラインと強度を強める。またウェールズの前線からの守備も時間ともにルーズになっていく傾向があった。
後半始まってから15分でスロバキアは2枚変えをおこない攻勢を強める。ポジションも4-1-4-1から4-4-2の2トップに変更する。この采配はスロバキアにとってかなり重要な要素となる。(Fig.5)
Fig.5 スロバキアの得点シーン
前半のウェールズの撤退守備で、チェスターとディビスのボールリカバリー数が異様に多かった理由は確かに存在する。前半のスロバキアは1トップであったため、ディビスとチェスターはウイングバックと中盤のスペースを埋めるような動きができていたことがとても効いていた。
しかしスロバキアは後半いくつかの変更をする。
まずサイドバックのペカーリクを大きくオーバーラップさせる。
これによってテイラーは5バックの一角のような位置取りをしなくてはならない。
さらにスロバキア2トップにすることで、
ディビス、チェスターに迎撃させることを躊躇させるようにした。
問題は青のエリアに侵入できるかどうか?ということだが、そこは前線で一番守備のさぼり癖があるラムジーが切り口になった。個人的にこの同点ゴールはかなり計算されていたと思うし、ウェールズの3バックの弱点も見えてきたのではないかと思う。
5. スロバキアの副作用
スロバキアは2トップに変えてからすぐに得点を上げたが、守備がなぜか変になっていた。前半は組織された4-1-4-1だったが、後半2トップにしてからはハイプレスを仕掛けるようになる。しかし運動量も連動性もあまりなく、うまくいっていたとは言い難かった。
前半のフロショフスキーが特別何かの役割をしていたわけではないと思うが、後半のクツカ、ハムシクのセンターハーフのディフェンスでは相手にスペースを提供してしまっていた。ウェールズの追加点はまさにそのスペースから生まれたゴールだったが、何も不思議なことはなかった。
余談
今回の試合は前半と後半で大きく異なっていたので、面白かった。スロバキアの4-4-2はまさに諸刃の剣なわけだが、4-1-4-1状態のオフェンスはかなりレベルが低い感じがある。守備を取るか攻撃を取るか次節のロシア戦でそれがわかるだろう。
ウェールズの守備はかなりシステマチックでシステムと相手が噛み合っているときのディフェンスはかなりいい。一方で対策を打たれた時にどうするか?というのは大きな課題になりそうだった。