EURO2016-A2-ルーマニアvsスイス
EURO2016-グループA2 ルーマニアvsスイス
まずはスタメンから
黄色がルーマニア、赤色がスイス(Fig.1)
Fig.1 ルーマニアvsスイス
ルーマニアはフランス戦と比較すると4人の選手を変更してきた。最終ラインに変更はなかったが、
ポパ(右サイドハーフ)
ホハン(センターハーフ)
スタンチュ(オフェンシブハーフ)
アンドネ(フォワード)
を
チプチュク(左サイドハーフ)
プレペリタ(センターハーフ)
ケセル(フォワード)
と中盤から前線にかけて大幅に刷新してきた。ルーマニアの一人一人の選手の能力について残念ながら詳細まで知らないので実際どうなのかはわからないが、
短期決戦において1試合目で負けたチームが大幅に選手変更する場合、戦術的な要因というよりも監督が選手のパフォーマンスに満足していない部分が大きいことが多い。
実際にスタンチュ、アンドネ、ポパはフランス戦で結構まずい守備をしていたことを考えると、まあこの人選に納得はできる。
一方のスイスはスタメンは同じ。アルバニア戦では決定機を多く作っていたスイスだが、得点が伸びなかった。後はルーズな前線からの守備が改善したかどうかというところが見どころだろう。
試合の要約
この試合は1-1で引き分け。17分にルーマニアのスタンクがPKを決めて1点、56分にスイスのメメディがボレーシュートを決め同点。トータルスコアは1-1で終える。お互い守備のシステムがあまりきっちり定まっていなかったため、見るのに非常に体力がいる試合だった。
1. ルーマニアの守備
大幅に選手を変更してきたルーマニアが見せる守備に少し興味があった。
しかし実際にはフランス戦でみせた守備とあまり変更点が見られなかった。
基本的な守備の形は4-4-2。
ただしフランス戦と同様にサイドハーフがプレスのために前目に位置することが多く、またかなりボールのあるほうに重心をおいているのが特徴だった。(Fig.1)
Fig.1 ルーマニアの守備(スイス側から見て左サイドにボールがあるとき)
ルーマニアの守備の質は高いとはいえない。
守備の約束事に一貫性があること=必ず正しい、というわけではないがいくつかの軸を持つことが堅固な守備に必要な要素だと考えている。
例えばスイスを相手にするのであれば、アルバニアがそうしてようにジャカに対してマンマーク気味で守備をすることも手段の1つだと思う。実際には図の通りにハイプレスをしかけることもあったが、途端にプレスをしなくなったりもする。
一貫性があったことといえば、チプチュクがリヒトシュタイナーに、トーレがR.ロドリゲスにマンマークしていたことぐらいだった。リヒトシュタイナーはウイングのようなポジションをとっていたため、実際のルーマニアは5バックのようになっているときもあった。
本来リヒトシュタイナー側でボールを保持されたらチプチュクは中盤のディフェンスに参加し、トーレがR.ロドリゲスをマークする形が一般的だが、リヒトシュタイナー側でボールを保持された時もチプチュクが下がったままと、少し歪な守備システムだった。(Fig.2)
Fig.2 ルーマニアの守備(スイス側から見て右サイドにボールがあるとき)
実際にこの場面ではG.ジャカがR.ロドリゲスにロングパスを通したように、R.ロドリゲスとG.ジャカに広いスペースをプレゼントしてしまっていた。
このシステムだけの問題ではないが、ルーマニアは基本的に前線とディフェンスラインが乖離してしまって、どこか致命的なスペースがあるというのが、特徴だった。
実際に15分までに3回の決定機を作ったスイスだが得点には至らなかった。シュートを撃ったのはすべてセファロビッチであり、調子が悪いのかゴールセンスに欠けているのかはよくわからない。ただしセファロビッチは動き出しがうまく、デコイ(囮のラン)も裏抜けもこなせるという事実は忘れてはいけない。
6m00(Aerteal battle-15-9)
9m50(10-9)
10m40(10-13)
15m20(8-18-23-9)
19m50(22)
37m50(9-2-15)
2. スイスの守備
あまり取り上げてこなかったトピックだが、スイスの守備は基本ルーズだ。正直な話2014の日本代表のような驕りが少し見える。
現在のサッカーでは守備を完全に免除できるのは多くても1人である。前線に残るのであれば計画されたプレスやゾーンを守らなくてはならないし、時には自陣の中盤まで戻らなくてはいけない。
スイスはジュマイリ、メメディ、シャキリの守備意識が低く、DFライン+ジャカ、ベーラミだけで守備することも何度かある。特にサイドハーフの守備意識の低さはかなり深刻な問題だった。選手個人レベルの能力や実績はスイスのほうが断然上かもしれないが、ルーマニアにもつけ入るすきがあった。
さらに展開するサッカーの関係上、サイドバックはウイングのような振る舞いをすることが多々あるため、被カウンター時はリスクを伴うことが多い。実際にルーマニアのチャンスはボールを回収してからのカウンターからだった。特に、前半輝いていたチプチュクのロングスプリントの貢献度は大きかった。
3. ルーマニアの先制点
ルーマニアは2試合連続でPKで得点する。チプチュクの侵入に対してリヒトシュタイナーがユニフォームを引っ張ったことが原因だった。
実はリヒトシュタイナーはアルバニア戦も同じようなPK疑惑のファールを冒しており、そういったことを加味しても妥当な判定だった。このPKをスタンクが決めて1-0。
流れはつかめていないが2試合連続で得点出来たルーマニアは、全グループの試合を通してみた中でもかなり恵まれた部類に属すると思う。
4. スイスの攻撃
じつはこの時点でスイスはかなり追い込まれていた。グループリーグ突破の安全圏は勝ち点4である可能性が非常に高いが、3節の相手がフランスであることを考えると勝ち点1を稼ぐことは難しい可能性がある。逆にこの試合で引き分け以上であればフランス戦は消化試合になるため、とにかく同点に追いつくことは重要だった。
先制点を得てからのルーマニアの守備は前線からというよりも、バスを停める方向になっていく。(自陣に引いた時にはトーレがR.ロドリゲスを監視するために6バックのような状態になっていることもあった)
それにしたがってジャカが自由になるスペースも広がっていったのは当然だが、逆にスイスのシュートエリアのほとんどはルーマニアの選手で埋まってしまっていた。
ただしルーマニアの守備は人数をかけているだけで堅固な守備ではまったくなかった。
スイスが~というわけではないが、欧州の選手はファールをもらうのがうまい選手が多い。例えばケセルがベーラミの手を引っ張った場面について(Fig.3)
Fig.3 ケセリ→ベーラミ(ファールシーン)
確かに手をつかんだのはケセリで、ルール上はファールだが、この直後にベーラミは相手の手をつかんで離されないようにしている。こういう小さなプレーがファール獲得率をあげられる重要なプレーだと思う。
18:プレペリタ、7:チプチュク、13:ケセルが前半でイエローカードをもらってしまいルーマニアにとってはあまり無理なファールがしづらい状況になってしまった。
5. 後半戦
後半開始とともにルーマニアはピンティリ⇔ホハンの選手交代を行う。理由はよくわからないが、怪我をしたという感じは見受けられなかったので監督にとって何か気に入らない点があったのだろう。正直ルーマニアのベンチワークはよくわからない。
スイスは前半から何度か決定機を作ってきたが57分にメメディがセットピースのスクランブルからボレーシュートを決めて1-1とする。
ルーマニアはこのあとなぜかまたハイプレスを再開し、中盤のスペースをぽっかり空けてしまう。結果的に失点はしなかったがルーマニアの敗北も十分にありえた展開だった。
余談
ルーマニアのサッカーはEURO出場国の中でも最もつまらないし弱い。勝ち点1を手に入れている以上アルバニアに勝利すればグループリーグ突破が可能となるが、ルーマニアがアルバニアを倒せるとは思えない。
実際に第3節ではアルバニアが1-0で勝利する。