UCL16-17-D4-PSV.vs.バイエルン
UCL16-17-D4-PSV.vs.Bayern
まずはスタメンから
Fig.1 PSVvsバイエルン
PSVはいつもと違って5-3-2
GKのズート、OMFのシームデヨング、WGのナルシン、CHのヘンドリクスとスタメン級の選手が負傷欠場。特にロングカウンターで大きな武器になっていたルークデヨング-ナルシンのコンビがなくなったということもあって、8人の守備と2人の攻撃と完全に分業されていた。
バイエルンは4-3-3
負傷はJ.マルティネス、リベリのみだが、ローテーションできるので特に問題はない。この試合の一つの注目点はロッベンのポジショニング。4-3-2-1ではなく4-3-3表記というのがポイントかもしれない
試合の概要
試合は1-2でバイエルンが勝利する。13分にカウンターでアリアスが押し込んで先制する。完全にオフサイドポジションにいたものの審判は見逃していた。しかし33分にPKをレヴァンドフスキがしっかり決め、72分にもアラバ、D.コスタの素晴らしい崩しからのクロスをレヴァンドフスキが押し込んで逆転した。試合自体は常にバイエルンが押し込む展開だったが、特に後半はより危険度を増した攻撃ができており、もっと点差が開いてもおかしくなかった。
3節ではバイエルンに対して撤退気味の4-4-2(5-3-2)で挑んだ。5バックになるタイミングはSHのナルシンまたはG.ペレイロがSBのオーバーラップに対応する時。しかしこの試合のPSVは多くの選手を欠いており、5-3-2を選択する。ナルシンのように長距離スプリントできる選手がいないので、8人の守備、2人の攻撃(G.ペレイロ)とした方がカウンターの危険性が高まると考えたためだろう。
いずれのシステムにも共通していることは1列目が守備をしないということ。つまりバイエルンはハーフラインまでは簡単にボールを運べた。押し込まれた時は3節も4節も5-3-2のような形になっていたので、主にこの2試合を比較しながらバイエルンの攻撃を見ていく。(Fig.2,3,4)
注目はロッベンの位置、3節ではロッベンがかなり中央にポジションを取ることで、ロッベン、T.ミュラーがトップ下となる4-3-2-1のようなフォーメーションになっていた。そしてワイドはラーム、アラバが対応することでPSVを押し込んでいた。
Fig.3 4節 赤:PSVvs黒:バイエルン(右サイドボール存在時)
一方の4節では、右サイドにボールがあるとき
・ロッベンがワイドな位置
・ラームは被カウンター対策のために少し下がり気味のインサイド、
・T.ミュラーは今まで通り自由
という状況になっていた。
もちろんチャンスメイク時にはラームは今まで通りオーバーラップするが、ロッベンのファーストポジションがワイドというのが3節との最大の変化だろう。
Fig.4 4節 赤:PSVvs黒:バイエルン(左サイドボール存在時)
左サイドにボールがあるとき
・3節同様アラバがワイドで高い位置をキープ
・T.ミュラーは今まで通り自由
・ロッベンはどちらかというとインサイド気味のポジションを取ることが多め
というように左サイドにボールがあるときは3節と4節であまり大きな違いはなかった。
一方でPSVの撤退守備時の約束は非常にシンプルだった。
この3つがPSVの守備の約束事
まず押し込まれた時に中央のX.アロンソを経由されてボールを回されると守備のスライドが追い付かなくなる。そのため、押し込まれた時のみG.ペレイロがX.アロンソにマンマークしてボールを経由させないようにする。ただしJ.ボアテングもフンメルスもキミッヒもA.ビダルもビルドアップ-ゲームメイク可能なタイプなので、いうほどバイエルンの前進を防ぐ効果があったかは不明。
PSVとロストフの5-3-2を比べた時にロストフが素晴らしい部分は、1列目が献身的にゲームメイカーを潰そうとするところにある。3節でも書いたがPSVの守備にそれは全くなくバイエルンはこの試合でもスムーズに前に進めてしまう。結局3節と同じようにバイエルンのチャンスメイクが成功するか失敗するかだけがほぼ見所の試合となってしまう。
バイエルンのチャンスメイク
バイエルンのチャンス
01m20P(21-10-25-10-23-27-25)Grade5
03m20P(17-9)Grade5
03m30P(9-9)Grade5
07m20P(17-21-10-25)Grade4
09m20P(21-10-25-10M)Grade4
10m40P(23-14-21-10-9)Grade4
19m00P(32-5-25offside)Grade4
20m10P(23-25-21-10-9-21-14M)Grade4
28m20P(9-14-10)Grade5
28m50CK-P(10-9)Grade5
30m40P(14-32-5-9)Grade4
32m20P(25-21-10-21Penalty)Grade5
33m30PK(9)Goal
37m50FK-P(27M)Grade4
39m00T(1-21-32-9)Grade4
39m50T(25-32-10-25-23)Grade5
47m10P(23-21-25-10)Grade4
50m50P(5-27-23-32)Grade5
53m20P(10-27-23-27)Grade4
54m20CK-P(14-9)Grade5
57m50CK-P(14-5)Grade4
61m20P(14-5-23)Grade5
61m30P(23-25)Grade5
62m10P(10-21-25-32)Grade4
64m40P(27-11-27-11-23)Grade4
68m50P(23-29-21-9)Grade4
69m00P(21-9-27-21)Grade4
71m30P(5-21-29-25)Grade5
72m40P(17-27-29-27-9)Goal
74m50P(14-27-11-25)Grade4
76m10P(5-21-29)Grade4
83m40P(21-25-29-11-9)Grade4
92m40FK-P(27M)Grade4
Grade3以上のチャンスは48個、Grade4は19個、Grade5は12個と実は3節に比べてもチャンス数は遜色ない(3節時の総チャンス:45個、Grade5は14個)
結果だけを見れば3節は4-1でバイエルンの勝利、4節は1-2でバイエルンの逆転勝利とPSVは健闘したかのうように見えるが、実際はほぼ1点物のシュートをGKパスフェールや寸前で最終ラインが掻き出しているシーン、ポストに嫌われたシーンが多かったからに過ぎない。
ただし前述したように、ロッベンがワイドな位置にいることでチャンスメイクの方法は少し変わった。
前半のロッベンの脅威
やっぱりワイドでボールを持つ選手が最高レベルのウインガーだと正直撤退守備では防ぎきれない。最高レベルのウインガーとはL.メッシ、ネイマール、ロッベンレベルのことで、ペナルティエリアアーク付近でほぼ正解のプレーを高精度で行ってくる選手のことである。(そういう意味ではネイマールはこの2人に比べるとわずかに劣るが)
とにかくロッベンがボールを持つとマンマーク対象であるビレムスはもちろんのことH.モレノもビレムスをサポートする状況になるため、T.ミュラー、レヴァンドフスキがデコイになることで、チャンスを作ることができた。(Fig.5)
具体的なマーク状況は以下のとおりである
・ビレムス→ロッベン、H.モレノ→ラームのため最終ライン中央にスペースが生まれる
・最終ラインのスペースを埋めるためグアルダードが下がる
・最終ラインの手前にスペースができる
ロッベンがボールを持つだけで勝手にこの状況ができるため、あとはロッベンがカットインして中央のスペースを使うことができるか?に帰結する。
ただロッベンはカットインからのコンビネーションプレーを非常に得意としており、こういう状況を本来ならPSVは絶対的に避けなければいけない。G.ペレイロが中央のエリアを埋めるべきだが、そうなればPSVの生命線であるカウンターを成功させることはかなり難しくなる。
こんな感じで右サイドの攻撃はラームのサポートが多少あるものの、ロッベンの質によって成り立っていた。個の優位性を持つチームの最大の強みである。
レヴァンドフスキの同点弾、PKの経緯
同点弾はラームのクロスがきっかけでPKを得て、レヴァンドフスキがしっかりと決めたわけだが、ロッベンサイドで殴り続けた結果といっても過言ではない
。
ただしこのPKのシーンに関して、ラームのクロスをキミッヒが触り、軌道が変化したボールがグアルダードの手に当たったことが原因だが、判定としてはかなり厳しい。(Fig.6)
Fig.6 グアルダードのハンドシーン
後述するが、13分に決まったPSVの得点シーンは完全な誤審だったので、帳尻合わせとみられてもおかしくないだろう。
一方で左サイドは前述のとおりアラバのオーバーラップが生命線となっている。そしてT.ミュラーは2トップのように動き回るため、サポートはA.ビダルが担当する。(Fig.7)
Fig.7 アラバを使ったチャンスメイク
基本的にアラバは周りとのコンビネーションを意識しながらマーク相手を出し抜くのが非常にうまい。そしてクロス精度も高いので、左サイドのチャンスメイク担当になることが多い。
ただし当たり前だがロッベンのように個の能力で打開できるタイプではないので、周りとのコンビネーションは必須となる。実際逆転弾につながるシーンは、途中出場のD.コスタとの素晴らしい連携が肝だったといってもいい。(詳しくは動画参照)
つまりこの試合のバイエルンのチャンスメイクは右サイドがロッベンの個、左サイドはアラバを生かしたコンビネーションというように非常に対照的だった。
なお、63分にはロッベン⇔コマン、キミッヒ⇔D.コスタと変更し、4-3-3-から4-4-2に変更している。(Fig.8)
Fig.8 63分からのバイエルンの4-4-2
ロッベンも前半かなり飛ばしていたこともあってか、後半少し存在感が落ちる。ここで投入された選手が生粋のクロッサーであるコマンとD.コスタというのが面白かった。中盤の枚数を3枚から2枚に変更することで、T.ミュラーがサイドをサポートする必要がほとんどなくなり、飛び出しに専念することができるようになっていた。T.ミュラーは何でもできるが、ストロングポイントはやっぱり飛び出しと走力だと思うので、個人的にはもっとゴール近くのプレーに専念させてほしい。
PSVのチャンスメイク
前の試合とほぼ同じだが、PSVが得点するチャンスはセットピースかカウンターしかない。
PSVのチャンス
5m00P(18-15-18-6-7)Grade4
13m20T(18-6-23-4-6-4)Goal
41m00T(3-4-7-4)Grade4
48m10P(4-6-7-9-4)Grade4
68m30FK-P(18-3)Grade4
非常に少ないチャンスだったが、またしてもカウンターから失点を許してしまったバイエルン。ただし、動画を見ればわかるように、明らかにオフサイド。カウンターの質は
とても高かったがこの誤審が後々のバイエルン有利のPK判定にも影響した。
PSVとバイエルンはこれで180分間試合をしたことになるが、ほとんどのカウンターはアラバサイドから起きている。これを示す1つの指標としてはバイエルンのタックル、インターセプトエリアがある。(Fig.9)
ロッベン側から多く攻めているのだから、そのエリアでバイエルンのハイプレスに引っ掛かっているというのももっともだが、アラバのタックル(0/0)、インターセプト(1/1)というのは見過ごせない数字だと思う。
どういうことかというと、アラバ側からチャンスを作るとき、必ずコンビネーションを必要とするため、A.ビダル、フンメルス等を近いエリアに引き寄せてしまいがちとなる。こうなった時被カウンターを守る選手はX.アロンソとCB陣しかいない。もちろんPSVもロストフも前線にワールドクラスはいないため、カウンターの場面でも大抵は大事にはならない。(ナルシンやルークデヨングといったある領域に優れた選手はいるが)
3節の失点シーンも実はナルシンがアラバの裏の広大なスペースを使ったカウンターだったがこれは決して偶然ではないと思う。アラバを疑似ウイングとして使うメリットとデメリットはバイエルンの2016-2017シーズンを見るうえで非常に重要な部分となってくるだろう。
余談
圧倒的に支配していたバイエルンだったが、やっぱり脆さを併せ持っている。アンチェロッティが今後この問題をどう解決していくかとても興味深い。ちなみにこの試合勝利したことでバイエルンはグループリーグ突破が確定している。
UCL16-17-D4-アトレティコマドリードvs.ロストフ
UCL16-17-D4-AtleticoMadrid.vs.Rostov
3節はアウェーでロストフと戦った時と比べていくつかの変更点がある。1つはサウール.NをCHにコケを疑似SHとした。2つめはファンフランをブルサリコに変更した、現時点ではターンオーバー要素が強いと思うが、将来的にファンフランを押しやる可能性がある逸材である。
ロストフはいつもの5-3-2
3節との変更点はRWBのカラチェフが怪我からあけてスタメン復帰したことくらい
試合の概要
試合はアトレティコマドリードが2-1で勝利する。28分にカラスコのクロスからのこぼれ球をグリーズマンが超反応で押し込むが、ロストフは失点直後29分にカラチェフ→ポロズ→アズモンとロングカウンターを成功させ同点にする。最終的には92分にコケのロングボールからのこぼれ球をまたもグリーズマンが押し込み2-1とした。前回の試合とまったく同じ内容だったかというと全然そうでもない。むしろアトレティコマドリードは前半自分たちの少しの変更が仇となって苦戦する。後半は持ちなおしたがグリーズマンを筆頭に個人能力に助けられた形となった。
シメオネの試合後のコメント
今回は趣向を変えて監督のインタビューから試合を見ていく。
試合後のコメントは以下の通りだった。
「事前の予測通り、この試合はタフなものになった。ロストフはとても組織的で、容易に失点を許すチームではなかったよ。具体的な内容は公にしたくないが、今日の試合で私が悪い采配を振るったのにも関わらず、選手たちは目の前の試練を乗り越えてくれた。このグループは厳しい組み合わせだったが、選手たちの頑張りを誇りに思う」
シメオネ監督が考える今日の悪い采配とはなんだったのかを中心にしてこの試合をみてみるとこの試合は非常にわかりやすいものとなった。
3節とほぼ同じ部分については割愛するが、ロストフは基本5-3-2の撤退守備を行う。時と場合によっては前線からプレスをかけることもあるが試合を通して継続しているわけではない。
3節のロストフの守備の基本は、ゲームメイク役であるコケ、ガビを攻撃参加させないことだった。
3節もアトレティコマドリードはロストフを押し込むことはできていたが、押し込んだ後のチャンスメイクの形がどうしても決定的かつ狙い通りなものになることは少なく、むしろ個人能力の差がチャンスの質を決めてしまっている部分があった。
そういった中でも3節では、コケがゴールに近い位置でプレーするとチャンスメイクの質は上がっていたことから、おそらくシメオネ監督はこの試合後にコケをもっと前でチャンスに絡ませることができればより決定的なシーンが増えると考えたのだと思う。
この試合の特に前半の基本布陣は以下のようになることが多かった。(Fig.2)
Fig.2 アトレティコマドリードのゲームメイク(0~35min)
・ブルサリコ、F.ルイスは高い位置でプレー
・CHはサウール.N、ガビ
・コケは初期位置をSHにしながらもOMFとしてより中央でプレー
最大の変更点はコケが3節時には出し手だったのに対し、4節では受け手になっていることだろう。おそらくこの変更がアトレティコマドリードの攻撃を完全に狂わせてしまった。(Fig.3)
Fig.3 サウール.Nのパス(左:4節 34分まで)、コケのパス(右:3節 34分まで)
それぞれ異なった試合の34分までのパスを比較したのがFig.3であるが、コケは明らかにサイドチェンジを多用していた。これによって3節でも示したように5-3-2のスライドが間に合わない間にサイドを攻略するという手法を可能にしていた。
一方で、この試合のサウール.Nはサイドチェンジを使うことは全くなかった。では近くの選手とのコンビネーションで崩せたかといえば、それもほぼなかった。そしてこの試合のアトレティコマドリードはボール保持攻撃のゲームメイクにおいてCBが関与する機会が多かった。(Fig.4)
Fig.4 ロストフの5-3-2について
4節のアトレティコマドリードはボール保持攻撃でよりリスクを取った。つまりCHを1,2列目間におき、コケはさらに前目の中央にポジションをとった。こうなった時に最終ライン4人はプレスに対して解決策をあまり見いだせる選手ではなかった。F.ルイスはもっと前のポジションであればドリブルでチャンスメイクできるが、この位置で仕掛けるのはリスクが大きすぎる。これが前半35分間有効なボール保持攻撃ができなかった理由の1つだと思う。
こんなこともあって34分にコケとサウール.Nのポジションをチェンジする。すなわちコケ、ガビのCH、カラスコ、サウール.NのSHという形にした。この変更を境にアトレティコマドリードは3節と同様にうまくゲームメイクが行えるようになる。(Fig.5)
Fig.5コケのパス(左:4節 34分まで)、コケのパス(右:4節 35~90分まで)
ここまで明確にデータとして出ることはかなり珍しいと思うが、34分まで受け手としてプレーしていた間はパス数が22、CHとして35~90分まで出し手としてプレーした時はパス数が76。比較している時間は1.6倍だが、パスは3.4倍まで増加している。またFig.3のサウール.Nと比べてもパスの供給エリアはとても広い。
サウール.Nがすべて悪いというわけではなく、どちらかというと守備からのカウンターで輝くタイプの選手という印象が強いので、ロストフのように押し込んだ時にパスの出し手となるのはあまり得意ではないのかもしれない。
したがって冒頭で述べたシメオネのミスとは、
「コケの初期配置をミスしてしまい、34分までのボール保持攻撃の時間を無駄にしてしまったこと」と自分は解釈した。
4m00T(16-6)Grade4
5m40T(16-6-9-10)Grade4
10m30P(7-8-6-7-3-10)Grade5
16m50T(16-6-7-10)Grade5
19m20P(13-7-10)Grade4
27m40P(10-7)Goal
31m40P(14-16)Grade4
32m40P(14-16-6-7)Grade4
36m00CK-P(10-2)Grade4
38m50P(6-10-3-7-16)Grade4
41m10P(14-7-16-9)Grade5
47m00P(8-7-10-8)Grade4
47m10P(8-7)Grade4
47m10P(7-10-3)Grade5
46m50FK-P(10-9-6M)Grade4
51m10CK-P(6-10M)Grade4
54m30P(6-10-7-16-9)Grade5
55m30P(10-2)Grade4
59m00P(14-7-21)Grade4
61m50CK-P(6-3-6M)Grade4
63m40P(6-16)Grade4
66m10P(3-6-2)Grade5
66m40P(2-21-9)Grade4
70m40P(6-14-16-14-16-7)Grade4
79m00P(16-21-16)Grade4
80m40P(3-21-9-21M)Grade4
86m30T(3-11-21-3-16-11M)Grade4
88m20FK-P(6-15)Grade4
89m50P(2-9-7-21-9-6-16M)Grade4
92m30P(14-2-6-2-7)Goal
35分を境目にチャンスを見比べてみると明らかに違うことがわかる。1つは、最初の35分間はカウンターからのチャンスがとても多い。理由はロストフを押し込めていないのでトランジション時にスペースができやすかったことが原因だろう。2つめ、残りの55分間はセットピースからのチャンスが増加していること。3つめはブルサリコの存在感がポジションチェンジ後に大きくなっていること。
基本的にあまり押し込むことができていなかった時間帯だが、押し込めなかったことで逆にカウンターが有効打になることもあった。また、3節同様にF.トーレスへのロングボールが非常に効いていた。(Fig.6)
6/13とそこまで圧倒的な数字ではないが、F.トーレスへのロングボール→ロングボールをフリック→カラスコorグリーズマンが抜け出すという形はとてもよかった。
一方でロストフを押し込むようになると、今度はブルサリコの存在感がでてくる(Fig.7)
Fig.7 左:F.ルイスのクロス、右:ブルサリコのクロス
もともとF.ルイスはボールを持った状態でインサイドでもアウトサイドでも切り抜けて行けることがストロングポイントで、ファンフランはクロス精度をストロングポイントとしていた。しかし今回ファンフランの代わりに入ったブルサリコのクロス精度はとにかく高く、危険なエリアへの供給能力はおそらくアトレティコマドリードの中でも1番と思わせる出来だった。
結局いくらチャンスを作ったとしてもゴールになるかならないかという問題だが、その点はやはりグリーズマンの決定力は素晴らしかった。いずれのゴールもロングボールをロストフの選手が逸らし、それに反応したものだったがとにかく嗅覚がするどい。逆にF.トーレスは正当な形でロストフのディフェンスラインをかいくぐった場面が2回あったが、いずれも得点には結びつかなった。
ロストフのチャンスメイク
ロストフの攻撃についてここで述べるほど新たな要素はなかったといっていい。基本的には最終ラインからのロングボール→アズモンのポストプレー→スクランブルプレーという形はいつも同じ。
ロストフのチャンス
14m40P(84-16M)Grade4
29m10T(2-7-20)Goal
44m40FK-P(2-30M)Grade5
62m30P(84-28-20-28)Grade4
3節と同じようにチャンスは非常に限られたものだったので、1点入っただけでもかなり上出来だったと思う。
余談
ロストフの守備は確かに硬いが、攻撃手段がほとんどないのでかなり正直このレベルだとかなり厳しい。それでもこの戦い方しかないわけだが・・・
UCL16-17-D3-ロストフ.vs.アトレティコマドリード
UCL16-17-D3-Rostov.vs.AtleticoMadrid
まずはスタメンから
ロストフはいつもの5-3-2
WBのスタメンだったカラチェフとテレンティエフは怪我のためお休み。したがってクトリャショフとキレーフがWBとなっている。それ以外の変更に関して、フォーメーション上はなかった。
グリーズマン、F.トーレス、カラスコのポジションは固まりつつあるものの、もう1人の選手は決まっていない。それ以外のポジションはほぼ埋まっているのが現状。
試合の概要
試合はアトレティコマドリードが0-1で勝利する。60分に、ファンフランのクロスを大外のカラスコがうまく合わせてこれが決勝点となった。試合全体としてはロストフの5-3-2はバイエルン戦以上によく機能していた。ただしロストフのカウンターの危険性をほぼ的確に積んでおり、ファンフラン、F.ルイスの攻撃性能が高く守りきれない場面も多かったため、結果はよく内容を表していたと思う。
ロストフのボール保持攻撃
順番は前後してしまうが、ロストフのボール保持攻撃の大半は自陣深くから開始することが多かった。この時ショートパスとランでつなぐようなロングカウンターをロストフはもっていないので、前線、特にアズモンをターゲットにロングボールを蹴ることになる。ただしこの攻撃に精度は皆無だった。(Fig.2)
Fig.2 ロストフのエアバトル
青で囲った部分がロストフが多くロングボールを供給したエリアだが、ほとんどうまくいっていない。というかそもそもアズモンはポスト能力があるタイプではないので、ゴディンやサビッチとエアバトルするのは勝ち目が薄いのは明白ともいえる。
ロストフのチャンスメイク
ロストフのチャンス
17m50P(16-7-20M)Grade4
85m40P(30-16M)Grade4
89m10(10-89-10)
正直いってこの試合のロストフの攻撃において話せる部分は少ない。まずアトレティコマドリードは被カウンターを嫌っており、アトレティコマドリードのボール保持攻撃時もゴディンとサビッチは常にアズモンとポロズを逃さなかった。そしてロングボールも前述のように完璧に対応していたので、ロストフはチャンスというチャンスをほとんどつくれなかった。
ロストフはバイエルン戦ほとんどの時間帯を引きこもって過ごしていた。しかしアトレティコマドリード戦では一定の条件が整えば前線から少しアトレティコマドリードのビルドアップを妨害するような動きが見られた。
一定の条件とは
・ロストフのフィールドプレーヤー10人がコンパクトにまとまりつつ全体のポジションが中盤まで押しあがっている時
・アトレティコマドリードがボールを奪取した瞬間でポゼッション、ポジションが不安定な時
この2つが満たされるときには前から守備を行った。
具体的には以下のような形である。(Fig.3)
Fig.3 ロストフの前線守備
この形はEURO2016のイタリアの前線プレスにそっくりである。具体的にはWBのキレーフ、クトリャショフがSBを監視するために前線へ、エロヒン、ノボアはコケ、ガビを監視するという形である。
しかし5-3-2⇔4-2-4に可変することで、相手にビルドアップをさせないような形となっている分、最終ラインはロングボールを必ず跳ね返せるような選手でなければいけない。
結論から言うとアトレティコマドリードはこのプレスに少し苦戦していたが、ロングボールを前線に蹴った時に高い確率でF.トーレスがマイボールにしてくれていたため、アトレティコが全くボールを進めないという状況にはならなかった。またロストフの攻撃パートでも書いたように、ロストフはアトレティコマドリードを押し込むことができなかったので、前線プレスの回数自体もそれほど稼げなかった。
ロストフの中盤守備、アトレティコマドリードのゲームメイク
おそらくこの光景がこの試合でもっとも目にすることが多かっただろう。アトレティコマドリードがハーフラインを超えるとロストフはバイエルン戦でも行っていた5-3-2になり、撤退する。(Fig.4)
Fig.4 ロストフの中盤守備
ロストフの守備の約束事は以下のようである
・1列目の2人はCHを守りつつ、中央のゾーンを死守
・2列目の3人はボールの動きに合わせて全体がスライド、特にSBがボールを持った時にはISHが前に出ることで5-2-3となり対応。
SBの位置の選手がゲームメイクすることが流行っているが、これへの対応もEURO2016のイタリアとそっくりだった。バイエルンはこの守備に対してあまり苦労していなかった。それは以下のようなことが大きな要因であると思う
・D.コスタのようにアウトサイドをスピードで突破できる選手の存在
・CBがゲームメイクの中心になれる
・SBが大きくオーバーラップする
この守備は中央への突破に厚い。しかし一旦中央に切り込まれると左右のポジションチェンジが間に合わず後手後手になってしまう。実際D.コスタやキミッヒの中央への突破+サイドチェンジはかなり効果的なゲームメイクだった。
もう1つの弱点はSBが大きくオーバーラップして来た場合、WBの選手が最終ラインにピン止めされてしまうことである。これを可能にしているのはバイエルンのCBがゲームメイクに参加できるからである。
一方でアトレティコマドリードは?
アトレティコマドリードはゲームメイクにCBはほとんど参加しない。そのためゲームメイクはガビコケ、ファンフラン、F.ルイスの4人となる。この時ポロズ、アズモンはガビ、コケをマーク、ノボアはファンフラン、エロヒンはF.ルイスをマークすることでゲームメイク時にも完璧に噛み合わせてきたロストフの守備(Fig.5)
Fig.5 ロストフの中盤守備
正直これをされるとアトレティコマドリードとしてもかなり困る。コケ、ガビを経由しにくい以上この形からいいゲームメイクをする場合にはF.ルイスやファンフランがドリブルやサイドでのコンビネーションをうまく使っていかなければいけない。またはガビやコケをSBの位置にポジションチェンジさせることでガビやコケをマークから解放しているシーンも多々見られた。(Fig.6)
Fig.6 コケをSBのポジションにポジションチェンジ
確かにこの守備に苦戦はしていたが、今期の強みはコケがCHにいること。ワンタッチで正確にかつ長短のパスを出せる選手が中央にいるとボール保持攻撃は一気に活性化する。(Fig.7)
Fig.7 コケ、ガビのパス挙動
かなり中長距離のサイドチェンジを何度も繰り返していることがわかる。そして成功率が恐ろしく高く、ロストフの5-3-2を左右に揺さぶることで最終的にサイドから崩すシーンが多かった。
ロストフの可変守備について
ロストフは4-2-4と5-3-2を使い分けることでアトレティコマドリードの攻撃に対応していたわけだが、時間がたつにつれてこの変換が曖昧になってしまうこと増えていた(Fig.8)
Fig.8 ロストフの守備の変換ミス
本来この場面ではキレーフは最終ラインで守備をしなければならないが、前に出てきてしまっている。この時最終ラインとアトレティコマドリードのアタッカーの枚数は4vs4になっている。こういう状況はロストフにとっては避けたいことだったと思うが連係不足感はあった。
1m10FK-P(6M)Grade4
1m20P(6M-11)Grade5
8m30P(13-9-7-9NoPenalty)Grade4
9m50P(6-20-14-9-7-10)Grade5
10m40P(6-3)Grade4
23m00P(6-7-6-11-20-10-3)Grade5
26m10P(14-20-9)Grade4
37m30P(6-14-20)Grade4
39m40P(20-7-11)Grade4
58m20P(6-20-9)Grade5
60m40P(6-9-20-7-15-7-20-10)Goal
71m30P(13-9-7-9)Grade4
80m50P(6-14-7-6-7-9)Grade4
82m30T(7-10-7)Grade5
83m10CK-P(10)Grade4
84m10T(6-9)Grade4
アトレティコマドリードはカウンターに最大の強みを持っているが、この試合ではF.トーレスへのロングボールもかなり有効打になっていた。EURO2016のイタリアのカーボンコピーだったが、守備時にはボヌッチ、キエッリーニ、バルザーリのような対人守備能力はなく、攻撃時にはボヌッチのロングボール、キエッリーニのビルドアップ能力、ジャッケリーニの飛び出し能力、ペッレのポスト能力を持つ選手はいなかった。かろうじてノボアの縦パス能力位だろう。
前述したようにコケ、ガビのパス能力は素晴らしかったし、相変わらずF.ルイスのドリブル、ファンフランのクロス精度は高く、相手が撤退した時にも対応していた。ただしこれは両チームの個人能力に大きな差があるために成り立っている話だと思う。もしアトレティコマドリードが今後アッレグリのユヴェントスやコンテのチェルシーと当ることがあればアトレティコマドリードはかなり苦戦すると思う。
ぜひ2017-2018UCLではこのカードが見てみたい。
余談
バイエルンのように少しのリスクを犯して攻撃の精度をあげるか、アトレティコマドリードのように無失点を最大のプライオリティーを置くべきが正解なのかはわからないが、アトレティコマドリードはどんな相手、戦術に対してもかなり柔軟に対応できるようになっている。
UCL16-17-D1-バイエルン.vs.ロストフ
UCL16-17-D1-Bayern.vs.Rostov
まずはスタメンから
赤がバイエルン、青がロストフ(Fig.1)
Fig.1 バイエルンvsロストフ
バイエルンは4-3-3
D.コスタはウイング、T.ミュラーはセカンドトップのような位置で攻撃をスタートさせることが多く左右非対称といえる。当然右サイドアウトレーンにはオーバーラップしたラフィーニャもしくはキミッヒを置くことで攻撃のバランスを整えている。
ロストフは5-3-2
正直このチームについてよくは知らない。ロシアのリーグに所属しておりほとんどの選手がロシア人だが、先のEURO2016ではCSKAモスクワ、ゼニト連合軍だったので知っている選手はいなかった。ただトップのアズモンはイランの若手で2018ロシアW杯予選では12試合8ゴールとアジアで無双していることだけは記憶に入れといていいかもしれない。
試合の概要
試合は5-0でバイエルンが勝利する。
とりあえずバイエルンが殴り続けた結果、5点差になったという試合。D.コスタの1vs1からのグラウンダーのクロスにレヴァンドフスキとT.ミュラーが常に突っ込んでくるのは非常に厄介だった。また、ロストフはチャンスもほとんど作れなかったので、バイエルンの完勝といっていいだろう。
バイエルンのビルドアップ-ゲームメイク、ロストフの撤退守備
バイエルンは今季からアンチェロッティが指揮しているが、メンバーを見るとほとんど最強レベルの選手がそろっている、一方でロストフはワールドクラスの選手はいない。こういった差を埋めるときに、ルドゴレツ、セルティックはパリサンジェルマン、バルセロナに対して徹底的な自陣での撤退守備を行った。ロストフもその例に漏れることなく徹底的な自陣での守備を行った。
こういった背景からハーフライン付近までボールを運ぶことはバイエルンにとってとても簡単だった。ハーフラインまで進めた時のロストフの陣形およびマーク関係は以下のようになっていた。(Fig.2)
Fig.2 ロストフの撤退守備
・1列目の2人はCBを守りつつ、中央のゾーンを死守
・2列目の3人はボールの動きに合わせて全体がスライド
つまり、ボールサイドのSBにボールが渡ると、5-3-2のインテリオールが監視し、3枚の選手が全体的にボールサイドにかなりスライドする。
ここで本来ボールサイドから一番遠い選手(Fig.2 でいえばテレンティエフ)は中盤に加わるというのが一種のセオリーだが、ロストフは最終ラインを5人にし、質の代わりに量で勝負することで守備の向上を狙った。
一方でバイエルンはこういった撤退守備に対していくつかの解答を持っていた
・T.アルカンタラをCB間に落とし、ポロズ、アズモンのアウトスペースをフンメルス、J.マルティネスが利用する方法
・1列目と2列目の間を中央に向けて突破し、逆サイドのスペースの利用
・SBをインサイドレーンに置いてロストフのインテリオールをピン止め
順番に見ていこう。
T.アルカンタラをCB間に落とし、1列目のアウトスペースをバイエルンのCBが利用する方法
こういう配置になった時、ロストフの1列目はあくまで中央を守ることを優先し、特にCBのドライブを妨害するということはなかった。むしろT.アルカンタラが中央でゲームメイクに参加できない分、バイエルンは外→外という単調なゲームメイクになることが多く、前半途中でこの形は見られなくなった。
1列目と2列目の間を中央に向けて突破し、逆サイドのスペースを利用する方法(Fig.3,4)
Fig.3 D.コスタの中央突破
バイエルンのゲームメイクの手法として、アラバがウイングのようにオーバーラップし、D.コスタがSBの位置まで下がってボールをもらう動きが多かった。このとき、本来はカラチェフがD.コスタのマークで、エロヒンがアラバのマークだが、ポジションチェンジに伴ってマークもチェンジされる。
D.コスタはこの位置でボールを受けるとたびたび1列目と2列目の間をドリブルで強引に突破しようとするプレーが何度も確認され、5-3-2の構造的な弱点をついたいいゲームメイクだったと感じた。
Fig.4 バイエルンのゲームメイク
つまり、本来中盤を3人のスライドで守るためには、ボール循環をなるべく迂回させなければならないが(Fig.4 、2ルート)、ここをあえて中央へ切り崩していくことでボール循環を最短ルート(Fig.4、1ルート)にし、逆サイドに多くのスペースをあたえることができる。実際に左WGのD.コスタ、右インテリオールのキミッヒは何度もこういったプレーからサイドのアタッキングスペースを確保していた。
次はSBをインサイドレーンに置いてロストフのインテリオールをピン止め
これはとくにアラバ、D.コスタサイドで見られた事象で、上に紹介したゲームメイクよりもよりロストフ側で、チャンスメイクの前のプレーとなった。(Fig.5)
Fig.5 バイエルンのサイドアタック有効活用の手法
まずはバイエルン、多くのポジションチェンジが起こっている。
A.ビダルはサイドからのクロスに合わせて最終ラインの隙を窺っており、アラバはインテリオールのような位置にいる。D.コスタは画面外だが、サイドラインいっぱいまで開いている。
ここで重要なのはアラバのポジショニングで、エロヒンを中央にピン止めすることに成功している。これによって、D.コスタはカラチェフと広いサイドのスペースで1vs1を何度も行い、クロスを供給し続けた。いわゆるアイソレーションという考え方だが、特に1vs1のドリブル能力をもつ選手がいるチームがサイドラインから撤退守備をこじ開ける手段としてとても有効な手段である。
後半のロストフの守備
ロストフは試合を通して自陣撤退型の5-3-2を貫いたが、前半と後半ではわずかに中盤3枚のスライド方式に変化があった。(Fig.6,7)
Fig.6 アラバ側がボールを持った時のロストフの2列目のポジショニング
Fig.7 ラフィーニャ側がボールを持った時のロストフの2列目のポジショニング
具体的にはD.コスタサイドにボールが渡った時は前半同様コンパクトに、ラフィーニャサイドではより次の攻撃に備えるように全体的に広がっている傾向にあった。これは明らかにD.コスタのサイドアタックを警戒しており、ハーフタイムを境に変化していたので監督の指示だろう。結論から言えば、後半もバイエルン相手に5-3-2の撤退守備では全く守れなかったわけだが、こういった小さな変化もあった。
バイエルンのチャンスメイク
実際バイエルンはトータルでボールぽポゼッションが77%、ボールポジションが63%と、ボールを保持した状態でゲームメイクまでを完璧にこなせていたことはデータからも明白だった。あとはどのようにチャンスメイクをしたかどうかが焦点となる。
バイエルンのチャンス
04m00 P(5-27-9)Grade4
13m20P(27-23-13)Grade4
14m30P(6-8-25)Grade4
20m40P(5-32-9Grade4
21m10P(23-13-32M)Grade4
22m30P(5-13-25-32-9)Grade4
25m50CK-P(6-9Penalty)Grade4
27m00PK(9)Goal
29m10P(11-27-25)Grade4
35m50T(27-32-27-25-27)Grade4
38m40CK-P(32-9-5)Grade5
41m00P(6-23)Grade4
45m30P(5-11)Grade4
46m40P(32-6-27-25)Goal
46m00P(23-32-25-32)Grade4
52m30T(1-32-23-9-11-32)Goal
54m40T(25-23-11)Grade4
56m40T(25-11-9)Grade5
58m30T(11-9-32-23-11)Grade4
59m40CK-P(6-18-32)Goal
61m40P(25-6-23M)Grade5
66m10P(7-9)Grade4
89m20T(18-7-18)Goal
92m40FK-P(27M)Grade4
Grade3以上のチャンスは44回、前半は29回(Grade4以上のチャンスは内14回)、後半は15回(Grade4以上のチャンスは内10回)となった。前半はかなり押し込んでいた分、チャンスメイクは5-3ブロックの外からのクロス攻撃が大半で、質よりも量で勝負した。一方で後半は、得点を取ろうと少しだけ前がかりになったロストフに対して質の高いカウンターでチャンスメイクを行った。
前半の主なチャンスメイクは左のD.コスタ、右のキミッヒからクロス爆撃、たまにT.アルカンタラのロングボール爆撃と5-3ブロック外からのボール供給がほとんどだった。(Fig.8)
Fig.8 バイエルンのクロス(左: D.コスタ、右: キミッヒ)
全体であげた38本のクロスのうち、D.コスタとキミッヒで21本のクロスを上げており、どちらもディフェンスが前にいたとしても鋭いクロスを上げることができていた。欲を言えばD.コスタのクロス精度がもう少し向上すれば、バイエルンはこういった引いた相手に対して無敵になれるだろう。クロスの先で毎回レヴァンドフスキ、T.ミュラー、A.ビダルがペナルティエリアに顔を出すというのはディフェンスからしたらかなりしんどい状況である。
26分のガツカンがレヴァンドフスキをエリア内で倒してしまった判定は妥当だったが、もし前半をPKの1失点のみで折り返すことができたらロストフにとっては想定内の結果だったといえる。しかし前半終了間際のアラバのクロスからT.ミュラーが決めたことで、ロストフのメンタルはかなりきついものになってしまったと思う。
後半早々にフンメルスは前半の脳震盪の影響でベルナトと交代し、63分にはD.コスタをリベリーに、71分にはT.アルカンタラをR.サンチェスに変更した。フンメルス交代後はアラバがLCB、T.アルカンタラ交代後はピボーテにキミッヒがはいった。(Fig.9)
Fig.9 最終的なバイエルンの布陣
グアルディオラ時代に鍛えられたアラバとキミッヒの各ポジションに対する対応能力はさすがだった。
ちなみにポルトガルの新生R.サンチェスはインテリオールが主戦場となるが、相手がキミッヒ、T.アルカンタラ、A.ビダルとかなり厳しい。成長株であることは間違いないが、バイエルンが成長環境として適切かというとちょっと微妙な気がする。
ロストフの攻撃、バイエルンの守備
そもそもロストフにはほとんど攻撃フェイズはなかったが、一応紹介(Fig.10)。
Fig.10 ノボア(左)、アズモン(右)
基本的に押し込められた状態でボールを奪取することが多いロストフはロングボールを絡めたロングカウンターが攻撃の基本となる。ターゲットはイランのアズモンだったが、この選手はそこまでエアバトルが強くない分スピードは結構あった。フンメルスやJ.マルティネスはアズモンの裏抜けのスピードに少しだけ苦労していた。一方でロングボールを出す選手も調子が良かった。エクアドルのノボアという選手はこの試合だけ調子が良かったのかそういう特性を持った選手なのかはわからなかったが、異常にロングボール精度が高かった。
しかし、ロングボールの質が良くてもバイエルンの最終ラインの選手にアズモンまたはポロズが1vs1で勝たなければチャンスメイクにならないが、ロストフはこの部分でバイエルンのCBに封殺されていた。したがってチャンスメイクはほぼ0といっていい。
ロストフのチャンス
45m20FK-P(16-10)Grade4
52m20CK-P(2-44)Grade4
80m10P(10-89)Grade4
84m10FK-P(2-89)Grade5
ほとんどがセットピース関連のチャンスであり、チャンスの回数も非常に少ない。正直両チームの間には圧倒的な差があった。
余談
ロストフにとってロングカウンターに可能性がなかったわけではないが、バイエルンとロストフでは戦力差がありすぎる。バイエルンの守備の対応などは、次の試合のアトレティコマドリードvsバイエルンを見ることでよくつかめてくるだろう。
UCL16-17-D3-バイエルン.vs.PSV
UCL16-17-D3-Bayern.vs.PSV
まずはスタメンから
Fig.1 バイエルンvsPSV
バイエルンはいつもの4-3-3(4-3-2-1)
3試合ともCBの組み合わせは異なっている。X.アロンソは今でも攻撃時には大きく貢献できるが、守備時に衰えが隠せなくなってきている。T.ミュラー、ロッベン、リベリー、D.コスタ、コマンとアタッカーを多く揃えているがレヴァンドフスキ以外に出場できる選手は2人まで。バランスは整っているがいまいち波に乗り切れていない。ウイングはよりインサイドでのプレーを得意としているロッベン、T.ミュラー、リベリーが重用されているのはアンチェロッティの十八番4-3-2-1に近くなるからかもしれない。
PSVは4-4-1-1
アトレティコマドリード相手には5-4-1で自陣に引きこもり、ルークデヨングとナルシンのカウンターで好機を演出していたが決めきれることはできなかった。フォーメーションは1節と違えど、この試合も同じような姿勢で臨んだことには変わりない。
試合の概要
試合はバイエルンが4-1で勝利する。12分にコーナーキックのマークミスを見逃さなかったT.ミュラーが先制点をあげると、20分にはアラバのクロスをキミッヒが押し込み、58分にはロッベンのこぼれ球をレヴァンドフスキが、83分にはT.アルカンタラの浮き球をうまくヘディングで逸らして4得点。一方でPSVも40分にロングカウンターでナルシンが素晴らしいシュートを決めるが、後半追いつくことはなかった。前半の終盤にはPSVが奮闘する時間もあったが、基本的にバイエルンの強さが目立った試合だった。
PSVはハーフライン付近までボールを運ばれることに対してほとんど抵抗していなかったため、バイエルンは簡単にハーフラインまで運ぶことができた。ちなみにこの試合のバイエルンのボールポゼッションは66%、ボールポジションは62%と押バイエルンが押し込めていることが理解できる。
撤退した時のPSVの基本陣形は4-4-2(Fig.2)
Fig.2 PSVの撤退守備
・シーム.デヨング、ルークデヨングが1列目で、バイエルンのCB陣からのゲームメイクを妨害
・ナルシンとG.ペレイロのサイドハーフコンビはバイエルンのSBのオーバーラップに対応
・ブレネット、ビレムスもマンマーク気味にT.ミュラーとロッベンに対応
こういったPSVの約束事に対してバイエルンは以下のように対応した。(Fig.3)
・X.アロンソを最終ラインに落とすことで1列目からのプレスを回避
・アラバ、もしくはラームを大きくオーバーラップさせることでPSVのサイドハーフを押し込む
・ボールサイドのサイドハーフ(ロッベンもしくはミュラー)をインサイドにポジションチェンジさせる
Fig.3 バイエルンのポジションチェンジ方法
これによってPSVのSB(ビレムス)は中央に絞り気味、SH(ナルシン)は最終ラインに押し込まれるという状態ができる。この時キミッヒはフリーでボールを持つことができているが、本来1列目がカバーしなければいけないエリアだと思う。この図は典型例だが、PSVの1列目は守備の運動量が少なく、個人技、ロングボールともに優れているバイエルンを相手にするには少々2列目、3列目に負担がかかりすぎる傾向にあった。
このようにして簡単に3/4エリアまで進むことができていたバイエルンだが、ここからはキミッヒ、T.アルカンタラのロングパス能力がいかんなく発揮された。このときバイエルンにはいくつかの選択肢がある。中央に存在するロッベンやT.ミュラーとのコンビネーションを生かして中央突破、もしくは純粋なサイドアタック。
しかし中央突破、特に中央に存在するロッベンへのパスに対してはグアルダードやビレムスがかなり徹底的に守っていたので、崩すのは困難な気配だった。そのため、バイエルンは主にサイドのエリアを攻略しようとする。(Fig.4)
具体的には簡単で、インサイドにポジションチェンジしたロッベンやT.ミュラーの位置に合わせてSBが絞ったスペースをレヴァンドフスキやT.ミュラーがサイドでボール保持→クロスという流れだった。
この流れは防ぎようがない。というか防ごうと思うのであれば運動量とシステムを研ぎ澄まさなければならない。例えばPSVの1列目はバイエルンのCB2人の選手にプレスし、運動量、連動力を改善する必要があったし、X.アロンソがビルドアップに参加する場合の対策も必須だったと思う。また、フンメルス、J.ボアテング、X.アロンソ、T.アルカンタラ、キミッヒといずれの選手もロングボールを精度良く出すことができる。当然バイエルンレベルの選手に時間を与えてしまえば、撤退守備だけで守ることはかなり難しい。
バイエルンのチャンスメイク
バイエルンのチャンス
2m00P(32-27-6-27-25)Grade5
6m20P(17-9)Grade4
8m00P(9-32-9-21-9-25-9-10)Grade4
10m20P(10-25-27)Grade5
12m00P(14-27-25-9M)Grade5
12m10CK-P(10-25)Goal
16m40P(27-14-27-10)Grade5
17m00P(17-27)Grade4
20m10T(9-25-27-32)Goal
24m10P(10-14-25-10-25-10)Grade5
24m50CK-P(10-32-9)Grade5
26m40P(6-14-27-25-10-6-14-9)Grade4
28m00T(1-9-10-32)Grade5
28m30CK-T(10-21-5)Grade4
30m40T(10M)Grade5
41m50P(17-10-9)Grade5
45m20P(14-25)Grade4
46m00T(1-6-9)Grade5
51m00P(17-25)Grade4
57m30P(1-25-10-32)Grade5
58m20P(1-9-10)Grade5
58m40P(10-9)Goal
62m30P(21-32-10-25-21-32-25)Grade4
64m10P(25-10-25-27)Grade4
65m10T(10-9-25)Grade5
67m20P(6-14-10)Grade4
71m20P(14-21-10-32)Grade4
73m10P(17-9-32-10-21-9-32)Grade5
83m20P(6-10-32-6-10)Goal
前半、特に30分付近までに多くのチャンスを作ったバイエルンだった。ちなみに前半のGrade3以上のチャンスは27個、Grade5のチャンスは9個、Grade4のチャンスは5個とかなり質のいい攻撃だった。理由は前述したようにビルドアップ-ゲームメイクが完璧に機能していたからであろう。特に「PSVのSBの位置を意図的に移動させてそのエリアを突く」というオーソドックスな戦術はとても効いていた。この点に関してはT.ミュラーやレヴァンドフスキの動きだしはとてもよかった。
1点目
1点目はロッベンのCKにT.ミュラーが合わせた感じだったが、これは明らかに試合前から存在するPSVの弱点を突いたものだと思う。(Fig.5)
Fig.5 PSVのミス
なぜかT.ミュラーをマークする選手がいない。ビレムスが悪いのかほかの選手がきちんとアサインされいなかったのかはよくわからない。少なくともPSVのGKズートはT.ミュラーにマークがついていなかったことを指摘している様子だったが、フリーのままにしてしまった。
ただし似たような場面は24分のCKでも起きることから、PSVが抱えている問題であったのだと思う。
ちなみにゴール時のT.ミュラーはよく見ていたというジェスチャーをロッベンにしている。(Fig.6)
Fig.6 T.ミュラーのゴールパフォーマンス
Fig.7 T.ミュラー(左)、ノイアー(中)、ロッベン(右)
T.ミュラーの調子
この試合のT.ミュラーは動き出しがよく、周りとのコンビネーションもかなりうまくやっていた。やはりT.ミュラーは中央で自由にプレーさせた方が輝いているように思えた。ただし、EURO2016、さらには2015-2016シーズンから少しゴール感覚に関して問題が生じている。この試合1点決めたわけだが、2点、3点取れるチャンスは大いにあった。そういった意味では復調したわけではない感じはする。
ノイアーの影響力
ノイアーはどの試合でもかなり決定的なセーブをするが、それだけでなくスローインやロングボールから度々カウンターまたはチャンスの基点になる。この試合でも4つのチャンスメイクに貢献し、そのうち1つは3点目のゴールにつながっている。
ロッベンの脅威
この試合ではインサイドでほとんどの時間をすごしたロッベンだが、特にグアルダードとビレムスの執拗なマークに苦労していた。ただし、特にカウンターなどでマークから解き放たれた時にはほぼ確実に決定的な仕事をしていた。
前述のようにバイエルンは徹底的にPSVを押し込んだうえで攻撃を終了させていた。したがってPSVの攻撃のスタートはGKからが多かった。
この時PSVとしては、ロングボール能力があるグアルダードにボールを集めたかったと思う。実際にゴールキック時にはよくCB間にグアルダードが落ちる様子が散見された。(Fig.8)
ただしバイエルンはこういった状態に対して、キミッヒをグアルダードにレヴァンドフスキ、T.ミュラー(ロッベン)を前線に残すことでショートパスからの攻撃展開を嫌った。
実際にバイエルンの思惑通りPSVのGKズートはロングボールを蹴る展開が多くなってしまった。
Fig.9 ズートのゴールキック
この図からもわかるように、PSVはゴールキック時点で多くのボールロストをしているが、アトレティコマドリードも苦労していたように、ルークデヨングのエアバトル能力はバイエルンにとっても少し厄介だった。
Fig.10 ルークデヨングのエアバトル
データほどルークデヨングが目立った印象はないが、少なくともPSVの生命線だったのは確かだった。ただしアトレティコマドリード戦以上にPSVは押し込まれた状態で攻撃がスタートしたので、GKからのボール保持攻撃は壊滅的だった。
PSVのチャンスメイク
35m30T(6-7)Grade4
38m00P(6-7-10-7offside)Grade5
40m20T(18-7-11)Goal
42m20T(18-20M)Grade4
47m10P(10-18-15-9)Grade5
51m40P(6-11-7)Grade5
68m10P(7-10-7-11-7-11-9)Grade5
87m40P(6-27-11-27)Grade5
89m40=(15-9offside)
ここまでの展開を見るとバイエルンが圧倒的だった印象を受ける。確かに試合全体を通してみてもバイエルンは圧倒的だったといってもいいと思う。ただし局所的な時間帯においてはPSVが明らかに優れている時間帯もあった。
特に前半の30~45分の間はPSVの時間帯だったといっていいだろう。バイエルンもこの時間帯になるとボール保持攻撃時の運動量の低下、ボールを奪取されたからのプレスの運動量の低下などによってかPSVのロングカウンターの基点を潰せなくなってしまう。
しかもバイエルンの被カウンター時のディフェンス、特にX.アロンソの衰えはかなり顕著で、ナルシンのスピードに完全に対応できていなかった。こういう展開が続くとPSVもバイエルン陣地で少しボールを持てるようになる。38分のG.ペレイロ、シームデヨングのコンビネーションプレーや、その他カウンターの回数は多くはなかったがチャンスの質は非常に高かった。
ボールの主導権が相手に渡ってしまった時のバイエルンの守備は、特に今シーズン脆い。バイエルンは基本4-4-2ブロックの守備を行うが、1列目はレヴァンドフスキ+T.ミュラーorロッベンでどちらがどういったタイミングで下がるかなどは明確には決まっていない印象を受ける。もちろんその自由度がバイエルンの本来のストロングポイントであったトランジションでの攻撃を促進させるが、PSV相手でもボールを保持されるとかなり危うい印象を受けた。
余談
バイエルンは相変わらず強いが、強いチームでも主導権を握れなくなるタイミングは必ずある。そういった時間帯をどう過ごすかという点で今季のバイエルンには少し脆さを感じる。とはいっても選手の質が異常に高いのでグループリーグレベルだとあまり問題にならない可能性が高い。
UCL16-17-D1-PSV.vs.アトレティコマドリード
UCL16-17-D1-PSV.vs.AtleticoMadrid
PSVは5-4-1
UCL15-16ではマンチェスターユナイテッドと同組になりつつも2位フィニッシュし、Round.of.16ではアトレティコマドリードと210分でトータルスコア0-0と奮闘している。あまり見たことがないチームなので今シーズンからしっかり見ていこうと思う。
アトレティコマドリードの最大の強みは守備といわれているが、セットピース、ボール保持攻撃といろいろな側面を見せてきている。それを可能にしているのは最終ラインを除く6人がかなりポリバレントにプレーできるという部分が大きい。
試合の概要
試合は0-1でアトレティコマドリードが勝利する。42分のガビのコーナーキックのこぼれ球をサウール.Nがうまく合わせた。試合としては、PSVのロングカウンター(ロングボール)の質vs改善されたアトレティコマドリードのボール保持攻撃の量となったが、そこまで大きな差はなかったと思う。差があったとすればPSVのPK失敗と誤審、そしてアトレティコマドリードの状況対応力だろう。
PSVの撤退守備、アトレティコマドリードのビルドアップ-ゲームメイク
今までのアトレティコマドリードの最大の強みは守備→カウンターorセットピースとすれば、弱みはボール保持攻撃の個々の選手の質という部分にあった。そのため、近年その硬すぎる守備に対抗するために、アトレティコマドリードにボールを持たせるチームが増加しており、PSVもその例に漏れなかった。
PSVの守備は5-4-1で自陣に引きこもり、アトレティコマドリードのビルドアップを全く妨害しなかった.(Fig.2)
Fig.2 PSVの撤退守備
アトレティコマドリードはハーフラインまでは簡単に進むことができた。ただし問題はPSVの撤退守備を崩せるのかということ。
この時のPSVの約束事は以下の通りであった。
・ボールサイドにコンパクトに全体がまとまる(Fig.3)
・H.モレノ、シュバープはガメイロ、グリーズマンのライン間のポジショニングに対し迎撃姿勢をとる
・SB(ファンフラン、F.ルイス)のオーバーラップに対してはヘンドリクスとナルシンがついていく
この3つを守ることでアトレティコマドリードの攻撃方法を制限しようとした。
Fig.3 コンパクトなPSVの撤退守備
一方でアトレティコマドリードはボールサイドからショートパス交換とポジションチェンジを頻繁に行うことでチャンスを作ろうとした。具体的な役割としてはガビがピボーテ、コケ、サウール.Nはインテリオール、ガイタンはサイドハーフという少し左右非対称ではあったものの、特にファンフラン側からゲームメイクを行った。
しかし、結論から先に言うとアトレティコマドリードはPSVの撤退守備に対してうまく対応していた。
例えばFig.3のようにあまりにも偏っているようであれば、ガビ、コケがSBのオーバーラップに合わせてサイドチェンジすることでサイドアタックの精度をあげていたことも理由の1つだ。
それ以外にもグリーズマンとガメイロに対するH.モレノとシュバープの守備範囲を逆手に取った攻撃もよく見られた。(Fig.4)
Fig.4 アトレティコマドリードのゲームメイク-チャンスメイクI
Fig.5 アトレティコマドリードのゲームメイク-チャンスメイクII
具体的には、H.モレノやシュバープは迎撃するために2列目まで飛び出してくることが多い。ここまでのパスワークを外→外→外・・・とパスをつなぎながらポジションチェンジを繰り返しておいて、最終ラインのバランスが崩れた時(Fig.4)に中へのパスでスイッチしてくるのがアトレティコマドリードの特徴だった。(Fig.5)
アトレティコマドリードの素晴らしい部分は攻撃においても守備においてもポリバレントにあふれる選手が多いということ。攻撃面で言えば、コケはCHとしてパスを多方向に供給することもできるし、ISH、SHとしてSBやCFとコンビネーションをとってFig.4のような細かい崩しにも参加できる。SBはインナーラップとオーバーラップを場合によって使い分けることができる。
残念ながらUCL15-16自体あまり見ることができていなかったので定かではないが、アトレティコマドリードはボール保持攻撃においてかなり改善しているように感じた。
PSVは撤退守備だったので、基本は自陣から攻撃をスタートする。一方でアトレティコマドリードは経過時間に合わせて自分たちの守備の方法を変化させ、運動量を保とうとした。
ガメイロがN.イジモミランを監視し、脇のCBにボールが渡った時には、コケ、グリーズマン(サウール)が高い位置からプレスする。(Fig.6)
このとき、中央のグアルダード、ヘンドリクスを明確に捕まえる選手が定まっていなかったためか、グアルダード→ヘンドリクス→ビレムスのクロスという形がよく確認された。そのため、下がるくあるだーどに対してはサウール.Nが監視することでPSVのボール循環を制限した。(Fig.7)
中盤のサウール.N、コケが前線へのプレスとグアルダードの監視という仕事があったのでこの時間帯はこの2人が一番大変だったと思う。ちなみにPSVはショートパスで何が何でもつなぐというチームではなく、「ロングボールでルークデヨングになんとかポストの仕事をしてもらう」だったので、アトレティコマドリードにとって、プレスの労力に見合う成果は得られなかったかもしれない。
今度はハーフラインまで撤退して4-1-4-1で守備を行うようになる。(Fig.8)
25分くらいからプレス開始ラインを少し下げて4-1-4-1となる。この時間帯(序盤にアトレティコマドリードを押し込んだ時も含め)のPSVはロングボールを放り込んできたため、ゴディン、ヒメネスを筆頭として最終ラインに最も負担がかかった。
35分超えてからはガメイロとグリーズマンが1列目の4-4-2となる。このとき前半の序盤と異なったことは、1列目のガメイロとグリーズマンが精力的に動くことでビルドアップを妨害したこと。これによってサイドからの攻撃への対策に絞った。
Fig.9 左からガビ、サウール.N、コケ、グリーズマン
60分にガイタンをチアゴに変更してからは、コケがRSH、チアゴがCHに入り、4-4-2を形成し、64分にガメイロをカラスコに変更してからは、グリーズマンをトップ、SHをコケ、カラスコに固定した4-5-1に、76分にサウール.NをF.トーレスに変更してからは、F.トーレスをトップ、SHをグリーズマン、カラスコ、ISHをコケ、ガビにした4-5-1で守備を行った。
このように特にサウール.N、コケ、グリーズマンは守備、攻撃においても様々なポジションに対応することができた。これによって、守備の負担をいろいろな選手に分散することで守備の強度を保つことに成功している。もちろんこれは全ての選手の能力が高くなければいけないので簡単なことではないと思う。こういった変幻自在の守備を行ってきたチームとしてEURO2016のポルトガルがあげられるが、あのチームもA.ゴメス、J.マリオ、モウチーニョ、A.シルバといったポリバレント性にあふれる選手がそろっていたのはたぶん偶然ではない。
PSVのチャンスメイク、アトレティコマドリードのチャンスメイク
PSVのチャンス
04m20P(18-3-9)Grade5
19m50T(18-11)Grade5
45m20P(11-9-8-11)Grade5
46m40PK(18)Grade5
54m50P(5-20-9)Grade4
58m20P(3-9-8)Grade4
73m00P(5-20-9)Grade4
74m40T(3-11)
75m20CK-P(18-9)
81m40P(15-27M)Grade4
84m40P(7-15-9)Grade4
88m50P(15M)Grade4
90m00P(3-15-7)Grade5
92m10P(18-23M)Grade4
先ほどまでのアトレティコマドリードの守備の説明をみるとPSVは全く攻撃がうまくなっていないという印象があったかもしれないが、ロングボールを使った攻撃はなかなか迫力があった。
具体的に言えばターゲットをルークデヨングに当て、時間を稼いでいる間にナルシンのスピードで勝負するという至極シンプルで、プレミアリーグの下位チームのようなスタイルだった。ただしルークデヨングのエアバトルはこの試合の中で完全に抜けていた。(Fig.10)
Fig.10 ルークデヨングのエアバトルの成否とエリア
Fig.11 ゴディン(左)、ヒメネス(右)のエアバトルの成否とエリア
ゴディンやヒメネスがこれだけ負け越すことはかなり珍しい。ロングボールの質も高かったかもしれないが、ルークデヨングはあらゆるエリア、時間帯で勝ち続けた。
これにともなってナルシンの裏抜けがとても生きてくるわけだが、これを良くも悪くも邪魔したのはイングランドの審判陣だった。(Fig.12,13,14,15)
Fig.12 4分のH.モレノ→ルークデヨングのチャンス
ちなみにこのチャンスはルークデヨングのオフサイド判定となりノーゴールだったが、明らかにルークデヨングはオンサイドである。
Fig.13 19分のナルシンの裏抜けvsゴディン
ナルシンの裏抜けに対してゴディンが後ろから対応していた場面だったが非常に怪しい。明らかというほどのものではなかったがPSVにとってはつらい判定が続いた。
Fig.14 45分のナルシンの突破vsヒメネスのスライディング
このシーンは帳尻合わせ的な側面が大きい。ヒメネスのスライディングに全く触れていないナルシンがこけてPK判定。さすがに審判の能力を疑わざるを得ない。
Fig.15 ゴディンvsルークデヨングのエアバトル
75分のCKの場面だったが明らかにハンド、ただし審判(というか副審含めて)無視。
正直言ってここまでの試合の中で最もひどい審判団だったといえる。主審はM.アトキンソン、まあプレミアリーグのブレブレの試合はこれくらい判定がめちゃくちゃなので不運だったとしか言いようがない。ただしちゃんとした審判だったらPSVは勝利している可能性もあったほど、前線のフィジカルは素晴らしかった。
02m00P(8-3-6)Grade4
12m00P(14-6-7-3-21-6M)Grade4
12m40CK-P(6-8)Grade4
18m00FK-P(14-7-2)Grade4
20m10T(7-21)Grade4
21m10P(23-7)Grade4
22m30P(6-20-8)Grade4
37m20P(14-20-23)Grade4
40m20T(8-6-7-21)Grade4
41m50CK-T(14-8)Grade5
42m00CK-T(8)Goal
50m10P(14-6-20)Grade4
51m40P(14-23-21-8-21)Grade5
53m50P(7-3-6-3)Grade4
56m20P(6-7-21-7)Grade4
60m30T(3-6-7-21)Grade4
68m10P(3-10)Grade4
70m10P(6-5-7)Grade5
80m10P(6-10-3-6-10-6-7)Grade4
アトレティコマドリードとしてはドン引きしたPSV相手にうまくチャンスメイクできていたと思う。チャンスメイクの回数が増えることで、強みだったセットピースの回数も増え、いいサイクルとなっていた。
一方で後半はPSVも追う立場なので前線からの守備も増え、ビルドアップで躓くこともあった。しかしその分前線のスペースが増え、チャンスメイクの質が相対的に上がっていた。どちらにも対応できるようになったという意味でアトレティコマドリードはとてもいいチームになってきている。
余談
審判に壊された試合ではあったが、両者の強みがよくわかる試合でいい試合だった。
UCL16-17-C6-バルセロナ.vs.ボルシアMG
UCL16-17-C6-Barcelona.vs.BorussiaMG
まずはスタメンから
青がバルセロナ、白がボルシアメンヘングランドバッハ(Fig.1)
バルセロナはいつもの4-3-3
5節終了時点で1位突破が確定したため、この試合ではスタメンの多くを変更した。GKのシレッセン、SBのA.ビダル、インテリオールのD.スアレスは今期のUCL初出場。負傷明けのイニエスタ、出場時間が短いP.アルカセル、A.トゥランがスタメンとなっている。A.ゴメスが中盤の底でプレーするのも1節のセルティック戦の後半以来(あくまでUCLの中での話)となる。
ボルシアMGは5-4-1
正直5節終了時点で3位確定のボルシアMGにとって、この試合へのモチベーションはあったのだろうか?3バックではなく5バックという部分は1節にボコボコにされたセルティックを思い出させてしまう。メンバーはF.ジョンソンやラファエウといった選手は外しているものの多くは中心メンバーとなっている。
試合の概要
試合は4-0でバルセロナが勝利する。15分にA.トゥランからいつものようにL.メッシが決めて先制すると、後半には49分、52分、66分にそれぞれD.スアレス、A.ビダル、アルカセルが右サイドからクロスをあげてA.トゥランがハットトリックを達成する。ボルシアMGには持ち前の運動量はなく、モチベーションもほとんどなかったため、ほとんどの時間を押し込んでカウンターもさせなかったバルセロナの完勝と言って差し支えないだろう。
試合に入る前にこのグループの状況を確認する。
5節終了時点でバルセロナは勝ち点12、マンチェスターシティは8、ボルシアMGは5、セルティックは2。ちなみに順位決定条件は勝ち点に準拠するが、勝ち点が同じ場合は該当チーム同士の対戦結果に依存する。マンチェスターシティはボルシアMGに勝ち越しており、ボルシアMGはセルティックに勝ち越している。したがってグループCの6節の結果は最終的な順位に影響を与えない。これはグループC全てのチームにとってモチベーション低下になる要因だった。
2節のようにボルシアMGはハーフラインで守備をすることもなく、徹底的な撤退守備を行った。1列目のA.ハーン、2列目のT.アザール、シュルツ、シュトローブル、M.ダフドは守備時にいつものような運動量はなかったため、バルセロナは何の問題もなく前に進むことができた。(Fig.2)
Fig.2 ボルシアMGのやる気のない前線の守備
試合前のプランがどうだったかは定かではないが、少なくとも中盤の4人やA.ハーンはもう少し前線から守備をしなければいけなかったと思う。
バルセロナのサイドからのゲームメイク、ボルシアMGの撤退守備
ボルシアMGが中央に非常に人数をかけて引きこもってしまっていたので、バルセロナはサイドから崩していくしかない。特にバルセロナはA.ビダル側から勝負していくことになるが、これにはいくつかの理由があったと思う。
まずボルシアMGの撤退守備の約束事をみていく。(Fig.3)
Fig.3 バルセロナのゲームメイク
A.ハーンがA.ゴメスを監視するシュトローブル、M.ダフドは中央のエリアで受けようとするイニエスタやD.スアレスに対しては積極的に監視することでボルシアMGは中央を固めた。そのため、バルセロナはSB、インテリオール、ウイングの3人を使ってサイドから崩すことを目指すことになる。ちなみにマスチェラーノやウムティティは対角へのロングボールなどは積極的に行わなかったため、基本ボールサイドのショートパスで崩そうとするシーンが目立った。
一方で、ボルシアMGのバルセロナのSBに対する対応は左右で少し異なっていた。
右サイドのA.ビダルのオーバーラップに対してはシュルツが徹底的にマンマークすることで対応していた。すなわち、A.ビダルがオーバーラップしてくると6バックの形のようになることが多かった。(Fig.4)
Fig.4 ボルシアMGの6バック
一方でディーニェがオーバーラップした時
Fig.5 ボルシアMGの6バック
このようにコルブがディーニェをマークしていた。おそらく2列目のRSHがT.アザールであったことが大きな理由だと思う。ボルシアMGにモチベーションがなかったとはいえ、勝つチャンスがあるとしたら押し込まれた状態でボール奪取しロングカウンターを成功させるしかない。その場合、T.アザールをロングカウンターのアタッカーの中心にするのが一番適切だろう。こういう理由もあってか左右のサイド攻撃に対する守備の方法に差異があったものと思われる。
バルセロナのチャンスメイク
03m20P(8-19-7-19)Grade4
07m50P(6-22)Grade4
12m30P(10-7)Grade5
15m00P(10-21-10-7-10)Goal
17m50P(7-10)Grade5
21m30P(22-6-22)Grade4
24m30P(21-8-10-8M)Grade4
26m30P(8-7M)Grade4
35m20P(21-10)Grade4
36m10P(23-8-7)Grade4
42m00P(21-22-6-22-10)Grade5
48m10T(14-6-17)Grade4
49m10P(14-6-22-6-7)Goal
52m40P(10-22-7)Goal
57m00P(8-10-8-17)Grade5
57m40T(10)Grade4
66m00P(19-17-10-17-12-17-7)Grade5
72m20P(14-21-6-7-19-10)Grade5
84m40P(29-6)Grade4
総合的にGrade4以上のチャンスは19個(前半11個、後半8個)、ただし、前半のGrade3以上のチャンスは24個、後半は11個とチャンスの密度に大きな差があった。これはハーフタイムを境にボルシアMGの中盤が少し運動量を高めて守備を始めたからである。(Fig.6)
これによってバルセロナのゲームメイクは前半ほどスムーズではなかったもののチャンスメイク時には前半よりもスペースを確保できていた。
バルセロナのチャンスメイクは前半後半いずれも大きく分けて2つの手法で行われた。
・L.メッシを使った中央突破
・サイドを攻略してクロス攻撃
L.メッシを使った中央突破
バルセロナの中で一番崩しがうまいのは言うまでもなくL.メッシだ。それもサイドから1vs1を仕掛けるわけではなく中央に相手が密集しているエリアを切り裂けるだけのクオリティをもっている。それだけではなくFig.5のようにシュルツがA.ビダルのオーバーラップに引っ張られるため、L.メッシは比較的中盤でフリーな状態でボールを持つことができたことが大きな要因だろう。文章だけではわからないと思うが、L.メッシの質は異次元なのでこの試合のL.メッシの好プレー動画をみていく。
動画編集
12m30,15m00,17m50,18m40,22m20,24m30,25m40,28m00,35m30,43m30
とにかくほかの選手とはレベルが違う。ただし、CFとしてプレーしていたアルカセルは本来のスタメンであるL.スアレスよりも著しくプレーレベルが低く、何度もチャンスを失ってしまった。前半バルセロナは1点しか得点できなかったが、ここら辺がネックになってしまったと思う。
サイドを攻略したクロス攻撃
バルセロナは主にA.ビダルを使ってサイド攻撃を行った。理由はシュルツの守備能力にあった。シュルツの役割はA.ビダルの侵入を防ぐだけだったはずだが、本当に何度も何度も突破を許してしまっていた。
せっかく人数をかけて守備を行っているにもかかわらず、最終ラインがこんなにも簡単にマークを外してしまっていたことはかなりの問題だった。ちなみにシュルツは58分までに4回マークを外してしまい、そのうち1回は失点シーンにつながっている。
7m50, 21m30,42m10,49m10
ボルシアMGの攻撃、チャンスメイク
バルセロナはトータルでボールポゼッションが73%、ポジションも72%と完璧に押し込むことができていた。こういったデータになるためにはボルシアMGがボール奪取した時にバルセロナがうまくハイプレスを成功させ、相手の攻撃の芽を摘んでいたということでもある。
インターセプトとタックル
特にタックルの場所はA.ビダル側に偏っていることがわかると思う。これはA.ビダル側からバルセロナは多くの攻撃を仕掛けたことに起因している。(Fig.7,8)
Fig.7 バルセロナのタックル
また、個人でいえばマスチェラーノはボールリカバリーが9、タックルが4/5、インターセプトが4とスタッツが素晴らしいだけでなく、ハーフラインよりも前で守備していたということがとても印象的だった。(Fig.9)
Fig.9 マスチェラーノのスタッツ
こんな感じで試合を通してボルシアMGは押し込められてしまい、カウンターの芽もつぶされ、チャンスをほとんど作ることはできていなかった。
シューベルト監督の解任
Fig.10 シューベルト監督(左)、ヘッキング監督(右)
2016年12月21日にシューベルト監督は解任されるが、この試合の2週間後である。
この試合の後のコメントでは「我々の方はあまりに相手をリスペクトしすぎていたし、十分に意欲的にプレーすることができていなかったよ。うまく組織化しなくてはならなかったし、あんなにも受け身になってはいけないよ。もっと対人戦に積極的に望んで相手の嫌がるプレーをしなくてはならなかったのだが、深く構えすぎて、そこから打開することもできなかった」
まあこの試合はボルシアMGにとってあまり価値のない試合だったことは確かだが、モチベーションのコントロールができなくなってきていたシューベルト監督が解任されたのは仕方なかったのかもしれない。ちなみに後任はウォルフスブルクの一時代を築いたヘッキング監督。
余談
この試合はボルシアMGのモチベーションがなかったに尽きると思う。そのせいであまりバルセロナの控えメンバーの実力を測ることもできなかった。A.ビダルの裏抜け能力が高いというよりシュルツの守備能力の方が明らかに問題だったし、A.ゴメスのピボーテとしてプレス回避能力があるかは確認できなかった。当然GKのシレッセンもビルドアップ能力などあまり力を試せなかった。