UCL16/17-F1-レアルマドリード.vs.スポルティングCP
UCL16-17-F1-RealMadrid.vs.SportingCP
まずはスタメンから
白がレアルマドリード、緑がスポルティングCP(Fig.1)
レアルマドリードは4-3-3
レアルマドリードの構成をみればEURO2016で活躍していた各国の顔のような選手がずらりと並んでいる。特にC.ロナウド、ベイル、ベンゼマの前線やクロース、モドリッチの展開力を備えた中盤は脅威以外の何物でもない。
スポルティングCPは4-3-3
ポルトガル代表でも活躍しているA.シルバ、ウイリアム、R.パトリシオといった選手がいる。ドルトムント、レアルマドリードと同じグループということもあってこの2チームとの戦い方は注目が集まる。
試合の概要
試合は2-1でレアルマドリードが勝利する。48分にB.セザールが素晴らしいコースに決めてスポルティングCPが先制するが、89分にC.ロナウドの直接FK、94分にJ.ロドリゲスのクロスをモラタが決めてレアルマドリードが逆転する。試合自体はよく組織されたスポルティングCPの守備にレアルマドリードが苦戦する展開がほとんどだった。一方でレアルマドリードの圧倒的な展開力と個の強さは戦術を破壊するには十分であり、時間がたつにつれてチャンスの質と量が増加していった。
レアルマドリードのビルドアップ、スポルティングCPの前線守備
スポルティングCPの守備の基本は4-1-4-1だが、レアルマドリードのビルドアップ時には4-4-2へと可変的に変化する。(Fig.2)
Fig.2 スポルティングCPの前線守備
Fig.3 スポルティングCPの前線守備
スポルティングCPの守備の決まりごとは以下のとおりである。
・ヴァランがボールを保持した時はB.セザールが前に出て4-4-2へと変化
・S.ラモスがボールを保持した時はA.シルバが前に出て4-4-2へと変化
・両SHはカルバハル、マルセロを監視しつつ、2列目はコンパクトを保つ
バーゼルやボルシアMG、アトレティコマドリードと同様の守備形態である。この守備の要はA.シルバとB.セザールのISHコンビがモドリッチとクロースを監視しつつCBまで監視対象を広げられるかにある。結果から先に言うと前半終わりまではその守備が完璧に機能していた。運動量はもちろんマーク相手を見失わないこの守備の強度は素晴らしいものだった。もっともカゼミロがフリーになりがちだったため、じわじわと前に進むことを可能にしていた。
レアルマドリードのゲームメイク、スポルティングCPの中盤守備
レアルマドリードの要は間違いなくクロースとモドリッチで、スポルティングCPはこの2人にマンマークをすることでレアルマドリードの攻撃を妨害しようという狙いだった。ただしマンマークといってもモドリッチやクロースに完全にボールを供給させないのは不可能である。またクロース、モドリッチ、カルバハル、マルセロは少しでもボールを持つとそのテクニックとロングボール精度で前線に素晴らしいボールを供給することもあった。戦術的には完全にスポルティングCPの守備は素晴らしかったわけだが、レアルマドリードの個人能力の高さはその戦術を上回ると瞬間がたびたびあった。もちろん設計されたスポルティングCPの守備からのカウンターもこの試合の1つの見所となった。
レアルマドリードの前線守備、スポルティングCPのビルドアップ
レアルマドリードの守備の約束事はスポルティングCPと同じだったが、各個人のディティールを見ていくと少しだけ違う。(Fig.4)
Fig.4 レアルマドリードの前線守備
レアルマドリードの前線守備の約束事は以下のとおりである。
・モドリッチまたはクロースが前線に繰り出し、可変4-3-3⇔4-4-2を行う
・1列目のいずれかはウイリアムをマークし、もう1人がプレスを行う
こういった守備に対してスポルティングCPは前線へロングフィードが基本となる。(Fig.5)
Fig.5 スポルティングCPのパス方向
スポルティングCPのロングパスの方向はスポルティングCPの右サイドすなわち、レアルマドリードの左サイド(マルセロ側)を攻略の基点とする。これはレアルマドリードの守備スタッツにも表れている。(Fig.6)
Fig.6 レアルマドリードの守備スタッツ(左:タックル、右:インターセプト)
これだけ左に偏っていることにはいくつかの理由がある。
・レアルマドリードの撤退守備の歪さ
・スポルティングCPの個の強い部分
まずはレアルマドリードの撤退守備について
レアルマドリードは前述したように4-4-2に近い形で前線から守備を行う。しかしスポルティングCPはロングボールを蹴ってしまうこと、C.ロナウドは2列目で守備を行わないことが原因であまり前線からボール奪取することはできなかった。つまりスポルティングCPがハーフラインまでボールを進めることもたびたびあり、この時レアルマドリードの撤退守備に問題があった。
本来4-1-4-1で撤退するにしても4-4-2で撤退するにしても両SHは相手のSBをマークしなければならない。しかしC.ロナウドは守備をしないというのがレアルマドリードの弱みとなる。レアルマドリードの撤退守備は4-4-2だが、C.ロナウドを1列目に据える形となる。この時左サイドを守るのはクロース、マルセロとなるが当然守備がいいコンビではないのは明らかだ。(Fig.7)
Fig.7 レアルマドリードの撤退守備
実際レアルマドリードの撤退守備はあまり強固ではなく、スポルティングCPのG.マルティンスが最も個の能力が優れているということもあってレアルマドリードは終始苦戦する。(Fig.8)
Fig.8 G.マルティンスの1on1
レアルマドリードのチャンス
02m30P(5-2-7-11-19-2)Grade4
05m20P(7-19-2)Grade4
09m50P(2-5-8-19-7-11)Grade4
12m20P(4-8-11)Grade5
13m00CK-P(8)Grade4
21m10P)19-14-8-7-8-2)Grade4
23m40T(11-9-8)Grade4
26m40P(8-7M)Grade4
28m10T(8-9)Grade4
38m40P(19-5-2-11)Grade4
48m00P(12-14-5-2)Grade4
52m30P(14-8-12-8-2)Grade4
54m30P(14-8-7NoPenalty)Grade5
63m50P(19-9-7)Grade4
67m10P(21-17)Grade4
58m10CK-P(8-2)
70m20P(19-17-14-19)Grade5
71m00P(4-8-14-5-17)Grade4
71m20P(4-8-12)Grade4
71m50CK-P(8-5-14)Grade5
76m00P(12-8-2-8-17-2)Grade5
79m20P(5-4-7-12-10-21)Grade5
82m00T(14-2-7)Grade5
82m50T(19-17-7-10-2)Grade4
86m00P(2-14-10-17)Grade4
88m10FK-P(7)Goal
93m40P(12-7-19-10-21)Goal
スポルティングCPのチャンス
01m00P(77-23-11M)Grade4
08m00T(77)Grade5
32m20P(21-13-14)Grade4
33m00T(14-23-77)Grade5
40m10T(23M)Grade4
46m30P(23-77-23-11-23-77-11-77-10-11)Goal
53m10T(77-28)Great4
60m30P(23-77-11)Grade4
62m40P(14-77)Grade5
レアルマドリードは前半Grade4以上のチャンスを10個作り、このうちGrade5のチャンスは1つのみ。対して後半はGrade4以上のチャンスを17個作り、Grade5のチャンスは8個となっている。特にGrade5のチャンスのうち7個は65分以降に作られている。時間ごとのレアルマドリードのチャンスの形の大枠は以下のとおりである。
前半はC.ロナウド、ベンゼマが不調だったためか攻撃の糸口はほとんどベイルの突破がきっかけとなった。ゲームメイクでうまくいっていったわけではなかったレアルマドリードだが、圧倒的な個の力で最低限のチャンスを作っていた。
転機は67分にベイル、ベンゼマをL.バスケス、モラタに変更したところからだろう。もちろん時間の経過とともにスポルティングCPのISHの守備は曖昧なものになっていきクロース、モドリッチ、マルセロ、カルバハルが自由にボールを持つ時間が増えていったわけだが、フレッシュな選手が複数人はいることでレアルマドリードの攻撃精度は明らかに上がった。
一方でスポルティングCPのチャンスはG.マルティンス絡みのものにほぼ限られていたが、G.マルティンスのスピードは素晴らしく今後の活躍が気になる選手である。
余談
チャンスメイクの数だけ見るとレアルマドリードが常に圧倒していたように見えるが、少なくとも前半はスポルティングCPの戦術が完璧に嵌っていた。それでも時間がたつにつれてレアルマドリードの個が戦術を潰していく様は割と残酷なものだった。スポルティングCPは少し注視すべきチームかもしれない。