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UCL16-17-E1-レヴァークーゼン.vs.CSKAモスクワ

UCL16-17-E1-Leverkusen.vs.CSKAMoscow


黒がレヴァークーゼン、黄がCSKAモスクワ(Fig.1)

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Fig.1 レヴァークーゼンvsCSKAモスクワ

レヴァークーゼンは4-4-2

シュミット監督のレヴァークーゼンといえばとにかく前線からプレスをかけるチームで、J.エルナンデス、チャルハノール、メフメディといった準一級の選手を擁している。

 

CSKAモスクワは4-4-2

怪我でEURO2016を欠場したザゴエフ、フィンランドのエレメンコ、スウェーデンのバーンブルーム、コートジボワールのL.トラオレ以外はEURO2016でロシア代表として出場していた選手ばかり。

 

試合の概要

試合は2-2-の引き分けで終える。7分にはJ.ブラントからのパスをメフメディが決めて先制する。14分にはチャルハノールのシュートがディフレクションしてうまくゴールに吸い込まれ2点目。しかし35分にカウンターの形からイオノフ→ザゴエフとうまくつなぎザゴエフが1点返すと、その直後もカウンターの形からエレメンコが狭いコースからシュートを決めて同点とする。試合内容としてはレヴァークーゼンが押していたが、レヴァークーゼンは試合を殺すようなサッカーができず自滅してしまった。

 

レヴァークーゼンのビルドアップ、CSKAモスクワの守備


CSKAモスクワの守備の形は4-4-2。失点するまでの間は1列目、2列目はそれほど熱心にプレスをかけるようなことはしなかった。一方でレヴァークーゼンのビルドアップの形はカンプルを中心とする、だった。(FIg.2)

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Fig.2 レヴァークーゼンのビルドアップ

・CHのカンプルはビルドアップの段階で、LSBの位置に落ちる。

・ベンデウはWG

・メフメディ、チャルハノール、J.エルナンデス、J.ブラントは前線でボールの受け方を考える

このチームの中で誰が一番ゲームメイクがうまいか?と言われれば、おそらくカンプルである。カンプルがフリーでボールを持つためには4-4-2の弱所である1列目の脇にポジショニングさせればいい。この形はEURO2016のクロアチアモドリッチが担っていた役割と全く同じである。

ベンデウがオーバーラップすることでイオノフがカンプルにアタックしづらい状況を作り出し、L.トラオレもしくはエレメンコがカンプルにプレスするようであれば、L.ベンダーやCB陣が余裕をもってゲームメイクできる仕組みになっており、ハーフラインまでは簡単にボールを運べた。

 

レヴァークーゼンのゲームメイク、CSKAモスクワの守備

基本的にはFig.2を見ればほぼレヴァークーゼンのゲームメイクの形は理解できる。チャルハノールやメフメディが2列目の前後の狭いスペースでボールを受け、ダイレクトプレーで相手のゴールに迫っていく方法、もしくはJ.エルナンデス、J.ブラント、メフメディの裏抜けを狙ったロングボール。

基本的にこの2択しかないが、カンプルのパスと前線はよく連動しており、CSKAモスクワの撤退守備に対してもチャンスを作り続けていた。

 

CSKAモスクワのボール保持攻撃、レヴァークーゼンの前線守備

一方でCSKAモスクワのボール保持攻撃は非常に単調なものだった。というのもレヴァークーゼンCSKAモスクワがボールを保持しようとすると4人、多いときで5人でハイプレスを行う。この時無理にボールをつなごうとはせず、L.トラオレに向けてロングボールを蹴ることがほとんどだった。

 


L.トラオレは体格はかなり大きくポスト系のFWかと思っていたが、残念ながらこの試合ではJ.ターにほぼ完封されてしまっていた(Fig.3)

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Fig.3 L.トラオレのエアバトル勝率(左)、J.ターのエアバトル勝率(右)

こんな感じでCSKAモスクワのボール保持攻撃はほぼボロボロだったといって過言ではない。ただし、ロングボールを前線が拾った場合には、実質レヴァークーゼンのハイプレスを躱したときと同じ状況になるためそれなりのチャンスとなる。詳細はチャンスメイクの部分で述べる。

 

レヴァークーゼンのチャンスメイク(前半)

レヴァークーゼンのチャンス

04m20P(39-19)Grade4

05m10P(44-10-19)Grade4

07m50P(44-7-39-14)Goal

14m10T(39-14-19-7)Grade5

14m30P(44-10M)Goal

17m10P(10-19-44-14)Grade4

18m40T(7-14-19)Grade5

22m20FK-T(10-8-18-14)Grade5

26m20P(8-19-14-10-19-18)Grade5

33m10P(4-1-44-21-19-8-14)Grade4

33m40P(10-8-10-39-8-39)Grade4

35m00P(4-14)Grade5

35m10P(14-14)Grade5

40m20P(44-14-19)

44m30P(8-18-44-10)

 

CSKAモスクワのチャンス

30m50FK-P(10-11M)Grade4

35m30T(17-25-2-11-10)Goal

37m00T(17-10-9)Grade4

37m30T(24-25-11-9-25)Goal

 

レヴァークーゼンのシュミット監督も言っていたように前半30分間のサッカーは完璧だった。

以下の4点が自分が感じたいい部分。

・ボール保持攻撃はカンプルの好調もあって精度が高かった

・CSKA側に押し込んだ状態でボールを奪取された時にはハイプレスでショートカウンターの機会を2度も作った

CSKAモスクワに押し込められてもボールを奪取した時にはロングカウンターの機会を作れていた

・2点ビハインドになったCSKAモスクワがハイプレスに切り替えた時にもショートパスでプレス網をかいくぐっていた

ゴール以外にもGrade5が6個、Grade4が7個とかなり決定的な場面が多かったことがわかると思う。ただし、14分に2点目を決めてから35分に失点するまでの間にGrade5が5個とかなり集中していながらも、追加点を奪えなかった。また、チャルハノールは2点先取した後カウンターの場面で何度か雑なプレーを見せることが多くなっていった。

 

前半35分間を完璧なサッカーというのであれば、前半残りの10分間はかなりひどい出来だった。というのもシュミット監督のサッカーはとにかく全員に集中力と運動量を求める。ボールを奪えば即カウンター、相手がボールを保持している時はハイプレス、と特に1列目、2列目の負担が極端に大きい。

前半も終盤になると、ハイプレスを躱された時にレヴァークーゼンのSHの戻りが極端に遅くなっていく。さらに前述のようにCSKAモスクワは守備時にハイプレスを行うようになる。(もっともCSKAモスクワのハイプレス精度は高くなく、レヴァークーゼンのビルドアップを完全に妨害できていたわけではない)


こんな2つが重なり合って両チームは守備時にも攻撃時にも縦に間延びした陣形になってしまう。間延びすると試合はランダム性が増し、コントロールできなくなってしまう。(Fig.4,5) f:id:come_on_UTD:20170702195338p:plain

Fig.4 レヴァークーゼンの被カウンター対応I


例えばレヴァークーゼンの最初の失点シーンだが、レヴァークーゼンのCKをボール奪取し、カウンターにつなげた場面。(Fig.4)

J.ブラント、メフメディら前線の選手は明らかに疲労で戻れていない。もちろんCKに関わっていた選手が戻れないのは仕方ないが、これだけしか戻れてないあたりシュミット監督の目指すサッカーを90分間通すことは限りなく難しい。

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Fig.5 レヴァークーゼンの被カウンター対応II

2失点目もL.トラオレが競り合ってエレメンコがセカンドボールを取ったところから始まる。(Fig.5)この時もJ.ブラント、メフメディの最低どちらかは撤退するべきだったが、結局6人で守備をする羽目になり、同点を許すこととなる。もちろんCSKAモスクワのチャンス数は限りなく少なく、2失点すること自体がレヴァークーゼンにとって不運だったことは確かだった。しかし、CSKAモスクワはそれほどボールをつなげるチームでもないし、圧倒的な個のスキルを持っている選手はいないのだから、もう少し状況にあったサッカーをしてもいいのではないかと思った。

 

例えばアトレティコマドリードならハイプレスの時間帯、ビルドアップを制限する時間帯、4-5-1で守る時間帯、撤退する時間帯と自分と相手の状況に合わせて試合のリズムを変化させていくが、レヴァークーゼンはいい意味でも悪い意味でもノーガードなサッカーなのであまりうまく試合を殺せないことが多い気がする。

 

ちなみにロングカウンター時のイオノフのスプリントとザゴエフのパス精度はCSKAモスクワの中でレベルが抜けていた。特にザゴエフのテクニックはこのチームの生命線であり、おそらくWCUP2018においてもザゴエフの出来が重要になってくることをうかがわせた。

 

ハーフタイムにおける変更

49分までに交代枠3人を使い切ったレヴァークーゼンは以下のフォーメーションとなる。(Fig.6)

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Fig.6後半のメンバー構成

J.エルナンデス(足首の怪我)⇔アランギス

チャルノハール(戦術的交代?)⇔ポーヤンパロ

L.ベンダー(ハムストリングの怪我)⇔フォラント

ただし固定されているのはカンプル、アランギスのCHと最終ラインの4人のみで、前線の4人は割と流動的に配置が決まっていた。

 

レヴァークーゼンのチャンスメイク(後半)

レヴァークーゼンのチャンス

45m20T(8-19)Grade5

50m30P(39-14-44)Grade4

59m40T(1-19-44-31-17)Grade5

61m00T(44-17)Grade5

61m20P(14-20-44)Grade4

63m10P(44-20-31M)Grade4

64m10T(39-19-17Nopenalty)Grade4

66m50T(18-44-14)Grade4

71m00P(20-14-39-17)Grade4

73m30P(20-44-18)Grade4

77m30T(44-19-44)Grade4

 

CSKAモスクワのチャンス

67m10T(10-17-11-17M)Grade4

80m10T(10-25)Grade5
83m30CK-P(10-8)Grade5

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Fig.7 カンプル(左)、J.ブラント(右)

 

カンプルの重要性

基本的に後半もカンプル主導で試合は進んでいった。ボール保持攻撃時にはLSBの位置に下がってビルドアップ&ゲームメイク、前線からの守備時には中盤でのインターセプト、ボールリカバリー、そしてカウンターアタックにつなげる初動の視野の広さと選択の正しさはこの試合の中で圧倒的なレベルだった。(Fig.8)

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Fig.8 カンプルのボールリカバリー(左)、インターセプト(右)

CSKAのほとんどの攻撃が確率の低いロングボールだったとはいえ、ボールリカバリー16、インターセプト8は守備の数字としても立派だが、最も素晴らしかったのはカウンターの基点としてかなり質の高いプレーを続けられたこと。

 

J.ブラントの将来性と現時点での能力

J.ブラントはドイツで今シーズンから本格的にブレイクし始めているドイツ人。やはりスプリントやドリブル時の独特なストライド、90分走り続けられるスタミナ、被ハイプレス時のゲームメイクの絡み方等将来有望な感じは確かにあるが、稀にリトリートしないのでいい方向に育てられるかは今後の監督次第という感じがある。

 

余談

試合のテンポが速い分、オフサイドを見逃すシーン、またはオンサイドなのにオフサイド判定してしまったりと線審がテンパるシーンが多かった。主審もトプラクからレノへのバックパスを見逃したり、ポーヤンパロの素晴らしい突破へのファールを見逃したりと結構ぶれていた。レヴァークーゼンとしては勝ち点3を取るうえでとても大事な1戦だったが、引き分けで終えることとなった。