サッカーを視る

主にCLやビッグマッチについて。リーグ戦はEPLが中心

UCL16-17-D1-バイエルン.vs.ロストフ

UCL16-17-D1-Bayern.vs.Rostov

まずはスタメンから
赤がバイエルン、青がロストフ(Fig.1)

f:id:come_on_UTD:20170514095748p:plain

Fig.1 バイエルンvsロストフ

バイエルンは4-3-3

D.コスタはウイング、T.ミュラーセカンドトップのような位置で攻撃をスタートさせることが多く左右非対称といえる。当然右サイドアウトレーンにはオーバーラップしたラフィーニャもしくはキミッヒを置くことで攻撃のバランスを整えている。

 

ロストフは5-3-2

正直このチームについてよくは知らない。ロシアのリーグに所属しておりほとんどの選手がロシア人だが、先のEURO2016ではCSKAモスクワ、ゼニト連合軍だったので知っている選手はいなかった。ただトップのアズモンはイランの若手で2018ロシアW杯予選では12試合8ゴールとアジアで無双していることだけは記憶に入れといていいかもしれない。

 

試合の概要

試合は5-0でバイエルンが勝利する。

とりあえずバイエルンが殴り続けた結果、5点差になったという試合。D.コスタの1vs1からのグラウンダーのクロスにレヴァンドフスキとT.ミュラーが常に突っ込んでくるのは非常に厄介だった。また、ロストフはチャンスもほとんど作れなかったので、バイエルンの完勝といっていいだろう。

 

バイエルンのビルドアップ-ゲームメイク、ロストフの撤退守備

バイエルンは今季からアンチェロッティが指揮しているが、メンバーを見るとほとんど最強レベルの選手がそろっている、一方でロストフはワールドクラスの選手はいない。こういった差を埋めるときに、ルドゴレツ、セルティックパリサンジェルマンバルセロナに対して徹底的な自陣での撤退守備を行った。ロストフもその例に漏れることなく徹底的な自陣での守備を行った。

 


こういった背景からハーフライン付近までボールを運ぶことはバイエルンにとってとても簡単だった。ハーフラインまで進めた時のロストフの陣形およびマーク関係は以下のようになっていた。(Fig.2)

f:id:come_on_UTD:20170514095800p:plain

Fig.2 ロストフの撤退守備

・1列目の2人はCBを守りつつ、中央のゾーンを死守

・2列目の3人はボールの動きに合わせて全体がスライド

つまり、ボールサイドのSBにボールが渡ると、5-3-2のインテリオールが監視し、3枚の選手が全体的にボールサイドにかなりスライドする。

ここで本来ボールサイドから一番遠い選手(Fig.2 でいえばテレンティエフ)は中盤に加わるというのが一種のセオリーだが、ロストフは最終ラインを5人にし、質の代わりに量で勝負することで守備の向上を狙った。

 

一方でバイエルンはこういった撤退守備に対していくつかの解答を持っていた

・T.アルカンタラをCB間に落とし、ポロズ、アズモンのアウトスペースをフンメルス、J.マルティネスが利用する方法

・1列目と2列目の間を中央に向けて突破し、逆サイドのスペースの利用

・SBをインサイドレーンに置いてロストフのインテリオールをピン止め

 

順番に見ていこう。

T.アルカンタラをCB間に落とし、1列目のアウトスペースをバイエルンのCBが利用する方法

こういう配置になった時、ロストフの1列目はあくまで中央を守ることを優先し、特にCBのドライブを妨害するということはなかった。むしろT.アルカンタラが中央でゲームメイクに参加できない分、バイエルンは外→外という単調なゲームメイクになることが多く、前半途中でこの形は見られなくなった。

 

1列目と2列目の間を中央に向けて突破し、逆サイドのスペースを利用する方法(Fig.3,4)

f:id:come_on_UTD:20170514095818p:plain


Fig.3 D.コスタの中央突破

バイエルンのゲームメイクの手法として、アラバがウイングのようにオーバーラップし、D.コスタがSBの位置まで下がってボールをもらう動きが多かった。このとき、本来はカラチェフがD.コスタのマークで、エロヒンがアラバのマークだが、ポジションチェンジに伴ってマークもチェンジされる。


D.コスタはこの位置でボールを受けるとたびたび1列目と2列目の間をドリブルで強引に突破しようとするプレーが何度も確認され、5-3-2の構造的な弱点をついたいいゲームメイクだったと感じた。

f:id:come_on_UTD:20170514095830p:plain

Fig.4 バイエルンのゲームメイク

つまり、本来中盤を3人のスライドで守るためには、ボール循環をなるべく迂回させなければならないが(Fig.4 、2ルート)、ここをあえて中央へ切り崩していくことでボール循環を最短ルート(Fig.4、1ルート)にし、逆サイドに多くのスペースをあたえることができる。実際に左WGのD.コスタ、右インテリオールのキミッヒは何度もこういったプレーからサイドのアタッキングスペースを確保していた。

 

次はSBをインサイドレーンに置いてロストフのインテリオールをピン止め

これはとくにアラバ、D.コスタサイドで見られた事象で、上に紹介したゲームメイクよりもよりロストフ側で、チャンスメイクの前のプレーとなった。(Fig.5)

f:id:come_on_UTD:20170514095844p:plain


Fig.5 バイエルンのサイドアタック有効活用の手法

まずはバイエルン、多くのポジションチェンジが起こっている。

A.ビダルはサイドからのクロスに合わせて最終ラインの隙を窺っており、アラバはインテリオールのような位置にいる。D.コスタは画面外だが、サイドラインいっぱいまで開いている。

ここで重要なのはアラバのポジショニングで、エロヒンを中央にピン止めすることに成功している。これによって、D.コスタはカラチェフと広いサイドのスペースで1vs1を何度も行い、クロスを供給し続けた。いわゆるアイソレーションという考え方だが、特に1vs1のドリブル能力をもつ選手がいるチームがサイドラインから撤退守備をこじ開ける手段としてとても有効な手段である。

後半のロストフの守備


ロストフは試合を通して自陣撤退型の5-3-2を貫いたが、前半と後半ではわずかに中盤3枚のスライド方式に変化があった。(Fig.6,7)

f:id:come_on_UTD:20170514095859p:plain


Fig.6 アラバ側がボールを持った時のロストフの2列目のポジショニング

f:id:come_on_UTD:20170514095911p:plain

Fig.7 ラフィーニャ側がボールを持った時のロストフの2列目のポジショニング

 

具体的にはD.コスタサイドにボールが渡った時は前半同様コンパクトに、ラフィーニャサイドではより次の攻撃に備えるように全体的に広がっている傾向にあった。これは明らかにD.コスタのサイドアタックを警戒しており、ハーフタイムを境に変化していたので監督の指示だろう。結論から言えば、後半もバイエルン相手に5-3-2の撤退守備では全く守れなかったわけだが、こういった小さな変化もあった。

 

バイエルンのチャンスメイク

実際バイエルンはトータルでボールぽポゼッションが77%、ボールポジションが63%と、ボールを保持した状態でゲームメイクまでを完璧にこなせていたことはデータからも明白だった。あとはどのようにチャンスメイクをしたかどうかが焦点となる。

 

バイエルンのチャンス

04m00 P(5-27-9)Grade4

13m20P(27-23-13)Grade4

14m30P(6-8-25)Grade4

20m40P(5-32-9Grade4

21m10P(23-13-32M)Grade4

22m30P(5-13-25-32-9)Grade4

25m50CK-P(6-9Penalty)Grade4

27m00PK(9)Goal

29m10P(11-27-25)Grade4

35m50T(27-32-27-25-27)Grade4

38m40CK-P(32-9-5)Grade5

41m00P(6-23)Grade4

45m30P(5-11)Grade4

46m40P(32-6-27-25)Goal

 

46m00P(23-32-25-32)Grade4

52m30T(1-32-23-9-11-32)Goal

54m40T(25-23-11)Grade4

56m40T(25-11-9)Grade5

58m30T(11-9-32-23-11)Grade4

59m40CK-P(6-18-32)Goal

61m40P(25-6-23M)Grade5

66m10P(7-9)Grade4

89m20T(18-7-18)Goal

92m40FK-P(27M)Grade4

 

Grade3以上のチャンスは44回、前半は29回(Grade4以上のチャンスは内14回)、後半は15回(Grade4以上のチャンスは内10回)となった。前半はかなり押し込んでいた分、チャンスメイクは5-3ブロックの外からのクロス攻撃が大半で、質よりも量で勝負した。一方で後半は、得点を取ろうと少しだけ前がかりになったロストフに対して質の高いカウンターでチャンスメイクを行った。

 

前半の主なチャンスメイクは左のD.コスタ、右のキミッヒからクロス爆撃、たまにT.アルカンタラのロングボール爆撃と5-3ブロック外からのボール供給がほとんどだった。(Fig.8)

f:id:come_on_UTD:20170514095926p:plain

 

Fig.8 バイエルンのクロス(左: D.コスタ、右: キミッヒ)

全体であげた38本のクロスのうち、D.コスタとキミッヒで21本のクロスを上げており、どちらもディフェンスが前にいたとしても鋭いクロスを上げることができていた。欲を言えばD.コスタのクロス精度がもう少し向上すれば、バイエルンはこういった引いた相手に対して無敵になれるだろう。クロスの先で毎回レヴァンドフスキ、T.ミュラー、A.ビダルペナルティエリアに顔を出すというのはディフェンスからしたらかなりしんどい状況である。

 

26分のガツカンがレヴァンドフスキをエリア内で倒してしまった判定は妥当だったが、もし前半をPKの1失点のみで折り返すことができたらロストフにとっては想定内の結果だったといえる。しかし前半終了間際のアラバのクロスからT.ミュラーが決めたことで、ロストフのメンタルはかなりきついものになってしまったと思う。

 

後半早々にフンメルスは前半の脳震盪の影響でベルナトと交代し、63分にはD.コスタをリベリーに、71分にはT.アルカンタラをR.サンチェスに変更した。フンメルス交代後はアラバがLCB、T.アルカンタラ交代後はピボーテにキミッヒがはいった。(Fig.9)

f:id:come_on_UTD:20170514095943p:plain
Fig.9 最終的なバイエルンの布陣

グアルディオラ時代に鍛えられたアラバとキミッヒの各ポジションに対する対応能力はさすがだった。

ちなみにポルトガルの新生R.サンチェスはインテリオールが主戦場となるが、相手がキミッヒ、T.アルカンタラ、A.ビダルとかなり厳しい。成長株であることは間違いないが、バイエルンが成長環境として適切かというとちょっと微妙な気がする。

 

ロストフの攻撃、バイエルンの守備


そもそもロストフにはほとんど攻撃フェイズはなかったが、一応紹介(Fig.10)。

f:id:come_on_UTD:20170514100001p:plain

Fig.10 ノボア(左)、アズモン(右)

基本的に押し込められた状態でボールを奪取することが多いロストフはロングボールを絡めたロングカウンターが攻撃の基本となる。ターゲットはイランのアズモンだったが、この選手はそこまでエアバトルが強くない分スピードは結構あった。フンメルスやJ.マルティネスはアズモンの裏抜けのスピードに少しだけ苦労していた。一方でロングボールを出す選手も調子が良かった。エクアドルのノボアという選手はこの試合だけ調子が良かったのかそういう特性を持った選手なのかはわからなかったが、異常にロングボール精度が高かった。

 

しかし、ロングボールの質が良くてもバイエルンの最終ラインの選手にアズモンまたはポロズが1vs1で勝たなければチャンスメイクにならないが、ロストフはこの部分でバイエルンのCBに封殺されていた。したがってチャンスメイクはほぼ0といっていい。

 

ロストフのチャンス

45m20FK-P(16-10)Grade4

52m20CK-P(2-44)Grade4

80m10P(10-89)Grade4

84m10FK-P(2-89)Grade5

 

ほとんどがセットピース関連のチャンスであり、チャンスの回数も非常に少ない。正直両チームの間には圧倒的な差があった。

 

余談

ロストフにとってロングカウンターに可能性がなかったわけではないが、バイエルンとロストフでは戦力差がありすぎる。バイエルンの守備の対応などは、次の試合のアトレティコマドリードvsバイエルンを見ることでよくつかめてくるだろう。