UCL16-17-D3-バイエルン.vs.PSV
UCL16-17-D3-Bayern.vs.PSV
まずはスタメンから
Fig.1 バイエルンvsPSV
バイエルンはいつもの4-3-3(4-3-2-1)
3試合ともCBの組み合わせは異なっている。X.アロンソは今でも攻撃時には大きく貢献できるが、守備時に衰えが隠せなくなってきている。T.ミュラー、ロッベン、リベリー、D.コスタ、コマンとアタッカーを多く揃えているがレヴァンドフスキ以外に出場できる選手は2人まで。バランスは整っているがいまいち波に乗り切れていない。ウイングはよりインサイドでのプレーを得意としているロッベン、T.ミュラー、リベリーが重用されているのはアンチェロッティの十八番4-3-2-1に近くなるからかもしれない。
PSVは4-4-1-1
アトレティコマドリード相手には5-4-1で自陣に引きこもり、ルークデヨングとナルシンのカウンターで好機を演出していたが決めきれることはできなかった。フォーメーションは1節と違えど、この試合も同じような姿勢で臨んだことには変わりない。
試合の概要
試合はバイエルンが4-1で勝利する。12分にコーナーキックのマークミスを見逃さなかったT.ミュラーが先制点をあげると、20分にはアラバのクロスをキミッヒが押し込み、58分にはロッベンのこぼれ球をレヴァンドフスキが、83分にはT.アルカンタラの浮き球をうまくヘディングで逸らして4得点。一方でPSVも40分にロングカウンターでナルシンが素晴らしいシュートを決めるが、後半追いつくことはなかった。前半の終盤にはPSVが奮闘する時間もあったが、基本的にバイエルンの強さが目立った試合だった。
PSVはハーフライン付近までボールを運ばれることに対してほとんど抵抗していなかったため、バイエルンは簡単にハーフラインまで運ぶことができた。ちなみにこの試合のバイエルンのボールポゼッションは66%、ボールポジションは62%と押バイエルンが押し込めていることが理解できる。
撤退した時のPSVの基本陣形は4-4-2(Fig.2)
Fig.2 PSVの撤退守備
・シーム.デヨング、ルークデヨングが1列目で、バイエルンのCB陣からのゲームメイクを妨害
・ナルシンとG.ペレイロのサイドハーフコンビはバイエルンのSBのオーバーラップに対応
・ブレネット、ビレムスもマンマーク気味にT.ミュラーとロッベンに対応
こういったPSVの約束事に対してバイエルンは以下のように対応した。(Fig.3)
・X.アロンソを最終ラインに落とすことで1列目からのプレスを回避
・アラバ、もしくはラームを大きくオーバーラップさせることでPSVのサイドハーフを押し込む
・ボールサイドのサイドハーフ(ロッベンもしくはミュラー)をインサイドにポジションチェンジさせる
Fig.3 バイエルンのポジションチェンジ方法
これによってPSVのSB(ビレムス)は中央に絞り気味、SH(ナルシン)は最終ラインに押し込まれるという状態ができる。この時キミッヒはフリーでボールを持つことができているが、本来1列目がカバーしなければいけないエリアだと思う。この図は典型例だが、PSVの1列目は守備の運動量が少なく、個人技、ロングボールともに優れているバイエルンを相手にするには少々2列目、3列目に負担がかかりすぎる傾向にあった。
このようにして簡単に3/4エリアまで進むことができていたバイエルンだが、ここからはキミッヒ、T.アルカンタラのロングパス能力がいかんなく発揮された。このときバイエルンにはいくつかの選択肢がある。中央に存在するロッベンやT.ミュラーとのコンビネーションを生かして中央突破、もしくは純粋なサイドアタック。
しかし中央突破、特に中央に存在するロッベンへのパスに対してはグアルダードやビレムスがかなり徹底的に守っていたので、崩すのは困難な気配だった。そのため、バイエルンは主にサイドのエリアを攻略しようとする。(Fig.4)
具体的には簡単で、インサイドにポジションチェンジしたロッベンやT.ミュラーの位置に合わせてSBが絞ったスペースをレヴァンドフスキやT.ミュラーがサイドでボール保持→クロスという流れだった。
この流れは防ぎようがない。というか防ごうと思うのであれば運動量とシステムを研ぎ澄まさなければならない。例えばPSVの1列目はバイエルンのCB2人の選手にプレスし、運動量、連動力を改善する必要があったし、X.アロンソがビルドアップに参加する場合の対策も必須だったと思う。また、フンメルス、J.ボアテング、X.アロンソ、T.アルカンタラ、キミッヒといずれの選手もロングボールを精度良く出すことができる。当然バイエルンレベルの選手に時間を与えてしまえば、撤退守備だけで守ることはかなり難しい。
バイエルンのチャンスメイク
バイエルンのチャンス
2m00P(32-27-6-27-25)Grade5
6m20P(17-9)Grade4
8m00P(9-32-9-21-9-25-9-10)Grade4
10m20P(10-25-27)Grade5
12m00P(14-27-25-9M)Grade5
12m10CK-P(10-25)Goal
16m40P(27-14-27-10)Grade5
17m00P(17-27)Grade4
20m10T(9-25-27-32)Goal
24m10P(10-14-25-10-25-10)Grade5
24m50CK-P(10-32-9)Grade5
26m40P(6-14-27-25-10-6-14-9)Grade4
28m00T(1-9-10-32)Grade5
28m30CK-T(10-21-5)Grade4
30m40T(10M)Grade5
41m50P(17-10-9)Grade5
45m20P(14-25)Grade4
46m00T(1-6-9)Grade5
51m00P(17-25)Grade4
57m30P(1-25-10-32)Grade5
58m20P(1-9-10)Grade5
58m40P(10-9)Goal
62m30P(21-32-10-25-21-32-25)Grade4
64m10P(25-10-25-27)Grade4
65m10T(10-9-25)Grade5
67m20P(6-14-10)Grade4
71m20P(14-21-10-32)Grade4
73m10P(17-9-32-10-21-9-32)Grade5
83m20P(6-10-32-6-10)Goal
前半、特に30分付近までに多くのチャンスを作ったバイエルンだった。ちなみに前半のGrade3以上のチャンスは27個、Grade5のチャンスは9個、Grade4のチャンスは5個とかなり質のいい攻撃だった。理由は前述したようにビルドアップ-ゲームメイクが完璧に機能していたからであろう。特に「PSVのSBの位置を意図的に移動させてそのエリアを突く」というオーソドックスな戦術はとても効いていた。この点に関してはT.ミュラーやレヴァンドフスキの動きだしはとてもよかった。
1点目
1点目はロッベンのCKにT.ミュラーが合わせた感じだったが、これは明らかに試合前から存在するPSVの弱点を突いたものだと思う。(Fig.5)
Fig.5 PSVのミス
なぜかT.ミュラーをマークする選手がいない。ビレムスが悪いのかほかの選手がきちんとアサインされいなかったのかはよくわからない。少なくともPSVのGKズートはT.ミュラーにマークがついていなかったことを指摘している様子だったが、フリーのままにしてしまった。
ただし似たような場面は24分のCKでも起きることから、PSVが抱えている問題であったのだと思う。
ちなみにゴール時のT.ミュラーはよく見ていたというジェスチャーをロッベンにしている。(Fig.6)
Fig.6 T.ミュラーのゴールパフォーマンス
Fig.7 T.ミュラー(左)、ノイアー(中)、ロッベン(右)
T.ミュラーの調子
この試合のT.ミュラーは動き出しがよく、周りとのコンビネーションもかなりうまくやっていた。やはりT.ミュラーは中央で自由にプレーさせた方が輝いているように思えた。ただし、EURO2016、さらには2015-2016シーズンから少しゴール感覚に関して問題が生じている。この試合1点決めたわけだが、2点、3点取れるチャンスは大いにあった。そういった意味では復調したわけではない感じはする。
ノイアーの影響力
ノイアーはどの試合でもかなり決定的なセーブをするが、それだけでなくスローインやロングボールから度々カウンターまたはチャンスの基点になる。この試合でも4つのチャンスメイクに貢献し、そのうち1つは3点目のゴールにつながっている。
ロッベンの脅威
この試合ではインサイドでほとんどの時間をすごしたロッベンだが、特にグアルダードとビレムスの執拗なマークに苦労していた。ただし、特にカウンターなどでマークから解き放たれた時にはほぼ確実に決定的な仕事をしていた。
前述のようにバイエルンは徹底的にPSVを押し込んだうえで攻撃を終了させていた。したがってPSVの攻撃のスタートはGKからが多かった。
この時PSVとしては、ロングボール能力があるグアルダードにボールを集めたかったと思う。実際にゴールキック時にはよくCB間にグアルダードが落ちる様子が散見された。(Fig.8)
ただしバイエルンはこういった状態に対して、キミッヒをグアルダードにレヴァンドフスキ、T.ミュラー(ロッベン)を前線に残すことでショートパスからの攻撃展開を嫌った。
実際にバイエルンの思惑通りPSVのGKズートはロングボールを蹴る展開が多くなってしまった。
Fig.9 ズートのゴールキック
この図からもわかるように、PSVはゴールキック時点で多くのボールロストをしているが、アトレティコマドリードも苦労していたように、ルークデヨングのエアバトル能力はバイエルンにとっても少し厄介だった。
Fig.10 ルークデヨングのエアバトル
データほどルークデヨングが目立った印象はないが、少なくともPSVの生命線だったのは確かだった。ただしアトレティコマドリード戦以上にPSVは押し込まれた状態で攻撃がスタートしたので、GKからのボール保持攻撃は壊滅的だった。
PSVのチャンスメイク
35m30T(6-7)Grade4
38m00P(6-7-10-7offside)Grade5
40m20T(18-7-11)Goal
42m20T(18-20M)Grade4
47m10P(10-18-15-9)Grade5
51m40P(6-11-7)Grade5
68m10P(7-10-7-11-7-11-9)Grade5
87m40P(6-27-11-27)Grade5
89m40=(15-9offside)
ここまでの展開を見るとバイエルンが圧倒的だった印象を受ける。確かに試合全体を通してみてもバイエルンは圧倒的だったといってもいいと思う。ただし局所的な時間帯においてはPSVが明らかに優れている時間帯もあった。
特に前半の30~45分の間はPSVの時間帯だったといっていいだろう。バイエルンもこの時間帯になるとボール保持攻撃時の運動量の低下、ボールを奪取されたからのプレスの運動量の低下などによってかPSVのロングカウンターの基点を潰せなくなってしまう。
しかもバイエルンの被カウンター時のディフェンス、特にX.アロンソの衰えはかなり顕著で、ナルシンのスピードに完全に対応できていなかった。こういう展開が続くとPSVもバイエルン陣地で少しボールを持てるようになる。38分のG.ペレイロ、シームデヨングのコンビネーションプレーや、その他カウンターの回数は多くはなかったがチャンスの質は非常に高かった。
ボールの主導権が相手に渡ってしまった時のバイエルンの守備は、特に今シーズン脆い。バイエルンは基本4-4-2ブロックの守備を行うが、1列目はレヴァンドフスキ+T.ミュラーorロッベンでどちらがどういったタイミングで下がるかなどは明確には決まっていない印象を受ける。もちろんその自由度がバイエルンの本来のストロングポイントであったトランジションでの攻撃を促進させるが、PSV相手でもボールを保持されるとかなり危うい印象を受けた。
余談
バイエルンは相変わらず強いが、強いチームでも主導権を握れなくなるタイミングは必ずある。そういった時間帯をどう過ごすかという点で今季のバイエルンには少し脆さを感じる。とはいっても選手の質が異常に高いのでグループリーグレベルだとあまり問題にならない可能性が高い。