UCL16-17-B1-ディナモキエフ.vs.ナポリ
まずはスタメンから
基本はウクライナの選手で構成されているため、EURO2016の顔馴染みも多い。特に有名なのは右ウイングのヤルモレンコ。昔ながらのウイングという感じ。
ナポリは4-5-1。4-1-4-1とあえて表記しない理由は後ほど
アルバニア、セネガル、スロバキア、アルジェリアなどサッカー大国ではない国のベスト選手が集まりつつあるチーム。ビルドアップ時も果敢に縦パスを仕掛ける姿勢からサッリの哲学を感じられる試合。イグアインの退団によってミリクにかかるプレッシャーは相当大きい。
試合の概要
試合は1-2でナポリが勝利する。25分にヤルモレンコのクロスをツィガンコフが折り返し、ガルマシュが器用に体を反転させながら撃ったシュートから先制点は生まれた。しかし、34分にはグラムのクロスからミリクのヘディングで同点にすると、46分にもカジェホンのクロスからのこぼれ球をミリクが頭で押し込んで逆転。
サッリのナポリの特徴はゾーンプレスとボール保持攻撃時の縦方向への意識の強さがある。
まずはナポリのゾーンプレスとそれに対するディナモキエフの対応を見ていく。
基本的にはFig.1に示したようにガルマシュ-アラン、シドルチュク-ハムシク、リバルカ-ジョルジーヨというマーク関係になっている。このときジョルジーヨは結構高い位置を維持していたことから4-1-4-1ではなく4-5-1表記のほうがより守備を表していると考えた。
インサイドでビダもしくはカチェリディがボールを持った場合にはインサイドハーフのアランまたはハムシクが牽制する。(Fig.2)
Fig.2 ナポリの前線守備I(アントゥネス側からのビルドアップに対して)
このとき4-5-1から4-4-2へと一時的に変化するため、ハムシクとジョルジーヨのマークも右に1つずつずれてジョルジーヨ-ガルマシュ、ハムシク-リバルカというマーク関係になる。
サイドバックまでボールを追い込むことができれば、カジェホンがプレスすることで相手のボール保持攻撃を破壊するという方法だった。これはディナモキエフの最終ラインがボールを回せる選手がいなかったためかなりうまくいっていた。
一方でビダはサイドいっぱいまで大きく開いてビルドアップを行うこともあった。このときにはアランではなくカジェホンが前に出ることで対応していた。(Fig.3)
Fig.3 ナポリの前線守備II
当然この形からボールを運ぶのは難しい。長距離のサイドチェンジもしくはダイアゴナルのパスを出すことができればこういった状況を解決できるかもしれないが、ディナモキエフの最終ラインにそういった特性をもつ選手はいなかった。
したがってショートパスでゾーンプレスを切り崩そうとするディナモキエフだったが、マークチェンジをしながらコンパクトに保ち続けるナポリの守備は試合を通じてほとんど破られることなく機能していた。
こういった感じでビダとカチェリディは出す相手が見つからずにGKのショコフスキーに戻すことがあったが、ナポリは前線にいるミリクと4-4-2に変化した時に前にポジションを移動した選手がプレスに参加することで、ほとんどショコフスキーにロングボールを蹴らせていた。
こういった場面でGKがつなげる選手の場合はビルドアップのやり直しが可能であるが、ショコフスキーはすぐにロングボールを蹴ってしまうタイプだった。
ディナモキエフは4-1-4-1で守備を行ない、前半の序盤はGroupAのバーゼルと同じような守備を行った。すなわち、CBのいずれかがボールをもつとインサイドハーフが上がり4-4-2に一時的に変化する。(Fig.4)
次にナポリの選手の特徴を見てみる。
サッリのナポリはボールを保持した時に縦への意識が非常に強いのが特徴。これはボールを保持した時にロングボールを蹴るというわけではなく、あくまでショートパスが主体ではあるものの横パスをあまり使わないということ。
Fig.5 クリバリ(左)、R.アルビオル(右)
ボール保持攻撃のスタートはクリバリとR.アルビオルだが、とにかく縦パスを入れてくる。試合中に何度か縦パスをカットされることもあるが、それでもその攻撃的な姿勢をやめることはいっさいなかった。(Fig.6)
Fig.6 ナポリのビルドアップ(クリバリ→メルテンスの縦パスの瞬間)
インサイドハーフのマークチェンジをともなう4-1-4-1⇔4-4-2の可変守備の弱点は、シドルチュク、リバルカ、ガルマシュの3人がマークチェンジとポジションチェンジをしている間に縦に早い攻撃をされると対応できなくなってしまうこと。そしてクリバリは積極的に縦パスをだしてくるし、メルテンスはポジションチェンジしながらうまくボールを受けていた。
序盤こそディナモキエフは高い位置からディフェンスを行うことも多かったが、ナポリの縦に意識が強いボール保持攻撃を防ぐほど機能してはいなかった。このため時間がたつごとにディナモキエフは前線から守備をおこなうことは少なくなっていった。
ナポリのゲームメイク
Fig.7 グラム(左)、ハムシク(中央)、メルテンス(右)
ナポリのゲームメイクは明らかに左サイドに偏重していた。理由は左の方がよりボールを動かすのに適していること、そしてチャンスメイクも左サイドのほうが明らかにうまいからだ。
まずCBを比べるとクリバリのほうがR.アルビオルよりもビルドアップの縦パスはうまく、積極的。しかし長いレンジのパスをだすことはあまりないため、クリバリのパスの受け手はグラム、ジョルジーヨ、メルテンス、ハムシクがほとんどといっていい。
そしてハムシクはサイドバックの位置でゲームメイクにも参加できるし、前線で決定的なプレーもできるためプレーエリアが広い。
グラムはコーナーキックのキッカーを任されるほどキック精度が高く、グラムのオーバーラップは重要といえる
そしてメルテンスはライン間でボールを受けつつダイレクトプレーで攻撃を展開していくのがうまい。
こういった理由からナポリは左サイドを経由するボール保持攻撃が非常に多かったのだと思う。決してディナモキエフも守備をさぼっていたわけではないが、ナポリのボール保持攻撃のほうが1枚上手で、アタッキングサードまで進んだ回数は圧倒的にナポリのほうが多かった。
【ハイライト】ディナモキエフ×ナポリ「UEFAチャンピオンズリーグ16/17 GS 第1節」
前述のようにディナモキエフはナポリのゾーンプレスに苦戦し、ほとんどロングボールでしかボールを前に進めることはできていなかった。さらにナポリのボール保持攻撃をハーフライン付近で遮断することもできなかったためカウンターの回数も少なかった。
しかも少ないカウンターのシーンのほとんどはヤルモレンコのドリブルから始まったが、そのすべてクリバリが完璧に守られてしまったためチャンスにつながらなかった。したがって前半のチャンスは非常に単発的なものが多かった。
一方でナポリは相手のビルドアップを封じつつ効率的にショートカウンターを行うことができていた。さらにボール保持攻撃でも左サイドを中心とすることである程度の質と量のチャンスメイクを可能にしていた。
0m40P(16M)Grade4
17m30P(34-27-16-10-17M)Grade4
25m20P(16-10-15-19)Goal
ナポリのチャンス
13m00T(7-5-7-17)Grade4
13m50CK(31-33)Grade4
34m50P(26-31-99)Goal
42m00T(14)Grade4
45m50P(25-99-17-7-99)Goal
58m00P(26-8-17-26-17-31-17-14)Grade4
62m30P(33-8-20-14)Grade5
80m20P(31-99)Grade4
ここまで見ると圧倒的にナポリの優勢に見えるが、先制点はディナモキエフだった。何が失点の原因になったのかよくわからないシーンだったが、まずガルマシュは体勢が悪い中かなりうまくシュートを撃ったと思う。また、ヤルモレンコがボールを持った時のグラムの対応が少し後手に回っていたかもしれない。
不運な形でナポリは先制されてしまったが、内容で圧勝していたので前半のうちに逆転に成功した。
後半戦について
チャンス数を見ればわかるが後半戦は非常に静かなものになってしまった。これにはいくつかの理由がある。
まず第一に前半から行っていたナポリのゾーンプレスにディナモキエフは後半も全く対応できなかったため、ディナモキエフは満足のいく形でボールを前に運べなかった。
そしてナポリは3点目を取りに行くためにリスクを冒すのではなく、あくまでバランスを最優先としていた。このため後半のディナモキエフは単発のプレーも含めて全くと言っていいほどチャンスをつくれなかった。
さらに68分にはディナモキエフのシドルチュクが退場した。1枚目のイエローは軽率なファールで判定も正しかったが、2枚目のイエローはエリア内でのシミュレーションによるものだった。これに関しては審判も少し厳しかったような気がするが、いずれにしても9人になったディナモキエフは後半何もできなくなっていた。
こういった理由から後半戦はディナモキエフがなにもできなくなってしまい、結果として試合が静かになってしまった。
余談
ナポリは守備戦術がかなり浸透している。規則をしっかり守りつつかなり合理的に守っていた。そしてビルドアップに強みを持つ選手も多くナポリはかなり期待できるチームだと思う。しかしメガクラブに比べるとやはり前線の個の強さは少し欠けるものがあるような感じだった。
ディナモキエフは守備戦術はしっかりまとまっている気がする。しかし最終ラインがハイプレスに弱いこと、チャンスメイクがかなりヤルモレンコの1on1に頼っているためなかなか勝ち上がっていくの厳しそうなチーム。