UCL16-17-A1-パリ・サンジェルマン.vs.アーセナル
UCL16-17A1-PSG.vs.Arsenal
まずはスタメンから
パリサンジェルマンは4-1-4-1。新加入のクリホビアクが中盤の底を務めている。中盤の質と層の厚みは欧州屈指になってきた。ただしカバーニの代わりがいないのでカバーニが怪我したら大変なことになりそう。
アーセナルは4-2-3-1。今シーズンから導入したA.サンチェス1トップシステム。両脇にイウォビ、チェンバレン、ウォルコットのうち2人を選択するスタイル。ジルーがなぜスタメンでなくなってしまったかは記事中で述べることになると思う。
試合の概要
試合は1-1で引き分けで終える。開始1分でオーリエのクロスをカバーニが決めて先制する。しかし77分にはエジルのクロスからイウォビがシュートしたこぼれだまをA.サンチェスが押し込んで同点とする。その後はスコアは動かなかった。結果は引き分けだったが内容はパリサンジェルマンの圧勝だった。アーセナルの個の攻撃的なスタイルは嵌れば強いが嵌らなかったときの代償が大きすぎる。いろいろと問題があったアーセナルだが引き分けで終えたことであまり問題が表面化しなかった。個人的には4-0位のスコアになってもおかしくなかった。
アーセナルのビルドアップ、ゲームメイク
アーセナルはムスタフィ、コシールニー、コクラン、S.カソルラの4人でボールを前に進める。ムスタフィもコシールニーも時間さえあれば縦パスの精度は高いが、出し手が見つからないときに積極的にドライブすることはあまりない。
したがってパリサンジェルマンの前線からの守備は、受け手を潰すことが最初の目標。(Fig.2)
Fig.2 パリサンジェルマンのゲームメイク妨害
つまりモンレアルにはディマリア、S.カソルラにはヴェラッティ、コクランにはラビオ、ベジェリンにはマテュイディがマークすることでアーセナルのゲームメイクを妨害しようとする。
こういった時に大概のチームは次に示す3つの方法のいずれかでボールを前に進めることを目指す。
1に関しては1トップがA.サンチェスの時点でかなり難しいことは分かると思う。サイドに張ってる選手もチェンバレン、イウォビで、いわゆる小柄なスピードスターほど身長が低いわけではないが、ロングボールがくるとわかってれば対処できる範疇といえる。
だからこそアーセナルは2と3を駆使してボールを進めざるを得ない。2に関してはCBの縦パス能力とイウォビ、チェンバレンの動きだしの質によってきまる。(Fig.3)
Fig.3 アーセナルのゲームメイク
たびたびイウォビは下がってボールを受けることはあるが、オーリエもついてくる。ここからエジル、A.サンチェスとのコンビネーションでボールを進めてチャンスメイクしたいが、アーセナルは前半ほとんどチャンスメイクできなかった。
理由はパリサンジェルマンの3列目と2列目がコンパクトでイウォビにプレーする時間を与えなかったというのもあるし、カバーニがCBにプレッシャーをかけたからともいえる。
3についてはパリサンジェルマンも簡単に対策していた。(Fig.4)
Fig.4 パリサンジェルマンのゲームメイク妨害II
つまり対応するインサイドハーフが前に出るだけだが、これでS.カソルラまたはコクランを出し手にしないようにする。
やはり相手がアーセナルレベルになると、しっかりと対策をしていても全く前に進ませないというのは無理であり、何度かはサイドの深い位置まで進むことはあった。ただし崩してない状態でのクロスだけでは得点チャンスが埋まる気配が全くなかったアーセナル。
効率よくボールを前に進めることができないアーセナルは中盤でボールを奪取されてカウンター攻撃を多く浴びることになるが、カウンターについてはパリサンジェルマンのチャンスメイクの項にまとめた。
まずはアーセナルの守備の形をみていくとわかりやすい。アーセナルは相手陣地にボールがあるときは4-2-3-1(4-4-1-1)のような形になる。
すなわちA.サンチェスをトップとしてイウォビ、エジル、チェンバレンが前線に残る場合とA.サンチェスとエジルのみが前線に残る場合がある。
いずれにしてもA.サンチェスはプレスを真剣に行うがエジルは場合によるといった感じ。
イウォビ、チェンバレンも行う時は一生懸命行うが、正直A.サンチェスとは連動していないことも多く、空回りしていた。
A.サンチェスは何度も味方に「もっと高い位置からプレスかけろ」とジェスチャーしていたが、これはA.サンチェスの独断なのか、チーム戦術なのに味方の選手がやらないのかはちょっとよくわからない。多分独断。
こんなやり取りは16-17シーズン中ずっと続いてることからアーセナルはちょっとやばい状態だと思う。
話はパリサンジェルマンのビルドアップに戻る。(Fig.5)
Fig.5 パリサンジェルマンのビルドアップ
パリサンジェルマンは3トップなのでアーセナルの2列目はあまり無理にプレスはかけられない。さらにエジルはプレスを熱心に行わない。したがって簡単にハーフラインまでボールを運べることができた。
パリサンジェルマンのチャンスメイク
ハーフラインまで進めることができれば正直パリサンジェルマンにとっては十分だった。というのもチャンスメイクを担う選手の質がこの試合では特に高かった(Fig.6)
Fig.6 ヴェラッティ(左)、オーリエ(中央)、ディマリア(右)
- ヴェラッティがフリーの場合
- それ以外
1の場合、ハーフラインより少し前でヴェラッティがボールを持つことができれば、単純にアーセナルの最終ラインの裏への浮き玉。
2の場合、すなわちパリサンジェルマンの中盤を抑えにきたら、特にオーリエからのクロス爆撃が飛んでくる。W杯でも日本戦で2アシストしていたオーリエだが、クロスの質が本当に素晴らしかった。先制点もオーリエのクロスからだったが、正直オーリエのクロスから何点か入ってもおかしくなかった。
また前述したように中盤でボール奪取することが多かったパリサンジェルマンはそのままショートカウンターに持ち込めるシーンも多かった。
0m30P(6-19-9)Goal
8m30T(25-9-11-25)
33m10T(6-9)
40m50T(6-17-11-9)
59m10T(9-14-11)
66m50P(11-19-11-19)
68m30P(14-25-9)
70m40T(11-6-11)
79m40P(8-10-9)
94m00CK(11-5)
ここに挙げたチャンスはいずれも大チャンスだったが、最初の1回しかゴールにつながらなかった。特にフィニッシュで精度を欠く場面が多すぎで、カバーニは得点こそ挙げたものの、本来2点は決めなきゃいけない試合だった。
後半のアーセナル
アーセナルはかなりボコボコにされていたが、ついに63分にチェンバレンをジルーに変える。(Fig.7)
Fig.7 ジルー投入後の布陣
ジルーをトップにし、A.サンチェスを左サイドハーフに移動させる。多分この形がアーセナルにとって一番攻撃力が高い布陣だが、この布陣で強豪と戦うのは無理がある。なぜならジルーもエジルもA.サンチェスも自陣で押し込まれてる時に熱心に守備をしてくれない。
正直にいえば、エジルの優秀さが結構アーセナルの足枷になってる気がする。エジルはボールの受け方もうまいし、攻撃に確かに貢献してくれるが、いくらなんでも中盤の選手なのに守備しなさすぎだと思う。
ドイツのようにボールをほとんど保持できて、かつ相手を押し込むことができればエジル起用のデメリットはほとんどでない。ただしアーセナルは常にボールを持つチームではない。エジル起用のデメリットは相手が強豪になればなるほど濃くなる。
ただしこの試合もエジルのクロスから得点が生まれていることから、この議論はとても難しい。
そこらへんはもはや好みだと思う。ヴェンゲル監督は攻撃的なサッカーを志向する。よく言えば大胆、悪く言えば無謀ともいえるときもある。
一方でパリサンジェルマンのエメリ監督はよく言えば慎重、悪く言えば臆病ともいえる采配も多く、特に守備に多くの気を使う監督だと思う。
リーグ戦では勝利が求められるが、トーナメント戦では負けないことが重要視される。エメリ監督はセビージャでヨーロッパリーグを3連覇しているが、おそらくこういった監督としての性質があるからだと思う。実際絶好調だったオーリエでさえ、守備をさぼってからはムニエルと交代させられていた。
余談
パリサンジェルマンは強豪同士との試合こそ真価を発揮しそうなチームだった。ただしボールをもった時にもヴェラッティがいるので、ある程度攻撃できてしまうのが本当に厄介。
アーセナルはどうなるか予測がつかない。ただしこの試合に関しては酷い出来だった。