UCL16-17-D2-アトレティコマドリード.vs.バイエルン
UCL16-17-D2-AtleticoMadrid.vs.Bayern
まずはスタメンから
ヒメネス負傷のためサビッチがRCBに、カラスコ、F.トーレスがこの試合ではスタメン。コケ、ガビの中盤が非常にソリッドであるのが特徴
一方でバイエルンは4-3-3(4-3-2-1)
D.コスタが怪我のため、リベリーがLWGに、J.ボアテング、ラーム、X.アロンソがUCLの初スタメンとなっている。コマンやD.コスタがアンチェロッティ政権下で不遇なのはよりインサイドでプレーする選手をウイングの位置に欲しているからだろう。
試合の概要
試合は1-0でアトレティコマドリードが勝利する。34分にロングカウンターでカラスコが素晴らしいミドルシュートを決め、これが決勝点となった。試合を通してアトレティコマドリードの守備は鉄壁で、攻撃もカウンター、セットピース、ボール保持攻撃をバランスよく使い分けていた。バイエルンとしてはボールを保持しているもののなかなか前に進むことができず、結果は妥当だったといえる。
PSVやロストフのように自陣に引きこもってしまうのであれば特にビルドアップの方法を工夫する必要はない。しかしアトレティコマドリードのように前線からのプレスと撤退守備を併せ持つようなチーム相手にはボールを進めるうえで工夫が必要になってくる。
こういった時にバイエルンのビルドアップ、というかアンチェロッティのビルドアップはインテリオールをSBの位置に、SBをアウトレーンに、WGをインサイドレーンにポジションチェンジすることが多い。目的は単純で、SBの位置にT.アルカンタラ、A.ビダルといったビルドアップ、ゲームメイク能力に優れている選手を置くことで4-4-2の弱点になりうる部分を壊そうとした。(Fig.2)
一方でアトレティコマドリードはこのポジションチェンジに対してCHを前線にピストンさせることでバイエルンのビルドアップ妨害を図った。
具体的には、A.ビダルが下がった時にはガビが、T.アルカンタラが下がった時にはコケがマークすることで対処した。この守備は、ボールサイドと逆側のSHが大きくスライドする必要があるが、、全体的にかなりよく訓練されていた。
この守備の基本原則はどこの位置でも行われた。(Fig.3,4)
Fig.4 アトレティコマドリードの2列目のスライド
こういった守備に対してバイエルンはボールを前進させることに非常に苦労した。理論的に言えば、ボールサイドに中盤4人が固まっているわけだから、サイドチェンジを繰り返していけばボールは前進させることができる。しかしT.アルカンタラやA.ビダルに対するコケ、ガビのプレス、2列目全体のスライドはとても速く、正確なサイドチェンジを蹴る時間を与えていなかった。ちなみにX.アロンソへのマークも1列目は怠っておらず、この守備はとても堅固なものになっていた。Fig.4 アトレティコマドリードの2列目のスライド
こんなことからアトレティコマドリードのプレスはそこまで瞬間的なペースが高かったわけではないが、相手に何度もサイドチェンジを強いることで結果的に相手の攻撃を制限していた。数学的に言えば、
0.7*0.7*0.7<0.6*0.6というように、ある1つのゾーンを突破されたら即ピンチではなく、何度も何度もバイエルンに確率の低いパスを行わせること、フィールドプレーヤー全体がボールの位置に合わせてしっかり移動することで守備の強度が尋常ではなかった。
また、チームとしての守備戦術を各々がしっかり守っていることもそうだが、ガビ、コケ、F.ルイス、ファンフランの1vs1の守備能力もかなり高いレベルにあり、バイエルンのチャンスメイクのほとんどが崩していない状態でのブロック外からの浮き球やクロスだった。
こういった堅固な守備はアトレティコマドリードに有利なカウンターを何度も提供した。カラスコ、グリーズマン、F.トーレスは自陣でボール奪取してもすぐに前線に行けるだけの走力を持ち合わせており、カウンターから多くのチャンスメイクを行っていた。アトレティコマドリードのカウンターについては後述する。
30分以降のアトレティコマドリードの守備、バイエルンのゲームメイク
アトレティコマドリードの中盤のエリアでの守備は完璧だったといってもいい。しかしそれでもバイエルンレベルを相手にするとさすがに押し込まれてしまう場面がでてくる。この時重要だったのはグリーズマンとF.トーレスの位置。アトレティコマドリードはもちろん得点がほしいのでなるべくなら前線に2人のFWを残しておきカウンターに備えたい。しかしバイエルン相手にフィールドプレーヤー8人、9人で守れるか?という問いに対するシメオネ監督の答えはNOである。(Fig.5)
PSV戦でも同じだったが、アトレティコマドリードのグリーズマンの攻守に与える影響は絶大である。例えばFig.5のようにバイエルンが押し込むことに成功した場合、サイドへのボール対応はSBが行う。
理由はおそらく、
・SBの対人守備力が高いこと
・カラスコをカウンター要員に使用
の2点がある。
Fig.5のような場合カラスコが対応してもいいが、以上のような理由でF.ルイスが対応する。当然最終ラインの人数は減ることになるが、ボールサイドと逆側のCH、すなわちガビが最終ラインに入ることでゴディンとサビッチの負担を減らしている。この時バイタルエリアはフリーゾーンが増えてしまうのでグリーズマンが適宜埋めることになる。これによってバイエルンに押し込められたとしてもチャンスというチャンスをほとんど作らせないようにしていた。
つまりアトレティコマドリードは4-4-2を基本としながらも、ビルドアップ妨害時には4-3-3、撤退守備時には疑似4-5-1になることで相手の攻撃を封殺した。特にこれらのフォーメーションの変更時の判断はガビ、コケ、グリーズマンによるものだが、非常に守備が綺麗だった。
基本的にアトレティコマドリードは相手のボールを中盤で奪取できていたので、ビルドアップに困ることはなかった。ただし自陣深い位置でボールを奪取したときにはGKのオブラク、CBのゴディン、サビッチはそこまでビルドアップがうまい選手ではないので、押し込められた状態でハイプレスを浴びると困ってしまってロングボール→バイエルンボールということは何度かあった。(Fig.6)
ただしバイエルンも押し込めているわけではなかったので、PSVやロストフ相手のようにはハイプレスをはめ続けて試合を支配していたわけではなかった。そういったことの一つの指標としてバイエルンのボールポゼッションは67%でありながらもポジションは51%、つまりいうほど押し込めていないともいえるし、攻め込まれているともいえる。この数字の理由は両方が起因していると思う。
押し込まれてもロングボールでハーフラインを超えて進むことは当然あるし、なによりアトレティコマドリードはボールは所有していなかったものの、バイエルンに試合を支配されていたわけではなかった。
こんな理由から、アトレティコマドリードは度々ハーフラインを越えてボールを保持する機会があった。そしてこの試合のバイエルンの1番の問題点はハーフラインまでボールを運ばれてしまった時の対処法にあった。(Fig.7)
Fig.7バイエルンの撤退守備
バイエルンの守備の基本は4-5-1。
・レヴァンドフスキはデスコルガード
・2列目の運動量が少ない
・リベリー、T.ミュラーのリトリートスピードは時と場合による
といった感じで、具体的な決まり事を守っているようには見えなかった。
監督の指示かは分からないが、リベリーとT.ミュラーはプレスをかけないので、ファンフランやF.ルイスはFig.7の位置でも余裕をもってボール保持することができた。こんな状態で最終ラインを高く設定することはできないので、全体的にラインは下がってしまい、F.ルイス、コケ、ガビ、ファンフランはストレスなくゲームメイクに参加できてしまった。
アトレティコマドリードが押し込んだ時に輝いていたのは、コケとF.ルイスだった。(Fig.8)
Fig.8 コケ(左)、F.ルイス(右)
文章で表現するのは非常に難しい選手だが、コケは長短のパス、特にミドルレンジのサイドチェンジやワンタッチでのスルーパスは素晴らしかった。カウンターの起点、チャンスメイクで最も素晴らしかっ
たF.ルイスのドリブルはチームの勝利に大きく貢献していたと思う(Fig.9)
Fig.9 F.ルイスの1on1
ボールを保持されているチームのSBが7/10回の1on1を成功させている試合はおそらくあまりないだろう。とにかくこの試合のF.ルイスは縦への突破が非常に素晴らしかった。
04m30FK-P(14-2)Grade4
11m10T(9)Grade5
18m00P(2-10)Grade4
21m00P(14-6-3)Grade4
21m30CK-P(6-8-9)Grade5
22m20T(2-10-14-9-7)Grade5
33m20P(6-3-10-6-9)Grade5
34m30T(15-7-10M)Goal
36m50T(10-7-9)Grade4
45m30P(8-10-3)Grade4
46m10P(10-6)Grade4
47m30P(20-9)Grade4
60m20T(20-14-8M)Grade4
66m20P(6-9-6-10M)Grade4
66m50T(6-7)Grade4
69m20P(10-14-9)Grade4
73m40T(6-21-9-7)Grade5
81m30P(6-23-3-23-6-3)Grade4
81m40P(6-23-8-3)Penalty
83m00PK(7)Grade5
89m50FK-P(14-2)Grade5
90m20CK-P(6-3-21)Grade4
まずはこの試合唯一のゴールを奪ったカラスコのゴールシーンについて
完璧なカウンターだったと思う。サビッチがはじき返したセカンドボールをトーレスが競って、グリーズマンが拾い、カラスコがスペースに走りこんでミドルシュート。最終的な部分は個人技だが、この形は狙い通りだったと思う。ゴールシーンだけでなく、ショート、ロングカウンターともにカラスコ、F.トーレス、グリーズマンの連携は素晴らしかった。
カウンター、守備以外にもアトレティコマドリードのストロングポイントとしてセットピースがある。
・ガビ、コケという優秀なキッカーがいること
・ゴディンの圧倒的なエアバトル能力を生かせること
があるが、89分のFKではトリックプレーを使ってゴディンをフリーにしている。(Fig.10,11)
Fig.10 トリックプレーの直前
Fig.11 トリックプレーの直後
キミッヒのマークはゴディン?コケ?そもそもマークミスが起きていたわけだが、キミッヒはオフサイドラインにいたコケにブロックされてゴディンがフリーで抜け出している。残念ながらシュートは決まらなかったが、形としては1点ものだった。
PKシーン
81分にPKを獲得したのは好調だったF.ルイスがA.ビダルのタックルを誘発したからだ。しかしそこに至るまでの過程は、アトレティコマドリードがこの試合できちんとボール保持攻撃で相手を押し込んでいるからこそ成り立ったことだった。残念ながらPKを外してしまったグリーズマンだったが、それ以外の守備やカウンターの繋ぎなど相変わらずセカンドトップとしては世界最高峰だろう。
ちなみにA.ビダルはこの試合退場することはなかったが、危険なタックルが多かった。審判によっては退場することもあっただろう。
バイエルンのチャンスメイク
バイエルンのチャンス
12m30P(6-25)Grade5
13m20P(6-27-23-27-9-27-14)Grade4
37m50P(6-27-7-9-7)Grade5
49m20CK-P(7-25)Grade5
55m00P(27-7-27)Grade4
75m10T(7M)Grade4
76m30P(5-14-9)Grad4
80m10P(7-10-23-10M)Grade4
結果としてバイエルンのチャンスはかなり限られたものになってしまったが、Grade3以上のチャンスは22回ある。Grade3だったほとんどのパターンはアラバもしくはラームのブロック外からのクロスで、これがゴールにつながる可能性はほぼ皆無だった。
唯一12分のT.アルカンタラの浮き球にT.ミュラーが反応したシーンや37分のリベリーとレヴァンドフスキのコンビプレーなどは得点してもおかしくなかったが、かなり個の力に頼ったプレーであったことは否めない。これら2つのチャンスのうち1つでも決めている可能性はあったので、内容はアトレティコマドリードの完勝だったが、引き分けで終えるチャンスもあったとは思う。
そして、特筆すべきはバイエルンのカウンターの少なさだろう。この試合で有効だったのは1つのみだったが、それはコケが自陣で供給したパスをリベリにカットされたからであり、いわゆるミスである。バイエルンは組織的なプレスによってカウンターのチャンスを作ったことはなく、アトレティコマドリードに押し込まれた状態でボールを奪取したときにはアトレティコマドリードの撤退スピードと前線からのプレスのバランスが絶妙でカウンターを仕掛けることはできていなかった。
正直いってすべての局面でアトレティコマドリードはバイエルンを上回っていたといっていいと思う。PKを決めて2-0であれば内容と結果を良く表した試合の典型例であった。
余談
今現在(2017/5/22時点)でグアルディオラ総論を読んでいるので、その本の言葉を借りると、バイエルンは多様な楽器がそろっているが、指揮者(グアルディオラ)がいなくなったことで微妙な調和が乱れてしまったような気がする。アンチェロッティが悪いというよりグアルディオラの癖がまだ抜けきっていない感じがある。