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EURO2016-Round.of.Final-POR.vs.FRA

EURO2016-Round.of.Final-ポルトガルvsフランス

 

まずはスタメンから

赤がポルトガル青がフランス(Fig.1)

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Fig.1 ポルトガルvsフランス

 

ポルトガルはいつもと同じ4-3-1-2。

ペペとウイリアムが復帰したことで守備に関しては準決勝よりも強固になったはずだが、A.シルバ、J,マリオ、R.サンチェスはここ3試合でほぼ固定されているので疲労は心配事項でもある。

 

 

フランスもグリーズマンを生かした4-4-2を選択。

外でも中でもプレーできるシソッコや思いのほか2センターでも守備をしっかりしてくれるポグバのおかげで守備にも安定感がある。調子が落ちかけているパイェだがスタメンのままとなった。

 

試合の概要

試合は1-0で延長戦の末、ポルトガルの勝利で終える。108分にエデルがコシルニーを躱して打ち込んだミドルシュートが決勝点となった。途中まではフランスの圧勝だっが、75分を過ぎるとフランスの足が止まった。その後投入されたエデルは得点だけでなくフィジカルでとてつもない強さをみせた。まちがいなく決勝にふさわしい試合だった。

 

 

1. フランスのビルドアップ、ゲームメイク、ポルトガルの守備

フランスのビルドアップ

ポルトガルは4-3-1-2で守備を行う。

しかし、基本的に1列目のナニ、C.ロナウドは前線から積極的にプレスはかけないため、フランスはハーフライン前までは簡単に到達することができた。

 

フランスのゲームメイク

フランスはコシルニー、ウムティティ、ポグバ、マテュイディの4人でボールを前進させていく。

面倒なのはポグバ、マテュイディが自由にポジショニングすること、さらにマークしないと精度の高いロングボールを蹴ってくることから誰かしらで監視し続けなければならない。

 

ポルトガルはC.ロナウド、A.シルバ、ナニの3人がゾーンで守ること2人に自由なプレーをさせないようにする。(Fig.2)

 

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Fig.2 ポルトガルのゲームメイク妨害

ポルトガルの守備の基本的な約束事は以下のとおりである

  1. ナニ、C.ロナウドがハーフライン付近でゾーンDF。この時周辺にポグバ、マテュイディがボールを保持していたら牽制する。
  2. ボール循環している間にC.ロナウド、ナニのバランスが悪くなっていたらA.シルバがサポート
  3. フランスのサイドバックへのパスR.サンチェス、J.マリオがプレスをかける
  4. イリアムグリーズマンをマーク

ポルトガルのこの守備は再三言っているように結構強力で、フランスがポジションチェンジをしなかったときにはかなり守れている印象だった。

 

ただしフランスは特にパイェ、グリーズマンシソッコが連動していろいろなポジションチェンジを行ってくることが多い。

 

今度はフランス視点からポルトガルの守備をみていくと案外その狙いは分かりやすいかもしれない。


ポルトガルの守備で厄介なのはウイリアムの存在。

(Fig.3)

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Fig.3 フランスの狙い(2m30)

1. パイェがサイドハーフの位置からA.シルバとR.サンチェスの間に落ちる。

しかしここまで落ちた選手をソアレスマンマークでついていくのはあまり得策ではないので、パイェはフリーになれる。

 この時マークを確認していくと、R.サンチェスはエブラを監視し、ウイリアムグリーズマンの監視のため、A.シルバが本来は浮いてきたパイェに対応しなければならない。ただし、A.シルバは前線のサポートもしつつ後方のサポートもしなければならないので当然見逃してしまうシーンもでてくる。

 

2. 見逃してしまった場合、フランスは簡単に相手のペナルティエリア付近までボールを運ぶことができる。

こういったフランスのいい意味でのポジションにこだわらないプレーがポルトガルの中盤を混乱させていた。(Fig.4)

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Fig.4 パイェのポジションチェンジからのゲームメイク

 

ここからのパイェはFig.3のように裏抜けを狙ったジルーやグリーズマンへのスルーパスもしくはクロスがチャンスメイクの基本となった。得点には至らなかったが、ボール保持攻撃からでも得点の匂いは十分にあった。

 

 

ポジションチェンジを行うのはパイェだけではなく、シソッコも頻繁に行う。

シソッコはこの試合のキーマンだった。

 

パイェと同じ方式でシソッコもJ.マリオとA.シルバの間から広いスペースでプレーすることができたが、とにかくシソッコのドリブルが驚異的だった。(Fig.5)

 

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Moussa Sissoko - Portugal v France (10/7/2016) (Individual Skills)

 

Fig.5 シソッコの前半のスタッツ

 

とにかくシソッコのドリブルがはじまったらボールを取れない状況が前半は続いてた。ニューカッスルユナイテッドでもたまに手が付けられないくらいドリブルで無双しているときがあったが、この試合もまさにそんな感じだった。

 

フランスのチャンスメイク

フランスのチャンス

9m00T(8-7)

9m30CK(8-9)

21m30P(22-18M)

33m00P(8-18)

 

フランスは前半に4つのゴールチャンスをつくった。

4つというと少し少ないと感じるかもしれないが、21m30のミドルシュートを除けば、R.パトリシオのビッグセーブがなければ確実に失点していたため、フランスの攻撃の質は間違いなく高かった。

 

2. ポルトガルを襲った悲劇、試合の転換点その1

ポルトガル、特にC.ロナウドは12年前も決勝に進んでいる。それも開催地はポルトガル。その時の試合を見たわけではないが決勝の相手はギリシャで、ポルトガルギリシャに負けて準優勝。

 

だからこそ、この決勝にかける思いは大きかったと思うが、開始8分のパイェのタックルによってC.ロナウドは壊れてしまった。

 

25分までは痛みとともにプレーしていたが、前半のうちにR.クアレスマと交代した。これによってポルトガルは4-3-1-2から4-1-4-1へと変更する。(Fig.6)

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Fig.6 ポルトガルのシステム変更(C.ロナウド負傷交代後)

 

ポルトガルはこの交代をきっかけに奇しくも守備が少し改善した。これについてはドイツが行ったフランス対策とほぼ同じ説明になってしまうので省く。

 

come-on-utd.hateblo.jp

 

ただしこの4-1-4-1、ひいてはC.ロナウドの負傷交代は、

ポルトガルの攻撃の質を大きく下げる要員にもなってしまった。

 

3. ポルトガルのビルドアップ、ゲームメイク、フランスの前線守備


フランスは4-4-2で守備を行う。

ポルトガルの守備の形はC.ロナウドの交代とともに変化したが、基本的なビルドアップ、ゲームメイク方法は類似しているので、同じものとして扱っていく。(Fig.7)

 

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Fig.7 フランスの守備

 

フランスの4-4-2はアイスランドの4-4-2に近い。

1. SBにボールが渡った時シソッコ、パイェが猛プレスし、

2. A.シルバR.サンチェスにもポグバ、マテュイディマンマーク気味で対応する。

3. そして1列目のグリーズマン、ジルーのうち必ず1人イリアムの監視をしつつ、もう1人がボールホルダーへと牽制していく。

 

そしてペペとフォンテのビルドアップ能力を比べたら、フォンテのほうがビルドアップ能力がないので、フォンテのほうに持たせることが多かった。

 

実際ウェールズ戦でもこれに近いような状態になっていたが、ビルドアップが苦しくなった時にはターゲットマンとしていつもC.ロナウドががんばっていた。

しかしこの試合の前線はナニ、R.クアレスマ、J.マリオなので、どう考えてもロングボールに競り勝てるようなメンツがそろっていなかった。

 

したがって、ポルトガルはロングボールでもボール保持攻撃でも、前に効率よくすすめることはあまりなかった。

しかもポルトガルはチャンスメイクをしっかり行える選手がいない。

 

たしかに守備は4-3-1-2のときより4-1-4-1のほうが改善していたが、C.ロナウドの離脱に伴って攻撃の質は大きく低下してしまい、失点したらポルトガルは絶対負けるだろうという雰囲気が前半のうちに出来上がっていた。

 

4. 後半戦

フランスは前半かなりうまくいっていたので特に大きな変更はなし

ポルトガルも攻撃はさておき守備は4-1-4-1で安定していたので、特に大きな変更はなかった。

結果から先にいうとフランスは45~75分までの30分間ほぼ最高のサッカーを展開した。

 

45~75分のフランスの攻撃

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Fig.8 左からウムティティ、シソッコ、パイェ、コマン

ウムティティ

簡単な話だが、4-3-1-2の時はハーフラインをナニとC.ロナウドが監視しているのに対して、4-1-4-1の時はナニしかいない。またポグバとマテュイディはR.サンチェス、A.シルバにマンマーク気味で守られているため、自然とウムティティまたはコシルニーの縦パス能力は重要になってくる。ウムティティの攻撃の貢献度はこの30分で絶大だった。

シソッコ

前半ほどフリーになることは少なかったシソッコだが、それでも中央でボールを持った時の迷いのないドリブルはポルトガルにとって脅威だった。

パイェ

一方でパイェは前半開始直は効果的なプレーをしていたが30分を超えるとほとんど存在感がなくなっていく。当然57分でコマンと交代することになった。この交代はフランスの攻撃を活性化させた。

コマン

コマンのドリブル突破に対して、対面のソアレスは結構苦労していた。そしてコマンはパイェが行っていた中盤に浮いてワンタッチで処理するというプレーもこなしていたことも大きかった。実際に65分のコマンのクロスからグリーズマンのヘッドは後半最大のチャンスだったし、決めるべきだった。

 

45~75分のポルトガルの攻撃

一方のポルトガルはこの時間散々だった。

前述したように、ゴールキックでロングボールを蹴ったとしても、ポルトガルが前線でボールを収める確率は限りなく低い。かといって最終ラインからつなごうとしても、Fig.7のような関係性でボールを進ませることを拒んでくるフランス。この30分間はほとんど組織的なDFとエアバトル能力でフランスはポルトガルの攻撃を無効化した

 

5. 試合の転換点その2

たしかにフランスの後半の30分間は素晴らしい内容だったが、ゴールという結果は得られていない。

さらにいえばポルトガルのビルドアップ、ゲームメイクを妨害するためにはそれなりの運動量が必要となる。アイスランドもそうだったが1列目と2列目が連動しながら行う守備は70分が限界というのがネックともいえる。

 

実際に75分を境にフランスの守備の質は下がっていく。

 

これについて中2日という過密日程が影響している!という論調が多かったが、単純にそれだけでは説明がつかない。

というのも例えば北アイルランドアイルランドのようにロングボールばかり蹴ってくるチームが相手だとしたら、フランスは90分でも120分でも間違いなくばてることはなかったと思う。

一方でポルトガルゴールキックや最終ラインから安易にロングボールを蹴らずに、中盤がポジションチェンジを繰り返すことでフランスの選手が守備で走らざるを得ない状況を作っていた。

もちろんポルトガルは前に進めることはできなかったが、フランスの疲労を蓄積するという意味では非常に重要だったと思う。

 

フランスの選手の足が止まってくると同時にポルトガルの選手も足が止まり始める。特にR.サンチェスとA.シルバは決勝トーナメントになってから重用されており準決勝あたりからパフォーマンスは落ち始めていた。

 

交代選手はモウチーニョエデル(Fig.9)

 

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Fig.9 モウチーニョ(左)、エデル(右)

この2人は全く勝機がこの時間帯まで見えていなかったポルトガルを大きく助けた。

 


この時のフォーメーションは4-1-4-1で、ナニを右サイドハーフに、R.クアレスマを左サイドハーフにしている。(Fig.10)

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Fig.10 ポルトガルの最終的な陣形

 

6. ポルトガルの攻撃(75分以降)

前述のような理由からフランスは守備が曖昧になっていく。

さらにこの時間帯からは最終ラインからボールをショートパスでつなぐことはほとんどやめてエデルへロングボールを繰り返すようになる。

 

特にR.パトリシオのゴールキックがわかりやすい。(Fig.11)

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Fig.11 R.パトリシオのゴールキックの内訳と成否(左0-75min, 76-122min)

 

75分までにも何回かロングボールを蹴っているが、5回失敗となっている。またショートパスが多いが、これは最終ラインからボールを運ぼうとした時の名残である。

(ただしこのうちセカンドボールを2回ポルトガルが回収しているが)

 

一方でエデルが投入されてからはロングボールが激増し、成功本数も0から4に上がっている。この4本はすべてエデルが収めていたこと、またウムティティ側によくボールを蹴っていた。

 

ウムティティ側にボールを蹴った理由は簡単で、単純にエデルのフィジカルに対してウムティティが手も足も出ていなかったからである。多分ラミだったらエデルを抑えられたと思うが、ラミだったらウムティティほど縦パスは出せなかったと思う。

 

いずれにしてもエデルへのロングボールによって、得点のチャンスが増えていく。

 

ポルトガルのチャンス

79m20P(17-20)

103m20CK(20-9)

107m20FK(5)

108m20P(8-9M)Goal

 

ゴール以外のチャンスはロリスのビッグセーブまたはバーを叩いたものだったことからポルトガルが75分以降急激にチャンスの数が多くなっていることがわかると思う。

 

一方でフランスは後半終了までにしかチャンスをつくれていない。ただしいずれのシーンも前半と同様に危険なものばかりで決定力の欠如とR.パトリシオのビッグセーブによってゴールにはならなかった。

フランスのチャンス

65m10P(20-7)

74m20P(20-9)

83m10P(22-18M)

91m10P(3-10)

 108分のモウチーニョからのパスを受け取ったエデルがコシルニーを引きはがしミドルシュートを決める。ポルトガルのゴールシーンは、EURO2016の51試合のフィナーレを飾るには最高のゴールだった。


Eder Vs France Final Euro 2016 (10/07/2016) HD720 MaryanComps

 

ポルトガルは90分試合をみても初見ではよくわからない人が多かったと思う。選手はポジションチェンジを頻繁に行うし、7試合を通して本当にいろいろな選手が試合に登場してきたのも混乱の原因だったかもしれない

 

ただし、ポルトガルは本当に理論的に戦ってたし、それが完璧にチームの結果に結びついている。大会のベストチームではなかったかもしれないが、正解を選び続けた監督の采配とそれに答えた選手のハードワークはもっと話題になってもいいと思う。

 

余談

不運だったとしか言えない部分も多かったので、フランスのことはここでは置いておく。

 

ポルトガルは漫画みたいなチームだった。

というのもグループリーグでターンオーバーするような余裕がなかったにも関わらず、R..シルバを除いたすべてのフィールドプレーヤーに活躍の機会があった。

 

グループリーグ時点での最終ラインはペペ、R.カルバーリョで、サイドバックヴィエリーニャ、R.ゲレイロが務めていた。しかしR.ゲレイロ、ペペの怪我やヴィエリーニャ、R.カルバーリョの守備の問題から代役としてB.アウベス、フォンテ、ソアレスエリゼウがスタメンとなることもあった。特にフォンテ、ソアレスの出来はポルトガルを大きく助けたことは言うまでもない。

 

中盤でも同じことが言える。底を務めたウイリアムが欠場したときにはダニーロウェールズ戦でしっかりと役割を遂行し、J.マリオ、A.ゴメス、R.サンチェスはそれぞれ少しずつタイプは違うがインサイドハーフとしてかわるがわる出場してきた。特にJ.マリオはサイドハーフインサイドハーフをどちらもこなせるというポリバレントな部分が決勝ではかなり力となっていた。トップを務めるモウチーニョとA.シルバの仕事は1人では絶対にこなせなかったと思うが、同じレベルの選手がいることで90分間守備の強度は下がることがなかった。

 

R.クアレスマはより攻撃的な選手だったので、起用された時間は思ったより多くはないが、クロアチア戦の決勝点などチャンスメイカー不在のポルトガルにとって貴重なウインガーだった。ナニは今大会とても好調で、チャンスの少なさを考えれば3ゴールはかなり驚異的だった。エデルは決勝まで出場時間はわずか14分。そこでなにかインパクトを残したわけではなかったが、決勝戦では大暴れだった。C.ロナウドは今大会不調だった。とはいっても3G3Aと結果は残している。特に不運続きだったハンガリー戦で2得点をあげたり、クロアチア戦の決勝ゴールのアシスト、ウェールズ相手の先制点と本当に重要な場面ではエースだった。

 

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緑がビルドアップ失敗黄がビルドアップ成功

青がゲームメイク成功ピンクがゲームメイク成功

オレンジがチャンスメイク成功紫がチャンスメイク失敗

となっている。

コメントはどうやってボールを前に進めたor失敗したかを表す。

○はいいプレーをした選手につけている。

 

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