EURO2016-Round.of.4-GER.vs.FRA
EURO2016-Round.of.4-ドイツvsフランス
まずはスタメンから
白がドイツ、青がフランス(Fig.1)
Fig.1 ドイツvsフランス
ドイツは一貫してきたドブレピボーテを捨てて4-1-4-1。
中盤にキャンを抜擢したこととワントップをミュラーにしたことが印象的だった。理由はいくつかあるが、ケディラの怪我、フンメルスの累積警告に伴う欠場以上に、フランスの攻撃に合わせた形であると考えたためだろう。ドイツはイタリア戦で3バック、フランス戦ではワンピボーテと敵に合わせて変化していく。
フランスはアイスランド戦と全く同じスタメンで4-4-2。
ラミ、カンテが復帰したが、スタメンにもどることはなかった。調子のよかったシソッコもそのままサイドハーフでプレー継続。
試合の概要
試合は0-2でフランスの勝利で終える。前半終了間際にフランスのCKをハンドしてしまい、グリーズマンがPKを決めて先制する。72分にはドイツのビルドアップのミスからグリーズマンが押し込んで2点目をマークする。ドイツは守備、攻撃ともにうまくプレーしていたが、ゴールだけ決められなかった。また、60分のボアテングの負傷交代によってドイツの攻撃の質が落ちてしまった。内容自体はドイツの方がよかったが、局所的なミスが目立ってしまった。
1. フランスのビルドアップ、ゲームメイク、ドイツの守備
フランスのボール保持攻撃は4-4-2をチョイスしてからはほとんど妨害されていない。
ただしアルバニアの前半はマテュイディ、カンテのコンビだったためで、アイスランドは4点差つけられたうえでのプレーだったので、ポグバ、マテュイディの攻撃を完璧に封したわけではない。
フランスの4-4-2ビルドアップへのドイツの対応策
アルバニアとアイスランドの共通点はフランスの4-4-2に対して4-1-4-1のシステムで守備を行ったこと。
そしてドイツも例にもれずこのスタイルで守備を行ったことは決して偶然ではないと思う。
それくらい明確なメッセージが込められていた。(Fig.2)
Fig.2 ドイツの前線守備
フランスのビルドアップは基本的にウムティティ、コシルニー、マテュイディ、ポグバによって行われる。
ドイツの守備は以下のような約束事をもとにおこなう
1. まずミュラーがボールサイドのCBを牽制
2. 受け手であるサニャ、ポグバ、マテュイディ、エブラをそれぞれ4人でマンマークde
抑える。
4-4-2でもおこなえないか?と思うかもしれないが、それはかなりリスキーといえる。
それについてはアイスランドの前半戦を見れば明らかだが、
グリーズマン、パイェ、シソッコは固定されたポジションでプレーせず、中央でもウイングとしてもプレーすることができる。(Fig.3)
Fig.3 ドイツが4-1-4-1を選択する理由
ドイツの中盤の4人はマンマーク気味に守るので、2列目と3列目の間に大きなギャップができてしまう。
ここをケアできなかったアイスランドはフランスに蹂躙されてしまったため、
ドイツは4-1-4-1で守備を行う。
すなわちライン間で受けようとするフランスの選手をシュバインシュタイガーがゾーンで守ることでフランスのビルドアップを破壊しようとした。
この守備の利点は、
守備が苦手なクロースに単純なタスクを与えられること
ボールを奪取した時には前線に多くのプレーヤーを残せていること
この守備の懸念事項は、
ただしシュバインシュタイガーがこのエリアをうまく守らなければ大変なことになっていたので結構な博打でもあったと思う。
正直この守備でフランスのボール保持攻撃のほとんどは破壊されてしまっていた。
こういったドイツの入念な準備に伴う守備を前にしてフランスは前半からボールをうまく運ぶことをほぼ放棄した。
フランスのボールの進め方
つまり、ゴールキック時にはロングボールを蹴り、スローイン時にはできるだけ相手陣地にむけて供給する。
(チャンスメイクにロングスローするという意味ではなく、あくまで陣地回復目的)
ボールをうまく進めることができなかったフランスだが、ジルーがロングボールにとても強く、中盤の選手がアジリティ、フィジカルを備えているため、セカンドボール争いになってもいいという感じがフランスにはあった。
ボール保持攻撃からのフランスのチャンスメイク
フランスのチャンスメイク
6m00P(7-14-7)
40m50P(22-3-7)
フランスの得点の可能性がありそうだったプレーは2つのみ。
1. グリーズマンが2列目をサポートしつつ、マテュイディとのコンビプレーでボールを進め、グリーズマンのシュートで終わったシーン。
2. ウムティティがうまくドライブしつつ、エブラへのスルーパス、エブラのクロス、グリーズマンのシュートまでいったシーン
いずれも根本的な崩し方は似ており、中盤の4vs4を瞬間的に5vs4にすることで生まれている。
それは例えばウムティティのドライブでもいいし、グリーズマンがハーフラインまで浮いてくるでもいい。
(シソッコ、パイェがその役割を行ってもいい)
ただしドイツは本当によく守っていた。こういったポジションチェンジにもうまく対応していたし、フランスのロングボールに対してもしっかりとセカンドボールを回収していた。ドイツの守備はほぼ準備した通りの結果を出せていたと思う。
2. ドイツのビルドアップ、ゲームメイク、フランスの守備
ドイツのビルドアップ
フランスはロングボールなどボールの所持が曖昧な時には前線が積極的にプレスするが、完全にドイツがボールを保持するとプレスはほとんど行わなくなる。ドイツのビルドアップはヘヴェデス、ボアテング、最終ラインに落ちてくるシュバインシュタイガー(時々クロースも参加)の3人で行われる。
前述のようにフランスはほとんどプレスしてこないので、ハーフライン付近までは簡単に進むことができていた。
ドイツのゲームメイク、フランスの守備
ドイツがハーフラインまで進んでもフランスは4-4-2の10人で守り続けていた。
いつもはジルーを前線に残すことが多かったが、おそらく中央のエリアを曝したくなかったのだと思う。またフランスの2列目、3列目はライン間でスペースを作らせないためにかなりコンパクトになる。(Fig.4)
Fig.4 ドイツのゲームメイクの1例
ドイツのゲームメイクは一貫している。
4バックで引きこもってくる相手には空いた逆サイドのスペースを突く。
右サイドから左サイドへのサイドチェンジはボアテングが、左サイドから右サイドへのサイドチェンジはクロースが行う。またこの時重要なのはトップのミュラー、ドラクスラー、E.キャンを前線に置くことで、シソッコがヘクターのマークをしなければいけない状況を作る。
仮にドイツのサイドチェンジを読んでシソッコが5人目の最終ラインのように振る舞ってきたら、中盤のスペースをクロースが攻略することになる。
ボアテング、クロースといった出し手を1列目が運動量で潰すというのが重要になってくると思ったが、フランスの1列目はそこまで熱心に守備を行わなかった。
当然回収地点がみつからないフランスはドイツのボール保持攻撃からチャンスを作られ続ける。
3. ドイツのチャンスメイク
ドイツのチャンス
12m20P(14-13)
13m30P(3-14)
13m30P(3-8)
20m20P(18-13-18)
25m50P(7M)
31m40P(21-11)
基本はサイドチェンジで抜け出したウイングバックからのクロスという形だったが、前述のようにエジル、クロースの位置から中央のエリアをワンツーで崩したシーンもあった。
またE.キャンとエジルのポジションを攻撃時のみチェンジさせることで、攻撃をスムーズに行えていた。こういった小さな工夫がドイツは本当にうまい。
10試合やったら7~8試合くらいは前半のうちに得点できそうだったドイツだが、得点できなかった。
4. フランスのロングカウンター
フランスはボール保持攻撃を封じられ、ドイツの攻撃も防いでるとは言えなかったが、フランスにはフィジカルを生かしたロングカウンターがある。
ドイツはボール保持攻撃時にワイドに選手を配置しつつ、人海戦術で攻撃のクオリティを上げてくるチームなので、ロングカウンターで広い裏のスペースを攻略しようというのがフランスの狙い。
実際ポグバ、シソッコはパワフルなドリブルを持っているし、ジルーのエアバトル能力、シャドーストライカーとしてアトレティコでもカウンターサッカーに適応しているグリーズマンがいるので、このアプローチは間違ってはいない。
しかし実際にロングカウンターからチャンスをつくりだせそうなシーンもあったが、チャンスメイクできそうなシーンでシソッコがミスしたり、パイェとの1on1で完璧な対応をしたキミッヒだったり、ボアテングの裏に抜け出したジルーのシュートをうまくブロックしたヘヴェデスがいたため、ロングカウンターから思ったようなチャンスを作れていなかった。
ドイツの前半は組織としても個人としてもうまく集中していて守っており完全に有利に進めていたが、
前半終了間際にシュバインシュタイガーがエリア内でハンドし、フランスがPKを得る。
これをグリーズマンがしっかりと決め、前半終了する。
ドイツとしてはうまく試合を進めていただけに、この失点はかなりきつい結果となってしまった。
5. 後半戦
後半戦のドイツの不運
フランスはロングカウンターを狙って行けてるので特に変更はなく、ドイツもこのままいけばボール保持攻撃から得点できるような気配があったので戦術的にも選手的にも交代がなかった。
しかし60分にドイツにとって重大な問題が発生する。
ボアテングが筋肉系の負傷で負傷交代。ボアテングの代わりにムスタフィを投入したドイツ。ここがこの試合の勝負の分かれ目だっただろう。(Fig.5)
Fig.5 フランスの守備(ボアテング負傷交代後)
フランスはこの交代をきっかけに露骨にクロースへのマークを強める。
ボアテングのサイドチェンジがなくなったとあれば、シソッコはサイドチェンジの対応だけでなくクロースへのプレスも行うことができる。
ヘクターへのサイドチェンジを何度かムスタフィが行うことはあったが、サニャが跳ね返しており、効果的なゲームメイクとはいえなかった。
また5分後にドイツはキャンをM.ゲッツェに変更する。出し手がクロースだけだと全く攻めれないので、エジルを出し手に専念させ、前線にM.ゲッツェをいれるという意図は理解できたが、M.ゲッツェの投入でドイツが好転することはなかった。
フランスの追加点
そしてドイツは71分にさらなる苦境に立たされる。
自陣深い位置でボールを奪取したあとにクリアするのではなく自陣からつなごうとしたドイツは、ヘヴェデス、ムスタフィ、キミッヒが少しずつミスを犯したことでペナルティアーク付近でポグバにボールを奪われる。
そして、ポグバのクロスからこぼれた球をグリーズマンが押し込んで0-2とする。
もしかしたらボアテング、フンメルスコンビならこういったミスは起こらなかったかもしれないが、後の祭り。この2点目はほぼフランスの勝利を決定づけるものとなった。
残り15分のドイツの猛攻
この後はシュバインシュタイガーに変えてサネを加えることでより攻撃的なふるまいをしたドイツ。フランスも2点リードしているため、ほとんど引きこもったような状態になる。
実際に73分にはバーを叩いたキミッヒのミドルシュートや、78分のクロースのクロスからサネのシュート、81分のヘヴェデスのヘディングなど決定的なチャンスを作れていたが、得点には結びつかなかった。
ドイツの後半のチャンス
73m20T(19-21M)
78m30P(18-20)
81m40FK(18-4)
92m00P(2-21)
92m30P(8-19)
デジャン監督の4-4-2への信頼
70分を超えたところでパイェをカンテに変更した。パイェは少しずつ好調だった状態からは落ちてきており、疲労もたまっている感じだった。
カンテを投入したということは4-3-3に変更したかとおもったが、単純にマテュイディをサイドハーフに移した4-4-2となった。
ここらへんからも4-4-2への信頼が見て取れた。
フランスのチャンス
46m00T(18-15-9)
71m30T(15-7)Goal
85m30T(7)
ドイツのヨアヒム・レーブ監督
「うちのほうが内容は良かった。懸命にプレーしていたし、ボディーランゲージをうまく使い、攻撃に出ていき、対人戦でも負けなかった。ハーフタイムの直前にPKで失点したのは不運だったね。うちも得点チャンスをつくったのだが、決められなかった。今日は運に恵まれなかったと思う。2010年と2012年の大会で敗退したときは、相手のほうがいい戦いをしていた。今日は我々のほうがフランスより良かったが、ゴールと結果だけが足りなかった。
(2失点目については)それまでとは違い、危険なゾーンからボールを出せなかった。我々は特に中盤でフランスを圧倒したが、あのゴールのシーンだけは違っていた。後半は攻勢を強めたが、常にカウンターでやられる危険性があった。我々はすべてを注ぎ込み、あらゆる手を尽くしてチャンスをつくった。」
余談
自分たちのサッカーを追及していたといわれるドイツだったが、アルバニア、イタリア、フランスなど相手に合わせて自分たちを変化させていた。おそらく参加したチームの中では一番力があったが、M.ゴメス、ボアテング、ケディラの大会中の負傷、フンメルスの累積警告やギュンドアン、M.ロイスの本大会欠場、ミュラー、M.ゲッツェの不調などチームにあらゆる災難がふりかかった。
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緑がビルドアップ失敗、黄がビルドアップ成功
青がゲームメイク成功、ピンクがゲームメイク成功
オレンジがチャンスメイク成功、紫がチャンスメイク失敗
となっている。
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○はいいプレーをした選手につけている。