EURO2016-Round.of.4-POR.vs.WAL
EURO2016-Round.of.4-ポルトガルvsウェールズ
まずはスタメンから
ポルトガルは4-3-1-2。累積警告で出場停止ののペペ、ウイリアムをそれぞれB.アウベス、ダニーロに変更。R.サンチェスは今大会において怪我がちのA.ゴメスからポジションを奪い取り、A.シルバもモウチーニョのポジションを奪っている。R.ゲレイロもけがから復帰しており、代役の選手をうまく使いこなしているチームである。
一方のウェールズは3-5-2(3-4-2-1)。これまで攻撃をけん引してきたラムジーとビルドアップ、迎撃守備で存在感を見せてきたB.デイビスは累積警告で出場停止となっている。代役にはコリンズ、A.キングが選ばれている。
試合の概要
試合はポルトガルが2-0で勝利で終える。49分にR.ゲレイロのCKからC.ロナウドが完璧なヘディングで先制する。その直後53分にもC.ロナウドのミドルシュートの軌道をナニが変化させることで追加点を得た。前半は非常に拮抗していた。回数は少なかったがベイルのポジションチェンジを生かした質の高いチャンスメイクを作り出したウェールズと、質は高くないが何度もクロスを供給し続けたポルトガル。しかし一旦均衡が崩れるとウェールズは自分たちの型をすててスクランブルアタックを強行。ほとんど自滅のような形で後半の時間を無駄にしてしまったウェールズは決勝へと駒を進めることはできなかった。
ウェールズは如何にしてベイルに前線でフリーでボールを持たせるか?というのがこのチームの攻撃力に大きく関わってくる。
ベイルがフリーでボールを持つ方法はいくつかあるが大雑把に分ければ、
ロシア戦のような守備からのカウンター
ベルギー戦のようなボール保持からのポジションチェンジ
に分類することができる。
すなわちウェールズはポルトガルの攻撃にたいしてどの部分を妨害するかというのは一つの焦点になる。
ベルギー戦ではウェールズはゲームメイクの妨害を中心に行っていたが、ポルトガル戦ではビルドアップとゲームメイクの境目、つまりハーフライン付近での守備を精力的に行っていた。(Fig.2)
Fig.2 ウェールズの前線守備
結果から先にいえば、ポルトガルのボール保持攻撃をウェールズはうまく制限できていたと思う。理由はペペ、ウイリアムが不在ということもあったと思う。
ウェールズの守備の約束は以下のとおりである。
1. ウェールズの1列目はハーフライン付近からCBへ牽制。
2. サイドバックにボールが渡りそうなときはまたウイングバックが猛烈にプレス
3. ダニーロが下がった時にはA.キング
4. J.マリオ、R.サンチェス、A.シルバが下がった時にはレドリー、アレンが監視する。
このようにどの選手が下がったらどの選手が対応するか。といったことがきちんと整理されていたため、最初の出し手であるCBの2人、特にペペの代役として登場したB.アウベスはうまくボールを運ぶことができずロングボールに逃げてしまう場面が多かった。
しかしポルトガルはA.シルバ、R.サンチェス、J.マリオ、R.ゲレイロはボールを保持した攻撃がうまく、自由にポジションチェンジを繰り返すため、ウェールズの守備も完全にポルトガルの中盤を抑え続けていたわけではなかった。
ウェールズの守備はある程度機能していたが、ボール奪取してカウンターに移行するという形はほとんどなかったので、ウェールズの狙いが完璧に反映されていた守備だったといえるかどうかは見る人によって変わってくると思う。
2. ポルトガルのチャンスメイク
中盤がうまくフォローしたときには相手を押し込むことに成功していたが、ポルトガルはここからが問題。
常に問題視されてきたようにポルトガルは崩しの局面で違いを作れる選手が非常に少ない。
A.ゴメスやJ.マリオは
ボールスキルは高く、守備も献身的に行うが、インサイドハーフの1流選手に期待される攻撃力と比較するとやや見劣りする。
一方でポーランド戦やクロアチア戦ではR.サンチェスがその役割を担っており、
他の選手に比べてもこの位置での攻撃力は高い。
この試合でもR.サンチェスがポルトガルの攻撃を牽引することが予想されていたが、前2試合と見比べてもミスが明らかに多くむしろ足を引っ張っていた。まだ18歳だということを考えれば本人を責めることはできないが、ポルトガルの攻撃の質は低くなってしまった。
したがってソアレスやゲレイロからの守備ブロック外からの浅い位置からのクロスがチャンスメイクの主軸となるが、当然ゴールにつながるようなプレーは少なかった。
ポルトガルのチャンス
15m40P(10-7-10)
43m50P(23-7)
ただし、ポルトガルにとって幸運だったことはC.ロナウドのフィジカルコンディションがかなり良かったこと。ロングボールをよく収めていたし、クロスに対しての反応とそのヘディングの高さは今までの試合と比べると別人のようだった。
前半に関するポルトガルの攻撃をまとめれば、ビルドアップは今までの試合に比べて苦労していたものの、中盤がうまくフォローできていた時は前に進むことができていた。ただし違いを作る選手がいない・・・今大会のポルトガルの攻撃のイメージとほぼ重なる感じであった。
3. ウェールズのビルドアップ、ゲームメイク、ポルトガルの前線守備
ポルトガルのサントス監督は相手の得意な局面を徹底的に潰すのが非常にうまい。W杯2014のギリシャを率いていたのもこの監督である。
詳細は省くが、クロアチア戦ではモドリッチを介したボール保持攻撃を徹底的に妨害し、ポーランド戦では相手にボール保持させることで相手の得意なカウンターの局面を徹底的に排除した。
ウェールズがボールを保持した時のポルトガルの基本形は以下のようであった。(Fig.3)
Fig.3 ポルトガルの守備
ウェールズのビルドアップは3バックにより行われる。
また、ポルトガルは今までと同じ4-3-1-2を基本の守備の形としている。
ポルトガルの守備の約束事は以下のとおりである。
1. C.ロナウド、ナニは積極的に最終ラインにプレスはかけないが、ボールサイド、Fig.3でいうとコリンズがボールを持った場合にはC.ロナウド、ナニで牽制することでボール循環を制限する。
2. WBであるグンターが下がってきたらJ.マリオがそのまま監視し、
3. アレンが下がった時にはA.シルバが監視するという形を基本としている
この守備について再三述べているかもしれないが、中盤のJ.マリオ、A.シルバ、R.サンチェスの3人のバランス感覚は非常に重要である。
Fig.3ではR.サンチェスがセンターエリアを守らなければならないし、仮にチェスターがボールを持った時にはテイラーにプレスできる位置まであがらなければならない。しかしポルトガルのこの守備は非常に熟練度が高く、基本的にはウェールズのボール保持攻撃の機能の大部分を破壊していた。
ただしポルトガルにとって問題になったのはベイルの存在
ベルギー戦でまさにそうだったが、ベイル、ラムジーの流動的なポジションチェンジはベルギーの中盤を混乱させていた。この試合ではその役割を行っていたのはベイルだけだったが、ベイルが浮いてきたときのポルトガルの対応はあやふやだった。(Fig.4)
Fig.4 ウェールズのポジションチェンジ
Fig.4はチェスターがボールを持った時のシーンである。またR.サンチェスとJ.マリオのポジションが逆さまになっているが基本的に役割は同じなのであまり気にする必要はない。
ベイルがこのエリアに浮いてきた場合、J.マリオがマークする。ベイルにこの位置でフリーで前を向かせたくないので当然の選択である。
したがって本来J.マリオはウイングバックのテイラーにプレスするはずだが、この役割をソアレスが対応することになる。
この場合実質ベイルの裏抜けを担当するのはJ.マリオの役目だが、ベイルの裏抜けに対して1人だけで全てに対応できる選手はおそらくこの世の中にはいない。
したがってこのような戦術的なポジションチェンジを利用したベイルの裏抜けに対してCBがフォローしなければならない状況が訪れる。(Fig.5)
Fig.5 ベイルの裏抜け(Fig.4直後のシーン)
当然CBの1人を釣り出すことでエリア内で1vs1の状況を容易につくりだせるため、このようなウェールズのクロス1本の危険度はポルトガルの浅い位置からのクロス10本よりも価値があるといっても過言ではない。
ウェールズのトリックCK
Fig.6 ウェールズのトリックCK
ポルトガルはCK時にゾーンDFを基本的に行うが、このシーンでは明らかなミスがあった。1つはウェールズの選手がベイル含めて4人しかいないのに対して、7人のプレーヤーをエリア内に密集させていること。本来ショートCKを警戒してもう少し人員を割いていいはず。
また、ウェールズの選手たちはブロックを形成することで、ベイルのランを妨害させないように工夫した位置取りをしていた。結果的にはエリア内でフリーでベイルはシュートを撃つことに成功したが、これはゴールにはならなかった。
ウェールズのチャンス
18m40TrickCK(16-11)
20m50P(11-8)
22m00T(11)
24m30P(9-8)
実際に前半のチャンスは4回だったが、いずれも質の高いチャンスメイクだったといっていいプレーだった。ウェールズはロングボールや簡単なパスミスでボールを失うシーンも多く試合全体の内容はよくなかったが、チャンスメイクの質という点ではポルトガルよりも圧倒的に高く、得点の匂いがしたのはウェールズだった。
4. 試合の転換点
ポルトガルはR.ゲレイロのクロスからC.ロナウドの完璧なヘッドで先制する。
ウェールズのコールマン監督もこの試合の分岐点は先制点に集約されているといっていたが、まさしくそのとおりだった。
例えばドイツやスペインなどボールを保持することにプライオリティーを置いているチームは、たとえ不幸な形で失点したとしても、相手の守備の枚数が増えたり守備のプライオリティーが増すことはあるが自分たちが行ってきたサッカーを根本から変化させる必要がない。
対してウェールズのようなボールを保持することをあまり得意としていないチームが一旦失点してしまうと、ゲームプランは大きく変わってしまう。
ウェールズは2失点直後立て続けに選手を変更する。
57minにはレドリー⇔ヴォークス
63minにはロブソンカヌ⇔チャーチ
66minにはコリンズ⇔J.ウイリアムス
慌てる気持ちは理解できるが、ウェールズはバタバタしすぎたと思う。
レドリー⇔ヴォークスはベイルがポジションチェンジを行っても前線の枚数が足りなくならないための変更といえる。(Fig.7)
Fig.7 ウェールズの陣形57min-63min
ただしこの陣形もすぐに変化させる。(Fig.8)
Fig.8 ウェールズの陣形63min-66min
アレン、A.キング、ベイル、S.チャーチがかなり自由にポジションチェンジを行いつつ攻めていこうというのがウェールズのこの時間帯からの攻撃だった。
正直すべての中盤の選手がボールを前進させられるわけではなく、特に危険だったベイルを除いてこのポジションチェンジを有効に活用できた選手はいなかった。
最終的にコリンズ⇔J.ウイリアムス
今大会のウェールズの象徴でもあった3バックを捨てて4バック(2バック)へと変化する。(Fig.9)
Fig.9 ウェールズの陣形67min~90min
この図は大げさに描写しているが、ウェールズは2-2-5-1となった。
つまり2人のCB、2人のWB、自由にポジションチェンジを行う5人、ヴォークスという分類方法。
これはかなり攻撃的なフォーメーションであるため、ポルトガルは相手の選手の位置に合わせてコンパクトな状態を保とうとする。
ポルトガルがコンパクトな状態を保とうとすればウェールズのウイングバックがフリーで持てるため、ここからクロスをバンバンあげていこう!がウェールズの主攻。
ただし、ウェールズにボアテングやクロースはいないため、サイドチェンジが決まることはほとんどなかった。
また、当然だがボール保持時に2バックになっていることが多かったウェールズは、相手のカウンター攻撃にたいしてかなり脆弱になっていった。
追加点が必要なのでリスク承知で攻めなくてはいけないのはわかるが・・・という感じ。
ちなみにかなり攻撃的にふるまったウェールズだが、後半45分の間のチャンスは1つで、それも30m以上離れた場所からのベイルのロングシュートのみ。
ウェールズのチャンス
79m40P(5-11M )
特に65分以降のウェールズはスクランブルアタックを行い続けたが、サイドチェンジを行ってウイングバックからクロスを上げるという形以外はほぼめちゃくちゃで、何を狙っているんだかよくわからなかった。
再三になるが、この中でベイルは本当にすべてのことをこなしており、個人の貢献度ではEURO2016において1番だったと思う。
逆にポルトガルはセットピースを含めてチャンスを量産していた。
ポルトガルのチャンス
49m30CK(5-7)Goal
52m40P(7-17)Goal
62m10FK(7)
64m50P(17M-10)
70m20CK(10-4)
72m50T(16M)
77m40T(21-13)
85m00T(15-7)
ただしポルトガルがチャンスを量産できたのは後半開始直後の得点が大きく寄与しているので、そういった意味ではC.ロナウドがセットピースから得点を決めて均衡を崩した影響はとても大きかったといえる。
余談
決勝進出に成功したポルトガルは大会を通じて使える戦力を大幅に増やし、過密日程に対応してきた。そして決勝ではペペが復帰することもあってモチベーションはさら高まっていくだろう。
決勝トーナメントの山が偏っているという人も多かったが、スペインを倒したクロアチア、ドイツに引き分けたポーランド、ベルギーを倒したウェールズは今大会における強者だったことは試合をすべて見ていればわかるはず。そしてこれらのチームを守備で完封し続けたポルトガルは、紛れもなくこの山のファイナリストにふさわしいチームだと思っている。
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