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EURO2016-Round.of.8-POL.vs.POR

EURO2016-Round.of.8-ポーランドvsポルトガル

まずはスタメンから

白がポーランド赤がポルトガル(Fig.1)

 

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Fig.1 ポーランドvsポルトガル

 

ポーランドはスタメンを固定した4-4-2。

チームの強みは堅守とカウンターだが、大会が進むごとに少しずつ運動量が低下している気がする。

 

ポルトガルはスタメンをいじっているがいつも通りの4-1-3-2。クロアチア戦に初めて出場したフォンテ、ソアレスはそのままスタメンを獲得し、R.ゲレイロ、A.ゴメスは怪我のためエリゼウ、R.サンチェスがスタメンとなっている。

 

試合の概要

試合は120分で1-1で引き分け、PKをもってポルトガルの勝利で終える。1分にソアレスのミスからグロシツキをフリーにしてしまい、精度の高いクロスをレヴァンドフスキが決めて先制する。しかし32分にはR.サンチェス、ナニのコンビネーションからR.サンチェスが抜け出しミドルシュートを右隅に沈め同点とする。その後はスコアは動かずPKに突入し、ブワシュコフスキが外すことで試合は決着する。前半の序盤はポーランドの運動量とカウンターで試合を支配するが、時間を追うごとに元気がなくなっていくポーランドポルトガルも決定的なシーンを多く作ったわけではないが、序盤を除いた時間帯ではポルトガルがうまく試合をすすめた。

 

 

1. 試合の立ち上がり

ネガティブトランジションとは攻撃から守備への切り替えの瞬間であるが、これが両者にとって特に重要な意味を持つ試合であった。

 

ポーランドは最終ラインでボールを保持するだけのテクニックはあるが、ショートパスでボールを前に運ぶことはできない。

そのためポーランドはパズダン、クリホビアクを中心としたロングボールでボールを前に進めることが多く、当然ドイツやスペインよりもボール保持攻撃の精度は下がってしまう。

 

ただしポルトガルにボールを相手に回収されたとしても、ネガティブトランジション時にポーランドの前線が素早くプレスをかけてポルトガルの攻撃を中途半端に終了させることでカウンターに似たような場面を作り出すことができる。

 

しかしこのような方法でチャンスを作っていくには前線がロングボールに強く、カウンター時のプレーに優れており、守備時の運動量が求められる。

 

幸いポーランドにはレヴァンドフスキ、ミリクがこのサッカーに適しているため、ポーランドは今までの試合でうまく試合を運んできた。

 

開始1分のレヴァンドフスキの先制点もまさにそういった流れを感じさせられる部分があった今回の場合は、ピスチェクのロングボールをソアレスが目測を誤ってスルーしてしまったのが直接的な原因だが、その直前のプレーをみてみるとポルトガル陣地深くで失ったボールに対して激しくプレスを行うことでピスチェクが中盤でボールを回収することに成功している。


Euro 2016: Poland v Portugal - Robert Lewandowski scores in the first two minutes

この動画の作り方知っている人いたら教えてください。

 

いずれにしても、開始早々にソアレスのミスをきっかけに失点したポルトガルは、当初の予定よりもリスクを冒したプレーをしなければならなくなった。

 

そしてレヴァンドフスキはここまでの4試合でゴールを決める以外のプレーはうまくやっていたものの、決定的な場面でのパスミスやシュートミスが結構目立っていたが、この試合ではいきなりワールドクラスのプレーを見せた。

 

2. ポルトガルのビルドアップ、ポーランドの前線の守備

 

2.1. ポルトガルのビルドアップ、ポーランドの前線の守備

ポーランドトランジションゲームに持ち込もうとするため、ロングボール→前線のプレスを行うと述べた。しかしポルトガルがボールを回せるような状態の時には無理にはプレスは行わずに、ハーフラインまではリトリートする。

 

ポーランドがプレスをかけてきた場合

失点シーン直前もそうだったように、ポルトガルは余裕がない状況の時はロングボールを蹴る。そしてポーランドの最終ラインはエアバトルに強い選手が多く、ポルトガルはロングボールでボールを前に進めることは前半はあまりできていなかった。

 

ポーランドがリトリートした場合

この時は問題なくビルドアップは行える。すなわちハーフラインの手前までは安全にボールを進めることができていた。

 

 

ポーランドの理想はネガティブトランジション時にプレスをかけることだが、先制しているということ、連戦によってチームの疲労もたまっていることから時間がたつごとにプレスをかけられなくなる。

 

2.2. ポルトガルのゲームメイク、ポーランドの守備
ポルトガルがビルドアップを終了した時点で、ポーランドは4-4-2の陣形を整えている(Fig.2)

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Fig.2 ポルトガルのゲームメイクに対するポーランドのディフェンス

 

はっきり言えばポルトガルの攻撃、特にゲームメイクにおける約束事はよくわからない。というのも選手が特有のポジションまたは役割を担っていないためである。

 

例えばC.ロナウドやナニはウイングの位置にいたりセンターフォワードとしてロングボールを受けようともする。

J.マリオは下がってゲームメイクを助けるような動きをしたかと思えばウイングに張り付いていることもある。

 R.サンチェスやA.シルバはゲームメイクに必ず参加するが、

 

全体的な特徴として選手はFig.2のようにボールのある方向に選手が集まる傾向にある

 

特にポーランドを相手にしたときは、4-4-2の脇に人数を固めることが多い。

 

この時ポーランドは2列目の4人が高い位置を維持してゲームメイクを妨害していくか、2列目がリトリートすることで自陣深いエリアで守備をおこなうか?という2択になる。

ポーランドは基本的に後者、つまり2列目がリトリートすることを選択する。

 

理由は簡単でポーランドの選手は個人個人が対人守備能力に優れていること。さらにポーランドは自陣深い位置からでもロングカウンターで前に進むことができ、なにより1点のアドバンテージを得ているのでリスクを負う必要がないからだと思う

 

こんな理由があってある程度の位置まではポルトガルは前に進むことができた。

 

3. ポルトガルのチャンスメイク


ポルトガルはコート全体の3/4まで進むことができるとポーランドの守備ブロックに遭遇することになる。

 

この時のポーランドは4-4-1-1で、レヴァンドフスキがデスコルガード、ミリクは守備ブロックに参加するというより中央のエリアでの攻撃をさせないためのポジショニングを意識していた。(Fig.3)

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Fig.3 ポーランドの撤退守備


 
A.シルバがボールを持った場合モンチニスキ、もしくはクリホビアクがボールホルダーに対してマークすることでこのエリアでの攻撃を防ごうとする。ポルトガルはC.ロナウド、J.マリオ、ナニがライン間でボールを受けようとするが、当然そのスペースは少なくチャンスの数も限られてしまう。

 

したがってポルトガルはブロックの外側の浅い位置からクロスを上げることがメインとなる。(Fig.4)

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Fig.4 ポルトガルのクロスの成否とエリア

 

主にエリゼウソアレスがこの位置からクロスを上げることになるが、選手までの距離も長く、崩されていない状態でのクロスでは、ポルトガルはチャンスをほとんど作ることができておらず、前半のポルトガルのチャンスは非常に限られていた

 

ポルトガルのチャンス

9m50P(16-21-7)

27m50T(17-7M)

32m40P(17-16M)Goal

 

 

それでもポルトガルは同点ゴールを決めることができたわけだが、R.サンチェスのこの試合の攻撃、守備における影響力はすばらしかった。

 

32分の得点シーンはR.サンチェス→ナニ→R.サンチェスでワンタッチでボールをつなぎ、中央からのミドルシュートが右隅に決まる。R.サンチェスは試合を通して狭いエリアへの縦パスを躊躇せず、50vs50のボールにもフィジカルで自分のものにしており、得点以外でも攻撃にかなり貢献していた。

 

いずれにしても少ないチャンスでゴールを決められることができたことについては幸運だったと思うが、ポーランドも守備のラインが低かったのでそういったことが起きる確率も上がってしまうのは仕方がないともいえる。

 

4. ポーランドのボール保持攻撃、ポルトガルの前線守備

 

ポーランドのボール保持攻撃についてみてみると、ここもこの試合のポイントとなる部分が多かった。

 

前述のようにポルトガルは確率の低いクロス攻撃を多く行っていたため時間がたつにつれてポーランドの攻撃は自陣深い位置から開始することが多くなる。

 

ボールを保持するときはクリホビアクが最終ラインまで下がり、SBが比較的高い位置まで上がる。(Fig.5)

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Fig.5 ポーランドのボール保持攻撃に対するポルトガルの前線守備

 

基本は4-1-3-2でポルトガルポーランドのゲームメイクを妨害する。

もちろんグリックがボールを持った時はR.サンチェスはウイリアムの横にポジショニングし、右の白エリアを埋め、ウイリアムが左の白エリアを担当する(4-2-2-2)。逆も同様のことが言える。

この守備はクロアチア戦とほぼ同じであり、CBにビルドアップを強いることができる。

 

ただし白のエリアは結構広いため、たびたびポーランドのロングボールが通ってしまうことが欠点であるが、ロングボールを跳ね返すことができればそのままポルトガルのカウンター攻撃につながる場面もある。

 

結果的には、ポルトガルの最終ラインがひるまず高い位置を取り続けることができ、ペペ、フォンテのCB陣がかなりうまくやっていたため、ポーランドがロングボールでイニシアチブをとることはできていなかった。優秀なCBの重要さが凝縮していた試合でもあった。

 

ポーランドのチャンス

1m30T(20-11-9)Goal

16m10T(7-9)

22m00P(16-11-7-3-11)

 

そういったこともあって、ポーランドのチャンスはトランジションからのロングボールによるカウンターもどきか正統なロングカウンターでしかチャンスを作れなかった。

しかし前述のようにポーランドは時間がたつにつれその運動量は低下していったため、カウンターの回数、精度はさがっていく。

 

 

5. 後半戦

 

ハーフタイムはポーランドの選手を少しフレッシュにし、5分間くらいは運動量が高い状態になるが、その後は前半の15~45分と同じような展開になる。

 

後半に入ってもポーランドの4-4-1-1は守備ラインは低いままで、ポルトガルの攻撃のスタイルも前半とほぼ同じであった。

 

つまり、中盤に人数をかけて3/4のエリアまで進んだらサイドからクロスを放り込む。

ペナルティエリア内に無理やり侵入しようとするプレーはほとんど見られず、ブロックの外からチャンスを作ろうとする。試合を通じてポルトガルのクロス数はコーナーキックを含めて42本(Fig.6)

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Fig.6 ポルトガルのクロスの成否とエリア

 

前半と同じでポーランドは中盤でトランジションできないため、ポーランドは自陣深い位置からボール保持攻撃をせざるを得ない。

 

しかし前半と同じようにポーランドはうまくボールを前に進めることができないため、ボール保持攻撃ではほとんどチャンスをつくれない。

 

逆にビルドアップでロングボールを使うことが多いポーランドは、ポルトガルのカウンターを受けてしまう場面もしばしばあった。

 

 

5.1. ポルトガルの試合が塩試合になる理由

 

どこかで説明したかもしれないが、今大会のポルトガルの試合が塩試合になってしまう理由は、相手の苦手な分野で戦うことを哲学としているからである。

 

たとえばオーストリア相手にはバウムガルトリンガーを、クロアチア相手にはモドリッチを、ポーランド相手にはクリホビアクに自由にプレーさせないことでボール保持攻撃の質を下げることに成功している。

 

そして相手のボール保持攻撃の質が悪くなったのであれば、たとえ自分達の攻撃の質が下がったとしてもカウンターを受けにくい形で自分たちの攻撃が終了するようなプレーをする。

 

つまり自分たちの理想のサッカーではなく相手の嫌がる展開に徹底して持っていこうとする。このサッカーができる理由は、あらゆる局面に対して一定水準以上のプレーができるからであり、弱みがないというのが最大の強みとなっている。

 

 

特にハイラインでもその個人技で守ってしまうペペや、ゲームメイク妨害に強みを持つチームに対しても、ほぼすべての主力の中盤の選手がボールをつなげる能力を持っていること、守備時に中盤のダイアモンドを形成する4人が守備をほとんどさぼらないこと。ここらへんは本当にポルトガルの強みだと思う。

 

前半と同様にポーランドのチャンスは非常に限られていた。

 

ポーランドのチャンス

48m20T(20-9)

68m00P(3-7)

ET

99m40P(16-7M)

カウンターの数も少なくなり、後半45分+ET30分でチャンスは3回のみ。


それを成し遂げたのは中盤がしっかりとゲームメイク妨害してくれたおかげだが、それに加えて最終ラインの個人技が素晴らしかった。(Fig.7)

 

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Fig.7 ポルトガルの最終ライン(左からソアレス、ペペ、フォンテ、エリゼウ)

 

なんといってもペペがこの試合圧倒的な存在感を示していたが、前半にミスしたソアレスもそれ以外のプレーではほぼ完璧であった。フォンテも普通によかったはずなのにそのパフォーマンスが霞むほどこの2人はよかった。

スタッツでディフェンスを語るのはあまり好きではないが、

ソアレスはボールリカバリー3回、タックル3/3インターセプト5回、エアバトル0/2

ペペはボールリカバリー10回、タックル2/4インターセプト6回、エアバトル6/8

フォンテはボールリカバリー2回、タックル2/3インターセプト4回、エアバトル5/5

 

ペペは問題を起こさなければ本当にただの最高のディフェンダーであり、欠点がない。

 

5.2. ポルトガルのチャンスメイク

後半はポルトガルがゴールに迫ったシーンが前半に比べて多かった。

 

ポルトガルのチャンス

55m20T(17-7)

59m30P(17-7)               

63m30T(7-21M)

78m00CK(10-4)

80m00T(3-POL3)

85m00P(8-7)

ET

91m00P(19-7)

 

理由はポーランドの低質なボール保持攻撃からカウンターというシーンを再現よく作れたことがあげられるが、ポーランドに比べてポルトガルの選手はなぜかフレッシュだったからというのもあるはず。

特にR.サンチェスは前半から攻撃だけでなく守備(ボールリカバリー12回)でも貢献し、かつその運動量は最後までほとんど落ちなかった。

どこかの試合でインサイドハーフはA.ゴメス、J.マリオのほうが安定するといったかもしれないが、少なくともこの試合を見た感じではR.サンチェスがこのポジションにおいてベストだった。

 

 

5.3. PK戦

気になったことといえばポルトガルの選手は全員ファビアンスキの逆を的確についていたことぐらい。結局ブワシュコフスキが外して、ポルトガルが準決勝に駒をすすめた。

 

余談

ポーランドがボールを前に進めなかった理由は明らかで、モンチニスキのゲームメイク能力不足。この部分だけ改善されれば多分ポーランドはW杯でもベスト4行く可能性を秘めていると思う。

 

ポルトガルは守備の要であるウイリアムが累積警告で次戦出場停止なため地味に心配事項である。

 

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緑がビルドアップ失敗黄がビルドアップ成功

青がゲームメイク成功ピンクがゲームメイク成功

オレンジがチャンスメイク成功紫がチャンスメイク失敗

となっている。

コメントはどうやってボールを前に進めたor失敗したかを表す。

○はいいプレーをした選手につけている。

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