EURO2016-Round.of.16-SWI.vs.POL
EURO2016-Round.of.16-スイスvsポーランド
まずはスタメンから
赤がスイス、白がポーランド(Fig.1)
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Fig.1 スイスvsポーランド
スイスは今までと同じスタメンで、4-2-3-1を基本としている。
ボールを保持した状態から攻撃するサッカーを得意としており、特にジャカを起点としたビルドアップ、ゲームメイクとサイドバックが高い位置まで攻撃参加することがこのチームの持ち味。一方で守備に少し難を抱えている。
というのも前線の4人は高い位置からプレスを行うが、ジャカ、ベーラミの守備能力は高いわけではなく、ジュルー、シャーも対面するフォワードの裏抜けを完璧に抑えられるほどスピードがないため、アルバニアやルーマニア戦でも危うい部分があった。
ポーランドも今までと同じスタメンで4-4-2を基本としている。
ボールを保持した時の攻撃は北アイルランド戦からもわかるようにあまりよくなかったが、ハーフコートでの守備の硬さはおそらく大会でも1位、2位を争うほどである。さらに前線4人がロングカウンターを行う上で重要なパワーとスピードを兼ね備えていること、クリホビアクがカウンターの基点になるような守備とパスを備えていることがこのチームの最大の強みである。
試合の概要
試合は120分で1-1で引き分けでPKを制したポーランドの勝利で終える。38分にポーランドのグロシツキがドリブル突破し、逆サイドのブワシュコフスキがクロスに合わせて先制する。その後81分にリヒトシュタイナーのクロスがはじかれ、こぼれ球をシャキリがオーバーヘッドで同点にする。1sthalfはポーランドの守備、ロングカウンターが炸裂していたが、時間がたつにつれてスイスが優勢になっていき、2ndhalf, 延長戦はかなりチャンスを作っていた。ポーランドは後半以降かなりおとなしくなってしまったが、中5日のスイスと中3日のポーランドのチーム同士の対決というのが問題だったのかもしれない。
1. スイスのビルドアップ、ゲームメイク、ポーランドの前線の守備
前述したようにスイスのビルドアップ、ゲームメイクはジャカを中心に行っていく。
ジャカはCB間に位置をとることもあるし、SBの位置にとることもあるが、この試合ではLSBの位置にいることが多かった。
対するポーランドは基本陣形と同じ4-4-2で守備を行う。(Fig.2)
Fig.2 スイスのビルドアップ、ポーランドの前線の守備
この時ポーランドの1列目の位置はセンターラインから10m位相手陣地側であるが、あまりプレスは行わず。ゾーンを守る。
また、SBであるR.ロドリゲス、リヒトシュタイナーはビルドアップ、ゲームメイク時には比較的高い位置を取っているため、ポーランドのSBおよびSHはメフメディ、シャキリ、R.ロドリゲス、リヒトシュタイナーのマークをしなければならない。
したがって、ポーランドの4-4-2の脇は比較的プレスをしにくいエリアとなってしまう。
(ジャカがこの位置でボールを持ってゲームメイクを行おうとすれば牽制するが、ジュルーやベーラミの場合はほとんど無視)
ただし、赤円の位置でボールを持つことができたとしても中央はポーランドのほうが数的優位なので、中央を崩そうとするのは得策ではない。したがって、近いサイドで3vs2を行うか、大きなサイドチェンジがスイスの主なゲームメイクとなる。
結論から先に言うと前半のスイスはハーフラインより前にうまくボールを運べなかった。もちろんシャーやジャカが前線に縦パスを出すシーンは何回かあったが、受け手はサポートが少なく、チャンスシーンも非常に限られてしまった。
理由はやはり、ポーランドのSHおよびSBの守備貢献度が高いことが一番起因していると思う。
前半は特にスイスの攻撃がうまくいかないことが多く、仮にうまくいったとしてもサイドの深い位置からクロスを上げるだけで単調だった。
こんな感じでポーランドは前半かなり良く守っており、ボール奪取後はカウンターもしくはボール保持攻撃へと移行する。
2. ポーランドのボール保持攻撃、スイスの前線の守備
ポーランドのボール保持攻撃は非常にシンプルである。
まずクリホビアクがCB間に入り、ビルドアップの中心となる。
スイスはグループリーグ3試合を見てきた感じだと、ハイプレスを信条としているチームかと思っていたが、この試合では4-4-2でコンパクトな守備を行う。1列目はジュマイリ、セファロビッチであった。
スイスはあまりプレスをかけないため、4-4-2の脇からパズダンとグリック、特にグリックが精度の高いロングパスを前線に供給することで、チャンスを作ろうとしていた。(Fig.3)
Fig.3 ポーランドのビルドアップ-ゲームメイク
結果的に決定的なチャンスの数は多くなかったが、リスクを冒さないボール保持攻撃を行うことで、被カウンター数を減らすことに成功していた。
ボールを保持した状態でうまく攻めれないという見方もできるが、ポーランドはカウンターのチームなので、ボール保持攻撃はこれで構わないという見方もある。
ファビアンスキからのゴールキックはほとんどイェンドジェイチク側に蹴っていた。
(Fig.4)
Fig.4 ファビアンスキのパス方向
理由は結構簡単で、SBのイェンドジェイチクがエアバトルに優れた選手であるということと、ロングカウンター時にドリブル突破力があるグロシツキを使うというのがチームの方針としてあったのだと思う。でなければ、ここまでふつう偏らない。
3. ポーランドのカウンター攻撃
前半のポーランドは4つのチャンスをつくるが、
0m10sのショートカウンターを除けば他3つはロングカウンターである。
ポーランドのロングカウンターが強い理由は
クリホビアクが
対人守備に強く、ボールを中盤で奪取でき、中距離のパス精度が高いこと
レヴァンドフスキが、
カウンター時に優秀な受け手かつ出し手になれること
SHのブワシュコフスキとグロシツキが、
対人守備能力が高いこと
ロングスプリントを厭わないこと
などが挙げられる。
Fig.5 レヴァンドフスキ(左上)、クリホビアク(右上)、
ブワシュコフスキ(左下)、グロシツキ(右下)
特にこの試合ではグロシツキはかなり目立っていて、ほとんどのカウンターでドリブルで駆け上がるか、ロングスプリントで敵を引き付けていた。
先制点は相手のCKからのクロスをキャッチしたファビアンスキがロングスローでグロシツキがロングカウンターの基点になったことがきっかけだった。
グロシツキは前線までドリブルで運び、その後カットイン、ブワシュコフスキにパスをして、ブワシュコフスキが決める。
前半の内容はほぼ完璧だったポーランドが得意な形で先制するという内容と結果が一致した試合展開となった。
4. 後半戦
後半になると徐々にスイスのビルドアップ、ゲームメイクがうまく機能するようになってくる。というよりポーランドの1列目の守備意識が落ちていく。
特に後半のレヴァンドフスキの守備はかなり問題だった。これが疲労による影響なのか定かではないが、60分を超えると明確にスイスのペースになっていく。(Fig.6)
Fig.6 ポーランドの後半の守備
これはあくまで模式図と思ってくれたほうがいいが、前半はミリク、レヴァンドフスキの裏のスペースにドライブされることはほとんどなかった。
しかし後半はポーランドの1列目の守備がルーズになってしまい、ジャカ、ジュルー、ベーラミ、シャーがドライブできるようになってしまった
1列目で相手のビルドアップのエリアを制限できないということは、当然ゲームメイク時にボールを奪取するエリアを定められないということであり、ひいてはポーランドの肝であるカウンターの回数も減ることになる。
また、スイスは後半の中盤になるとジュマイリ、メフメディの代わりにアタッカー色が強いデルディヨク、エンボロを投入する。これによって2列目も安易にプレスをかけることができず、ハーフライン付近のエリアをスイスに明け渡してしまう。
撤退した時のポーランドの守備陣形は4-3-2-1 (場合によっては4-4-1-1)。(Fig.7)
Fig.7 ポーランドの撤退守備に対するスイスのチャンスメイク
この守備の強みは、
中央の密度を保ちつつ、前線にデスコルガードを敷けること。
また、モンチニスキとミリクが適切にゲームメイカーにプレッシャーを与え続けられれば、攻撃の選択肢をかなり狭められること。
しかし、この守備はドイツ戦で真価を発揮していたが、この試合ではあまり適していなかったかもしれない。
というのもドイツのように深い位置までボールをつなごうとする場合、ピスチェク、ブワシュコフスキコンビまたはグロシツキ、イェンドジェイチクコンビを崩さなければならない。しかしスイスはポーランドの守備範囲外から前線にクロス爆撃をおこなったため、上記のような問題はあまり起きなかった。
スイスの得点チャンスは後半のほうが質も量も明らかに増えていたが、崩し切った状態でむかえるチャンスではなかったので、ゴールがきまるかどうかは本当に微妙なところだったと思う。
しかし81分に試合が再び動く。
リヒトシュタイナーの左サイドからのクロスがこぼれた先にいたシャキリが、エリア外からオーバーヘッドでゴールを決める。
まさしくゴラッソだったが、運動量が落ちたポーランドのディフェンスのおかげでクロスの試行回数が増えたことは少なからず影響しているだろう。
スイスのクロスの回数は41回。このうち13回はコーナーだが、とにかく浅い位置からでもクロスを放りまくるという戦法はシャキリのゴラッソという形で報われた。
ポーランドの後半の問題点はもう1つある。
ポーランドは決してボールを前に運ぶのがうまいチームではないということ。
前線はイェンドジェイチクやレヴァンドフスキのエアバトル能力とチーム全体の運動量を生かしてロングボールで前に進むことができていたが、
後半以降はロングボールの精度も全体の運動量も下がってしまい、前半ほどはボールを前に進められなくなってしまう。
1-1で迎えた延長戦30分間はよりスイスがゲームを支配する展開となった。正直スイスはデルディヨクに大きなチャンスが2つ訪れていたことを考えれば、延長戦で決着がついてもおかしくなかったが、ファビアンスキのビッグセーブで事無きを得る。
両チームのチャンスは以下のとおりである
スイスのチャンス
9m10T(18-23-15)
34m40CK(13-22)
37m50P(9-15M)
45m50CK(23-13)
50m30P(18-23M)
72m50FK(13)
77m50L(10-20)
81m20P(2-9-23)Goal
105m10P(13-9)
111m20P(23-19)
117m00T(10-9-19)
ポーランドのチャンス
0m10T(7)
5m40P(11-7)
28m30CK(7-10)
30m40T(9-11)
32m20T(16-7)
38m20T(11-16)Goal
49m10P(11-9)
52m50T(16M)
96m20P(11M)
118m50P(10-20)
5. PK
PKは運要素が大きすぎるので結果のみ簡単に。
スイスから
リヒトシュタイナー、ジャカ、シャキリ、シャー、R.ロドリゲスの順で担当。
レヴァンドフスキ、ミリク、グリック、ブワシュコフスキ、クリホビアクの順で担当。
10人のうち外したのはジャカのみ。
したがってポーランドがベスト8へと進んだ。
ポーランドは120分の間にモンチニスキとグロシツキを変更したのみで、いままでの話の流れからするとかなり不自然に思うかもしれないが、延長に突入した時点でポーランドはPKで勝利する意外勝ち筋はなかったと思うので、レヴァンドフスキ、ミリク、ブワシュコフスキをピッチに残し続けた理由はそのあたりにあると思う。
余談
スイスはグループリーグの時と比べると格段にいいサッカーをしていた。特にグループリーグで不安視されていた守備がかなり改善されていた。
対してポーランドはグループリーグで溜めた疲労が抜けきっていない感じがあった。
日程を再度確認してみたらスイスは中5日、ポーランドは中3日ということを考えればこれくらいのコンディション差があってもおかしくないのかもしれない。
EURO2016の決勝トーナメントは、観戦するうえで全てのボールの動きをノートに記録しているので、最後にそのノートの記録を載せる。
見方は時間ができた時に更新するが、
緑がビルドアップ失敗、黄がビルドアップ成功
青がゲームメイク成功、ピンクがゲームメイク成功
オレンジがチャンスメイク成功、紫がチャンスメイク失敗
となっている。
コメントはどうやってボールを前に進めたor失敗したかを表す。
選手についている○はいいプレーをした選手につけている。