サッカーを視る

主にCLやビッグマッチについて。リーグ戦はEPLが中心

EURO2016-F3-ICL.vs.AUT

EURO2016-グループF3-アイスランドvsオーストリア

 

まずはスタメンから

青がアイスランド赤がオーストリア(Fig.1)

 

f:id:come_on_UTD:20170113234032p:plain

Fig.1 アイスランドvsオーストリア

 

アイスランドは3戦連続でスタメンの選手がすべて同じ。

意外にも3試合スタメンすべて同じだったチームはスペインとアイスランドのみ。堅守の4-4-2とロングボールが特徴的なチーム。

 

オーストリアは累積警告明けのドラゴビッチが戻ってくるが、今までの2試合とは異なって3バックになっている。

オーストリアは試合毎にシステムを大きく変えてくる傾向にあるが、今のところあまりうまくいっていない。

 

試合の概要

試合は2-1でアイスランドが勝利する。17分にグンナーソンのロングスローからアルナソンが落としボドバルソンが決めてアイスランドが先制する。36分にはオーストリアがPKを獲得するがキッカーのドラゴビッチはポストに当ててしまい失敗する。59分には途中出場のシェプフが決めて同点とする。しかし93分にはビャルナソンから始まった速攻からトラウスタソンが決めて2-1とする。オーストリアは常にボールを保持していたが、特に後半4トップとすることでチャンスの山を積んでいく。この試合のオーストリアは守備はいつも通りよくなかったが、攻撃はかなりよかった。正直今まで見てきたグループリーグ34試合のなかで唯一負けたチームながら勝ちに値したチームだと思った。

 

 

1. 両チームの状況

グループFは

ハンガリー勝ち点4得失点差+2

ポルトガル勝ち点2得失点差0

アイスランド勝ち点2得失点差0

オーストリア勝ち点1得失点差-1

 

非常に拮抗したグループであるが、

アイスランドは引き分け以上でグループリーグ突破確定

オーストリアは勝てば突破、それ以外では敗退確定

 

グループFの利点として、ほかのグループの大半の試合が終了しているため、3位突破のボーダーをほぼ把握した状態で試合に臨むことができる。今回の大会では3位のボーダーラインは勝ち点3得失点差0以上であったが、これがグループAやBだったらボーダーラインが曖昧な状態で試合に臨まなければならない。

その場合アイスランドポルトガルは勝利することも考慮しないといけないので、そういった意味ではグループFの利点が活きている。

 

2. オーストリアのビルドアップ

オーストリアは今までの2試合ビルドアップ、ゲームメイクができていなかった。

今までのビルドアップはCB間にバウムガルトリンガーが入ってボールを循環させていたが、ドラゴビッチを除くCB陣はハイプレスに滅法弱く、ビルドアップを安定化させる必要があった。

 

そういった背景があって、オーストリアはこの試合3バックでアイスランドに挑む。

 

ただしアイスランドは前線からプレスをかけないので、オーストリアのビルドアップ自体はスムーズにいく。

 

3. オーストリアのゲームメイク、アイスランドの守備

前半のオーストリアはハーフラインまでボールを進めると以下のような形になっていることがほとんだった。(Fig.2)

 

f:id:come_on_UTD:20170113234040p:plain

Fig.2 オーストリアのゲームメイク

 

ここで注目すべきことはアイスランドの1列目の選手がポルトガル戦、ハンガリー戦と比べてポジションをかなり自陣側に設定していること。

理由はゲームメイク時の選手のマーク関係を考えていくとよくわかる。

 

まずオーストリアはアルナウトビッチとサビツァーをトップとした2トップを形成しており、場合によってはアラバがこのゾーンでボールを受ける可能性があるため、

アイスランドのSBはオーストリアのウイングバックをマークすることはほぼ不可能。

 

したがってウイングバックを監視する役目は自ずとサイドハーフの2人になる。

一方でイルザンカーとバウムガルトリンガーのマークは、

中央のG.シグルドソンとグンナーソンの役割になる。

 

したがってアイスランドの1列目はオーストリアの最終ライン3人を監視する必要がある。

当然ワイドな3人を2人で監視するのは不可能に近い。

 


しかし、もし1列目が最終ラインにプレスをかけてしまうと、イルザンカーやバウムガルトリンガーがゲームメイクする可能性が出てきてしまう。(Fig.3)

 

f:id:come_on_UTD:20170113234056p:plain

Fig.3 ifアイスランドの守備

 

当然この位置でバウムガルトリンガーにゲームメイクさせるのは非常に危険なのでアイスランドは赤で囲ったエリアをフリースペースとしたくない。

 

そうしないためにはアイスランドの1列目をハーフラインより下げるというのは非常に理に適っていると思った。

 

ただし今までのアイスランドの守備のいい部分であったサイドハーフと1列目の連動したプレスが影を潜めることになる。

 

一方のオーストリアはアイスランドが1列目と2列目を非常にコンパクトにしているため、最終ライン縦パスが出し放題になる。

 

この時の受け手は基本的にウイングバックの2人をつかったサイド攻撃か、サビツァー、アラバ、アルナウトビッチへの縦パスから攻撃を展開していく方法になる。

 

4. オーストリアの前半のチャンスメイク

前述したようにオーストリアの攻撃はウイングバックを経由したサイド攻撃、もしくは長い縦パスから展開する攻撃。

 

このうちウイングバックを経由したサイド攻撃は、グドムンドソンとビャルナソンがウイングバックのマークをしっかり行っているため、ほとんどうまく機能しない。

 

縦パスからの攻撃もアイスランドの2列目と3列目がコンパクトなので、あまり有効な攻撃にはならない。

 

したがってオーストリアの前半のチャンスはほとんどない

オーストリアの前半のチャンス

10m50T(7)

28m50P(5-7M)

36m10PK(3)miss

 

このうち10分のアルナウトビッチのチャンスはハルドーソンのミスによるもので、36分はPKなので、実質28分のプレーのみがボール保持からつくりだしたチャンスとなる。

 

前半はオーストリアの攻撃が全くうまくいかなかったといってもよい。

 

36分にPKになったシーンもスクラソンがアラバを引っ張ったことが原因だが、笛は結構厳しかったと思う。

 

このPKを蹴ったのはなぜかCBのドラゴビッチ。

 

予選でPKを蹴っていたのは全てアラバだが、この場面でドラゴビッチだった理由はよくわからない。いずれにしてもこのPKをドラゴビッチは外してしまい、同点のチャンスを逃すこととなる。

 

ドラゴビッチは1試合目で退場、3試合目でPK失敗と散々な結果になってしまった。

 

5. アイスランドのビルドアップ、ゲームメイク

ビルドアップやゲームメイクにおいて、アイスランドはショートパスでつなぐチームではない。基本的にはロングボールをシグトルソンかボドバルソンに当てて攻撃を展開していく。

 

しかしこの試合ではたびたびボールをつないでいる様子が確認された。

 

理由はおそらく時間稼ぎだと思われるがそれ以外に意図があったか定かではない。もちろん大部分はロングボールで、それはシグトルソンとボドバルソンのエアバトル回数とエリアをみればよくわかる。(Fig.4)

 

f:id:come_on_UTD:20170113234109p:plain

Fig.4 ボドバルソンとシグトルソンのエアバトルの成否とエリア

 

6. アイスランドのチャンスメイク

アイスランドのチャンスの大部分はセットピースかカウンターから生まれる。この試合の前半は守備一辺倒だったのでチャンスの数自体は非常に少ないが、得点を17分に挙げている。

 

ゴール方法はお馴染みのグンナーソンのロングスローが基点となっている。グンナーソンのロングスローをアルナソンがフリックして、ボドバルソンが押し込み先制する。

 

アイスランドのロングスローからのチャンスはわかってても止められない類のもので、どのチームも完全に対策することはできていないような感じ。

 

アイスランドのチャンス

1m40P(10-7M)

17m40LT(17-14-15)Goal

37m00L(9-7-8)

45m30LT(17-14-8)

64m40T(8-15-10)

93m30T(8-18-21)Goal

 

6. 後半戦に向けた変更

アイスランドは特に変化はなかったが、オーストリアは大きく変化していく。

 

前半の内容を見ていけば全くチャンスメイクができていないオーストリア。

 

しかし得点は少なくとも2点必要なので攻撃のウェイトを上げていかなければならない。オーストリアのとった方法はイルザンカーとプレドルをヤンコとシェプフに変更すること。(Fig.5)

 

f:id:come_on_UTD:20170113234123p:plain

Fig.5 オーストリアの後半のフォーメーション(4-2-4)

 

アラバ、バウムガルトリンガーをセンターとしつつ、前線4枚をフォワードとした4-2-4。

 

7. 後半のオーストリアの攻撃

オーストリアはビルドアップ時のみバウムガルトリンガーかアラバを下げてビルドアップを安定化させる。ゲームメイクの段階になるとセントラルハーフの位置に戻ってプレーするようになる。(Fig.6)

 

f:id:come_on_UTD:20170113234133p:plain

Fig.6 オーストリアの後半のゲームメイク

 

本来4バックに対するアイスランドの前線の連動したプレスは相性がいいはずであるが、

後半フォーメーションが変わってからも連動したプレスが見られることはほとんどなかった。

 

というのもボドバルソンもシグトルソンも3試合ともスタメン出場しており、フィジカル的にかなり負担の大きい仕事を任されているため、この試合では後半始まってすぐに2人とも極端に運動量が落ちていったことが要因だと思う。

 

システム上プレスができなかったわけではなくフィジカル的にプレスできなかったという感じを受けた。

 

従って、CBの2人にプレッシャーをかけられないので、4トップに向けたロングボールがバンバン飛んでくる。

 

アイスランドのCBは何度も言っているが決してレベルは高くないので、単純な裏抜けなどでもチャンスになりかけるシーンもたくさんあったし、ロングボールを一回落としてからチャンスメイクという方法も多々あった。

 

オーストリアのチャンス

46m40P(7-8)

47m30P(14-20PK?)

54m40P(20-18M)

59m40P(8-18)Goal

67m50P(3-20-21)

71m30P(8-21-18)

 

後半のチャンスはいずれも即得点レベルのものだった。

正直、45~75分の間に2点決めていればオーストリアは勝っていたと思うが、ビッグセーブやブロックなどさまざまな障害に阻まれる。

 

アイスランドは機能停止仕掛けている前線のシグトルソンとボドバルソンをそれぞれ70分、79分に変更してフレッシュな選手を投入する。

このあたりから前線の運動量が復活していき、オーストリアのボーナスタイムも終了する。

ボドバルソンとシグトルソンの交代のタイミングは少し遅かったように感じたが、結果的に失点しなかったんだから別にいいのかもしれない。

 

余談

アイスランドは日程が進むごとにチームの強度が落ちている。もちろん1列目とサイドハーフに大きな負担がかかっているというのもあると思うが、強度の高い試合を中4日でこなすスタミナが全体的にないように感じた。

 

いずれにしても戦力的には出場している24チームのなかでも明らかに劣っているアイスランドグループリーグを2位で突破することができただけでも快挙だろう。