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EURO2016-E1-BEL.vs.ITA

EURO2015-グループE1-ベルギーvsイタリア

まずはスタメンから

赤がベルギー、白がイタリア(Fig.1)

 

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Fig.1 ベルギーvsイタリア

 

ベルギーは所属クラブとそのチームでの活躍度からメディアにはかなり評価されている。

アザールルカク、デブライネトリオの攻撃力を想像すれば今大会の中でも一番攻撃力があるようにも思える。それに最終ラインもプレミアリーグでの経験者は多い。なんといってもほぼすべての選手が所属クラブでしっかりと出場時間を得ているというのが評価を高くしてしまっている要因だろう。

 

対するイタリアはここ4年でもっとも期待されていない時期のチームかもしれない。

ヴェラッティマルキージオが怪我で不参加であること、強力な点取り屋を擁していないことが主な理由だろう。しかしブッフォンキエッリーニボヌッチバルザーリは長年ユヴェントスのチームメイトであり、A.コンテ監督も3バックに精通しているというのはかなりポジティブな面であり、決して侮れない。

 

試合の概要

試合は0-2でイタリアが勝利する。31分にボヌッチからのロングボールにジャッケリーニが抜け出し先制する。92分にカントレーヴァのクロスからペッレがボレーシュートを決めて勝利を確定する。ベルギーはボールを保持するが、ハーフラインから前に全く進めない。イタリアの撤退守備はかなりレベルが高く洗練されていた。正直監督の差がスコアにそのまま表れてしまった。

 

 

1. ベルギーのビルドアップとゲームメイク

ベルギーはそれほどビルドアップに困ることは少なかった。

イタリアは前線からプレスをかけるタイミングがかなり限定的だったからだ。

 

ベルギーの問題はむしろゲームメイクにあった。

 

ベルギーのゲームメイクは最終ラインの4人によって行われる。

ヴィツェルとナインゴランもゲームメイクに混ざろうとするが、イタリアの選手にマークされておりほとんど参加できない。

またフェルマーレンアルデルワイレルトにはエデルとペッレが監視している状態であるため、サイドバックにゲームメイクがゆだねられる場面が多かった。

 

特に右サイドバック、すなわちシマンからスタートすることが多いが、うまくボールを前に進めることができていなかった。

シマン自体の問題もたしかにあったが、CBやヴィツェル、ナインゴランのサポートが少なかったのもまた事実だった。(Fig.2)

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Fig.2 シマンサイドからのビルドアップに対するイタリアの撤退守備

 

シマンサイドにボールが渡ったときのイタリアの約束事はまずジャッケリーニがシマンにあたるということ。

デブライネに対してはダルミアン、ナインゴランもしくはヴィツェルに対してはデロッシがそれぞれ対応する。

 

この時のシマンの対応はサイドに流れたルカクへのミドルパスか、マークがきついデブライネもしくはナインゴランに任せるかの二択だった。いずれの方法も受け手に十分な時間が与えられない状態でボールが渡るためプレー精度が著しく下がっていた。

 

CBにボールが渡るとFig.1のように5-3-2の形になり、左サイドバック(フェルトンゲン)側にボールが回った時は図のような形になる。(Fig.3)

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Fig.3 フェルトンゲンサイドからのビルドアップに対するイタリアの撤退守備

 

イタリアの守備で最も謎だったのがフェルトンゲンがボールを持った時の対応。

シマン側と同様ならパローロがフェルトンゲンの監視役なはずだが、カントレーヴァがフェルトンゲンを監視していた。理由はよくわからないが何か理由があるはず。

 

イギリスのBBCもハーフタイムに言っていたが、イタリアの1列目から最終ラインは22ヤードでかなりコンパクトな守備だったし、誰にボールが回ったら誰がマークするかという決まりごとがしっかりしていた。

 

こんな感じでベルギーのゲームメイクを妨害していたイタリアの守備は流石だったし、ベルギーはほとんど何もできていなかった。(Fig.4)

 

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Fig.4 ベルギーのシュート

灰色がブロックされたシュート、赤が枠外青が枠内

いろんな試合のスタッツをみていくとわかるが、これだけブロックされるシュートの回数が多いのはかなり珍しい。

しかもエリア内からのシュートはほとんどない。結局ゲームメイクがよくないとチャンスの質も下がってしまいエリア外からのロングシュートという形が多くなってしまい、こういう状態になる。

 

2. イタリアのプレスタイミング

イタリアの守備は受け身のようにも思えるが、あるタイミングではしっかりとプレスをかける。

クロアチアvsスペインでもそうだったが、SBとCBの距離が遠くなってしまった時にCBにバックパスがくると、CBの選択肢は極端に少なくなる。(Fig.5)

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 Fig.5 イタリアのプレスタイミング

こういったバックパスの時はエデルとペッレが猛烈にプレスをかけていく。エデル、ペッレの2人のハイプレスだけでロングボールを蹴らせることに成功していたのはかなり効率が良かっただけでなく、躱された時のリスクも最小限で素晴らしかった。

 

3. イタリアのビルドアップ、ベルギーとの噛み合わせ

ボールを高い位置で奪取するというよりもロングボールを蹴らせるというのが目的でハイプレスを行っていたため、イタリアのボールの回収位置は必然的に低くなる。


イタリアはボールを回収した時、ロングカウンターを行える場面では積極的に行っていくが、そうでないときはかなりボールを保持したがる。最たる例はイタリアのゴールキックのシーン。(Fig.6, 7)

 

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Fig.6 ゴールキックシーン1

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Fig.7 ゴールキックシーン2

 

Fig.6,7で示しているシーンは全く異なるもので、同じような場面が数回あったということである。

図のようにゴールキック時には、ベルギーの前線4人vsイタリアの最終ライン4人という結構異様な形になる。

 

こういう場合たいていのGKはロングボールを蹴ってしまうことが多いが、イタリアはあくまでボール保持したがる。ゴールキックでは2種類のパスルートが存在する。

ノーマークのウイングバックにパスする1’ルートと下がってきたCBからウイングバックを経由する1-2ルート。当然1’のほうが得られる恩恵は大きいが、CBを経由したほうがよりセーフティではある。

 

ブッフォンはこれらのパスを使い分けてゴールキックからもビルドアップに貢献していた。

(もちろんミスもあったが)

 

ゴールキックでロングボールを蹴らせることができないときは、ベルギーの前線4人でプレスをかけていくが、そもそも最終ライン5人+デロッシの6人相手に4人でプレスをかけていって追いつめるのは結構難しい。

 

一旦ボールが落ち着くとベルギーの守備形態は4-2-3-1になる(Fig.8)

 

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Fig.8 イタリアのビルドアップ

マークの関係は以下の通り

ルカクはデスコルガードだが、ボヌッチをマーク

フェライニデロッシマンマーク(かなりどこまでもついていく)

デブライネ、アザールは開いたCBとウイングバックを監視しなければならない。

 

この時特にキエッリーニのプレーは素晴らしかった。

 

デブライネがプレスしてこなければハーフラインを越えても容赦なくドライブし、ダルミアン、ジャッケリーニを使って左サイドを攻略しようとする。プレスが早々に来たらウイングバックにすぐパスしてしまいプレスを躱そうとする。特にドライブのタイミングが素晴らしく、こういった大胆なプレーができるCBはなかなかいない。

 

さらにベルギーには問題があった。

 

デブライネ、ルカクアザールがデスコルガードとして前線に残ってしまうということだ。 (Fig.9)

 

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Fig.9 イタリアのチャンスメイク

イタリアのチャンスメイクはシンプルにサイドからクロスを上げるというものだったが、ベルギーにとってこういった状況でクロスをはじき続けるのは非常に骨が折れる。

 

ジャッケリーニとパローロのマークがヴィツェルとナインゴランだったたため、彼らがサイドでプレーすると必然的にヴィツェルとナインゴランは中央の持ち場を離れてしまうことが多かった。

したがってシンプルなクロスでも3vs3のエリア内のクロスを守らなければいけないため、ベルギーのCBにとっては非常に難しいタスクだったと思う。

 

こんな感じでビルドアップからサイドを攻略してクロスをあげてくるときもあれば、フォワードの裏抜けを狙って最終ラインから一気にロングパスを狙う時もあるイタリア。

 

 

もちろんベルギーはデスコルガードを3人もおいているので、有効なカウンターがなかったわけではないが、非常にリスキーな戦術だといわざるを得なかった。

 

攻撃も守備も完全に想定内の形で進んでいたイタリアは31分に先制する。

このときはボヌッチからのロングパスをジャッケリーニがフリーで受けてそのままシュートという形だったが、シマンが完全にジャッケリーニのマークを外していた。

 

先制されてからのベルギーはルカクアザール、デブライネで3バックにプレスをかける場面がおおくなるが、ロングボールでも試合を展開できるイタリアにとってあまり困る変化ではなかった。

 

イタリアのチャンス

31m00(19-23)

34m20(6M)

35m20Jag(18-9)

44m40T(6-9)

53m40(6-9)

58m20(6-17)

83m50T(11)

92m00(6-17)

 

ベルギーは失点してからプレスの人数をかえたり、最終的にはシマンをカラスコに変えて攻めの勢いを強めることを中心におこなっていたが、攻勢にでればでるほどイタリアのカウンター攻撃の被害にあう、というとても残念な試合展開になっていた。

 

ただしデブライネのパスとアザールのドリブルは随所では素晴らしく、何とか活用できるシステムができあがれば非常に心強いというのは前評判通りだった。

 

実際に試合を通してベルギーのカウンターを防ぐためにイエローカードを4枚、

ベルギーのチャンス

チャンス

9m40(P7M)

40m40(P8-7)

52m40(T7-9)

81m30(7-17)

89m00(7-17)

 

余談

ベルギーのカウンターはやっぱり非常に危険だった。ただしポーランドクロアチアのように意図的にカウンターの数を増やすためには、守備をしっかりする前線の選手の存在は重要だろう。しかしベルギーにそういった選手がいないので前評判通りの強さではないのだろうというのがこの試合を見て思ったこと。

 

中途半端なチームには大勝し、本当に強いチームには勝てない部分においてベルギーとイングランドは似ている。イタリアのCB陣はビルドアップとディフェンス能力を高いレベルで兼ね備えていて非常に厄介ではある。

 

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