EURO2016-C1-POL.vs.NIR
EURO2016-グループC1-ポーランドvs北アイルランド
まずはスタメンから
ポーランドはモナコのグリック、パリサンジェルマンのクリホビアク、ナポリのミリク、バイエルンのレヴァンドフスキとセンターラインに実力者がそろっている。
サイドにも全盛期ドルトムント右サイドコンビがいたりと、参加チームの中でもかなりレベルが高い。
一方で北アイルランドは今大会のEURO2016がEURO初出場。大量得点を取るようなチームではないが、相手によってフォーメーションや選手をガラッと変えることができるチーム。この試合は3バックを基本とする。ラファーティーはフィジカルを生かしたエアバトルに強みを持つ典型的なポストタイプで、デイビスが走力を生かして幅広いエリアをカバーする。強豪相手には引きこもってロングカウンターというパターンが多く、この試合でもそういった様子は確認できる。
試合の概要
試合は1-0でポーランドの勝利で終える。50分にミリクが決める。試合の大半はポーランドが支配するが、北アイルランドの撤退守備に前半はかなり手こずる。後半からシステム変更をしてきた北アイルランドを返り討ちにしたが、ポーランドの良さが前面に出た試合ではなかった。
1. 北アイルランドとは?
監督はマイケル・オニール監督。
オニールといってもプレミアリーグでアストンヴィラを5位に導いたマーティーンオニールは、北アイルランドではなくアイルランドの監督。
北アイルランド代表監督はマイケルオニール。間違えているメディアもあった。(Fig.2)
Fig.2マイケルオニール(左)、マーティンオニール(右)
北アイルランドは当初の予想通り守備から試合に入る。
しかし、ただ単にバスを停めるだけのチームではなく、ビルドアップ妨害と撤退守備を場面によって使い分けていた。また、ビルドアップ妨害と撤退守備の切り替えのタイミングがチーム全体で統一できていた。北アイルランドには守備陣にも攻撃陣にも傑出したタレントはいないが、よくまとまっているチームという印象を受けた。
ポーランドは自陣からロングボールを送ることも、ビルドアップすることもある程度できるが、この試合ではビルドアップを頻繁に行う。(Fig.3)
Fig.3 ポーランドのビルドアップ
ポーランド側の深い位置にボールがあるとき、北アイルランドは4-4-2でビルドアップの妨害を行う。
ただしスイスやフランス、イングランドのように前線4人でプレスを行うことはせず、基本はデイビスとラファーティーのみで行う。
ただし北アイルランドは前線からボール奪取を狙っていたというよりも攻撃を遅らせることを目的としている感じだったので、あまり他国と比較してもしょうがない。
前述のように、北アイルランドのプレス要員は2人しかいないため、ポーランドのビルドアップをとらえきることはできない。特にクリホビアクとピスチェクはプレスを受けてもうまく受け流していた。
ポーランドのパズダン、グリックコンビのビルドアップ能力は世界基準で見れば並だが、クリホビアク、ピスチェクのビルドアップ能力はこのチームだと抜けている。
クリホビアクはプレスをかけられても全然あたふたせず、パスの精度も落ちない。
ピスチェクはサイドバックでありながらもブワシュコフスキ、レヴァンドフスキとのコンビネーションやドライブで前に運ぶことができる。
時にはロングボールを使ってレヴァンドフスキのポストプレーに逃げることもできたポーランドのビルドアップは安定していた。
3. 北アイルランドの撤退守備
ハーフラインより北アイルランド側にポーランドが侵入してくると、北アイルランドの守備システムは少し変化する。
例としてポーランドがピスチェク側でボールを保持しているときの状態(Fig.4)
Fig.4 ポーランドのピスチェク側からのオフェンス
撤退した時の北アイルランドは5-3-2(5-4-1)でディフェンスを行う。
さらにボールがあるほうに全体的に寄せるため中央からボールサイドはかなり密度が濃くなる。
当然逆サイドはフリーな選手が多いが、両サイドの選手はサイドチェンジができるタイプではないため、クリホビアクを経由しないとワイドな攻撃をすることができない。しかしサイドチェンジのために2本か3本のパスを回してしまったら、北アイルランドの陣形も整ってしまう。
また北アイルランドの中央のエリアは本当に濃密で真ん中のエリアから崩すことは難しそうだった。
結局サイドの選手が周りの選手と協力して突破しないとポーランドにチャンスが生まれる気配がないような感じになってしまった。(Fig.5)
Fig.5 前半のポーランドの攻撃エリア
4. ポーランドのサイド攻撃
正直サイドチェンジができる選手がサイドにいないこともあって、ポーランドの攻撃はかなり閉塞してしまったが、それでも右サイドバックのピスチェクはオープンプレーの中でかなり頑張っていた。
周りの選手をデコイに使ったり、ボールを預けてランをしてみたり、カットインしてみたりと、狭い場所でもさまざまな引き出しを持っている印象を受けた。合わせる選手がレヴァンドフスキやブワシュコフスキなので、ドルトムント時代のコンビプレーが生きたのかもしれないが、そこまで注視してドルトムントを見ていたわけではないのでよくわからない。
ポーランドのチャンス
4m50(20-7×)8m40(3-7)30m40(20-7)38m20(7-21)
4つあったが、8m40はあまり大きなチャンスではない。38m20はセットピースからのセカンドボールをカプストカがハーフボレーしたシーンだが、あくまで個人技だった。
したがって、チームとして崩せたシーンは残りの2つだった。いずれもピスチェクのクロスからミリクという流れだが、1つは空振り、もう1つは枠外と、前半はちょっと残念なフィニッシュが多かった。
前半のボールポゼッション率はポーランドが60~65%で、ビルドアップもうまくいっていたのにチャンスが2つというのは北アイルランドの撤退守備はよく練られていたとみていいだろう。
5. 北アイルランドの攻撃
オチというか、北アイルランドが強豪国に絶対分類されない理由は攻撃の質の低さにある。
北アイルランドは守備のシステム上自陣深くでボールを得ることになるが、このチームはまったくビルドアップができない。
したがってラファーティーにロングボールを送るというのがメインの攻撃方法になるが、ロングボールの質も低い。また、ポーランドのCB、クリホビアクはエアバトルが得意分野な感じがあるため、ほとんど収まらない。
北アイルランドの前半の守備が90点だとしたら、前半の攻撃は0か10点だった。
6. 後半に向けた北アイルランドの変更点
マクネア⇔ダラス
後半になると北アイルランドはあまり5バックを使わなくなる。前半は確かに堅実な守備だったが、ボール回収地点も低く、ボールを持ちあがることができない北アイルランド。前半と同じ状態で後半に臨めば、ただのジリ貧という感じは確かにある。
そういったこともあって、ダラスの投入は試合に変化をもたらした。(Fig.6)
Fig.6 北アイルランドの撤退守備(後半)
前半北アイルランドが押し込められた原因は、クリホビアクとモンチニスキ(重要なのはクリホビアク)のビルドアップ参加を全く妨害できなかったらだと思う。
したがってビルドアップ妨害におけるプレッシングの強度を高めることで、すべての問題の解決を狙った北アイルランド。
前半デイビスの守備の役割は少し曖昧だった。前半の撤退守備は5-3-2(5-4-1)と記載しているように、デイビスは2列目の守備に参加したりしなかったりする。どちらが正解なのかはよくわからなかったが、後半はその役割がはっきりとなった。デイビスとノーウッドがモンチニスキとクリホビアクにプレッシングすることでより前線でのボール奪取を画策する。
つまりビルドアップ妨害をするうえでは4-3-3となり、撤退守備時には4-5-1となるのが北アイルランドのプランだったと思う。
試合が動いたのは50分。ピスチェクからのロングボールを拾ったブワシュコフスキから中央でフリーになったミリクが流し込んで1-0。ノーウッドが前線にプレッシングした分広がってしまったスペースを使われてのゴールだった。
このゴールおよび後半のポーランドのチャンスは後半からの変更が原因だと思う。
じゃあこの采配は間違いだったか?
といわれると何とも言えない。
少なくとも北アイルランドはドイツ、ポーランド、ウクライナのいずれか1つには勝利しなければいけないので、こういったリスク承知の変更は勝ち残るうえで重要になると思う。
余談
ネタバレをするとポーランドは守備からのカウンターにかなりの強みを持っているチーム。この試合ではボール保持からの攻撃を強いられてしまったため、本来のポテンシャルよりも低い姿だったと思う。
それでも先制点を取られてからの北アイルランドはルーズな守備も多かったので、もう1点ぐらいとれると最高だった。
北アイルランドはジリ貧感が強いが、だからこそセットピースで結構トリックプレーを挟んでくる。85分のFKはなかなか面白かった。