EURO2016-B1-イングランド.vs.ロシア
EURO2016-グループB1-イングランドvsロシア
グループBはイングランド、ウェールズ、スロバキア、ロシアの4組のグループ。
まずはスタメンから
白がイングランド、赤がロシア(Fig.1)
Fig.1 イングランドvsロシア
イングランドはダイアー、ルーニー、アリがMFとなる、いわゆるオーソドックスな4-3-3。2015-2016シーズンにはイングランドの選手が多数在籍しているトッテナムが躍進したこともあってローズ、ウォーカー、ダイヤー、アリ、ケインとトッテナムを中心とした編成。一方でケーヒル、ルーニー、スターリングは評判を下げたシーズンでもあった。しかし予選リーグでは10戦10勝といつも通り予選の結果は素晴らしい。
ロシアは予選のとき活躍していたらしいザゴエフを怪我で欠くという難しい状況。またCBを務めるのは36歳イグナショビッチ、34歳ベレズスキ。代表キャップ数100以上で経験値は高い代わりに後進が全く育っていないという問題点を有している。ロシアのフォーメーションはほぼ4-2-4でイグナシュビッチとベレズスキのロングボールをジュバが収めてなんとかしようというサッカー。またロシアのスルツキ監督はCSKAと兼任という珍しいパターン。メンバーもほとんどがCSKAもしくはゼニト所属と国内組なのでお互いのことはよくわかっているはず。
試合の概要
試合は1-1で引き分けで終える。イングランドはダイアーのフリーキックから先制点を得るが、後半終了間際のロシアのパワープレーからベレズスキが決めて同点となる。試合の大半はイングランドがコントロールするが、支配していた割には効率的にチャンスを作れなかった。
1. ロシアの守備
ロシアは相手のボールポジションによって守備を2種類使い分ける。ハーフラインに侵入されるまでは4-4-2で、押し込まれた時は4-4-1-1で守備を行う。(Fig.2,3)
Fig.2 ロシアの4-4-2の守備
イングランドのケーヒルとスモーリングはお世辞にもビルドアップ能力が高いとは言えず、参加国のCBのなかでも平均より低いレベルにある。
ジュバ、シャトフがこの形でうまくCBにプレスをかけることができたときはイングランドに質の悪いロングボールを蹴らせることに成功していた。
ただしロシアも積極的にプレスをかけるわけではなく限定的に行っていたため、基本的にロシアが押し込まれる展開となる。
Fig.3 ロシアの4-4-1-1
ロシアは撤退すると4-4-1-1のように変化する。
ジュバはデスコルガードとなり、シャトフが広範囲をカバーするように守備をする。
当然シャトフ一人では守りきれないので、ルーニーがフリーでボールを持つことが多かった。ただし中央を崩すようなプレーは少なく、ウォーカーやローズへのサイドチェンジからクロスという攻撃がイングランドの主攻となる。
前半はウォーカーがチャンスメーカーとなっており、1on1ではシュニコフがボコボコにされていた。
ロシアの撤退守備は個人、組織ともに高いレベルにはなく、前半だけでもイングランドに7回チャンスを作られていた。決められなかった理由はアキンチェフがスーパーセーブしていたというよりシュート精度が低かったことが要因だった。ララーナとスターリングの決定力のなさはプレミアリーグを見ている人なら納得できるはず。
2. イングランドのビルドアップ
イングランドのビルドアップは最悪だった。
それにも関わらず前半イングランドが多くのチャンスを作った理由は,前述のとおりウォーカーががんばったこととロシアの撤退守備が脆かったことが大きい。
本来ロシアのような4-4-2の場合、ダイアーが最終ラインに入り2トップの脇をCBもしくはダイアーが攻めるのが定石だ。
イングランドも定石通りダイアーを下げ、3人でビルドアップを行おうとするが、CBが大きく足を引っ張る。
スモーリングはパス能力もドライブする能力も全くない。一方のケーヒルは2トップの脇から2回ほどドライブで攻め上がることがあったが、いずれもうまくいってなかった。そもそも試行回数が少なすぎるし、クオリティも低い。
3人でビルドアップに滞るイングランドはルーニーが下がる形で対応。(Fig.4)
Fig.4 イングランドのビルドアップ
白のスペースでルーニーは受けることになるが、ロシアの2人のディフェンスに対して4人で対応するという至極効率が悪いビルドアップとなってしまう。
3. ロシアの攻撃、イングランドの守備
イングランドの守備は4-5-1で撤退守備を基本としている。プレス開始位置はハーフラインをスタートとしており、歴代のイングランドに比べるとおとなしいディフェンスだった。
ロシアはビルドアップがうまいチームではないが、B.ベレズスキ、イグナシュビッチを中心に前線のジュバに向けてロングボールを蹴りだしてくるチーム。
ジュバのエアバトル能力はイングランドにとってかなり厄介な問題だった。スモーリングとケーヒルが重用されている理由はエアバトルの強さだが、その二人をもってしても抑えきれないのがジュバだった。
そういった意味でも安易にハイプレスハイラインで中盤のスペースを広くすることはイングランドにとってあまり得にはならないため撤退守備で守った理由は大いに納得できた。
実際にジュバはロングボールを収めることもあったが、ほとんどスペースがなかったためチャンスにつながらなかった場面が多々あった。
4. 後半戦
基本的に両チームとも大きな変更はせず後半戦に挑むが、ロシアはハイプレスの強度を少しだけあげた。理由はイングランドのビルドアップが思ったより下手だったからだろう。しかしハイプレスは諸刃の剣でもあり、ボールを奪取できればそのままショートカウンター、奪取できなければ自陣でスペースを相手に提供してしまう。
結果的にロシアは、前線からボールを奪取できてないことが多いものの、ビルドアップの妨害には成功していた
72分にダイアーが直接FKを決めて1-0とする。後半のチャンスはローズの折り返しをルーニーがハーフボレーしたシーンのみだったが、後半はウォーカーの単独突破がほとんどなかったことも大きく、ビルドアップで相手を崩せないイングランドは今後の戦いでも苦労しそうな予感がある。
得点後もイングランドは4-5-1の撤退守備でロングボールを迎撃することを選択し続けるが、最後の最後でベレズスキが決めて同点となる。
余談
後半ボールを持つ時間が少なかったイングランドだったが、ボールを保持するという選択肢ができないのはかなり辛そうだった。特に終盤は疲労もあって中盤が戻りきれず、ロシアのロングボールが収まる時間帯もあった。今大会のイングランドもあまり期待できなさそうというのが率直な感想。
ハートはプレスをかけられると悉くロングボールをぶっぱなしていて、この5年間で足元のスキルは全く成長せず、ケインがすべてのセットピースのキッカーを担当していたのもかなり謎だった。
イングランドのチャンス
2m40(20),6m20(10-2-8),8m30(7-20-9)11m30(CK9-6),21m20(2-8)23m30(8-7)34m00(20-10)70m00(3-10)
ロシアのチャンス
3m20,16m00(FK17-4)