EURO2016-A1-アルバニアvsスイス
EURO2016 グループA-1 アルバニアvsスイス
スタメンは以下の通り。赤がアルバニア、白がスイス(Fig. 1)
Fig. 1 アルバニアvsスイス
アルバニアの監督はジョバンニ・デ・ビアージという守備に重きを置いているイタリア人らしい監督。
スイスは攻撃特化のチーム。リヒトシュタイナーとR.ロドリゲスのSBコンビを筆頭にCLでも活躍している選手が数人いる。
ちなみに両チームにいるジャカは兄弟。アルバニアはT.ジャカ、スイスはG.ジャカと表記している
試合の要約
この試合は0-1でスイスが勝利する。スイスは序盤にコーナーキックからシャーが1点決める。36分にアルバニアのカナが2枚のイエローをもらい退場し、それ以降はスイスがボールを持つ展開になるが、アルバニアはルーズなスイスの守備をたびたび脅かしていた。内容と結果は伴っていたがスイスの守備は非常に不安定だった。
1. スイスのビルドアップ方針
スイスのビルドアップの大半はG.ジャカに依存しており、G.ジャカのビルドアップ能力をフルに活かすためにビルドアップの際にはCBの間にベーラミもしくはG.ジャカをいれるスタイルを採用している。(Fig. 2)
Fig. 2 スイスのビルドアップ
あくまで図はわかりやすいように示しているだけだが、
要はハイプレスでボール奪取に来たらジャカはアルバニアのライン間に移動し、ベタ引きであれば3バックにG.ジャカが入りビルドアップしていくという方針。
G.ジャカが気持ち良くプレーすることを徹底している。
ただしジュルーとベーラミは特にビルドアップに難があり、シャーもロングボールで攻撃を展開することは得意だが、ビルドアップは苦手である。
したがってアルバニアはG.ジャカの周辺にはきついマークをしき、ジュルーやベーラミの部分でボールを奪取することを志向する。
スイスはG.ジャカの完璧なロングパスから獲得した
CKからシャーがヘディングで序盤早々に先制し、0-1。
アルバニアにとっては苦しい立ち上がりとなった。
2. 36分までのアルバニア
2.1. アルバニアの守備
早々に失点したアルバニアだったが、守備の狙いはほとんどうまくいっていた。
特にジュルーやベーラミへのプレスは序盤のスイスをかなり混乱させていた。
アルバニアの基本は4-1-4-1(ほぼ4-5-1)といっていいだろう。スタメン表と同じ形だが特に重要な役割を担っているのがT.ジャカとアブラシである。彼らが担当しているエリア付近にG.ジャカがいれば積極的にプレスしていくし、どうしても手薄になりがちなシャーやジュルーに対しても完全にフリーな状態でドライブされないように、懸命にプレスを続けていた。(Fig. 3)
Fig.3 アルバニアの守備
2.2. アルバニアの攻撃
アルバニアにとって問題だったのは守備ではなく攻撃だった。
アルバニアはあまりロングボールを多用するチームではないが、ビルドアップに特別優れているというわけでもない。個人でみればハイサはかなりビルドアップ能力に優れていると思うが、サイドバックだけではビルドアップはできない。
しっかりと攻撃を終えることができなければ、守備からのカウンターという形は限られたものになってしまう。
確かに大きなチャンスを30分に1つ作ったが、継続的な攻撃という意味ではあまり効果的なプレーはなかった。
36分までのアルバニアの守備を90点とするなら攻撃は40点程度の出来だった。もともと攻撃に特化したチームではなかったからこそ序盤の失点は大きな痛手だった。
3. カナの退場
転機は36分。カナが2枚目のイエローカードで退場する。1枚目もジュマイリに対するアフタータックルで少し軽率だったが、2枚目のイエローは完全に故意のハンドだったことを考えるとイエローがなくても1発レッドだった可能性が高い。
アルバニアのスイス対策はうまくいっていたが、試合の流れをつかむことはできなかった。アルバニアは以降10人でのフォーメーションを以下のようにする。(Fig.4)
Fig.4 アルバニアの守備(カナ退場後:36min~45min)
簡単に言えばサイドバックのアゴールとハイサを3バックの一角にして、ロシとレンハニはウイングバックのようにプレーさせた。10人で守備をするため、アルバニアのプレス開始ラインはハーフラインよりも自陣側に置かざるを得なくなってしまった。
4. スイスの攻撃
プレス開始ラインが下がったことでジャカが解放された。
下の表は、この試合のトップ10のパス交換数を示している。表からもわかるようにTOP10のうち7つに名前を連ねているのがG.ジャカである。いかにビルドアップにおいてG.ジャカが重要な働きをしているかということが少しだけわかる。
|
パス数 |
ベーラミ to ジャカ |
20 |
ジャカ to ベーラミ |
19 |
スカー to ジャカ |
17 |
ロドリゲス to ジャカ |
15 |
ジュルー to ジャカ |
14 |
ジャカ to スカー |
14 |
ハイサ to アブラシ |
14 |
ジャカ to ロドリゲス |
13 |
スカー to ベーラミ |
13 |
ジュルー to ロドリゲス |
12 |
下の動画はカナが退場する前のプレーも含まれているが、2つを除いてすべて退場後であるため、G.ジャカを自由にすることは如何に危険であるかということがわかる。
EURO2016 A1 ALB vs SWI G Xhaka buildup
3m30,24m30,39m10,42m10,48m30,52m10,60m10,70m30,79m00
実際のパス数も102/116で成功率が高いだけではなく、アタッキングサードへのパスでも24/31。そのうち直接的なチャンス(いわゆるアシスト未遂)が2つあった。
退場後の攻撃のパフォーマンスはほぼ完璧だったといってもいい。プレスがない状況であれば、シャーの縦パスは前評判通りかなりよかったというのも忘れてはいけないが。
5. アルバニアの攻撃
前述のように引いたアルバニアに対してもほぼ完璧な攻撃をしていたスイスだったが、後半のアルバニアも得点のチャンスをしっかり作っていたのは印象的だった。
ジャカが自由になってからは基本的にスイスは攻撃を完了してしまったため、あまりアルバニアのカウンターでの攻撃場面は多くはなかったが、質という意味では後半のほうがかなりよかった。
5.1. 守備→速攻
スイスの攻撃に厚みがあった理由として両SBが常にオーバーラップしていたことが大きい。もちろん1人少ないアルバニアにとってワイドに攻撃を展開されるのはあまり好ましくないが、リヒトシュタイナーやR.ロドリゲスの裏の広大なスペースはロングカウンターをするうえでかなり都合がいいというのもまた1つの事実だった。
実際に後半ではレンハニがロングスプリントして得点チャンスを作っていた。
5.2. ビルドアップからロングボール
1人少なくて1点のビハインドがあり、ビルドアップがそれほどうまくないチームに対して、2点目を取って完全に息の根を止めるか、1点を死守するような戦い方にするかはチームによって大きく異なる。
今回のスイスは前者を選択した。
スイスは相手がボール保持するとハイプレスハイラインで相手にプレッシャーをかける。それは87分まで変わらない。
もしハイプレスがうまいチームであれば問題ないと思うが、スイスの守備はすべての部分でかなり怪しかった。
メメディ、ジュマイリ(エンボロ)、シャキリ、セファロビッチのハイプレスは個人が追い回すようなことが多く、詰将棋のように組織立っているわけではない。もちろん一定の成果はあったが、プレスを回避される場面も多く、強豪相手に通じるプレスではなかった。
ハイプレスを志向するチームはDFラインを堅固にするために必ずハイラインで守らなくてはならない。
もしそうしなければ2列目と3列目のギャップは広がり却って不安定になる。
スイスの最終ラインにはハイラインに明らかに向いていない選手がいる。
ジュルーだ。
ジュルーはエアバトルでは結構存在感が出せるが、ハイラインで生まれる広大な裏のスペースをカバーするスピードは全くない。非常に危ないシーンが何度かあった。
アルバニアにはスイスのプレスを回避しながら前進していくようなビルドアップ能力は確かにない。ただプレスを躱しながら最適なタイミングでロングパスを供給することはできていた。ハイサのロングパス能力の高さやレンハニの縦の運動量はアルバニアの攻撃の生命線だった。大きなチャンスが2つあったが、正直アルバニアが引き分けだったとしても妥当な結果だったと思う。
EURO2016 A1 ALB vs SWI ALB chance
30m20(4-10),38m30(21-10-3),49m40(4-10),75m40(4-10),86m20(22-11)
余談
スイスが勝利したが、アルバニアの守備の質は純粋に高かった。それだけに前半早々の失点と退場は悔やまれる結果となった。次節はフランスだが、守備に注目したい。
スイスの後半のルーズさはあまり好きになれなかった。ハイプレスのシーンで全力を出さない場面やトランジションで戻りが遅かったりとコンテ(イタリアの監督)が見たら激怒するような場面は多かった。
攻撃はジャカを封じられると元気がなくなってしまうのは問題だったが、試合を通してワイドにオーバーラップできるSBの存在はかなり貴重かもしれない。本文ではあまり言及していないが、R.ロドリゲスはチャンスメイクの部分で結構がんばっていた。